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召喚被害者の日常は常識なんかじゃ語れない  作者: 狐のボタン
第八章

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番外編 登城命令

今回も別視点のお話になります。



蒼、翠と別れ自宅への畦道をのんびり歩く。

全く、蒼はデリカシーがないんだから!

まぁでも、運んでもらってるのは事実だし…。少しくらいサービスしても…

「おかえりーセアちゃん!」

「ただ…むぐっ…むーーー!」

「あ、ごめんね〜?」

「ぷはぁ! 毎回毎回お母さんに窒息させられるのヤなんだけど…」

ごめんねーってお母さんは笑ってるけど、力は強いし圧はすごいし…。

そもそも私はこの人の娘なのに、何なのこの格差は。

自身の胸を見下ろして悲しくなる。


セアは私の本名、正しくは瀬亜と書く。

両親がつけてくれた大切な名前。…でも、今は本名で呼んでくれるのなんて両親くらいなもの。

私自身、すでに”白”と呼ばれることに慣れちゃったし…。


風の一族は忍びという仕事の都合上、子供の時から本名ではない名前が与えられる。

それぞれ”色”の名前を…

半人前の子供たちは纏めて黄。

一人前になって初めて一人ずつに色が与えられる。


お頭は黒。私の白という名前は風の一族でも最強の一人にだけ与えられる名前。

私なんかが名乗っていいのか未だに不安になる時がある。


だって私、虚弱体質だから。

年に何度かは必ず高熱を出すし、ちょっと訓練を頑張り過ぎたら倒れる。

本気で動けるのなんて調子がいい時で数分だけ。今日なんてどれだけ保った?数秒?

しかも全力を出すと反動が全身への痛みとなって返ってくるんだから。

産まれながらの特性。

最強と引き換えの虚弱体質とでも言うのかな…。

私達、風の一族にはよくある事。翠は探索や察知能力が生まれつき高いし、蒼は生まれつき馬鹿力。



お母さんは速さと力が飛び抜けてて、全力で動ける間に短期決戦で決着をつけなきゃ私も余裕で負ける。

ちなみにうちのお母さんの色は朱。お父さんは先代の白。


うちのお父さんは私の上位互換とでも言うのか、制限も反動もない最強だった。

数年前、お父さんに次代として指名され、お互い本気で戦って倒しちゃったから、白が私の名前になった。

お父さんいわく、私の特性は反動といった弱点もあるけど、強さだけで言うならお父さんよりずっと上になると…。

早く引退したかったお父さんに押し付けられただけの気がしないでもないけど、指名されて本気で戦い、倒した以上、名は受け継ぐしかない。

風の一族は何よりも強さが求められるから、私もいつかは次の白候補を見つけて、真剣勝負をする事になる。

結果どちらかが命を落とす事になったとしても…。

忍びとはそういうものだと教わってきた。


お父さんは私に白の名を譲ってからは隠居した。

それ以降は釣りをしたり、街へフラフラとでかけたり…。

今日も多分、港へ釣りにでも行ってるんだろうなぁ。


「お母さんは仕事なかったの?」

「私が呼ばれるなんてよっぽどよ?」

それもそっか。

朱は戦場を駆ける切り込み部隊のトップ。大規模な戦闘なんて無ければ、ほぼ主婦だ。

次の朱候補は蒼と言われてるけど、お母さんは”まだまだ、あの子には私は倒せないわねー”と。


朱の部隊が動くなんて、今じゃ稀に起こる魔獣の大発生とか、港に大型の魔海獣が入り込んだ、とかくらい。

それも、今なら私と蒼、翠が行けばだいたいの片はつく。


洗濯物を畳んでいたお母さんが、思い出したように…

「そういえば、陛下が”白”を呼んでるって言ってたわ」

「お母さん! それ、のんびり言うことじゃないから!」

まったくもう! お母さんは!

武器を持ってないとポンコツすぎる!

