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召喚被害者の日常は常識なんかじゃ語れない  作者: 狐のボタン
第八章

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番外編 結末



蒼と翠は怪我一つないけど、大の字になって地面にひっくり返ってた。

「修行が足りないのー。そんなんじゃ大切なもの守れないよー」

「うぅっ…悔しいけどその通りだよ…」

「二人がかりで近づく事すら出来なかったな…」

何があったの!?


「ママーお疲れ様!」

「ティーもありがとう」

こっちはほのぼのしてんなぁー。



まぁここまではまだ良かった方。

翠と蒼が小さな子に勝てず翻弄されただけなんだから。

いや、風の一族としては大問題だけど。


二の丸三の丸の惨事に比べたら…。



まずは二の丸。

鳥一族はすべて落とされて、地面に横たわっていた。

酷い怪我はないけど、全員気を失っている。

地面はあちこち抉れて、その穴の中に花の一族があられもない姿で転がっていた。

あんな露出の激しい忍び装束着るからだよ!

激しく動いたらばるんって飛び出るわ! ちくしょうめ!


お頭がいないと思ったら、鳥の方は郭の壁に刺さってて、花の方は大きな松の木に半裸で引っ掛かってた。

「うわぁー…なにこれ。全滅?」

「だろうな。二人でこの人数をか…。とんでもねぇな」


「アスカー頑張ったよー」

「私だって怪我させないよう加減したのよ?」

「そ、そう…。お疲れ様。ありがとね」

アスカ様も若干声が引きつってるのは気のせいではなさそう。



最後、三の丸。

ここはもう…ね。

「何があったの、ユウキ! 加減してって言ったよね!?」

ついにアスカ様も叫んだ。


「いや、それがさ…。 加減して気絶させても、目を覚ますとすぐに戦線に復帰するんだよ…」

「…面倒くさくなってまとめてどーんってした…」

そっか、朱は陽動部隊だから…決着がつくまで騒ぎを起こし続けようとしてたのか。

悲惨…。


大きく空いた穴の中に、真っ黒い煙みたいなのが渦巻いてて、その中に両親を含めた朱の部隊全員が沈んでる。

「生きてるよね?」

「流石に大丈夫だろ…加減したって言ってるし」

「お父さん! お母さん!」

穴に向かって呼びかけるけど返事はない。


「すみません、ちょっと離れててください」

アスカ様にそう言われて、穴から距離を取ると、意味のわかんない事が起こった。


「なぁ、俺は寝てるのか?」

「…白、ちょっと蒼をひっぱたいてくれる?」

「なんで俺なんだよ…」

無理もないよね。一瞬で巨大な穴がせり上がって来て、塞がったんだから。

そのまま、私が治してもらった時と同じ温かい魔力にみんなが包まれて、全員目を覚ました。


「…あら、どうなったのかしら…」

「お母さん大丈夫?」

「ええ…ちょっと記憶が…。  あっ、白! 作戦はどうなったの?」

「あ…。 天守の陛下の元へ到達し、すべて終わりました。陛下は花鳥風月、全ての忍びを本丸に集めるようにと」

「わかったわ。花、鳥、月のお頭は?」

「月はここに…花、鳥は全て気を失っており、気付けの最中です」

「…ねぇ、本当に何があったの?」

私の口からはちょっと…


それから私達は月一族の諜報部隊の集めた戦況の報告を受けるのだった。


「まずはここ、三の丸ですが…」

初めは善戦しているように見えたそう。

それも徐々に押されていって、気を失う仲間が出てくると、気付け薬で無理やり起こして戦闘に復帰させていたらしい。

そんな状態がしばらく続いたが、途中で真っ黒いカップルの女性がキレた。

「もうっ! うっとおしい!」

そう叫んで放たれた魔法は真っ黒な塊で、地面に大きな穴を開けた後、そこに落ちた人は全員気を失ったと。


「落ちなかった者も、真っ白い犬に翻弄されてすべて落ちて…」

「気絶したのね…魔法なんだろうけど、そんなの聞いたことないわ」

お母さんが知らないものを私が知るわけもなく。


少し離れた所で話してるアスカ様達の方から”精霊魔法”がどうとか聞こえたけど、何だろう?

