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召喚被害者の日常は常識なんかじゃ語れない  作者: 狐のボタン
第八章

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国を預かる者



ハルナさんからの依頼で、ホテルの大浴場にシャワーの設置を頼まれた。

各部屋のシャワーに関しては、魔族の職人に依頼したそう。

大浴場の方は早めにつけておきたいから、私に依頼したらしい。


みんなで一緒に大浴場へ行って設置した後、そのままお風呂を堪能。

露天風呂もある豪華な施設で結構な長湯をしてしまった。


このホテルや露天風呂、イルミネーションの橋等は、私が魔王時代に話してた内容が元になっているらしく、ホテルが変に現代的なのにも納得してしまった。

魔族の人達に、そんな些細な話がよく伝わってるな…と。 (ファリス達からママ魔王の話を聞くの好きだったみたいだし)

巡り巡って…だなぁ。




翌日、夕波陛下が早朝からホテルへ訪問されたのにはビックリ。早すぎだよ。

護衛として同行してる帽子を目深に被った一人の男性が先代様だとピナさんから耳打ちされた時はもう…。 (若いにーちゃん)

ドラゴンらしいからね。


先代様とジュンさんの再会は、忘れていた記憶もジュンさんの解除魔法によって取り戻したそうで…。

「思い出して頂けましたか…?」

「…あぁ。その子はあの時の子か」

「はい」

「……」

レンさんはジュンさんに隠れて顔を出さない。

人見知りなのかな?



「後は年寄りに任せて妾達は海底に行くのじゃ」 

確かにこれ以上は他人の私達が傍にいるのは憚られるけど…。

「護衛に先代様を連れて来られてるのにどうなさるのですか!」

「お主がおるじゃろ。誰よりもお主の傍が安心じゃろう?」

公式なものだし、護衛もいて二人きりにならないからって、うちの子たちを説得したのに意味がない…。 (策士だ!)

やれやれだよ本当に。


当然みんなが納得するわけもなく。

ピナさんが同行すると名乗りを上げてくれて、ようやく落ち着いた。

陛下は不満そうだけど、あきらめてもらう。

「護衛はお任せください」

「お姉ちゃんの事お願いします」

「手を出させたらダメよ!」

「一度帰ろうって時にこれだよー。全くもう!」

ティアは、報告がてらアクシリアス王国へ帰るらしい。


「なんじゃなんじゃ! 妾を悪者みたいに!」

「シラハは自分のやらかした事をよう考えてみ。言われてもしゃーないやろ。賠償金払えへんのやったら貸たるで、トイチでな」

「払えるわ! …妾も懲りたのじゃ」

本当かな…。 (怪しい)

だよねー。 (ティーもついてくから!)

うん。お願いね。



陛下も翻訳スキルは持ってないって言うから、魔道具を作って渡さないと…

「妾もあれが良いのじゃ! キラキラしとったやつがあるんじゃろ?」

この方が月からの情報を得ると、私にとってはろくな事が無い気がしてきた。

ご本人の希望だし、国王様のお願いを無下にするわけにもいかず。

「可愛いのじゃ…お主いいセンスじゃな!」

「それはありがとうございます」

みんなから睨まれてるし、早くお仕事を終わらせたい。


海底へ向かうにあたり、ラムネには同行してもらう。

護衛の意味もあるし、人魚の警戒心を解くのに一番効果的だろうから。

「…お主、これがなにかわかっておるのか?」

「これじゃありません! 私の大切な家族、海竜のラムネです!」

「お、おう…わかっておるならいいのじゃ…。港に現われたら父上と母上が揃っても抗えん相手なんじゃぞ?」

野生に関しては知らないよ。

私はラムネしか知らないし。 (そうなの?)

うん、今までもドラゴンは戦ったけど、あまり海へ戦いに出たことは無いからね。 (へぇー)


海底散歩に陛下は大興奮。

それでも沈んだ船が見える頃には落ち着いた。

「交渉のツナギを頼むのじゃ」

「わかりました」

ラムネに気がついた人魚達が集まってきたから、今回来た目的を伝えて、後は陛下次第。


ここの海域も夕波王国だから保護が必要なら手を貸すと。

でも人魚達の答えは”必要ない“だった。

唯一の懸案事項だった金属の撤去も済んでいるし、海に住む魔獣とは共存関係にあるからと。

陛下も無理にとは言わなかったけど、差し伸べた手を払われた形になり、ご機嫌斜め。


帰りの道中で愚痴りだした。

「なんじゃあれは…一考する(いとま)もなく妾の差し出した手を払われたのじゃ」

「そうですね」

「酷いと思うんじゃ…妾は国王なんじゃぞ?」

「陛下、一つお尋ねしても?」

「うん?構わんのじゃ。一つと言わず何でも答えてやるのじゃぞ!」

いえ、別にいいです。って言ったら更に不機嫌になるんだろうなぁ。 (ぷぷっ)


「仮に人魚に手を貸してほしいと頼まれた場合、どうしたのです?相手は海中深くに住む種族ですよ?」

「お主のコレがあるじゃろ?」

私任せなの!? (阿呆が過ぎるの)

言い方。でも今回は同意するよ。 


「私はこの国に留まるわけでもないですし、この国の人間ではありませんよ?」

「だから妾と…」

「無いです!」

「子持ちでも妾は構わんのじゃ」

「そういう問題でも無いです! 失礼ですがハッキリいいますね?私は陛下の事苦手です」

「…何でじゃ!?」

この際だから全部ハッキリ言っておこう。ここにはピナさんしかいないし。 (ティーはいるの!)

