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召喚被害者の日常は常識なんかじゃ語れない  作者: 狐のボタン
第八章

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先代様



朝一番に私の元へ転移してきたピナさんと、先代様ご夫婦に会うために、隠居されているという小さな島へ向かう。

呼ばれた理由がわからないから、行くのは私一人。 

ティーはついてきてるけど。 (もちろん!)


「船で迎えが来ておりますから、そちらで島へ向かいます」

「それしか行く手段がないの?」

「はい。先代様ご夫婦と、数名の使用人しかおりませんから」

買い物とか不便じゃないのかな?という心配をしてしまうのは完全に庶民感覚だな。



まず向かうのは夕波城の裏手にあたる断崖絶壁。 

そこへは夕波城内からしか行けないらしく、一度天守に入てから長い階段を降りる。

一本道の階段を降りると、洞窟のような場所に隠れた船着き場があって、一隻の小さな船が停泊してた。


ピナさんと二人でその船に乗り込む。

無口な船頭にピナさんが頷くと、船は桟橋を離れ、ゆっくりと波の少ない海をゆく。

「こんなに波がないもの? あの断崖絶壁を見る限り、もっと波は激しいかと思ったよ」

「そうですね、この船を出す時だけは…」

なるほどね、詳しくは言えないって事か。お城だもんねここ。

ましてや先代様の隠居先へ向かう唯一の手段なら当然だろう。

私も迂闊だった。疑問が咄嗟に口に出ちゃったよ。


しばらくすると見えてきたのは一つの島。

本島側から見える距離なのに、ある程度近づかないと見えないのはここにかかってる術のせいか…。

おそらく奥様のシラユリ様の力だな。 (そうなの?)

見た限り普通の魔法じゃないし、私ではすぐに理解できなかったからね。 (妖術!)

かもしれないね。


島に船が着けられると、そこには一軒の平造りのお屋敷が建っていた。

「お嬢様、こちらへ」

ピナさんに案内されて、お屋敷にお邪魔する。


中は純和風な武家屋敷とでも言うのか、すでに玄関から刀や鎧兜などが置いてある。 (いいもの?)

うん。質とかより、古いから価値があるんだろうってのもあるけど…。


「夕波様…」

「入って良いぞ。気を遣わずともよい」

ピナさんが開けるより先に開かれた襖の先は、海辺の見渡せる広々とした縁側のある部屋だった。


「いらっしゃい、アスカさん」

「お邪魔します…」

まさかのシラユリ様自ら開けてくれてたとは…。


ピナさんはふっと消えてしまったので、シラユリ様に案内されて縁側に用意されている座布団に座る。

「急に呼び立てて済まないな」

「とんでもありません。お気になさらず…」

「色々と世話になったのに、しっかりと礼も言えていなかったからな」

「そうよね…忍び一族の事から、シラハや、私達の事まで…」

お二人にお礼を言われ、恐縮していたら、海辺にぴょこって顔を出したのはジュンさん。


「ジュンもこちらへ」

「ありがとうございます、シラユリ様」

本当に和解したんだ…。よかったぁ。


人魚姿のまま、縁側近くに来たジュンさんにもお礼を言われて…。

「ユウナミ様と再会させていただき、このようにお話できるのもアスカ様のお陰です。本当にありがとうございました」

「いえ、此方こそ。ジュンさんには素敵なものを頂いて。ありがとうございました」

「そうそれ! シラハに自慢されたわ。うちにも少数はあるのだけどあんなにキレイになる物なのね」

「私と娘も頂きましたから…」

今も首から下げてくれるてるもんね。


「良かったらシラユリ様にもお作りいたしましょうか?」

「いいの!? ちょっと待ってて。持ってくるわ!」

キレイな尻尾を揺らしながら部屋を出ていかれた。


「慌ただしくてすまんな…。今のうちにわしの話を済ませておこうか」

ユウナミ様の話?何だろうと身構えてたら、部屋の後ろのタンスから出してきたのは一振りの刀。

あぁ…。 (ママのだ!) 


