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召喚被害者の日常は常識なんかじゃ語れない  作者: 狐のボタン
第八章

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番外編 最強だけど虚弱体質の私は数分間だけ無双する

別視点のお話になります。



鬱蒼とした森の中。

この辺りでは割と遭遇することの多い、魔狼の群れと対峙する三人組。


「お前は俺達の切り札なんだ! ここぞって時には頼るから、今は俺と(みどり)に任せてくれ!」

そう叫んだガタイのいい男は、自身の身長ほどもある大きな剣を持って目の前にいる魔狼に斬り込んでいく。

「そうだよー白。こんな奴らくらい、あたしと(あお)でもなんとかなる!」

身軽に動き回る翠と呼ばれている少女も両手それぞれに短い片刃の剣を構えて、素早く敵を切り刻む。

「でも…」

「「でもじゃない!」」

「わかったよ…」

二人に守られるようにしている(しろ)と呼ばれた少女。

名前とは真逆の黒髪で、大きなケモ耳がぴょこぴょこと動き、音を聞き分けている。

この辺りでは黒髪が一番多いし、ケモ耳も特に珍しくもないのだが…。

蒼も黒髪、翠は茶髪。二人とも形は違えどケモ耳がある。



白はどう見てもこんな物騒な森の中には似つかわしくない風体をしている。

体格は小さく、年齢も二人よりは幾つか幼く見える。

ただ、おとなしい雰囲気とは裏腹に、武器はしっかりと携行している。


腰帯に差してるのは少しだけ反りのある片刃の…いわゆる刀と呼ばれるこの地方独特の武器である。

服装もキモノと呼ばれる物だが、動きやすいように裾は短く、足も腕も露出している。

ただ、手首には手甲、足首には脚絆を巻いて防御性は高い。

どちらも各部位を守る為だけではなく秘密があるのだが、それはまたいずれ…。


白が腰に差している刀は、見る人が見れば質の高いものである事はわかるのだが、この少女が持つには似つかわしくないと思われるだろう。

戦う二人を後ろから見ているだけなのだから…。



グォーーーーーーン!!

