アリアとユリネ
三人で城下町へ降りてきたのだけど、どこへ向かうのだろうか…。
アリアさんはわかってるように歩いていくからついてってるけど、大丈夫かな。
「アリアさん、どこへ向かってるの?」
「夕波陛下が話しておられた、お座敷遊びというのをアスカ様と体験してみたいのですが…」
お座敷遊び…?
私が思ってる通りのものなら、お茶屋に芸者さんを呼んで、食事をしたりしながらちょっとしたゲームをしたりとか、だった筈…。
私は勿論経験はないし、大丈夫かな。作法とかわかんないぞ。
「おすすめのお店も教えていただいたのですが……あ、ありました!」
アリアさんが指差すのは大きなお屋敷。
お茶屋というより、高級料亭とでも言えばいいのか。陛下のオススメなら当然だろうけど。
店に入ると、相変わらずトロピカルな柄の着物姿の人に広い座敷へ案内された。
こちらもしっかりとピナさんから話が通っているのか、何もせずとも食事が運ばれて、芸者さんらしき人が二人、舞を見せてくれた。
私が思っていたのとは違い、かなり激しいダンスだった…。着物姿で凄いな。
「激しいダンスですね」
「ユリネ、夕波陛下のお話では、舞と呼ぶそうですよ」
こっちでも舞って言うんだ。
食事も海鮮がメインではあるけど、私の苦手なものが無いのはピナさんのおかげだろうなぁ…。
舞の後は、見慣れない弦楽器の生演奏をゆったりと聞きながら食事。
私達は誰もお酒を飲まないからお酌の必要はないけど、隣に人がついて取り分けてくれたりと世話をしてくれた。
食後はアリアさんご希望のお座敷遊び。
芸者さん相手にジェスチャーによるじゃんけんみたいなのや、ここでも面子や独魔で対戦が…。
夕波陛下が持ってたのは駄菓子屋のではなく、こっちの影響かも。
国王様だもんなぁ。
独魔は借りることもできるけど、自前のがあるのならそれを使ってもいいらしいので、私特製のを二人にもプレゼント。
「ありがとうございます、アスカ様。 まさかご存知だったのですか?」
「ううん。私もこういうのは未経験だからね」
「そういうことにしておきますね。さすがですアスカ様」
本当に偶々なんだけど…アリアさん達が嬉しそうだからいいか。
見た感じ、芸者さんの持ってるのも駄菓子屋さんで売られていたのよりずっと質がいい魔石が使われてるな…。
デザインも可愛らしいし、色も鮮やか。
うちのは魔石は良いものだけど、見た目は駄菓子屋基準だから、独魔その物に派手さはない。
ただ、エフェクトは出るから…。
花や星が飛び散るのは、芸者さん達もびっくりだったようで、盛り上がってる。
「美しい独魔ですね…どちらで購入されたのですか?」
「すみません、私の手作りなので…」
「なんと…!」
芸者さんだからか、こういった華のある物には目がないようで、羨ましそうに見られてる。
美味しい食事に、楽しいお座敷遊びを堪能。アリアさんも楽しめたようで良かった。
帰り際、ふっと思い出した。こういったお店ではチップというか、花代って言うんだっけ?
そういうのを渡すルールがあった気がして、アリアさん達にわからないよう、包んだお金と一緒に幾つか独魔も渡しておいた。
私も王族ってことになってるし、それなりの額を包まないとアキナさんや夕波陛下の顔に泥を塗りかねない。
店の代金は払わさせてもらえないから、せめて…ね。
独魔に関しては危ないものでもないから渡しても平気だし。
受け取ってもらえたから間違ってなかったみたいね。
次はユリネさんご希望の場所だけど…どこへ行くのだろう。
ユリネさんも下調べをしてきているようで、目的地へ案内してくれるそうなのでついていく。
「少々堅苦しい場所になってしまいますが、申し訳ありません」
「ユリネさんの行きたいところへ私も行ってみたいから気にしないでね」
堅苦しいってなんだろう?と思ったら大きな本屋さん?いや、図書館か?
