観光
父さんの運転するバスで少し走ると、すぐに地名がかつて城下だったのを彷彿とさせるような物になった。
「ママ、ここはもうお城?」
「ううん。今は違うけど、お城が建てられた当時はこの辺もぜーんぶお城の縄張りの中だったんだよ」
「今は普通に街なの!」
「そうだね、でも役所や警察署みたいな公的な建物が多かったりするよ」
「へぇー!」
確か一国一城令が公布された江戸時代初めにたくさんのお城が壊されて、残ったお城の周辺にそういう施設が集まったから、その名残とかだった気がする…。 (壊されちゃったんだ…)
どんなお城があったのか、見てみたかったよね。 (うん)
有料駐車場にバスを止めて、お城まで少し歩く。
夕波王国で似たようなお城は見ていても、こちらは現役のお城ではないから、夕波城とは大きく違う。
お城としての本来の役目は終えているから…。
それでもやっぱり目の前で天守を見ると感動するなぁ…。
「お母様、すごくおっきいお城なのです!」
「うん…キレイだね」
興奮気味に見上げるリズ。今からお城の中に入るけど、楽しんでくれるといいな。 (ティーも楽しみ!)
中は階段が急になってるから気をつけてね。 (はーい!)
入城料金を払って天守の中へ。
いろいろな展示もあるから、私は見ていて楽しいけど、興味のない子にはつまらないかな…。
そう心配してたんけど、みんな興味津々で見てる。
「未亜もこういう所は初めて?」
「…うん。近くにはないから、お祖母ちゃんとも行けなかったし…」
あぁ、そっか…。悪い事聞いちゃったな。
「ごめんね未亜…」
「えっ? ううん! こうやってお姉ちゃんやみんなと来る事が出来て嬉しいよ」
「そう…良かった。せっかくの旅行だし楽しもうね」
「うん! この飾られてる鎧や刀って本物かな?」
「そうだよ。銘のあるものもあるし、歴史的な価値は計り知れないね」
「何百年も前の人が作って、持ってたんだもんね」
「うん。歴史の重みというか、色々と考えさせられるね」
「歴史って学校の授業で勉強するものって感覚しかなかったから、こうやって直接目の当たりにすると、不思議な感じがするよ」
確かになぁ…。遠い過去の出来事だから、私達には実感なんて持てないものね。
それでもこういう場所へ来ると、その時代を生きていた人達がいたんだって、事実を実感する。
お城は上にあがるほど狭くなるし、階段も急になる。
「お母様…」
「疲れちゃった?」
朝からはしゃいでたし無理もないか。
リズを抱き上げて最上階へ。
天守の最上階は展望エリアのようになってて、城下が見渡せる。
「わぁ〜…すごいのです!」
「ママ…」
「はい、ティーもおいで」
「わーい!」
柵が高いから見えないもんね。 (うん!)
ティーは早速改良したカメプロで撮影してる。
「ティー姉、キレイに撮れてるのです?」
「ばっちしー! 後でまた見よー」
「はいなのです!」
「ユウキ、ここ住みたいかも…」
「それは無理だなぁ」
ユウキは将来どこかに城を持つ事にでもなるんだろうか…。
確かにこっちのお城も過去に売られてたことはあるし、海外では今も売ってるもんなぁ。
異世界ならむしろお城にお世話になった事のが多いくらいだし。
四方から景色を見て回り、天守を降りる。
「上りは良かったけど、降りるのは怖く感じるわね…」
「うん、足滑らせたらって考えたら…」
「やめなさいよ未亜、シエルが震えてるわ」
「ご、ごめんね!?」
「うぅ…」
「大丈夫だから、手すりに捕まってゆっくり降りておいで」
「アスカはよくこれをリズを抱いて降りたわね…」
そうは言われてもなぁ…。
途中、本当に足を滑らせたリアを咄嗟に抱き止めたら、真っ赤になってて可愛かった。
「あ、ありがとう。なんか得したわ」
「気をつけなきゃだめだよ?」
「ええ…」
「リア姉様ズルいの…」
「わざとじゃないのよ!?」
珍しくシエルに絡まれてるな。
天守を出た後は、売店でお土産を見たりして、城下の街へも出てみた。
「お昼も過ぎてるし、何処かに入ろうか」
「そうだな、腹減ったぜ」
両親に言われて時間を確認したらお昼をとっくに過ぎてた。
奈々からのメールへも返信しておく。 (まだ平気?)
さすがにね…。
時間的に夜の仕込みで閉まっている店が多くて、入ったのはファミレス。
いつも開いててくれるのはありがたい。
夜は宿で出してもらえるから、程々にするように言っておく。
レウィが天守にも入れなかったし、今も待たせてしまってるのが本当に申し訳ないな…。
水族館も入れないところが多いし、どうしたものか。 (リアの翼の時みたいに偽装させる?)
男の子に見えるように? (そうそう)
考えてみるか…。 姿をまるっと変えなきゃいけないから…。
「アスカがまた難しい顔してるわ。悩み事なら聞くわよ?」
「多分レウィちゃんのことだと思うの…」
「シエル正解だよ。待たせてばかりになっちゃうから、偽装させようかと思ってね」
「そうしたら一緒にいられるの…」
「うん。ただ…完全に姿を変えることになるからどうしようかな?と…」
「アスカお姉ちゃん、逆は…?」
「逆? スピネルどういう事か教えてくれる?」
「私がしてたみたいに、周りから見えなくしちゃう…」
あぁ! なるほど…。周りへ認識阻害をかけて、レウィを犬と認識させなくすればいいのか! (犬と違う…)
そうね…。フェンリルだったわあの子。
「ありがとうスピネル! なんとかなりそうだよ」
「よかった…お世話になってばかりだから」
「そんなこと無いよ。もうスピネルも家族なんだから」
「…うんっ」
「よかったな、スピネル」
「ふふ〜役に立てた…」
本当にいい子だよな。 (なんで封印なんて!)
これからはユウキが幸せにするだろうし、私達もいるから大丈夫よ。 (うんっ!)
食後にバスの中でスピネルの案を魔道具にして、それをシエルが革紐を編んでアクセサリーにしてくれたから、首輪につけてあげた。
周りからは小学生くらいの男の子に認識される。 (首輪は…)
全部まとめてアクセサリーにしか見えないから大丈夫よ。 (ならいいの!)
ファミレスで持ち帰りにしてもらったお弁当を食べてるレウィに説明しておく。
「主様とずっと離れずにいられます!」
嬉しそうにしてるからやっぱり我慢させてたよね…。
宿は犬として連絡してあるし、すでに紹介しちゃってるから…帰ったら魔道具オフにしなきゃな。 (ややこしい!)
今回は仕方ないね…。でも、これからはみんなと一緒にいれるし、リードも必要なくなる! (それは無い!)
なんで!? (お散歩はお散歩だし!)
あー…。それもそっか。 その辺は本人に使い分けてもらおう。 (それがいいの!)




