大きなリアル
宿から水族館は徒歩でも行ける距離だから、みんなで歩く。
「ママ、潮の香りがするの!」
「水族館が海沿いだからね。大きな魚を運び込むにも都合がいいんだと思うよ」
イルカだったかシャチだったかを運び込むドキュメンタリーみたいなのを見た記憶がある。
朝も早いから道沿いのお店もまだ閉まってるけど、さすがにコンビニはあいてるね。
休憩を兼ねて少し寄り道。
飲み物やお菓子を買って、また歩く。
いいな、のんびりしてて。 (レウィが普通にお買い物できた!)
うん。でも気にして見ててあげないとね。 (はーい!)
宿を出て暫くしてから魔道具をオンにして、テストも兼ねてたけど…問題なかったね。
店員のおばちゃんに、幼い男の子扱いされてた。 (ティー達にはいつものレウィに見えてるのに)
それはレウィとの繋がりというか、あの子の事を理解してるからだよ。 (なるほどなー)
元々、レウィをレウィとして認識してる私達には効果がないのよ。 (納得!)
少し認識をずらしてるだけだからね。
水族館の入場料は、ティー、リズ、レウィが子供料金にしておいた。
見た目的にそれが無難だろうし…。
リアとシエルは学生料金。 (子供扱いしたら拗ねる!)
わかってるから。
私達も当然学生料金で。
「私も学生でいけないかな?」
「やめなよ母さん…詐欺だよそれ」
「酷い!」
とんでもない事を言い出した母さんはユウキに止められてる。
「父さん、母さんを止めてよ!」
「…いや、なぁ?あれは口出しにくいだろ!」
「ヘタレね」
「ヘタレなの…」
「お義父さんかっこ悪い…」
「辛辣だな、おい!」
庇える要素も無いので私はスルーで。 (あははっ)
不貞腐れながらもしっかり大人料金を払った母さん。
ユウキに叱られて拗ねてるな。 (スピネルも大人料金)
姿消して入ろうとしなかっただけ偉いよ。 (その手があった!)
ダメだよ? (はーい!)
「お母様! 凄いのですあれ!!」
興奮したリズの視線の先には、もう大きな水槽が。
入場ゲートを入ったすぐのロビーにまであるんだ…。
「ママ、近くに行きたいの!」
「いいよ、行こうか」
ティーとリズに手を引かれて水槽の前へ。
オープンと同時に入ったけど、さすが夏休み。
親子連れがいっぱいだ…。 (ティー達も!)
だね〜!
人混みで見にくそうだったから二人を抱き上げてあげた。
「高いのです! うわぁ…きれー………」
「すっげーー………」
大きな水槽には色とりどりの魚が泳ぎ、海藻や珊瑚もあって、まるで海中にいるかと錯覚しそう。
人混みが空いたスキに、リアとシエルも最前列へ移動して水槽に張り付いてる。
傍にレウィが控えてるのは護衛なのかな、ありがとね…。 (安心だー)
だね。未亜は私の隣にいるし。
「未亜は見えてる?」
「うん! 私、水族館って初めてだからドキドキするよ」
「ここの目玉はもっと凄いから」
「イルカショーとか?」
「それもあるけど、数ヶ所にしかいない特別な魚がいるんだよ」
「へぇ〜! 楽しみ!」
入り口の看板にも大きく書かれてたから気がついてるかと思ったけど、見逃してたか。
イルカショーも見たいから、スケジュールだけ確認しておく。
何度かやってるみたいだし、大丈夫ね。
はぐれないように後ろからみんなを見ながら、順路に沿って見ていく。
ティーとリズが大喜びしたのはふれあいコーナー。
職員の方に教えてもらい、ヒトデとかを手に取ってる。
私はその姿をティーから預かったカメプロで録画。
水族館に入ってからずーっと撮影してたみたいだし。 (みんなに見せるの!)
喜んでもらえるといいね。 (うんっ)
そして………
私の本命。ここで一番大きな水槽。
「お姉ちゃんの言ってたのって…」
「そう。私も一度でいいから見てみたかったんだよ」
「大きいのになんだか可愛いわ! だからぬいぐるみがいっぱい売ってたのね!」
確かにグッズはたくさん売ってたな…。私も買おうかしら。
優雅に泳ぐのはジンベイザメ。
人は多いけど水槽もジンベイザメも大きいから優雅に泳ぐ姿がしっかりと見える。
自然光が入り、水も泳ぐ魚もキラキラとしてて、それはもう綺麗だった。
「お母様が連れて行ってくれた海の中とはまた違うのです…すごいのです……」
「そうね…魅せる為に工夫されてるんだと思うよ」
「ティーはどっちも好き!」
確かに自然のままっていうのは、人工とは違う綺麗さがあるものね。
私も両方好き…かな。 (一緒!)