かと言って武器を持ったら怖すぎるんだけど…。口調どころか人格さえ変わるんだもん。


私は急いで畦道を駆け戻り、お城へ向かう。


陛下は基本的に本丸の天守か陣屋に居られるから、直接向かう。

夕波城は悌郭式(ていかくしき)の山城だから、正面から行くと幾重にもある郭を越えなきゃいけない。

本丸の後ろは断崖絶壁でその下は海だから仕方ない。

あの崖は私達忍びでも登るのは苦労する。


門を通らず、塀を飛び越えて、天守のある本丸へ。

私達忍びは、真正面から入るなんて事はしちゃいけないらしいから、陣屋へは屋根裏から侵入。

とは言っても専用通路があるんだけど…。


白の名を襲名し、陛下に初めて呼ばれた時、トコトコ歩いてお邪魔しまーすって入っていったら、陛下にがっかりされたんだよ…。

「お主は忍びじゃろ?なんで正面からきとるん…。こそっと屋根裏とかから入ってきて、しゅたっと妾の傍に来ぬか!」って…。

そういうのは隠密特化の”月”に言ってほしい。なんて陛下に言えるわけもなく…。

「しかたないのぅ…忍びうぉーくでも作るかの…」とか言ってて、次に呼ばれた時にはこの屋根裏を抜ける通路ができてた。

陛下は忍びを猫かなんかと勘違いしてるのでは?いや、まぁ私は猫科の獣人だけどさ。


えっと、陛下の匂いは……いつもの部屋だね。


天井板をずらし、しゅたっと…

「お呼びですか?」

「おぉ…今のカッコよかったの! もっかいじゃ!」

「…はい」

屋根裏へ飛び上がり、一度天井板を閉めて、別の場所から降りる。

しゅたっと…


「うむうむ。それでこそ忍びじゃ!」

嬉しそうだなぁ陛下。

「お呼びですか?」

「うむ! 近々、ハルナの所へアキナが身内を連れて遊びに来るらしいんじゃよ」

ハルナ様って…噂のおっそろしい社長!? 

リゾート地をいくつも経営してて、少し前からは魔道具も売り出してる、超・ちょーーーお金持ち!

伝説のドラゴンの娘だとか、陛下ともすごく仲が良くて、夕波王国が観光地化したのはハルナ様の仕業だなんて噂も…。


「聞いとるか…?」

「は、はいっ!」

「それでの? アキナはいいとして、どんなやつが来るのか見てきてほしいなぁーと思うわけじゃよ」

「偵察ですか?」

「うむ、ついでに強そうなのがおったらちょっかいかけて力量も見てきてくれんか?」

「ドラゴライナ王国、女王のアキナ様の御身内に…威力偵察をしかろと仰られるのですか!?」

「別に怪我をさせろとはゆーとらんじゃろ?力量を見てきてほしいだけじゃ」

「わかりました…」

私達は忍び。主の命は絶対。たとえそれで命を落とすことになったとしても…。


「父上がな?早う良い相手を見つけて孫の顔を見せろとやかましくてのぉ…アキナの身内ならそれなりに強いのがおるのではないかと思ってな?妾と番になるのなら強いのは絶対条件じゃ!」

そんな理由で、他国の王族に攻撃しろと…

確かに陛下はドラゴンと妖狐を親に持つ、強いお方。相手にもそれを求めるのはわかる。

だからって、他国の王族に?

いや、私達には是非もない…。

「アキナの身内と妾が番になれば親戚じゃ。そうなるとどうなると思う?」

「すみません、私は政には疎いので…わかりかねます」

「国交がより強固になり、人の行き来もふえるのじゃ! ましてや新たな国との交易も始まる。うちのような小さな島国には後ろ盾が必要じゃろ?舐められん為にも!」

新しい国との国交っていうのは本当だったんだ…。


「任務は了解しました、何か条件や方法にご指定はありますか?」

「そうじゃなぁ…性別は問わんから美系なのは絶対じゃろ…後は気遣いもできて、優しいといいのじゃが…」

いえ、相手の外見とかについて聞いたわけではないのだけど…でもそれも知っておいた方がいいか。

ただ、何時何処でどの様にっていう明確な指示がほしいんだけどなぁ。


「後は…白の全力を防ぎきったら、申し分ないの!」

「…わかりました。陛下好みの美形な相手にちょっかいをかけて、強そうなら全力攻撃、それでよろしいですか?」

「うむうむ! あ、あのデカイのは連れて行くなよ?」

蒼の事か…。陛下はドカドカと歩くデカイ蒼を「忍びらしくないのじゃ! 嫌い!」と…。

そもそも、さっきも言ってたように美形が大好きな陛下は、熊獣人でデカくむさ苦しい蒼は苦手みたい。

頼れる仲間なんだけどな…。

「翠なら相手の力量もある程度はわかるじゃろ。必ず連れて行くのじゃ!」

「御意」



夕波王国にドラゴライナ王国から客人が入国したら”月”から連絡がくるって。つなぎ役の”鳥”じゃなく?

確か月の一族って、今はハルナ様の所でちょくちょく働いてなかったっけ? あ、だからか…。


それにしても…私、生きて帰れるんだろうか…








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