精霊?そんな御伽話みたいな…。



「二の丸ですが、こっちはまず飛び回り奇襲するはずの鳥一族の部隊が全て叩き落されました」

ドラゴンだったもんね、二人とも。空の王者に鳥が勝てる道理はない。


「花一族に関しては戦いにすらならず…」

一応、戦おうとはしたらしい。でも、動いたことでばるんっと飛び出て、それで戦意喪失。

何やら、いらっとした様子の二人に一人ずつ気絶させられていったそう。

「お頭だけはそれでも戦ったのですが、殴られて空を舞い…」

松の木に引っかかったのね。 


何ていうか、どこもまともな戦闘はしてないな?

弄ばれたというか、あしらわれただけ…。

そう考えると、アスカ様の家族は数人で一国の戦力を遥かに凌ぐって事!?

今更ながら怖すぎる。

私、なんて人に攻撃仕掛けたんだ。ホント、よく生きてたよ。




全員が目を覚まし、私達は陛下の指示通り、本丸の陣屋の前に集まった。

陛下の隣には先代様ご夫婦と、うちのお頭である黒。

 

うちのお頭は、先代様に報告に行ってたのか…。

理由はどうあれ、現陛下へ弓を引く訳だから、説明する必要があると判断したのだろう。


「皆、すまなかったのじゃ…。妾が無知なせいで苦労かけたのじゃ…」

そう言うと、本当に申し訳なさそうに項垂れている。


「すまなかったのぅ…。わしがコヤツにしっかりと忍びについて教育しなかったばかりに苦労かけたな」

「甘やかし過ぎなのよ、貴方は。娘が可愛いのはわかるけど、それだけじゃダメだってわかったでしょ?」

「うむ…。早くオマエとのんびりしたくてなぁ」

「…もう」

先代様ご夫婦はいちゃいちゃし始めてしまった。

現役の頃から本当に仲のいいご夫婦だけど、未だに変わらないんだなぁ。


「特に、月には酷い扱いをしてしまったのじゃ…。今からでも戻ってきてはくれぬか?」

「我らは既にハルナ様に忠義を誓ってしまいました。しかし、陛下にそこまで言っていただいては、答えねばなりますまい。人員を割きます故、お使いください」

「感謝するのじゃ…」


陛下は今回の戦に関して咎めるつもりはない、むしろ気付かせてくれて感謝すると言ってくれた。

蒼にも謝ってくれて、当の蒼本人が一番驚いてた。


その後、陛下は各お頭を集めると、忍びについて一から教えて欲しいと。

当然お頭達は断る理由なんてない。

これからはきっと、陛下は私達忍びを上手く使ってくれるだろう。



…………

………

……



花鳥風月が夕波城へ攻め込んだ数カ月後。


早朝から、私は出かけるために忍び装束に着替えて、仕度をしている。

あの大事件が、もう遠い昔のように感じるくらい現実離れしていたなぁと思う。

でも、夢や幻じゃないのは貰った手甲が証明してる。


私達忍びはこれからも活躍できるのかな。

あれから陛下は、積極的に私達忍びと関わりを持つようになった。

私も定期的に城へ呼ばれて、近況の報告などをする。


そんな陛下のためにも、有事に備えて修行しなきゃ。

貰った手甲を腕につけて、気合を入れる。

「白ー! 狩りに行くよー」

「すぐに行くー」

愛刀の白桜の太刀を掴むと、外で待つ翠の元へ向かう。


蒼はどうしたかって?

今はお母さん…じゃなくて、朱の修行を受けてるよ。

次の朱を継ぐために。

毎日ボロボロになるまでしごかれてる。


トスッ!!

「あっ、またうちの壁に穴あけて!」

「月から? なんてー?」

「うん。 えっと…一月もしないうちに他国からの要人が集まって、同盟や交易に関しての話し合いがあるから、それに備えるようにって」

「あ〜。またアスカ様達も来てくれるんだよね?」

「だと思うよ。ドラゴライナ王国の継承権第一位の王女様だし…」

「優しいし、そんな近づき難い雰囲気はなかったけどねー。強さだけで言うなら誰よりも怖かったけど…」

「数人であの戦力は反則だよね…」

翠とそんな話をしながら今日も森へ向かう。


そろそろ黄色の子供たちも、何人かが狩りを始めるだろうし、サポートしなきゃな。

「ほら、早く行くよ! 頼りにしてるんだから」

「任せて!」


かつての海戦国という戦いの時代から連綿と受け継がれる技を使い、主に仕える忍び。

そんな忍びが今日もあちこちを駆け回り、街で働き、情報を集め、主に届ける。

 

明日をもしれぬ、命がけの日々。 

そんなのは昔の話。 

けれど私達は有事に備えておく。

それが私達忍びだから。










番外編はこれでお終いです。

次回から通常に戻ります。

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