学ぶべきは
明日もステッキの試合はあるらしく、うちの子たちはまた見学に行くそう。
お屋敷に帰ってきても興奮冷めやらぬ感じで、庭に集まりステッキで訓練してるから、かなり感化されたっぽい。
それでふと思ったのが、これからうちに来るようになる獣人の子達も、魔力が少なくてもステッキくらいなら扱えないかな?と。
あわよくば魔力の強い子も見つかる可能性もある。
それにフィールドはうちの子も使うだろうから、無駄にはならないだろうと、ちょっとしたフィールドを庭に作成。
学園祭で使った標準のステッキも幾つか貸し出せるようにしておく。
うちの子達は早速新しいフィールドを駆け回ってて、私はそれを見ているだけで嬉しくなる。
「アスカちゃん、もしかしてお願いしたら学校や新しいフィールドもすぐに出来る?」
「しっかりと図面が有ればできると思いますが…それをしてしまってはドラゴライナ王国のそういった仕事を請け負う方々の仕事を奪ってしまいませんか?」
「全くそのとおりだね。賢い王女で安心だよ。 でも、急ぎの時はまたお願いするかもしれないから」
「それはもちろん任せてください」
お祭り用のはアキナさんの依頼で急遽作ったりしたからね。
そういった物は一時的なものだし、お祭りが終われば壊してしまったりするから問題はない。
急遽作らなければならなくなったのも、元はといえば私のせいだし…。
「お嬢様…」
「ピナさん久しぶりだね?」
「すみません、少々立て込んでおりまして…」
「あ、責めてるわけじゃないからね」
「はい…。 一つお嬢様にご報告です。今回の獣人の子どもたち、全員の裏が取れました。親類縁者にも犯罪者などの不届き者はいませんので、ご安心ください」
「そんな事してくれてたの!?」
「お嬢様はドラゴライナ王国の王女様です。そのお嬢様の所有するお屋敷に不届き者を立ち入れさせるわけには参りません」
そうだよね…大切な人も居るし、私にはお屋敷で働く人を守る義務もあるのに。
なのに、そこまで考えが及ばなかった。子供だから大丈夫だって思い込んでた…。
いくら魔法防壁等で守っていても、内部に入られたら私がいなきゃ手が打てないのに。
気をつけよう…。
「お嬢様、私はこういう時のためにいるのです。頼ってくださいね」
「うん、ありがとう…」
私の表情から察したらしいピナさんはそう言ってくれる。けど…
忍びの有用性を夕波陛下へ偉そうに語っておいて、私自身がこれでは目も当てられない。
自身で考えて動いてくれたピナさんには本当に感謝だよ。
「マスター、この子達の教育係は決まっているのですか?」
「うん、お屋敷のメイドさんや騎士様にお願いしてあるよ」
「そうですか…私もマスターのお役に立ちたかったのですが」
「必ずノアにも頼るときが来るから、その時はお願いね?」
「わかりました!」
今日だってうちの子たちを一日護衛してくれて、お屋敷までの道も護衛もして帰ってきてくれたから、感謝しかないのに。
ー翌日ー
またステッキの試合を見に行くみんなを見送り、私はアクシリアス王国へ転移した。
ーーーー
ーー
「アスカ様!? ようこそお越しくださいました! 今、お茶をお持ちしますね」
「ありがとう、ユリネさん。申し訳ないのだけど、シルフィー、アルフィーには私が来たことを知らせずに、王妃様へ取り次いでもらえないかな? お忙しいなら待つから」
「はい。かしこまりました…」
ユリネさんは私の要望に、何でだろう?と疑問を感じながらも聞かずにいてくれた。
王妃様への取り次ぎをしてくれた後、ユリネさんがお茶を淹れてくれたからいただく。
相変わらず美味しい。
暫くして部屋に来てくれた王妃様と入れ替わるように、ユリネさんは退室。
気を使わせてごめんね…。
「アスカちゃん、どうしたの? 何か深刻な話しかしら…」
「そういう訳ではないのですが、事情をご存知の王妃様にしか相談しにくくてですね…」
「聞きましょう。もうアスカちゃんも娘みたいなものなんだから、頼ってくれていいのよ?」
「ありがとうございます。 実は…」
私は生まれてから男として生きてきて、色々とあって最近は意識としては女の子になってはいても、同性の大切な人たちの気持ちをわかってあげられない事。
そもそも根本的に女性として未熟で、色々と足りてないのではないか?等、感じている事をそのまま相談した。
「難しい問題ね。前提としてアスカちゃんの思う理想の女性像ってどういう物なの?」
「そうですね…、例えば生まれたばかりのアルフィー様を抱いておられた王妃様は、慈愛に満ちていて、優しい横顔に凄く憧れました」
「嬉しいことを言ってくれるわね。 でも…それを言うならティーちゃんやリズちゃんを抱いている時のアスカちゃんは素敵なママよ?」
「そうでしょうか…」
母親としてあの子達の見本になれているか、しっかり守れているのか、それも自分ではわからない。
「慈愛っていうのなら、アスカちゃん程慈愛に満ちている子はいないと思うわよ。その優しさで、私もこの国も救われてるのよ?」
王妃様はドラゴン襲撃の事や、アルフィー様の出産など、どれだけ助けられたと思うの?って…。
そう、なのかな…。
「女の子としてって話になると、また難しいわね…。いっそ男の子相手に恋でもしてみる?」
「恐ろしいことを言いますね?みんなにバレたらどうなるか…」
「そうよねぇ…シルフィーも闇落ちしかねないわね、それ」
フフって笑いながら怖いこと言わないで…。
そもそも身近に男の人がユウキや父さんといった身内しかいないのに。
「いいこと思いついたわ! 一度、この城でメイドとして仕事をしてみない?」
「メイドですか?」
「ええ。アスカちゃんってずっと戦闘に身をおいていたでしょう? その対局のようなメイドなら違う発見があるかもしれないわよ?」
「私に務まるでしょうか」
「だから、やってみるのよ!」
確かに。やらないで悩むよりやってみた方がいいかもしれない。
「教育係にはユリネではなくアスカちゃんの知らない子をつけるから」
「お願いします。もし粗相をしてしまったらすみません」
「いいわよ、そんなの。うちは見習いの子もいるのよ?失敗なんて日常茶飯事よ」
そう言われたらこのお城って見習いの子もいたな。
お城なのに珍しいと思ったっけ。
王妃様の紹介という体で、髪色を変え、化粧リングで変装して。
ただの見習いメイドとしてお城に仕えることになった私は、みんなにどう説明しようか悩んだ。
正直に話すべきか、或いは隠すか…。 (ママ、本気なの?)
メイド? (うん)
経験のない事をしてみたら何か新しい発見や、私自身が変われるかもって思うから。 (わかったの! みんなにはティーが話しておくから)
いいの? (多分、ママが戻ってきて話すと失敗する! 皆が行かせないだろうし)
言えてるね。唯一の気がかりはリズだけど…。 (リズもティーに任せて)
わかった。ありがとティー。 (その代わり帰ってきたらいっぱい甘えるの!)
うん、もちろんいいよ。 (わーい!)
いつもありがとね。 (ティアがそっちに帰る時は言うからバレない様に気をつけてね)
だね…。私の傍に転移しようとした場合は拒否するしかないけど…。 (圏外って言っとく!)
電波じゃないんだから…。 (まぁまぁ、任せて)
わかったよ。 (ティーも暫くママの傍から離れておくのー)
気を使わせてごめんよ。 (ううん! ちょっと心配だけど…)
結局、また頼ってしまうね…。 (そこはいいの!)
はい…。