それは当たり前だよ。 (ふふーん!)


部下を捨てごまのように使ったり、他国の王族に浅慮に攻撃を命じたり、今回の事も。

「私はそういう事を平気でなさる陛下は好きにはなれません」

「…そんなハッキリと言わなくてもよいではないか」

「言わないと陛下には伝わらないようなので。現にここにも陛下のワガママの被害者がいますよ?」

「なに…?」

「ピナさんはどう思う?」

「お嬢様に発言を許して頂けるのであれば…。私は主を選べて本当に良かったです。選べない今の花鳥風には同情しかありません」

「お主、月の娘か」

「はい」

陛下は”済まなかった“と一言言われた後、黙り込んでしまった。


「陛下、私の生まれ故郷にこんな言葉を残した人がいました。”人は石垣、人は城、人は堀、情けは味方、仇は敵なり“ 意味はおわかりですか?」

「人を石垣代わりにしろという事か?」

「違います。 陛下の住まうお城は郭や石垣、空堀などで防御を固めていますよね?」

「それはそうじゃ」

「そういった設備はお城にとって大切なものですよね?」

「うむ。父上が築いた立派な城なのじゃ」

「人、つまり人材というのはそれと同じくらい国にとって大切なのです。陛下に花鳥風月の忍びの有用性はお話しましたよね?」

「うむ。じゃからしっかりと話し合って、忍びについて学んでおるのじゃ」

「それはご立派だと思います」

「じゃろ?」


「では、一般の兵士は?街の人は?」

「うん?」

「一兵士は戦闘力としては頼りない、そう思われるかもしれません。でもよく訓練され、しっかりと陛下が気にかけた兵士はどうでしょう?」

「一人一人気にかけよと?」

「そこまでは言いません。ですが、一人の兵も人の子であり、誰かの恋人で家族です。それを忘れて捨てゴマのように使われたら、兵の士気は?陛下への忠義は?残された街の家族は?」

「…無くなるのじゃな。 家族からは恨まれても仕方がないのじゃ」


「街の人たちもそうです。陛下が使うお金は街の人たちが働いたお金から出ていますよね?」

「それはそうじゃろ。妾は国王じゃからな」

「その認識がもう間違ってます」

「何じゃと!?」

先代様はこの方に何を教えたのよ…。 (ほっといたらこの国ヤバい)

うん…。


「街の人は国へお金を預けているんです。平和に暮らせる国を陛下に維持して貰えるために」

「国の為に使えと?」

「そうです。陛下が自由にするためのお金も当然あってもいいでしょう。でもそれは陛下が国の為に、そこに暮らす人のために仕事をした報酬としてです。何もせず権威を振りかざすだけの国王など街の人にとっては必要ありませんから」

「今の妾はそれじゃというのか?」

「そこまでは言いません。今回陛下が人魚に手を差し伸べようとされた、それはご立派だと思います。さっき話した”情けは味方“という事に繋がりますから」

「断られたがな」

「それは当たり前です」

「何故じゃ!」

「相手がどういう生活をしていて何を求めているか、それを聞きましたか? それを実行するための手段は?」

「……」


「具体性もなく、口先だけの提案や約束など相手に響くわけがありません」

「何かできればと…」

「でしたら陛下はまず、相手が何を求めているか。それを聞いて持ち帰り、部下の人達と相談してできる事を探るべきでしたね」

「お主は統治者か…?」

「元ですけどね」



「仇については、正に今回、陛下は私に攻撃を命じた、それはつまり仇となる行動をした訳です。結果どうなりましたか?」

「賠償金と、お主に嫌われたのじゃ…」

「そうですね。 陛下は月も切り捨てましたよね?  ピナさん、月の中で陛下の暗殺を提案した人は?」

「当然いましたよ。長年の忠義に対する報いがこれか?と」

「なんじゃと!?」

「頭が止めましたが。 ”気持ちは分かるが先代様への恩を仇で返すのか?“と」

「………」


「月は諜報、暗殺、情報操作、つまり…ありとあらゆる裏仕事を請け負う部隊です。それは他でもない、国を守る陛下のために、身を危険にさらし、その手を汚してきたのです。そんな人達を裏切ったら…」

「月の父上への恩義で妾はこうしていられる訳じゃな」

「そういう事です。味方へ仇となる行動をすればそれは敵となりかねません。身近の者の裏切りほど怖いものはありませんよ」

「よくわかったのじゃ…。妾は国王に向いておらんのじゃな。しかし、父上から託された御役目を放り出すわけにはゆかぬ。今一度父上から学ぶ事にするのじゃ」

「それがよろしいかもしれませんね。他人の言葉に耳を傾ける事ができる陛下なら必ず成長されるはずです」



海岸へ戻り、陛下は先代様の元へ向かわれた。

「お嬢様」

「ピナさん、ありがとね。付き合ってくれて」

「いえ。私はやはりお嬢様が主様で良かったとそう改めて思いました」

「そっか、それは良かった。でも、私が間違えた時は叱ってね?」

「はっ…」

私は本当に人に恵まれてると思う。 (ティーも?)

当たり前だよ。大切な私の子だからね。 (リズも)

うん。リズも大切な私の子だよ。









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