ホウレンソウ
ようやく落ち着いた様子のギルドマスターと、治癒師の人たちへ報告をする。
「まず、治癒が効かなかったのは傷口から全身へ毒が回っていたのが原因です」
「毒だと…?」
「はい、一応サンプル採ってますのでお渡ししますね」
小瓶に容れた毒をギルドマスターへ渡す。
「あの短時間でそんなことまで…」
ギルドマスターは小瓶を受け取り、中身を見ている。
「なんの魔獣の毒かは?」
「すみませんそこまでは…見たことないものなので」
「そうか…いや、すまない」
「あ、でもどういう効果のある毒かはわかりますよ」
「なに?」
そりゃぁだって、解毒して治療したんだもん。
「毒素の効果は3種類。治癒への抵抗の毒素が一番強く、その次に止血効果がありました」
「止血効果だと?」
「はい、じゃなかったらあの傷では…」
「そうか…」
「最後に意識の混濁や、喪失ですね。こっちは遅効性っぽいです」
「ちこうせい?」
「あとからゆっくり効いてくるって事です」
おかげで逃げれたのかもだけど…。
「なるほどな…う〜む」
「どうかされました?」
「いや、相手の魔獣が少し絞れるかもしれんと思ってな」
あぁ〜。私はこっちの魔獣とか一切わからないからなぁ。
まぁ似たようなのは他の世界にもいたけど。
「アスカさんはなにか思うところはないか?」
「いえ、私は此方の魔獣には詳しくないので…」
「構わない。先入観がない方がいいこともある」
そういう事なら…
「以前に違う場所で戦った魔獣に似たようなのがいました」
「聞かせてくれ」
「獲物に傷をおわせ、殺さず巣に持ち帰るんです。その魔獣も同じように止血効果のある毒と意識障害で生かさず殺さず、獲物を長持ちさせるんです」
「ふむ…」
「子育ての時期だけの習性でしたが…」
「わかった、助かる。調べてこよう」
「あの、あとこれ…」
液体の入った十本ほどの小瓶を手渡す。
「これは?」
「さっきの毒の解毒薬です」
「なに!?」
「私の手持ちの素材で作ったのでこちらで作れるかはわかりませんが…」
「いや、助かるがいいのか?」
「もちろん。借りた魔道具のおかげで作れたものですから。この魔道具もお返ししますね」
「あ、ああ。感謝する。まだ少し確認したいこともあるのでな、先ほどの部屋で待っていてくれ」
「わかりました」
あれ?いつの間にかアリアさんがいないな。
まぁ部屋へくらい一人で戻れるけどね?
「治癒師のお前たちは来てくれ。疲れてるところすまないな」
「いえ…」
「わかりました」
ギルドマスターに連れられ治癒師の人も出ていった。
結局治癒師の人たちとは一切話さなかったなぁ。
黙り込んじゃってたし…。
まぁいいや。部屋に帰ろ。
医務室から外へ出る。
「アスカ様」
アリアさん、部屋の外にいたんだね。
「ギルドマスターさんが、もう少し用事があるそうなので部屋で待っててほしいそうです」
「わかりました」
アリアさんと一緒に客間へ戻ってきた。
「お姉ちゃん! おかえりー。大活躍だったって?」
え?
「アリアさんが伝えに来てくれたの。お姉ちゃんが怪我人治した〜って」
なるほど?
「すみません、勝手なことだとは思ったのですが…私も興奮してしまいまして。心配してらっしゃるユウキ様と未亜様に早く伝えたく…」
二人は待たせちゃってたもんね。
「ありがとうございます、気を回して頂いて」
「いえ…とんでもないです!」
「お姉ちゃんがどんなにすごかったかアリアさんがみんな教えてくれたよ! さすがお姉ちゃん」
恥ずかしいからやめて〜!
