専属メイドと昼食
王妃様にお尻を叩かれて部屋を出ると、新たな刺客が…
「あ、メイドさん! 王妃様は中にいるー?」
「はい」
「…初めて見る子だね?新しい子?」
「今日から王族専属メイドになりましたキサラといいます」
「へぇー。私はルナティアだよ。ちなみにドラゴンだからよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします…」
「驚かないのー?」
「お話は王妃様から伺っておりますから」
「あーなるほどね!」
ティアは私だとは気が付かずに王妃様の部屋へ入っていった。
良かったぁ…。
そろそろお昼だし、シルフィー達の昼食の確認に行かないと。
足早に移動していたら、また知り合いが…。
取り敢えず廊下の端によって頭を下げる。
「レイナは律儀なのであるな」
「当たり前です! 王妃様にご報告するのは筋でしょう」
「もう少し気楽でもいいと思うのであるが…」
「何事も報告は大切なのですよ。手を抜くところは抜いていますから大丈夫です」
「無理をしていないのならいいのである」
早く通り過ぎて!
「そこのメイド、母上は何処にいるか知っているのであるか?」
「王妃様でしたら一番奥のお部屋に。ですが、今はルナティア様もおみえになっていますから…」
「ティアが? 何かしら…」
「多分帰ってきた報告とかそんなものであろうから大丈夫なのである」
「それもそうね。あの子またいなかったようだし…いい加減叱らなきゃだめかしら」
あれ…?ティアが戻るなら、こちらを出てからニ時間後くらいに帰還するはずだよね?
私がこっちにいるから、時間の戻りがおかしくなってるのか? (アキナさんがそっちに用事あるからって一緒に帰ったのー)
あ、なるほどね。 ん?待って。じゃあアキナさんもこっちに!? (うん! 今は陛下のとこ)
なら大丈夫かな…。
「レイナ、無粋な事はやめるのである。大切な人と離れる辛さは言わずともわかるのではないか?」
「…ええ。そうですね、わかりました。そちらに口出しはしません」
「それがいいのである」
王子…どうしたの?本当に変わってしまって…。
ノワルレイナさんも私に気が付かずに通り過ぎた。
ドラゴンって魔力に敏感だから、隠蔽してるだけでかなり誤魔化せてるのかも。
アルフィーには通用しなかったけど…。
「あっ、いたー! メイドさん、おひるごはんたべたいです。おなかすきました」
「お待たせしてすみません。すぐにお持ちしますね」
「あの、おねがいがあるの。メイドさんがなにかひとつでいいからつくって?」
「わかりました。少しお時間いただきますね」
「ありがとう! シルフィーねーさまのおへやでいっしょにまってます」
「畏まりました」
無邪気なアルフィーが癒やしだわ。
「おかあさまになにもされませんでしたか?」
駆けだそうとして立ち止まり、不意打ちでそう聞いてくるアルフィー。…鋭いなこの子。
「えっと…」
「おかあさま…」
「だ、大丈夫でしたから!」
「はーい…」
信じてないなあの顔は。
仕方ない、私が言い訳しても墓穴を掘りそうだから早くお昼の仕度をしよう…。
厨房で、アルフィー様にお願いされたと伝えたら、直ぐにキッチンを使わせてもらえてびっくり。
それで思い出したのが、このお二人…お城の庭でハンバーグパーティした時にずっと手伝っていてくれていた人だ。
オーブンに興味津々だったのは厨房担当だからだったんだね…。
何を作ろうかと材料を見てみたら、こちらも色々とあって何でもできそう。
ただ、時間はかけられないから見た目だけでもなんとかしたい。
せっかくなら楽しいものにしようとランチプレートに。
既に何品ができていた物と、私の作ったオムレツや腸詰め肉をタコさんにしたりして、旗も指した。
「すごい手際ですね、ネネアから聞いてはいましたが…ここまでですか。私達の作ったものも可愛らしく飾り付けされて…」
「ええ。確かにこれなら楽しんでいただけそうですわね」
「多めに作りましたから、よかったらどうぞ」
「いいの!?」
「ありがとう!」
オムレツとソーセージを焼いただけだけどね。
時間が無いから仕方ない…。
急いでカートに二人分をのせて移動。
お部屋に到着してノックする前に、アルフィーが扉を開けてくれた。
「ありがとうございます」
「たのしみです!」
わくわくしてるのか目をキラキラとさせていて可愛らしい。
テーブルにセッティングして、被せてきたクローシュを開ける。
「わぁ〜! かわいい!」
「本当に…さすがです。アルフィーに聞いて期待していたのですが此処までとは…」
「私の作ったのは二つだけで、他は厨房の方が作られたものを飾り付けさせて頂きました」
「どれがおねーさまのか当てます!」
「私は見てわかりましたよ」
「アルフィー様のお答えも聞きたいので、正解は食後にしますね」
楽しそうに食事をしてる二人を見守り、食後のお茶を出してから答え合わせ。
「アルフィーはたまごのと、かたちのかわいかったのだとおもいました!」
「私もそれです。可愛らしかったですから」
「お二人とも大正解です。良くわかりましたね?」
「見たことがないものでしたから。それに可愛らしくしてくださるのはいつものアスカ様ですし」
「うん! かわいくておいしかったです。ありがとうございます!」
「もったいないお言葉です」
喜んでもらえたのなら何よりだよ。
「正解したご褒美はありますか…?」
「シルフィーねーさまずるい!」
「そうですね…夜にもなにか作りましょうか」
「本当ですか! 楽しみです」
「おー。たのしみです!」
何を作ろうかな。厨房には色々あったし…。
「ところでアスカ様、いえ、キサラさん?」
「はい?」
「お母様に何をされました?」
「ぜったいおかあさまはへんなことしたのです」
「いえ…あの…」
「王女命令です。正直に言いなさい」
うっ…それはないよ…。
「黙秘権は…」
「なんですかそれ…言わないなら私も何かしますよ?」
「ダメです!」
二人に詰め寄られて答えるしかなく…。
「お母様は私のフィアンセに何をしているのですか!!」
「やっぱりーだからきをつけてっていったのに」
「敵意もなく不意打ちされたので…すみません。私の警戒心がなくて」
「アスカ様は悪くありません!」
ごめんなさい王妃様…。
私被害者なのにすごい罪悪感。
王妃様の元へ突撃した二人を見送ることしかできず、カートを押して厨房に戻った。
「夕食の仕度、一緒にしてくれないかしら?」
戻るなり厨房担当のお二人にそう言われて捕まった。
「私達も毎日色々と考えているのだけど、どうしてもある程度パターン化してしまって…目新しいものを考えるのも難しいのよ」
「あの短時間で可愛らしくて美味しいものが作れるのなら、なにか教えてもらえないかしら」
「もちろんです。私もお二人から教えていただきたいのですがいいですか?」
「ええ。さっそく何にするか考えましょう!」
厨房をすぐに貸してくれたり、こうやって接してくれるお二人は本当にいい人だ。
普通、王城の料理人なんて相応のプライドがあるし、こんなにおおらかでもない筈。
やっぱり陛下と王妃様の人柄が、お城で働く人みんなにも影響してるんだろうなぁ。
見習いなのか、少し若い子達もお手伝いとかしてるし。
本当にいい国だよ…。




