番外編 城取り開始
花と朱の部隊が門を抜け、三ノ丸へ入るのを私達は郭を飛び越えながら見とどける。
ちらっと見えたのは真っ黒のカップルと、真っ白の犬。
いきなりかぁ…。
「ここは朱が受け持つ! 花は行けーーー!」
朱の叫び声。三人を足止めする朱の部隊を残し、花は二の丸へ駆ける。
「朱様達なら大丈夫! 白、あたし達は本丸を目指すよ!」
「…なぎ倒されてるんだが…」
「だ、大丈夫よ! お互い本気じゃ無きゃ陛下に伝わらないんだから!」
「お、おう」
後ろ髪を引かれる思いで、三の丸を抜け二の丸へ。
「ここは通さないわよ!」
「勝ったらだめなんだよー、足止めだけー。わかってる?」
「わかってるわよ! アスカのお願いなんだから!」
まぁいるよねー。蒼の天敵。
武器を構えて臨戦態勢に入ろうかってところで、鳥の援護が入った。
「ここは任せてくれ」
「そうやね〜、朱にだけイイトコ見せられとったら、キレイな花も咲けずに手折れてしまいます。 ここはウチらに任せていきなんし!!」
二人組は私達には目もくれず、残ってくれた鳥と花にだけ攻撃を開始する。
空中から奇襲する鳥が優位かと思ったら、二人とも翼を出して飛び出した。
「ドラゴンかよ!!」
「それは蒼でも無理だわー」
ほんと怖い…。どんな戦力を抱えてるの!?
それでも私達は素通りさせてくれるので、本丸へ向かう。
辿り着いた本丸には、小さな影が一つ。
「ねぇ…白。 アレは嘘だよね?」
「先代の白様が一瞬でやられた子供か…」
月の報告にこの子が残ったってのはなかった…。どういう事!?
「ママが陛下を守るための最後の砦。三人はどうする?みんなでかかってきてもいいけど、それだと誰もママのところへすら行けないよ?」
「一人だけでも通してくれと言ったら?」
「行っていいよー」
意味がわかんない。この子一人で私達三人を倒せるけど、行きたいなら行ってもいいと?
なんて生意気なお子様…。でも、間違いなくそれだけの強さがあるのだろう事は翠の様子を見ればわかる。
震えてるし…。
「白、ここはあたし達に任せていきな!!」
自分の頬をパシンっと叩いた翠はそう叫ぶ。
「でも!」
「いいから行け! 俺達ではあの人には太刀打ちできねぇ! 可能性があるのは白だけだ!」
……たしかに今なら。制限もないし、白桜の太刀も使える。
でも…。
「いいよー。じゃあ二人はティーと遊ぼー!」
そう言うと、いつの間にか腰に装備した二刀の小太刀を抜く。
そして、その場で振り抜いた。 っ! あれは!
「二人とも避けて!!」
私の叫び声より先に、紫の斬撃が二人に届く。
あれ?吹き飛んでない?
「二人ともしんだよー?修行が足りないのー」
「な、何が起こったの?」
「確かに今、攻撃が…」
「それ、だめーじないからへーき。強くなりないならそれを躱せるようにならないとー」
お父さんの時はボロ雑巾になったよね!?どーいうこと?
「言ってくれるわね、ちびっこ! 忍びを舐めないでくれる?」
「えー?今のがティーの本気ならしんでたのに? ぷぷー」
「うがぁーー!」
「翠、落ち着け! 煽られて冷静さを失う忍びがいてどうする!」
「でも!!」
「わざとだ! 強くなりたいなら躱せと最初に言っただろうあの子」
「ティーなのー」
「お、おう…」
あの子めっちゃ調子狂うな! ぽやーっとしてるのに、計り知れない。
「早く行きなよー、ママを待たせたらだめー」
そう言って見上げるのは、天守の天辺。そこにいるって事ね。
「わ、わかった!」
なぜか素直にそう返事してしまった私は、二人を残し天守に駆け込んだ。
四層六階の天守内は怖いほど静かで、遠くからみんなの戦闘の音が聞こえるだけ。
一階には誰もいない。気配もない。
一応警戒はしながら、二階への階段を目指す。
二階も誰もいない。
三階も…四階も誰とも会うこともなく、警戒して張り詰めていたせいで無駄に疲れた。
五階。
天守の最上階の六階は狭く、戦うには不向きという判断かな。
そもそも天守なんて、私も陛下と数回上がったことがあるだけ。
「なぁ〜良いではないか。誰とも番ではないんじゃろ?なら妾のものになってくれてもよいじゃろー」
思わずコケた。こんな状況でも口説いてますかこの陛下は!