「相変わらずアスカ姉ちゃんは出鱈目だよね。魔法で出来ない事探すほうが大変なんじゃ?」
そんなわけあるか! 鑑定だってできないし…。
あ、でも鑑定の魔道具はもうつくれる。作りたい…。
魔王してた時も専門の鑑定職がいたから、職を奪わないようにって作れなかったし。
う〜ん、ギルドマスターか、王妃様に聞いてからにしよ。
というか最初から王妃様に聞いたほうがいいね。魔道具のエキスパートだし。
今、ギルドマスターの仕事を増やすのは申し訳ないもの。
客間のソファーに座り一息つく。
ふぅ…やっと落ち着いたよ〜。流石に少し疲れた。
魔力はほとんど減ってないけど神経を使ったよ。
でもよかったー。怪我人を助けることができて。
あっそうだ! 忘れないうちに…
「アリアさん、食材を買える所に案内してもらう事ってできますか?」
「そうですね、でしたら市場通りへ行けば一通りそろうと思いますので、そちらに」
いいね市場! 楽しみだよ。
「じゃあ後で案内をお願いします」
「はっ」
「失礼する」
ギルドマスターさんだ。
「まずは今回のこと本当に助かった。感謝する。今回の治癒は秘術の類かと思い箝口令をしいた。 それと幾つか報告と質問をさせてもらえないだろうか?」
改まって向かいへ腰掛けたギルドマスターさんが切り出す。
別に秘術ではないけど広まらないならその方がいっか。
「はい。私で答えられることなら…」
「ではまず報告から。治療してもらった冒険者の一人の意識が戻った」
「良かったです。でもまだ動かないようにしてくださいね。止血効果があったとはいえかなり失血してますから」
「ああ、わかった。 それでここからが重要なのだが…」
なんかヤバい感じ?
「パーティメンバーはもう一人いたらしい」
まさか!!
「普段からパーティを組んでる者達はギルドでも把握しているのだが、急ごしらえだったようでな…。目覚めた者から聞くまで誰も知らなかったのだ。現地で救助した者たちも聞ける状態じゃなかったらしい」
見慣れたパーティならメンバーが足りなければ気がつくもんね。
しかもあんな大怪我してたら…。
「囮になって仲間を逃したらしくてな。今、救出と魔獣の討伐メンバーを集めているところだ。
ただ…調べたのだが、今までにそのような魔獣の報告はなくてな。
意識の戻った者からの証言と照らし合わせても相手を絞り込めずにいる。
それにアスカさんの話から推測するともしかしたら…まだ生きているかもしれんからな」
「アスカ姉ちゃん、どういう事?」
えっと、ユウキも一緒に戦った魔獣だから覚えてるかな?
「ほら、一時的な習性だけど獲物を持ち帰って長持ちさせるような狩りをする魔獣いたでしょ?」
「あの、変な毒使ってくるやつ?」
「そうそれ。何となくそれに似てる気がして…毒もよく似てたから」
「なるほどね…ならタイムリミットは2日ってとこ?」
それくらいかなぁ…
「なに?2日とは?」
「巣へ持ち帰られてたとして間に合うぎりぎりがそれくらいだったんです。その…子育ての為に少しずつ与えるので…」
「となると、彼らが襲われたのが今日の明け方、長く見ても明日いっぱいまでしかないのか…」
「アスカ姉ちゃん」
うん、ユウキの言いたいことはわかるよ。
「マスターさん、私達も行きます。ダメですか?」
「いや、来てもらえたらありがたいが…これ以上、国賓の方を巻き込むわけには…」
ぅぅ〜。
「アリアさん、一つ聞いてもいいですか?」
「はっ、なんでしょうかユウキ様」
「僕も国賓扱いになってますか?」
「…いえ、正式な国賓なアスカ様だけです。ユウキ様、未亜様はまだです。
近いうちに手続きが済んでお二人も国賓扱いになるとは思いますが…」
まさか!?
「なら僕だけ行くよ。アスカ姉ちゃんが行くよりはマシじゃないかな?」
ユウキならまず大丈夫だと思うけど…心配だよ。
それにそんな抜け道みたいなので通るのかな。
「しかし…」
ギルドマスターも悩んでるね。
う〜ん。
「救助隊の出発はいつですか?」
この答え次第で色々変わってくるけど…。
「まだはっきりとは…急ぎたいのだが、まだ暫くは準備に時間がかかるのでな」
それなら…。
「アリアさん、度々申し訳ないのですが、王妃様へお手紙お願いできますか?」
「直ちに手配いたします」
アリアさんにお礼を言って急いで手紙を書く。
おそらく王妃様の事だから私が治癒した事とかは手紙より先に知ってそうだけど。
「セルフィ…いや王妃様へ手紙か?それなら私に任せてくれ」
「はい?でも…」
「早馬より早いぞ?」
そうなの?
「緊急事態にしか使用できんが今回はそれだろう。王妃様から魔道具を預かっている。今回が初の使用だがな」
王妃様の魔道具なら間違いないね。
「ではこのお手紙をお願いします」
「わかった」
今日はもう一話、別視点のお話を投稿します。
忙しく、予約投稿なので19時過ぎには上がるかと思います。




