お泊まりの夜
アクシリアス王国への避暑も一日で撤収。
王妃様に引き止められたけど、あまり長居をすると奈々と麻帆の体調も心配だし…。
あちらに居ると徐々に魔力とか増えていってるから、不安なんだよね。 (戻って来れば元に戻る)
うん。それも長居すると戻らなくなったりしないか心配で…。 (そうなったらこっちで奈々が魔法使ったり?)
それよ、私が一番懸念してるのは…。
今のところ体調も大丈夫だし、平気かな。
「楽しかったぁー! 誰にも話せないのだけが残念だよね」
「それがいいんじゃない」
自室に張ったテント内に魔道具のランプを置いて、ゴロゴロしながら寛いでる二人。
「明日はこっちでどこか出かける?家にいる?」
「暑っついからなぁー。プールとか行ってもいいけど行き帰りで死にそう!」
「水着なんて持ってきてないわよ私」
私はそもそも水着がないな…。海に行くなら買わないといけない。
「これでまた遊びたいなー」
「奈々、それはこっちで使わないってアスカちゃんとの約束でしょう!」
「うちならいいよ。みんな遊んでるし」
「遊んでる…?」
今も地下で訓練してるしなあの子達。 (新しいので特訓中!)
「そういえば、誰もいないわね?」
「お風呂借りて戻ってきたらいなかったよー」
んーいいか、見せてあげても。
空間扉に二人の波長も登録して地下へご案内。
「えっ…えっ? 何処ここ!! クローゼットの裏だよね?」
「まさかまた異世界?」
「自宅の秘密基地ってとこかな。うちの子達はここで魔法の練習したり、今は競技の練習中だね」
「ちょっとした街があるんだけど…」
「見てるといいよ。何をしてるかわかると思うから」
光弾が飛び交ってるしすぐにわかる筈。
「サバゲーだ!」
「奈々、正解」
「アスカちゃん、競技ってどういう事?」
「えっとね…」
そもそものきっかけや、今の規模など噛み砕いて二人にも説明。
………
……
「えーっと、じゃあアスカちゃんってもしかしてすっごいお金持ち?」
「異世界に限ってなら、ある程度はそうかも…」
「ねぇ…もしかしてさ…、アスカっていずれ異世界に帰る…というか移住するつもりだったりする?」
鋭いな…。
「今すぐにどうこうって話ではないけどね。両親はそのつもりみたいだし…」
「ヤダ! それなら私も連れてって!」
「何年とか、下手したら十年とか、そんな先の話よ?」
「それでも! 私は高校卒業したら家を出るつもりだし、お願い!」
無茶言うなぁ…。
「もしその時になって、奈々の気持ちが変わってなかったらまた話し合おう?」
「絶対だよ! 約束して」
「うん、それまでに奈々が彼氏とか作って街を出てたりしたら知らないけどね?」
「ないよ! 絶対ない!」
「はいはい…」
「私は…そこまで思いきれないわ。違う街どころか、海外への移住ともわけが違うもの」
麻帆が正常な反応だと思う。 奈々は思い切りが良すぎるだけだよ。 (奈々は本気?)
うーん、一時的なものかもしれないし、本気かもしれないけど…私にはわからないな。
ちょっと変な感じになってしまったから、部屋に戻ってテント内で魔法学園での出来事とかを話して気分の切り替え。
それでも奈々は元気がない…。
「奈々…」
「私は本気だから!」
そう言うと背中を向けて寝てしまった。
「落ち着くまでそっとしておきましょう。奈々ってこういうところ頑固だから」
「うん…」
モヤモヤしたまま、私も横になって眠る。
こんな話しなきゃよかったな…。せっかくのお泊り会だったのに。
うちの子達は気を利かせてくれて、みんな別のテントで寝るらしい。 (リズはまかせて)
お願いね…。
魔道具の灯りも消し、二人の寝息が聞こえてきても私は眠れないまま。
ようやくウトウトとし始めた時に重さを感じて目が覚める。
「な…」
声を出そうとしたら奈々に口を塞がれた…しかも口で…。
意味がわからず混乱して頭が回らない。
しばらくそのまま離してもらえず、ようやく離してくれたと思ったら、馬乗りのまま、耳元で囁かれた。
「ずっと、ずっと好きだった…アスカが女の子になる前から。だから私は本気だよ。姿が変わったってアスカ以外に恋人なんて作らない。信じられないならこのまま私をアスカのにしていいよ?」
今、奈々はなんて言った…!?女の子になる前から…?どういう事!?
薄暗い中で見えた奈々は泣いてるような、悲しげな顔をしてて、私は何も言えなかった。
強制力は?どうして?
混乱していたらまた耳元で囁かれた。
「誰にも言わないから大丈夫。 どうして?って思ってるでしょ? 私って馬鹿だからさ、アスカへの想いも馬鹿みたいに本気なのに、これが恋だって自覚するまで随分かかっちゃった…」
いつから…奈々は知ってたの?
「詳細が知りたかったら、私をアスカのものにして…?そうしたら全部はな…」
「何してるのよ…私が隣で寝てるのに」
へっ!? 麻帆!
「まだ何もしてないというか、これからと言うか…」
「奈々、傍から見たら完全に襲ってるヤバい絵面よ?」
「あ、あはは…」
助かったと言っていいのか、謎が残っちゃったというのか…。
「もしかして邪魔しちゃったかしら?」
ふるふると首をふる。
「よかったわ…ほら下りなさい奈々」
「えーこのまま続きを…」
「私が気まずいからやめて!?」 (んぁ!?)
麻帆が大きな声をあげたから! (どしたのーって! ママが襲われてる!!)
一応未遂だから…。 (…どうかした?)
うん、ちょっと不味いかも。奈々が私が男だったのを覚えてる…。 (うそ!?)
ほんと…どうしよう…。 (強制力働いてるはずなのに!)
ユウキにかかりづらかったみたいな事? (そんな長時間一緒にいた?)
いや…学校で唯一仲のいい女子だったってくらい。 (んー ちょっと調べる!)
ごめんね…、お願い。 (任せて!)
奈々はようやく私から降りてくれるらしい。
最後にまた耳元で
「続きはまた今度ね?」
って言われた。
何これ…。
完全に目が覚めて眠れなくなった私は、ずっと頭の中で奈々に言われた言葉を反復して理由を探すも見当がつかない。
当の本人は背中を向けて寝ちゃったし…。
はぁ…もう…。




