自分の想い
慌てて着替えた私は客間へ。
少しお待たせてしまったか…。
遅れた謝罪をしたのだけど、突然だったからとライオネスト様も謝ってくれた。
「すまないな。アポも取らずに他国の王女様のお屋敷を尋ねるような無粋なことをしてしまって」
「いえ! 御用でしたらこちらからお伺いしましたのに…」
「こちらの我儘なお願いをする為におじゃましたからな」
何かと思ったら、今回貸し出したカメプロをこのまま貸しておいてほしいというものだった。
なんでもステッキの試合で使われたのが好評で、撤去したら大変な事になりそうだと…。
「もちろん構いません。安全面の対策もしてありますし、あのままお使いください」
「助かる。なにせあのサイズで見られる迫力は、見学するだけの者にも大きな娯楽になったようでな」
「そうでしたか。追加や調整など必要でしたら仰ってくださいね?対応いたしますから」
「ああ。その時は頼む」
お茶を飲みながらのしばしの沈黙。
私こういうの苦手…。すごく気まずいの。
でも私から振るような話題もないからどうしよう…。
「妹は…ストレリチアはしっかりやっているか?」
「はい。王女様にメイドをさせてしまって…」
「構わないさ。本人の希望でもあるからな。しかし…妹の婚約者か…」
「……?」
「前に言った事を覚えているか?」
「えっと…?」
あまり会話した覚えがないのだけど…学園の入学式と、公爵家へ踏み込む前後、学園祭、後はライアン様の治療の時くらいよね…。
しかも個人的な会話なんて数えるほどしかして無い。
「貴女が継承権一位の王女でなければ求婚していた、という話だ」
「ええ、そのお話でしたら記憶していますが…」
あったねそんな事も。でもなんで今それを…?
「無理を承知で、なのだが…真剣に一度考えてみて貰えないだろうか? もちろん妹の婚約者だというのは承知している。しかし…」
「兄様!!」
「ストレリチア!?」
びっくりしたぁー。ドアを壊すかと思う勢いで踏み込んできたね?
「アスカ様は私の婚約者ですよ!?どういう了見ですか!」
「しかしな…国益を考えてもアスカ様を僕が娶る方が…」
「損得勘定でアスカ様に求婚していると、そう仰るのですか兄様は!」
「…いや。すまん。今のは建前だ…。惚れたんだ…妹の婚約者だというのは承知の上で。駄目な兄だと罵ってくれてもいい。しかしこの想いは止められなかったんだ…」
「本当に駄目な兄様です! お気持ちはわかりますがダメです! 絶対に!」
「どうしてもか…?」
「どうしてもです! それとも兄様は私を含む複数の婚約者一人ひとりを説得できますか? シルフィー様は生易しい方ですよ? 現職の皇帝陛下に聖女様迄いらっしゃるのですよ?」
「うぅむ…」
ねぇ… (ママが今口出すとロクな事にならないの)
はい…。
王子様が私をね…。ほとんど接点もないのに。
政略的なもの以外で想いを向けられる覚えがないのだけどなぁ。 (ママはアチコチで惚れられてるよ?)
え? (見た目でーとか、ちょっと助けられてーとか)
私が把握してる恋人以外言われたことないよ? (大体は相手にされないよね…って諦めてる)
何よそれ…。 (街とかでナンパしようとか話してるのとかー)
お断りします。 (声かけろよ! お前がかけろよ! とか)
変なモノマネ覚えてこないの。 (ママの知らないところで、周りでは色々あるということです)
私が認識してないって言いたいのね? (そう)
じゃあ知らないよ。どうしろっていうの? (別にー?そういうのもあるよーってだけ)
はいはい…。 (でもリアや未亜達が不安になる理由)
……それは…。無視できないね…。
でもどうしたらいいんだろう。
不安にさせないようにか…。
よく考えてみるよ。ありがとティー。 (うむ)
それはそれとして。
あのお二人はどうしたらいいのかな? (リア達が許すと?)
…ないね。私もそんな感情はないし…。 (百合の間に入ろうとする男は駆逐されます)
なんの話…? (一般論!)
私は聞いたことがない。
こうなってから一番私が理解できないのが、身体が変わって…というか元に戻って。
もうしっかりと自身でも女性と認識してるつもりなのに、男性相手にそういう感情が一切ないのはなんでだろう?って。
今までの感覚が抜けきってないと言われたらそうなのかもしれないけど…。
それに、身近にあまり関わる人がいないってのもあるのかな。
ただ、女性は男性に惹かれるのが普通じゃない? (普通ってなんだ?)
確かに…。
そんな曖昧な普通なんてもので括ろうとするから悩むのか…。
うん、なんかスッキリした。
私がみんなを大切だって想う気持ちがあればいいんだ。
ユリネさんも言ってた。自分の想いさえしっかりしていればいいって。
こういう事か!
凄くストンとはまった感じだ…。
「アスカ様! アスカ様もなんとか言ってください!」
「王子様、申し訳ありません。私はお気持ちにお応えする事は出来ません」
「そうか…。すまないな。困らせてしまって。やはり女性しか受け付けないのか?」
「いえ。そうじゃありません。大切に思う相手が偶々女性だっただけです。ドラゴンや、召喚獣の子もいるんですよ?その子達も同じなんです」
「好いた相手が偶々そうだった…と」
「はい。例えば…女性のスタイルや容姿に惚れたというのなら女性限定になるのだと思います。でも私はそうではないので」
「内面か…」
「そうですね。守ってあげたい。傍にいてほしい…大切にしたい。私の想いはそこから始まってますから」
「羨ましいな、そう思ってもらえる相手が」
ライオネスト様はそれ以上何も言わずに帰っていかれた。
申し訳ないという気持ちが無いわけではないけど、あの方に恋愛感情はないもの。
関わることも殆どなかったから、この国の王子様で、大切な人の兄っていう認識しかない。
ただ…勘違いだったとはいえ、フラれる辛さは体験してるから…。
「アスカ様、お気に病まれないでくださいね?妹の婚約者を我がものにしようなどと、兄様がおかしいのです!」
「はい…。 ですが、お断りする側も辛いものですね…」
「アスカ様…私もアスカ様をお守りしたいです。傍にいますから」
「ありがとう。嬉しいよ…」
「アスカ様…っ…ん」
「ん…っ!?」
不意打ちはダメだって…。
でも、なんだか安心したよ。ありがとう…ストレリチア…。
その日のうちに、グリシア王家から正式に謝罪があった。
アポ無しで他国の王女の屋敷に押しかけたことや、婚約者のいる継承権一位の相手に無理を言ったと。
それを伝えに来られた王妃様は笑ってたけどね。
「うちの子を二人も惚れさせるなんて罪よね〜 もしかしたらライアンもかしら?」
って洒落にならない爆弾をみんなの上に落としていった。
しかもストレリチア様曰く、
「兄様は諦めてないんです! 性別が関係ないのならチャンスはあるとか言って!」
そのせいでうちの子達の緊急会議が招集されて、私は異世界を跨ぐ転移の足に使われるというね。
しかも会議に私は呼ばれない。
仲間外れ感すっごい…。 (ママが混ざったところで?)
言えてる。