「状況わかってます?お城が攻められてるんですよ!」
「わかっておるんじゃが…ようやっと二人きりなんじゃから…」
抱きつこうとする陛下を、アスカ様は本当に迷惑そうに押しのけてる。
見ててもわかる、脈無しでしすよ陛下…。
ま、まぁ取り敢えず私は当初の作戦通り行かないと。
ちらっとアスカ様を見たら頷いてくれたし。
「義理あって、夕波陛下に助太刀致します」
アスカ様はそう言いながら何もない空間からきれいな剣を取り出すと抜き放つ。
左手で陛下を押し退けてるから、義理とはなんだろう?って思ってしまうけど。
「私達にも譲れない理由がありますから…御覚悟を!」
今回は始めから全力。これもアスカ様のおかげなのに、その恩人に刃を向けなきゃいけないのはなんて皮肉だろうか。
…陛下のせいか。全部全部陛下のせい! 私達が苦労してたのに呑気に口説いてるとか!
私が全力で斬りつけた攻撃は、あっさりアスカ様に止められたけど、流石に陛下も驚いた様子。
「しろ…?どうしたのじゃ? 何でこんな事をするんじゃ…」
「………」
「白!! 妾を裏切るのか?!」
「………」
「白…」
私は返事をしないまま、アスカ様と斬り結ぶ。
さすが…全力で斬りかかっても勝てる気が全くしない…。何者なんだろうこの人。
そもそも人なの? いや、アキナ様のご身内ならドラゴンか?
「陛下は白さん達忍びがどうしてお城に攻めてきたと思いますか?」
私の攻撃を捌きつつ陛下にそう問いかけるアスカ様。
「…わからんのじゃ。給金が足りぬのか?」
「質問を変えましょうか。陛下は忍びってなんだと思いますか?」
無言で私を指差す陛下。 いや、そうなんだけどね?
はぁーっと大きくため息をついたアスカ様は、こんこんと忍びについて陛下に説明を始めた。
当然私の攻撃をいなしながら…。
今回の城への攻撃、それがもし本当に敵の攻撃だったらどうなっていたか、その時にもし花鳥風月が揃っていたらどうなったか。
陛下は、アスカ様の言葉には素直に耳を傾けているようで、質問したりもしている。
「今日は私の家族が協力してくれて、各郭の守備をしてくれました。本来ならそこに兵や風を配置して、戦況は月の部隊が集めて、その情報は鳥の部隊により陛下の元へすべて集まるのです」
「戦いの最中でもか?」
「そうですよ。それができるのが忍びです。 集まったその情報を上手く活かすか、無駄にして陛下御自身の命まで危険にさらすかは、陛下次第なんです」
「……」
この方はどこまで忍びに詳しいの?もし、主がこの方ならどれだけ私達は活躍できるのか…。
…考えても詮無い事だね。私の主は陛下だ。
何があっても。
ちょっと揺らいだけど…
アスカ様の話は続く。
私もつい聞き入ってしまい、攻撃が疎かになってたのを気がついたのは随分とたってからだった。
「そもそも、本来なら攻め込まれるずっと前に花が兆しとなる情報を掴んで、月が探りをいれていれば、攻め込まれることすら防ぐ事ができるかもしれないんですよ?」
「妾は今回、騒ぎが起きるまで何も知らなかったのじゃ…」
「今の陛下では、ハッキリ言ってしまうと、攻め込まれたら確実に命を落とします。そうなった時、この国はどうなると思いますか?」
「国が、街の者達が…」
「そうですね。陛下の守るべき大切な国、そこに生きる人すべてを失うかもしれませんね」
「だめじゃだめじゃ! そんな事…。父上が築いてきたこの国を妾の代で潰してしまうなど、決してあってはならないのじゃ!」
「でしたら、よーく考えてください。これから陛下がすべき事は何かを」
「わかったのじゃ…。それができたらまた口説いてもよいか?」
「…そうですね。お話を聞くくらいなら…」
「約束じゃぞ!」
アスカ様は口説くのを受け入れるとは一言も言ってないけど、今は言わないほうがいいかな。
多分アスカ様も張り合いがないとやる気が出ないと思って否定まではされなかったのだろうし。
罪な人だ…。
「白、もうよい。すまなかったのじゃ…。花鳥風月すべての忍びを本丸に集めてくれるか?」
「御意」
私は攻撃の手を止め、合図の笛を吹く。
これで戦闘も止まるだろう。
家族と合流して、帰って休むと言うアスカ様と一緒に天守を降りた。
そこで私達が見たものは…目を覆いたくなる惨事だった。




