シラユリ
シルフィー達の公式な挨拶が終わるのを別室で待つ間、私は夕波陛下から個人的に招かれた客、という扱いで、かなり好待遇をうけている…。
美味しいお茶に、豪華なお菓子も多数。
みんなも来ていたら喜んだだろうなぁ…。
アリアさんは護衛だからと、傍にいるだけで直立不動。キャンディも霧のまま。
お世話かけます。
お茶がなくなれば直ぐにメイドさんが淹れてくれる。
緑茶風なお茶は飲んでて落ち着くし、和菓子も上品な味ですごく美味しい。
こちらのメイドさんは、和メイドとでもいうのか、着物っぽいのにふわひらしてて可愛い衣装だから、シエルが喜びそう。
「失礼するわね」
この声って…。
メイドさんが開けた扉から入ってきたのは、先代の奥様。
シラユリ様だったね。
「お邪魔しています」
「あ、いいのよ、そのまま楽にしてて」
立ち上がって挨拶しようとしたら止められてしまった…。
「少しお話いいかしら」
「はい。夕波陛下はまだ来られていませんし…」
「あちらはまだしばらくかかるわ」
向かいに座るシラユリ様は、どこか神社のお狐様を彷彿とさせる。
妖狐だって聞いてるから、似てるのかもしれない。
「アスカさんは、人魚の事をどこまでご存知ですか?」
「人魚というと、近海の海底に住んでいるってことくらいでしょうか。何かありましたか?」
「ええ。旦那から詳しく話を聞いたのだけど、到底納得できなくて…」
あぁ。ちゃんと話したんだ、先代様。 (修羅場後、今別居中…)
はぁ!? 大丈夫なのそれ…。 (さぁ?ティーわかんなーい)
お、おう…。
「子供まで作っておいて、記憶を無くしていた…そんな事あるかしら」
「私も人魚の方達から話を聞いてますから、それは間違いないかと思います」
「じゃあ、他にも知らずに人魚との間に子供がいる者が地上にいると?」
「そうなりますね。大戦の頃に沈んだ船から助けて…という話でしたから。それ以降に関しては聞いてませんけど」
「あの頃は大変な時代でしたから…」
大きな戦争中って言うと仕方ないよね。
「亡くなった方も陸へ運んでくれていたそうですし…」
「そうだったのね、どおりでアレだけの戦いで行方不明者がいなかったわけだわ。そう聞いてしまうと責めるに責められなくなるわね…」
戦争中、最期に家族の元へ帰れただけでも違うものね…。
「ありがとう。助かったわ。客観的な意見を聞くことができて冷静になれました。もう一度話し合ってみます」
「はい。もし気になるようでしたら、人魚の方たちが使った記憶を封じる魔法、それは記憶しているので再現できますから…」
「えっ…!?」
「解除するのを見ていましたから、その逆も当然解かります」
どんな術を解除したかを見てるのだから、どちらも再現できる。 (だからね?それ、ママ基準!)
そう? (見て記憶とか普通無理! しかもそこから元々使われた魔法まで読み解くとか…)
「それ、教えてもらえる?」
「ええ、そんな複雑でもないので…」
手持ちの紙に術式を書いて手渡す。
「これで複雑じゃない!? 待ってね……えっとここは?なんの術式?」
「それは記憶を封印する範囲…つまり、いつからいつまでって部分です。 解除の方もいつからいつまでの封印を解除するかって部分が対になってます」
後は単純に封印の術式と、解除の術式だから難しくもないはずだけど。 (お、おう…)
「…貴女何者なの!? 私ですらこんな術式、一度見て記憶なんてできないわよ…」
「魔法、魔道具は専門分野なので…」
「シラハが惚れるわけだわ…。その上であの子を諭してくれたのでしょう?」
「少しお話をしたらわかっていただけましたから。私の話にも耳を傾けてくださる聡明な方ですし」
「ねぇ本当にシラハの元へ嫁いでこない?もう一度考えてくれない?」
「いえ、そういう訳には…」
まさか先代の奥様からこんなことを言われるとは…。 (予想外でもない方向からの刺客!)
予想外だよ!
「母上、何をしておられるのじゃ…」
「話をしていただけよ」
「口説いておられたように見えたのじゃが…」
「貴女のためよ?」
「それは妾が自分でしなければならぬ事ゆえ、母上とはいえ口出しは無用に願いたいのじゃ。母上に頼り、手に入れた想いは本物ではなくなってしまうのじゃ」
「…そうね、ごめんなさい。 変わったわね?シラハ。前なら直ぐに私達を頼って欲しいものを手に入れようとしたでしょう」
「それは忘れて頂けると助かるのじゃ…。しかも想い人の前で言わずともよいのではないかと」
「あっ、ごめんなさい! ふふっ、私は退散するわね。 ありがとうアスカさん。助かりました!」
「いえ…」
慌ただしく部屋を出ていくシラユリ様を見送り、大きくため息をつく夕波陛下。
「はぁ…母上にも困ったものじゃ」
「お久しぶりです、陛下」
「久しぶりじゃな…。会いたかったのじゃ」
少し身構えてたけど、抱きつかれたりはせず、私に座るように言って、自身も向かいへ座る陛下。
「母上はなんの話だったのじゃ?」
「すみません、私の口からは…」
「そうか。まぁ…凡そ父上と人魚の事じゃろ。 妾からの話もそれじゃからな」
「どうかされましたか?」
「うむ…」
夕波陛下からの話もシラユリ様と似たような内容で…。
仲違いした両親をなんとか出来ないかって相談だった。
「父上も事実を話しておるのに信じてもらえぬゆえ、随分と憔悴しておられてな…。そこを人魚のジュンが慰めておるから…悪循環でな」
「そうでしたか…」
「じゃが、先程の母上の様子から、何か解決の兆しがみえたものと見た。あんな晴れやかな母上は久しぶりに見たのじゃ。手を貸してくれたのじゃろ?娘として心から御礼申し上げるのじゃ…」
そう言って頭を下げる夕波陛下。
「そんな、お気になさらないでください。たまたま私に出来ることがあっただけなので…」
「ふふっ、相変わらずじゃな…。妾の話しも済んだことじゃし、前回できなかった海鮮バーベキューを始めるのじゃ! もちろん船の皆も招待してあるゆえ心配しなくてよいのじゃ」
「ありがとうございます。 陛下は落ち着かれましたね?」
「そうじゃろうか? 妾も妾なりにできる事をしておるだけじゃからな…」
「以前の陛下よりずっと素敵ですよ」
「そうか? そう言ってもらえると張り合いがでるのじゃ!」
嬉しそうな陛下は特に私を口説いたりもせず、世間話をしながら海鮮バーベキューの会場へ案内してくれた。
城内でもチラチラと忍びの気配がしてたから、白さん達も動いてるのかな。
また会えたらいいけど、相手は忍びだもんなぁ。
姿を見せないのが基本だし…。