「こちらの歴史を知りたくて…」
「アスカ様も仰られたが、せっかくの機会です。楽しみましょう?」
「ありがとうございます!」
そういえば、ユリネさんってうちの母さん達が倒したっていう魔王関連の話にも食いついてたな。
リアから話を聞いて纏めてたくらいだし。
そのうち両親から当時の話をしてもらってもいいかもしれないな。
なんと言っても当事者だし。
図書館かと思ってた建物内部は、当然本もあるけど、展示や解説もあって、歴史資料館のようだった。
これがあるから、ハルナさんもホテルに展示をしたのかもしれない。
手際が良かったのも頷ける。見本があるわけだし…。
真剣に見ているユリネさんは普段では見れない姿で、来てよかったと思う。大切な人の違う一面を見れるというのはいい事だと思うし。
ユリネさんは恋人としてもだけど、メイドとして傍にいたいって言ってくれてる。
アリアさんも普段は騎士として、護衛として扱ってほしいって言われてるしなぁ。
実際アクシリアス王国の近衛騎士様だし。
そのアリアさんも気になったものがあったのか同じ場所から動かない。
何を見てるのだろう?私も気になって見てみた。
「こちらは大昔から船が発達しているのですね」
船かー。アクシリアス王国の船が完成した時も興奮してたっけそういえば。
「船好きなんですか?」
「はい。こんな大きなものが浮いて、違う場所に運んでくれるのです…ロマンがありませんか?」
「確かにそうですね…」
職業柄、ほぼお城から出ないアリアさんにとって、大海原に出ていく船は魅力的なのかも。
「今回、王妃様とアスカ様の考案された船で旅ができたのは本当に嬉しかったのです」
そう言うアリアさんは嬉しそうに笑う…。
「アスカ様、アスカ様!」
「はい?」
ユリネさんに呼ばれて移動したら、人魚の雫が展示されていた。
どうやら戦時中に海で溺れたけど、気がついたら海岸にいて…握っていたのがコレだったと。
当時はそんな話がいくつもあったらしく、この展示もそんな中の一つらしい。
…人魚達が持たせてたんだろうな、と想像してしまうなこれ…。 (種代)
やめなさいって…。
「アスカ様に頂いたアクセサリーと同じものです。ものすごく価値のあるものらしいですが、良かったのですか!?」
「私にとって何よりも価値があるのは、ユリネさんやアリアさんのような大切な人達だからね。そんなみんなが喜んでくれるなら、頂いた雫をプレゼントする意味もあるでしょ?」
「…アスカ様」
「ありがとうございますアスカ様…」
ユリネさんのおかげで夕波王国の歴史に触れ、少しだけ詳しくなった。
どの国にも歴史があるのは当然だけど、それを学べるのは有り難いね。
アキナさんのところも塔の試練で見れたし。
少し麻帆の気持ちがわかった気がする。
そんな麻帆へのお土産に、展示物の解説をまとめた本を購入。
多分好きなはず…。
他のみんなへのお土産は帰りの道中で和菓子を購入。
あまり自由時間のない二人との貴重な時間は、とてもいい思い出になった。
「また時間がある時に出かけようね」
「はい! 是非またお願いします」
「その日を楽しみに明日からはまたメイドを頑張ります」
夕波城へ戻ると、ちょうど王妃様も休憩なのか本丸をシルフィー、アルフィーとお散歩してた。
アリアさんは直ぐに護衛に戻ろうとして、王妃様に止められてた。
「今日は一日休暇としたはずよ。明日まではのんびりしてなさい」
「はっ…」
「大丈夫よ。護衛は夕波陛下がつけてくださってるから」
忍びがついてるしなぁ…。
私も王妃様にお礼を伝えて、今朝作ったカステラを渡しておく。
「また知らないお菓子だわ!」
「おかあさま、わたしもたべたいです」
「お部屋に戻ったら切り分けてあげるわ」
「わ、私は少しだけ…」
そういってお腹を気にするシルフィー。
「アスカちゃん、やっとなのね!? いつの間に…陛下も大喜びされるわ」
えっと何のお話でしょう? (お腹ポッコリ…アルディエルママみたいに?)
ないない!! とんでもない誤解!
「お母様、大変申し訳ないのですが…まだそういった事は…」
「え…?じゃあ何を気にして…。まさか!」
「それ以上仰られるとお母様といえ容赦しません!」
「…いい威圧をするようになったわね」
誤解はとけた!? (うむ)
よかった…。
「おねえさまはおいしいものをたべすぎなのです」
「アルフィー!!」
「きゃー!」
なんだかティーと私を客観的に見ている気分…。 (きゃー!)
別に怒ってないから。 (ほっ…)
それにしても、シルフィーはそんなにお菓子食べてたっけ?
気をつけて渡してる筈だけど…。 (毎日美味しい海鮮、出される和菓子、王妃様が忙しいからお勉強もない!)
あー。 (ママ察し)
「アスカ様、本当になんでもありませんから! でも夜のお誘いはしばらく待ってください」
「…少しのお散歩とかでもだめですか? 夕方は涼しいですし、お話しながら歩きませんか?」
「それでしたら喜んで!」
良かった。運動にもなるよね…。 (食べる量も減らさないと…)
そっちは私にはどうにもできないよ。
せいぜい私の作るお菓子をカロリーオフにするくらい。 (ママは太らないの?)
気にしたことないな…。自己鑑定で見た限り、身長も体重も変化はないし。 (さすママ!)
魔力を使うような事を常にしてると、結構カロリー消費してるみたいだしね。 (常にママは何かしらしてるもんね)
うん、遮音かけてたり、探索だったり…完全にすべてがオフになってる事はないかもね。 (ドラツーも維持してるし)
それもあったね。
誤字報告ありがとうございました。
確認不足で申し訳ありません。助かりました!