椅子も備え付けられてたから、みんなで座って眺めてた…。
……………
………
…
「姉ちゃん! 姉ちゃんってば!」
「うん…? ユウキどうしたの?」
「結構時間たったし、そろそろイルカショーの時間だから移動しない? ここにいるとみんな動かなさそうだから」
「…そんなに時間たった!?」
「うん、僕らもしばらく見とれてたから」
「きれーだった…持って帰りたい…」
「それは諦めような」
「うん…」
スピネルも気に入ったようで何より。
私も魅入ってたなぁ…。でもこれは仕方ないよね。一日中だって見てられる。
言葉もなく見てるみんなにも申し訳ないけど、イルカショーが見れるからと説明して移動。
途中の売店でジンベイザメのぬいぐるみを買ってしまったよ…。 (ティーとリズも!)
リアとシエルも買ってるし、やっぱりジンベイザメすごい。 (レウィは珍味買ってる)
水槽見ててお腹空いたのかな…。 (スピネルもカニ見て美味しそうって言ってたの)
ここは魚屋の生簀じゃないからね?! (ママのパパが酒に合いそうだなーって)
そういうセリフは水族館じゃなくて港の市場に行ってしてよ!
全くもう…。
ユウキのおかげで、余裕を持ってイルカショーに来られたから、最前列を確保。
しっかりとカッパも着てる。
「お姉様…これ…まさかなの…?」
「シエルたちも学園で見せてくれたでしょー?あれのリアル版とでも言うのかな」
学園で見せてくれた大きなクジラじゃなくて、こちらはイルカだから規模は小さくなるけど、実際に濡れるし楽しいハズ。
色々な芸を見せてくれるイルカ。
時々わざと水しぶきを飛ばしてくれて……。
温度調節と湿気取りを兼ねてる魔道具で水分が分解されて濡れない!! (あははっ!)
しまったなぁ…。周りからおかしな風に見えてない!? (みんなショーに見とれてるし)
とはいえ、危険なのは確かなので、こっそり隠蔽魔法だけはかけておいた。
多分、リアや母さんにはバレただろうけど…。
後で叱られたらそれは受け入れよう。 (魅入ってて気にしてないよ?)
それはなにより…。
「イルカも可愛かったわ。ぬいぐるみないのかしら」
「さっき売ってたから、またあると思うよ。でももう持てないのに大丈夫?」
「平気よ! どうせ後で仕舞っちゃうし」
「それもそっか」
リアは大きなの買ってたからなぁ…。 (またママのベッドが狭くなるの)
私のベッドにぬいぐるみが乗るのは確定だろうからね…。
まぁそれはまた考えればいいや。
深海魚エリアではリズが怖がって泣き出してしまったので抱いてあげたり…。 (暗くて雰囲気あるから…)
育ての親がリッチなのにね…。 (あれはただの骨)
そうなんだけどね!? (最近は受肉してたし)
まぁ…うん…。
ホラーとは違う怖さがあったんだろうなってのはわかった。
未亜が平気そうなのもそのせいか。 (言うて魚だし)
まぁね。
相変わらず魚を肴とみて会話してる父さんたちは放置しよう。 (食えるか食えないか)
台無しだよ!
閉館近くまで水族館を堪能して、お土産もたくさん買った帰り道。
人の居ないのを見計らい、隠蔽もかけて手荷物をストレージへ仕舞う。
はしゃぎ疲れたリズは未亜が抱いてくれて、ティーは私が抱いてる。
二人とももうぐっすり。
「未亜、途中で交代するわよ」
「うん、お願い」
私が二人とも抱こうとしたら止められたからな…。
お母さんしたいのかも。 なので私は空いている手で…
「シエル、手繋ごうか」
「はいなの…」
「何かあれだな、子供たちが巣立った姿を見てるような気分だぜ…」
「だねー。アスカもユウキも大きくなったもんね…」
後ろから両親のそんな会話が聞こえる。
今でこそ、こうやって一緒にいられるけど…少し前まではそんな当たり前が、当たり前ではなかったから…。
両親と和解できて良かったよ本当に…。
素敵な家族も増えたし、私達の日常はこれでいいんだって心からそう思う。




