雫
展示する物を仕分けして、それらはハルナさんに預けた。
金、銀、お金などは取り敢えずストレージにいれておくしかない…。
幾らかは設備投資としてハルナさんに渡したのだけど多すぎるって言われて返された。
「アタシは信用第一の商売人やからね!」
余分に受け取って懐へ〜なんてしないって事だね。
きっちり領収書みたいなものを書いてくれた。
こういう所はやっぱりアキナさんのお姉さんだなって思う。
そんなハルナさんへのプレゼントをどうしようか悩んでて、思いついたのがシーグラス。 (何それ!)
割れたガラスの欠片が砂浜で波に揉まれて丸くなるんだけど、独特の雰囲気でキレイなんだ。 (へぇー!)
海辺でリゾート地の経営をしているのならちょうどいいかなって思って。 (みてみたい!)
こちらの海岸には無かったから…。
お散歩がてら海岸に行って作ろうか。 (わーい! リズと行く)
ティーと頭に乗ってるプリン、リズと海辺へ行き、試しに海岸で砂と海水、手持ちのガラスを色違いで何色か砕いて、魔力ドーム内でミキサーのように混ぜてみた。
砂浜にガラス片を落としておいたら危ないし、出来上がるまで時間がかかりすぎる。
結果としては思い通りの物ができた。
風情はないけれど…。
「ママ、みせてー!」
「お母様、何を作ったのです?」
角がしっかり取れてるのを確認して渡してあげる。
「きれー! 宝石みたい!」
「お母様、これは石なのですか?」
「元はガラスだよー」
喜んでたから、細かいのを小瓶に詰め、人魚の雫も入れて渡してあげた。
「ママありがとう!」
「きれーなのですー!」
二人とも嬉しそうに光にかざしてるから、プレゼントにも良さそうだね。
ハルナさんのもシーグラス何色かと一緒に人魚の雫を瓶に詰めて、蓋には魔石。
この魔石にはうっすら光る効果と、いつもの魔法防壁とかの三点セットに、状態異常無効化などもつけてある。
それを革紐でネックレスにした。
みんなも欲しがりそうだから、同じように作っておく。
結構な数の人魚の雫をもらえてるから、うちの子達や、私の大切な人にプレゼントするにも数は足りるね。
みんなにはいつもの身を守る魔道具は渡してあるから、小瓶の魔石は光る効果のみ。
光を受けてキラキラと光る人魚の雫は、ムーンストーンの様で本当にキレイ。
ティーとリズのも一度受け取り、同じようにして革紐をつけてあげた。
みんなに見せに行くって走って行っちゃったな…。
私も戻るか。
夕方の海岸を久しぶりに一人になって、ゆっくり散歩しながらの帰り道。
気配を感じて振り返ったら、最近見知った方が。
「アスカ様、突然のお声がけ失礼いたします」
「そんな畏まらないでください」
片膝をついて、頭を下げているのは白さんのお母様。
「そういう訳にはまいりません。今回の件、本当にありがとうございました。娘の事も、我々忍びのこれからの事も…アスカ様のお力添えなしにはこのような結果にはならなかった筈です」
「お役に立てたのならそれで…」
忍び名を朱と名乗ってくれた白さんのお母様は、攻撃した謝罪と、今回の城攻めの指揮をしていた立場としてお礼を言いに来てくれたのだそう。
私が中々一人にならないから話し掛けづらかったらしい。
「それと、白についてですが…お尋ねしてもよろしいですか?」
「はい?」
「あの子の身体はいつまで保ちますか…?」
お母様はあのスキルの反動についてわかってたんだね…。
「白さんの身体に蓄積されていたダメージは全て治療してあります。これからは渡した手甲をつけていれば、二度と身体に蓄積していく事はありません。いずれ、その手甲も要らなくなるように身体が慣れていきますが…数年単位の時間はかかります」
「…まさか、今まで身体に蓄積していたものまで!?」
「はい…あのままでは保って後数年、それくらい蓄積していましたから」
「なんと…なんとお礼を…」
泣き出してしまったお母様。わかってはいたけど、仕事柄止められないし、何もできなくて辛かったのだろうと想像できてしまう。
安心したから色々と溢れてしまったのかもしれない。
しばらく傍にいて落ち着くのを待った。
「この御恩は必ず…必ずお返しいたします」
気にしないでって言うのは多分違うんだろう。だから…
私は一つお願いをした。
夕波王国の忍びである”朱“さんにしか頼めない事。
快諾してくれた白さんのお母様にはまたお世話になる、そんな気がする。
私のお願いはきっと回り回って、私の大切な人達を守ることに繋がるはずだから。
朱さんと別れてホテルへ戻ると、早速展示するためのスペース確保を指示してるハルナさんが。
仕事が早い…。
「あ、アスカちゃん! どないやろ?ここならよう見えると思わん?」
ホテルのロビー、そこへ展示するらしく、棚やケースが仮置きされてる。
「素敵です。宿泊に訪れた方が見て回れますね」
「せやで! 宿泊客以外にも公開はするから誰でも見にこれるんよ。まぁ、見学料は貰わなあかんけどな。管理するにも金はかかるよって」
「それはそうですね。手間を増やしてしまってすみません」
「ええよええよ。目玉にもなるしな!」
ハルナさんの様子から、迷惑にはなってなさそうなのがせめてもの救いかな。
せっかくだし、作ったプレゼントを渡した。
「なんやのこれ…めっちゃキレイやん…雫がこないにキレイに見えるやなぁ〜」
うっとりと眺めてる姿から喜んでもらえた様で嬉しい。
魔石に波長を刻みながら、効果の説明もしておいた。
大切にすると言ってくれたからプレゼントはうまくいったかな。
後はうちの子達にもプレゼントしなきゃね。 (ティーたちが見せたから羨ましがってて、みんな待ってるの)
はいはーい。
みんなに配った後に、雫をくれたジュンさんにもお礼を伝えて、作ったものも見てもらった。
ただ、まさか欲しがるとは思わなくて…。
その時に話を聞けて、人魚の雫が何かようやく判明した。
まさか涙だとは…。ジュンさんがたくさん持ってた理由が切なくて。
やっぱり売ったりなんてしなくて良かったと本当にそう思った。
想い人に会いたくても会えない、会えたとしても話せないから伝えられない…そんな想いをずっと抱え込んでいたら…。
うん、そんなの辛すぎるよ…。
ジュンさんとレンさんにも同じように小瓶のアクセサリーを作って受け取ってもらった。
「ありがとうございます。こんなに綺麗なものになるのですね」
「ありがと…」
初めてレンさんの声聞いたな。警戒されてるみたいだし無理もないか。




