人魚の事情
地上へ行きたいという人魚のジュンさんともう一人。
レンという名前の、顔にまだ少し幼さの残る人魚。
どういう事か詳しく話を聞いてみた。
「ちょうどこの船が沈んできた時に出会った方にもう一度会いたいんです! 種を頂いた後は、記憶を消して、地上へお帰しするのですが…」
ずっとその相手を忘れられなくて、その時に身ごもった娘のレンさんと会いに行きたいのね…。
ただなぁ…。
「相手が人族の場合、数百年となりますと…」
「それなら大丈夫です! あのお方はドラゴンだと言ってましたから」
ドラゴンか。それなら問題なく健在だろうな。 (誰だろ)
そこまでは…。
人魚は他種族との交配でのみ子孫を残す。
それでも生まれてくる子は必ず人魚になるらしい。
また神秘の種族に出会ったなぁ…。
地上へ行くのに問題があるとすれば二人の外見だけど、それは交配する時に使う魔法で人の姿になれるらしい。
「唯、一つ心配事がありまして…姿を変えると、相手の言葉はわかるのですが、相手には…」
よくある声が出なくなるってやつ? (キーキー煩いからじゃ?)
ロマンも何もないなそれ。
でも実際の所はティーの言うとおりで、相手の言葉を話すことはできない上に、声を出すと金切り声になるのは変わらないから、相手が耳をふさいでしまうらしい。 (ほらー!)
ロマンはなかったけど、切実な問題だな。
急遽、私自身の翻訳スキルを解析して魔道具にした。
ネックレスにしたから、つけてもらえばしっかりと翻訳される。
二人には魔力ドーム内に入ってもらい、人化してもらう。 (丸出しー)
慌ててスカートを渡した。ユウキがスピネルに目隠しされてて良かったよ。 (レウィは?)
あの子は…大丈夫でしょ! (いつもママの部屋にいるしねー)
作った翻訳魔道具を渡してつけてもらった。
ただ、うちの子達も全員翻訳スキルを持ってるから、確認が取れない。
已む無く、私がスキルを一時的に無効化して、会話ができるのを確認。
そのまま、ユリズ・シーの海岸へ帰還。
キャンディ達にみんなの護衛を頼んで、海岸で遊んでてもらう。
私はその間に報告やら、探すべきジュンさんの会いたい相手の情報を集めないと。
ホテルに戻るとちょうどアキナさんとピナさんがロビーにいたから報告。
「人魚ですか…噂には聞いたことがありますが、実在したのですね」
「ん~あの当時、戦いに参加してたドラゴンなんて一人だけだよー」
「え…?」
それってまさか…。 (まーさーかー!)
「先代国王のユウナミだよー。どうしようかこれ…大問題だよー」
だよね。記憶を無くしてるとはいえ、先代国王の隠し子みたいなものでしょ? (修羅場かな?)
修羅場だね。
アキナさんの勧めで、取り敢えず現陛下へお伺いをたてることになった。
おそらく月から報告はいってるだろうと思う。 (かなぁ?)
陛下が忍びの有用性を理解してるならね。
ピナさん経由で月に繋ぎを付けてもらい、登城の許可ももらえた。
ただ…許可が貰えたのが、私と護衛にピナさんだけ。 (むー!)
みんなもすごく不満そうだけど、こればかりは仕方ない。
相手は国のトップだからね。 (ティーの分体はいい?)
それはいいんじゃない? (よっし!)
アキナさんからは無茶を言われたらひっぱたいていいと言われたけど、さすがに…。
人魚の二人にはホテルで待っててもらうしかないけど、うちの子達がいるから心配はしてない。
登城するなら船から回収したものも返せるし丁度いい。
「お嬢様、必ず護衛致します」
「ありがとう。 ピナさんは先代様を知ってる?」
「ええ…それはもう。立派な方でした。奥様に頭が上がらないのだけが見ていて不安でしたが…」
どこも似たようなものね? (ハハっ)
ピナさんから先代様の話を聞きながらお城に到着。
嬉しそうな夕波陛下が外まで出迎えに来てくれてた。
「ようきたのじゃ! 話があると報告を受けておる。妾からもいくつか尋ねたい事があるから、後で聞いてもらえると嬉しいのじゃ」
聞きたいこと? (口説かれる!)