今までよりも大きな遠吠えが森に響く。

「ちっ、まだ居たの!?しかもこの声!」

基本群れで行動する魔狼は、稀に大きな雌によって統率されている事がある。

その可能性を三人も全く考えていなかったわけではないが…。

「翠! どっちから来る?」

大剣を振り回し、目の前の魔狼を薙ぎ払いながら、別の場所でまさに今、とどめを刺している翠にそう叫ぶ。

「えっと……しまった! 白の後ろ!」

翠は素早さを活かして先行偵察したり、敵の位置把握や、罠の解除等のサポートをするのが主な役目だ。

今も自身の探索能力を使い敵を見つけた。


「白! 後ろからくるよ!」

「……」

突っ立っていた白は、後ろを振り返る。

そちらからは今まで対峙していた魔狼の三倍はある、群れのボスが木々をなぎ倒しながら向かってくる。

仲間をやられて気が立っているのか、移動速度も早い。

「………」

無言で無手の構えを取る白。


「こうなったらもう頼るしかない。白! 任せる!」

「そうだね、こいつは白じゃなきゃ…やっちゃって!」

普通ならこんな小さな子に任せるなんて何を言っているんだ?と思われるだろうが、この二人にとっては当たり前の判断。


「…わかった」

そう返事をした白は、腰の刀を抜き放つ。

その姿はさっきまでのおとなしい雰囲気はなく…研ぎ澄まされた刃のよう。


体格に合わせたかのような少し短い刀を構えると、音もなくその場から……消えた。

直後、群れのボスである大きな魔狼は血しぶきを上げて倒れていく。


ボスが倒れていく、正にその間にもあちこちで血しぶきが上がり魔狼たちが倒れていく。

「あー…もう、あたし達することないね」

「だなぁ…いや。俺はもうひと仕事あるな」

「あぁ〜。そうだね」

まだ魔狼は残っているのに、二人は武器を収めてしまう。


キャウン…

ギャッ…

森のあちこちから魔狼の断末魔が響く。

ボスがドゥッと大きな音を立てて倒れる頃には、周りにいた魔狼の群れも立っているものは無く…全てが仕留められた。


「そろそろか?」

「うん、敵もさっきので最後。あたしの見える範囲にはもういないよ。まぁボスがああなったら、残ってても逃げてくだけだよ」

「まぁな、それに白が逃がすわけ無いわな」

「言えてるー」

会話をしている二人の前に、ふっと現れる白。

「終わった」

「ご苦労さま。結局また頼っちゃったね」

「役に立った…? もう済んだし帰ろ…ふわぁぁぁ!?痛い痛い痛い!」

研ぎ澄まされた刃のようだった雰囲気は一気に崩れ、更には足元の木の根に躓き翠の胸に頭から倒れかかる。


「あたしはクッションじゃないんだけどね?」

「言うほどそのクッションもねぇだろうが…」

「うっさいよ蒼!」

「ごめん…もう無理ぃ。全身痛い…」

「わかったわかった。ほれ、おぶってやるから」

「ありがと…」

「処理は下っ端がやってくれるし、あたしらは帰るかぁ〜」

「俺らも下っ端時代に散々やらされたな」

「それも修行ってよく言われたよね」

白を背負った蒼と翠は軽口を叩きながら森を歩く。



しばらく歩き森を出ると、翠は近くにいた十歳前後の子供たちの集団に指示を出す。

「黄色共、今日は大物もいたから、頑張って回収しといで!」

「「「はい!」」」



ここは夕波王国。周りを海に囲まれた、いくつもの島からなる王国。

孤立した島国ゆえに独特の文化をもつ。

大昔にはそれぞれの島に島首がいて、覇権を争う海戦国時代が続いていた。

それを統一し、今の夕波王国の礎を築いたのが先代の国王。

何百年と統治したが、「そろそろワシも隠居して遊びたい」と言い出し、娘へと代替わりをした。


トップが変わった事で、国のあり方にも変化が起きた。

それは、他国との大々的な交流を始めたことだろう。

暖かい気候がほぼ一年中続く島国という特性を活かし、観光やリゾート地として売り出したのだ。 

もちろん反発もあったが、そこは実力主義の国。力でねじ伏せられていった。

結果、国交を持つことになったドラゴライナ王国と言う国からの観光客が訪れるようになった。


近々別の国とも国交が始まるという噂も…。

「なぁ新たな航路が開拓されて、観光客が増えるっていうのは本当なのか?」

「さぁ?だけど…あたしら日陰者には縁のない話だよ。お上に言われた仕事をこなすだけだからね」

「だけどよ?人が増えれば厄介なやつが出入りする可能性も増える。そうなると俺達だって忙しくなるぜ?」

「良いじゃない。平和になったらあたしらはいずれ飯も食えなくなるんだから」

「まぁ…な。冒険者になったり、漁師になったり…事業を始めたやつもいたな」

「あぁ! 失敗して、例の姐さんに借金つくったって家もあったって話だよ」

「マジかよ…終わったな」

「何処だったか、娘が行方しれずなんて噂もあるし」

「怖ぇ事言うな!」


「蒼、ありがと…もう歩ける」

「そうか?無理すんなよ?」

「うん」

さっきまで蒼の背中でぐったりしていた白は、しゃがんでくれた蒼の背中から降りて歩く。


「もういいの?白。 そのまま蒼に運んでもらえばいいのに」

「大丈夫。いつもの反動が来ただけだから…後は帰って寝る」

「白はよく寝るよな?その割に育たねぇけど」

「寝る子は育つって言うのにね?まぁ可愛いけど!」

「うるさい…蒼、セクハラ! いつも私を背負ってる時にたんのーしてるくせに」

「…人聞き悪い事言うなよ」

「じゃあ今度から私が背負う?」

「いや、それは力のある俺の役目だろ!?」

「「あやしい…」」

「そもそも何を堪能すればいいんだよ?」

「…言い残すことはそれだけ?」

「白、ストップ! あんたがキレたら蒼が細切れだよ!」

「冗談だよ。仲間にそんな事しない」

「いや、今の殺気はマジだったって! 蒼が震えてるし!」

「ゴメンナサイゴメンナサイ…」

「ほらぁ!」


ここは夕波王国。その王島でもある一番大きな島の、山中にある集落。

彼らは代々続く忍びの家系に生まれた、生まれながらの忍び。

花・鳥・風・月とある四つの流派。

その中でも一番の武闘派と言われる”風”の一族。











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