「これは本当に良いものだ…今までありとあらゆる刀を見てきたが、ここまで美しいものは無かった」

そこまで言ってもらえると作った私としては嬉しいけど…。


献上刀は数年に一度、刀好きのユウナミ様が募集しているもので、選ばれた一振りがこうして手元に残るらしい。

「他の刀も気に入ったものはわしが持っておったり、下賜したりとしておってな。平和な今となっては使う事もまず無いのだが…技術が衰退せぬためにも続けておる」

「職人さんの技術の継承は絶対に必要ですものね」

「そう! そうなんだ! それは何も刀に限った話しでは無いのだがな? 既に失われた技術などもある故、今あるものは残していかねばならん」

興奮しているユウナミ様は、ドラゴンならではの若々しい外見も相まって少年の様で…。


「ユウナミ様、あまり興奮されますとまたシラユリ様に叱られますよ?」

「う、うむ…。 それで一つアスカ殿に頼みがあってな? この刀の制作技術を誰かに継承させてもらいたい! というのが本音なのだが、流石に他国の王族に頼めることではない。そこでなんだが、わしにだけ少し見せては貰えないだろうか? なに、秘術にならない部分だけでもよい」

「構いませんが…」

「本当か!? 直ぐ炉に火を入れて…」

「お待ちください。 私は手元だけで出来てしまうので…材料さえ頂ければすぐに」

「なんと…それなら直ぐに玉鋼を持ってくる!」

ユウナミ様まで部屋から走り出ていかれて、入れ替わるようにシラユリ様が戻られた。


「あの人、なにか無茶を言いませんでした?」

「そんな事は…」

「本当かしら。ジュン?」

「刀を作るところを見せてほしいと言われてました」

「そんな事だと思いましたよ…。適当でいいですからね。時間もかかるものでしょう?」

直ぐに終わるとは言いにくい…。 (あははっ)


シラユリ様から人魚の雫を受け取り、手持ちの小瓶にシーグラスと共に入れる。

魔刻刀を出す許可をもらって、此方もいつも通り魔道具に。

「ありがとう…素敵だわ〜。ジュン、お揃いね?」

「はいっ」

にこやかなお二人は本当に険悪な雰囲気もなくホッとした。


「今日、レンは?」

「あの子はあまり地上に上がりたがらなくて…すみません」

「いいのよ。無理にとは言わないけど、時々は連れて顔を出してね?」

「はい…」


ドタドタと音がして戻られたユウナミ様は、大きな木箱を抱えてた。

「質の良いものが見分けがつかなくてな! 全部持ってきた!」

「貴方…あまり無茶を言って困らせてはダメよ? アキナ様に報告しますからね?」

「それだけはやめてくれ! アイツ怖いんだ…」

怖がられてるアキナさんとか初めてかも…。 (まー今の夕波陛下のお父さんだし)

あー…。何となく察してしまったよ。 (問題児親子…)

なんて言われ方。



「本当にここで良いのか?」

「ええ。ですが一応、庭に降りてもよろしいですか?」

「もちろん構わない!」


ユウナミ様の許可をもらい、庭に降りようとしたら玄関で脱いだはずの私の靴があるのは…。 (ピナさん…)

だろうね。

 

ユウナミ様にどんな刀を欲しいのか尋ねたら…

「希望を聞いてもらえるのか!? だったら今回受け取った刀と対になる脇差を頼めるか?」

「わかりました」

木箱からどれでも好きなものを選んでいいと言われたので、折角なので質のいいものを貰った。


「魔法を使うので、ある程度離れていてください」

「う、うむ!」

あまり近くにいられると困る…。 


いつも通り、魔力ドームに玉鋼を放り込んで、ぱぱぱっと…。 (端折った!)