それだと”尋ねたいこと“にならないでしょ。 (うーん…)
人魚二人の相談をするつもりだったのだけど、しっかり情報が来てた。
この短期間で、しっかり忍びに助けてもらってるのはびっくりしたな。 (単にママの監視だったりして)
それでもいいよ。練習になってるのなら。
「父上の隠し子か…どうしたものかの〜。母上に知られたら大変な事になるのじゃ」
修羅場か…。 (修羅場だ…)
ただ、陛下も腹違いとはいえ姉妹になるのなら会いたいって言ってくれた。
一人っ子だから姉妹は嬉しいらしい。
「月」
「はっ!」
「なんとか父上だけを呼び出せないか?もしくは母上を足止めして…」
「無茶です」
「そこをなんとか…」
「無理です」
「じゃよなぁ…父上は未だ最強じゃし、母上も妖力なら最強じゃものな…」
妖力!? (お母さん妖狐だよ)
それでか…陛下の狐耳は。
「取り敢えず、妾の方でなんとか父上には話してみるのじゃ。そっちは任せてもらって構わん」
「よろしくお願いします」
家族に会いたいっていう二人をほっとけないし。
「妾から聞きたいのは、アレじゃ。なんじゃったか…」
しゅたっと降りてきた忍びに耳打ちされててちょっと面白い。
「そうじゃ、魔力ドーム! それで海底散歩に行ったんじゃろ?」
「ええ。それで人魚にも出会いましたし、過去の遺産もお預かりしてます」
「そっちはいいんじゃ。沈んだものは見つけたお主のものじゃからな」
えー…。 (沈没船からお宝ゲット)
「妾もあれで海底を見てみたいのじゃ。かつての戦の跡というのもあるが、妾の保護範囲にいる人魚達も守らねばならん、繋いでくれんか?」
「もちろんそれは構いませんが…」
「公式なものとするから、同行するのはお主と、妾の護衛だけにするからな」
仕方ないか…。 (えー!)
公式って言われちゃうとね。
明日、ユリズ・シーにお忍びで陛下は来られるらしいから今日はここ迄。
海底で見つけたものは一応確認はしてもらったけど、国の取り決めで発見者に権利があると言われてしまい、引き取っては貰えなかった。
ホテルへ戻ってからアキナさんやハルナさんに相談したところ、持て余すならホテルに展示しようって話になった。
歴史的に価値のある物とかもあるだろうし、この国の人が自由に見れるならそれが一番いいかもしれない。
殆どが魔法効果や状態保存がかかってるから傷んでもないし。
一つ誤算は、回収物を見せてたときに、人魚の雫まで出してしまい、見つけたハルナさんが大騒ぎした。
「そ、そ、そ、それ! どうしたん!?」
「船から貴金属の回収をしたお礼にって人魚のジュンさんに頂きました」
「それがどれほど価値のあるものか知っとるん?」
「いえ、初めて見ましたし…」
「そらそうやろうな、滅多に出回らんから…売っては…」
「ダメです」
「なんでやの!」
「お礼にって頂いたものを売るなんて私にはできません」
「ハルナお姉ちゃん諦めなよ。どうしても欲しかったらアスカちゃんにプレゼントしてもらえるくらいなにかしてあげたら?」
そういうのなら私も抵抗はないかな。
「この子にアタシがなにをしてあげられるん!?してもらってばっかやのに!」
「そんなのは知らないよー」
落ち込んでるなぁ…。
私からしたら魔族の人達を雇ってもらえてるだけでも感謝してるのに。
そのお礼にアクセサリーにでもして渡すか。 (転売禁止!)
流石にそんな事はしないと思いたい…。




