番外編 計画始動
「今夜、私達で夕波城の本丸を落とすわよ」
里へ戻ってきたとたん、お母さんがそんな事を言い出した。
「ちょっとお母さんの言ってる事が理解できない」
「オレは花と鳥、月にも声をかけてくる」
お父さんまでそう言って走り去った。
せめて説明をしてほしい。
「朱様、我々忍びは、夕波王国を裏切るということですか?」
「違うわ。主を諌めるのも忠臣の務めなの。忍びを軽視する陛下に、本当の忍びを見せてあげるのよ」
「それでもし、陛下のお考えが変わらず裏切り者として捕まることになったら…俺達はどうなるのですか?」
「その時は…アスカ様に頼りましょう!」
確かに何とかしてくれそうではあるけど、何という他人任せ!!
「陛下が忍びを軽視するのは、忍びの本質を知らないからよ。何ができるのか、忍びとは何かをね」
そう言って、笑うお母さんは楽しそうだった。
私達風の一族って脳筋だったわ…。私もワクワクしてるし。
ましてや今なら全力でいくらでも動ける!
「白は陣屋へ忍び込み、お客様が帰られたら報告を! 絶対に巻き込めないわ」
「はい! 私、白は今から朱の部隊へ参加いたします」
「お願いね」
私を白と呼んで指示を出すということは、お母…いや、朱は本気だ。
お世話になった人を巻き込むのは私も避けたいし、何よりもあの人達がいて、陛下に助太刀したらこの作戦は絶対に成功しない。
朱もそれをわかってるからこその指示だろう。
朱は翠と蒼にも指示を出してる。
私は急いで本丸の陣屋へ忍び込む。
陛下の作ってくれた”忍びうぉーく”とやらもこんな使われ方するとは思いもしなかっただろうな…。
陣屋の屋根裏にあちらこちらへ張り巡らされた”忍びうぉーく”を使い、陛下とドラゴライナ王国からのお客様を探す。
居るとしたら当然客間。
食事をしながら談笑してるのを隠れながら聞く。
陛下がアスカ様を口説こうと必死だけど、周りの妨害が激しく上手くいっていない様子。
でも障害が大きいほど燃えるのか、陛下は更にアタックをする。
「ママは陛下を守るために残るの」
突然背後から声がして振り向くも誰もいない。でもこの声は…。
「こっちの事情わかってるの?」
「お城落とすんでしょ?ママは事情をわかった上で陛下の護衛につく」
「どういうこと!?」
「誰も守る人が居ない状態で攻め落とされても、忍びの本質は理解できないだろうからって…」
確かにそれはまずい。本末転倒だ…作戦そのものが失敗に終わる。
そもそも、兵は別として陛下を護る最後の砦は私達”忍び”だから、それがいないとなると…。
「全面的にそちらへ協力するから全力できて! って」
「…わかったよ。ありがとう」
アスカ様が護衛につくのは誤算だけど、こちらの事を理解した上での提案なら信じていい気がする。
朱に報告しなきゃ。
私は急いで朱の元へ戻り、報告。
「…こちらの意図をわかった上での提案なのね。誤解とはいえ攻撃した私達を助けてくれたり、白にしてくれた事を考えても信頼するには充分ね」
「私もそう思います」
暫くしてお父さんが花、鳥、月のお頭を連れ立って戻ってきた。
それぞれ作戦への参加理由はバラバラだったけど…。
「なんや、おもしろそうやからウチも一枚噛ませてもらいますえ」
花のお頭。狐獣人であり、王島で一番人気の花魁。
「久しぶりに全力で飛び回れそうだからな。鳥も当然参加するぜ」
鳥のお頭、隼の獣人で、一族イチの速度を誇る。
「陛下への意趣返し…では無いですが、月の能力を知っていただけるのなら、参加する意味もありましょう」
月のお頭、詳細は知らない。初めて見たし。わかるのはうちのお父さんより少し年上かな?ってくらい。
耳とかも隠してるから何の獣人かさえわからない。さすが月…。
それからは朱が作戦の説明と役割分担。
普段なら、忍びが他家の、しかもお頭でもない人の指示に従うことなんてありえないけど、今はみんな楽しそうに団結してる。
「必要な資金ならウチが出しましすよって…調達は鳥に任せてもよろしおすか?」
「おう、任せとけ」
「我々はどうします?」
「月はお客様のお帰りを見届けたあと、巻き込まないためにお城へ来ないよう足止めをお願いします!」
「御意」
そう言うと音もなく月のお頭は消えた。 すご…忍者だ!
…私もか。
あっという間に集められた武器や防具、薬や雑貨類。それに城を包囲するための資材。
武器や防具、薬は皆へ配られる。
そうこうしているうちに、月からお客様のお帰りが報告される。
「数名を残し、ユリズ・シーへお戻りになりました。手練をつけてあります」
「城には誰が残ったの?」
月の報告を聞くかぎり、アスカ様は当然として、蒼を殴り飛ばした二人組と、真っ白の犬と、真っ黒のカップルか…。
蒼は怯えていたけど、朱は迷い無く作戦の開始を宣言。
街中から花の資金力を使い、鳥の機動力で集められた資材は、皆によって凄まじい速さで城を包囲するモノへと姿を変えた。
簡易とはいえ木製の塀が張られ、馬防柵や土塁で補強される。
動きに気がついた兵は月により、音もなく気絶させられ無力化されていく。
「城の守備兵、全ての無力化完了」
「ありがとう、助かるわ。攻め込むとはいえ、死傷者は出したくないから」
一応、味方の兵だもんね。
「さてと、行こうか」
お父さんはそう言うと、立ち上がり、支給された刀を腰に差す。
「ウチらもたまにはコッチで身体を動かさな鈍ってしまうよって…頑張りますえ」
花のお頭は花びらに包まれたかと思うと、花魁姿からえっろい忍び姿になった。
背後にはいつの間にか同じような姿の忍びが沢山。
みんなでっけー!! うらやま…
「俺たちは上から偵察と奇襲だな」
鳥はそう言うと一斉に飛び立っていった。
はやっ!
「花と朱の部隊は陽動よ。とにかく大騒ぎするから。白、翠、蒼、あなた達が落とすのよ、本丸を!」
「「「御意」」」
私達は、真夜中の夕波王国を一斉に動き出した。