二回目だしね?


研ぎまで済ませた物を、取り出して…

「…………」

「アスカさん、もう終わったの? 物凄い魔力の動きは見えていたけど…」

「ええ。普通に鍛錬しているわけではないので、申し訳ないのですが…」

「いいえ。ここ迄の魔力操作は職人、いえ、芸術の域よ! やっぱりシラハに…」

また話が不穏な方向に! (またやっちゃったねぇ〜ママ)

うっ…


「あの短時間でこれが…? でも確かに同じ物だ…」

「貴方、これは間違いなくアスカさんにしか不可能よ。つまり、ウチのどんな職人でも技術の継承は不可能です」

「だろうな…。これ、もらっても良いのか?」

「ええ。ユウナミ様が悪用されるなど有り得ませんし、そのままお納めください。あ、鞘だけ付けますね」

一度受け取り、白鞘に収める。


「もうわしも驚かん!」

「そうね、木の加工くらい直ぐよね…」

「私達人魚の使った魔法を解析されたというのも納得です」

あったねそんな事も。


「魔刀、そちらも見るだけでも見せてもらえないか!?」

「貴方!!」

「構いませんが…」 (持ってるの?)

一応自分のも作ったんだよ。ほら、ティーの分体に聖剣や魔剣を貸す時もあるから、自分用も欲しいなーと。 (おおう…何時の間に)


ストレージから取り出した、定寸より少し長めの刀を、ユウナミ様に手渡す。

「拵えも見事だな…」 (ティーのと一緒の色!)

うん、お揃いにしたよ。 (やほーい♪)


「あ、すみません。それ私にしか抜けないので…」

抜こうとして抜けないユウナミ様に原理を説明したのだけど、訳がわからないと言われた。


抜いた魔刀をみているユウナミ様は楽しそうで、それを見ているシラユリ様は呆れ顔。

使い方のデモンストレーションも頼まれてやってみせたのだけど、

「それ、わしも欲しい!!」 (見たら欲しくなるよねー)


「…貴方、いい加減にしてください。他のものすべて処分しますよ?」

「そ、それだけは!!」

「すでに何部屋埋まっていると思っているのですか!」

「一つの趣味くらい良いではないか…」

「言いましたね? では刀の趣味を続けるのなら魔刀は諦めてください! どちらかです!」

「あれも刀だろう…?」

「アスカさん、それは刀ですか?」

シラユリ様から有無を言わさぬ圧が…。答えを間違えたらとんでもない事になる。


「いえ…コレは魔剣の一種です。刃は魔石なので、刀とは構造そのものが違います。見た目を刀に似せているだけですね」

「だそうですよ?」

「うぅ…」

すみません、ユウナミ様。私にはシラユリ様を敵に回す勇気はないです。

それに、いくらユウナミ様でもこれは渡せない。普通の刀と訳が違うから。


ユウナミ様は脇差だけでも満足だと諦めてくれて、なんとか落ち着いた。

今日呼ばれた理由のもう一つ、献上刀のご褒美としてユウナミ様から直々に金一封を貰ってしまった。

理由が理由だけに断ることもできず…。

「ありがとうございます」

中身を確認するのが怖い。


私も用事があったのを思い出して、海底から引き上げた金銀財宝について確認した。

此方も権利は私にあるとの一点張りで、変わらず。


ただ、見せたものの中に先程ユウナミ様が話していた、失われた技術に関する物があったらしく、そちらだけ引き取ってもらえた。

「貴方、これは………」

「うむ…そうだな…それはお前に任せよう」

「わかりました」

なにやらお二人が内緒話をしていると思ったら…。


「アスカさんに提案なのだけど…」

「はい?」

シラユリ様からとんでもないことを言われてしまい、家族と相談させてほしいとお願いして、お暇した。 (わくわく)

ほんと、どうしよう…。







誤字報告ありがとうございました。

とても助かります!

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