ギルドで初仕事
部屋で待つこと数分。
アリアさんが部屋に戻ってきた。
「お待たせ致しました。 職員へ確認したところ、なにやら未確認の魔獣が出たのでは?と。
接敵した冒険者パーティは大怪我をしていて、途中でたまたま活動していた他のパーティに保護されたようです。冒険者の意識が今はなく、聞き込みができず…はっきりとした魔獣の情報がわからないようです」
「…そう、ですか…」
「アスカ姉ちゃん!」
……うー。
「アリアさん、冒険者の方の容態は?」
「はっきりとは…。しかし、聞き込みができない程なので重体なのではと」
だよね…。
「アリアさん! ギルドマスターさんへ伝言お願いできますか?」
「アスカ様、何をなさるおつもりですか?」
そんなの…
「治療に決まってます! 差し出がましいのはわかってるつもりだけど…」
「わかりました。すぐに行ってまいります」
あれ?もっと説得必要かと思ったんだけど…。
いつも以上の素早さでアリアさんは部屋を出ていった。
と思ったらすぐにギルドマスターさんが部屋へ駆け込んできた。
「すまない、治療できるというのは間違いないか?」
「はい。治癒魔法がつかえますから。治せるか確約はできませんが…」
「助かる! こちらへ」
「はい。 ユウキ、未亜ちゃんとここで待ってて。部屋から出ないでね」
「わかったよ姉ちゃん」
「うん…」
ギルドマスターについて急いで部屋を出る。
「客人なのにすまないな、手間をかける」
「こちらこそ…余計なお世話じゃなかったですか?」
廊下を走り階下へ。 更に奥の医務室へ向かう。
「とんでもない。今は少しでも手を借りたい。申し出をありがたく思う」
よかった…。
医務室。
中に入ると何人かが必死で治療にあたっている。
「キズが塞がらない! どれだけ治癒をかけても…」
「そんな…! このままじゃ失血で…」
「ごめん、私もう魔力の限界。 追加の魔力回復薬はまだなの!?」
室内は血の匂いと治療する人達の喧騒で満ちていた。
「すまない、待たせたな。 治癒魔法の使い手だ、あけてくれ」
「ギルマス! でも、この傷は治癒魔法では治らなくて」
「望みを捨てるな! 落ち着け。場所をあけてくれ。お前たちは魔力の限界だろう、休んでおけ。追加の魔力回復薬の手配もしてある」
怪我をしてるのは3人。
一人は脇腹に大きな傷、一人は右太ももに裂傷と頭部から出血、もう一人は…左足がなくなっている。
急がないと! でも、怪我の割に出血が少ない?
「すみません、変わりますね」
私はそう言うと怪我をしている3人を纏めて…魔力で覆い時間停止状態にした。
これで、失血によるタイムオーバーは防げるからゆっくり治療できる。
「なっ…何が起こった?」
驚いているギルドマスターさんに追加のお願いを。
「取り敢えずこれで失血死の心配はありません。正確な鑑定ができる人か魔道具はありますか?」
「あ、あぁ、鑑定の魔道具なら常備している」
「それを貸してください! この状態では、確実な鑑定をしないで治癒をするのは危険です」
「わかった! すぐに用意する」
こういう時、鑑定できないの本当に不便だな…。
この時間停止は氷系の魔法の応用で、魔力で覆った範囲の“時間”だけを凍結させている。
ドーム状のシャボン玉のようなものをイメージしてるから魔力が揺らめいて見える。
魔力の続く限りは止めていられるから、これくらいの範囲なら多分、年単位で止めていられるかな。
魔力ドームって私は呼んでる。当然中に入っても私だけは自由に動けるよ。
「持ってきたぞ。この腕輪をつけて相手に魔力を送れば鑑定ができる」
「わかりました」
受け取り、装着する。なるほど便利な魔道具。
魔力ドームへ入る。
鑑定…。
…何これ、見たことない毒だ。これのせいで傷が塞がらないのね。
三人とも傷口から全身に毒が回ってる…。
苦しいよね、待っててすぐに治すから。
魔力ドーム内で排毒作用のある魔法を新たに直接三人へ流し込む。
こうすれば時間停止しない状態で毒素を体外へ出せる。
念の為サンプルとして毒をいくらか回収。解析。
残りは解析結果を確認して魔力ドーム内で完全に毒素を分解。
三人を鑑定…。
うん、解毒はできた。
解析した毒素の成分はしっかり抜けてる。
次は傷口。
脇腹の大きな傷、内臓まで損傷してるからそれも治すようにしっかりイメージ。
肋の骨折も元に戻るように…。
最後に皮膚の修復。
よし。次!
左膝からの欠損、他は…全身の打撲と手首の骨折。
なにより足だよね。
足の体組織が元に戻るように…。骨とか筋肉、神経や血管とか諸々ね。
次は骨折している手首。こっちもちゃんと元に戻して。
打撲は…ひどくないから大丈夫だね。最後にかける治癒魔法で治る。
よし。次!
最後の怪我人
右太ももの裂傷は深い、神経や血管がちゃんと治るイメージをして。
骨は…大丈夫だね。
頭部の傷、この人女性だね…大丈夫。傷跡は残さないからね。
額から目にかけての裂傷に、頭骨へのヒビ。脳は…大丈夫。
ヒビの修復、眼球修復。最後に皮膚の裂傷を修復。
よし。
すべての治療のイメージを治癒魔法として魔力ドームに流し込んだ。
これで時間停止を解除すれば治癒魔法が発動して治療が始まる。
準備はできた。魔力ドームから外へでる。
「あの、アスカさん?これは一体…」
「あ、もう終わりますから、少し離れててください。魔力ドーム解除しますから」
「わ、わかった」
流し続けてた魔力をとめる。
ドームは内側から破裂するように消える。
ドームのあった所はキラキラと温かない光に包まれ、傷はイメージ通りに修復されていく。
「もう大丈夫です。跡も残らないと思います」
あれ?
返事がないけど…どうしたのかな。
おーい。ギルドマスターさん?
「な、なにが起こっているのだ?傷が…無くなっていた足が…」
もしかして私またやらかした…?
でも人命救助だし…。
うあぁぁ…どうしよう。また大変なことになる?
扉の前にいたアリアさんと目が合う。
どうしよう…呆れられるかな?
え?すっごい笑顔でサムズアップされた。
よかったぁ…。
あっと…いけない。 鑑定…大丈夫だね。
最後にもう一度治癒魔法で小さな傷とかあざも治さなきゃ。
よし!
再度鑑定…。
うん、問題ないね。完璧。
後は毒のこととか報告しなきゃ。
鑑定の魔道具を何度も使ったから術式記憶しちゃった…。
作ってもいいかな?怒られるかなぁ…。




