精一杯の想いを込めて…
私の持てる力を全て…母様への感謝の思いも込めて器に注ぎ込んだ。
想いの強さが次代に影響するのなら、決して手を抜くことなんてできない。
魔力、体力も底をつき、ピアスに溜めてあった微量の魔力で即時回復。
後は自然回復を待てばいい。 (…ギリギリ)
母様への恩は、本来こんなものでは返しきれないくらいだもの。 (無茶して…)
ごめんね…。 (今回のはやむなし!)
ありがと。
心配して傍にいてくれたティーには感謝しかない。 (当たり前!)
その器をウェルチ姉様に託す。 (あれ、よく耐えたの…そっちにびっくり)
今迄も魔王に匹敵する力に耐えてきたんだろうから不思議はないでしょう。 (まぁ…)
「確かに預かりました。魔王様がお待ちですから一緒に行きますよ」
ティーと一緒に、ウェルチ姉様に案内されて城の庭園へ。
庭では母様が満開の花を背に佇んでる。 (幻想的!)
そうだね。母様って本当に綺麗だから…。
「魔王様、こちらを…」
「うむ、想像以上だなこれは…」
「ええ。本当に。こんなに澄んだ綺麗な力は初めて見ましたよ」
ウェルチ姉様から魔道具を受け取った母様は嬉しそうに見える。
母様、それで…よかったですか?
私に覚悟が足りなくてごめんなさい…。母様への想いはありったけ込めましたから。
「アスカ。無理を言ってすまなかったな…」
「いえ、そんな! 私は…母様のお役に立てましたか?」
「あぁ…妾の自慢の娘だよアスカは」
「はい…」
母様は大切そうに器を自身の魔力体の中へ仕舞い込んだ。
「少し歩かないか?」」
母様に誘われてティーを真ん中にして手を繋いで庭園を歩く。
「ふふっ。一足早く親子気分だな?」
「ママとアルディエルママー?」
「そうだぞー」
母様はティーを撫ぜながら楽しそうに笑う。
なんかいいな…こういうのも。
「アスカ、ユウキは元気にしているか?」
「それはもう。最近は恋人もできて姉離れされてしまいそうです…」
「ははっ。ユウキももうそんな歳か…」
「…母様、また会いに来てもいいですか?」
「当たり前だろう。来てくれないと妾が会いに行くぞ?」
「魔王様が国を空けたら大変なことになりますよ!」
そうだな…と笑う母様。
「…その時はユウキもつれて来てくれ。元気な顔を見たい」
「はい!」
母様に会ったってユウキに話したら、どんな反応するかな。
間違いなく会いたがるはず。
母さんに甘えられなかった分、アルディエル母様に甘えてたからなぁ。 (あのユウキが?)
うん。もうべったりだったよ。 (ほぇー意外)
私が幼いユウキに無理させてしまったからね…。 (……)
その日は懐かしい部屋で一泊させてもらう。
時間を戻すとはいえ、ティーの本体がみんなに伝言を届けてくれてるから一先ずは安心。 (ばっちし)
ありがとね。
部屋にはティーにピッタリの服もちゃんと用意されていて、それを着たティーは、もうほんと可愛い。 (〜♪)
私には黒いセクシーな…何だろうこれ。 すごく肌触りのいい服が置かれてた。
ちょうど着替え終わったタイミングで、部屋に母様が…。
あ、この服…母様とお揃いなんだ。黒色好きだもんなぁ母様。
「久しぶりに一緒に寝ようと思ってな」
「うなされた時とか、いつも傍にいて撫ぜてくれましたもんね…」
「覚えていてくれたか」
「忘れる訳ありませんよ」
ティーを真ん中に、三人で川の字になってベッドに横になる。
「ティー、アスカはお前にとっていい母親か?」
「うん! 時々無茶したりするけど自慢のママなの!」
「そうかそうか! 妾が傍にいられない時は頼むぞ。アスカは一人で突っ走る癖があるからな」
「はーい!」
…ひどいなぁ。 (前科あり!)
そのまま母様と懐かしい話をティーにきかせてあげてたら、いつの間にか私も眠ってたみたい。
久しぶりでも、母様の傍はやっぱり安心する。
翌朝、目が覚めたら、ベッドに座り長い髪の手入れをしている母様と目があった。
「起きたか?」
「おはようございます、母様」
「妾は仕事があるが、アスカはティーともう少しゆっくりしているといい。朝食は一緒に食べよう」
「はい」
母様はまだ寝ているティーを撫ぜると、私には優しくハグをして部屋を出ていった。
「ものすごい安心感と居心地の良さで帰れなくなりそう…」
寝ているティーも心地よさそうに見える。
「…ママ?」
「ごめんね起こしちゃった?」
「大丈夫ー」
撫ぜてたら目を覚ましちゃったな。
「アルディエルママはー?」
「お仕事だって。朝ごはんは一緒にって言ってたからそれまではのんびりしてていいよ」
「んー」
甘えてよじ登ってくるティーを抱き上げて窓辺へ。
相変わらずキレイだな…。大きな湖が朝陽の光を反射して湖畔の庭園がより幻想的に見える。
「朝陽でキラキラー」
「だねー。昨日、母様と散歩してたのはあの辺だよ」
「湖はわかんなかった」
「庭園だけでもかなりの広さだからね。もう、ここはちょっとした森だよ」
庭師の人なのか、手入れしてる人が何人もいるな。
ティーと庭を眺めながら、思い出話をしていたらウェルチ姉様が呼びに来てくれた。
「そろそろ朝食ですよ。二人とも」
大きな食堂には母様とウェルチ姉様だけ。
これもあの頃と同じだな。私達が落ち着かないだろうからって、関わるのは必要最低限の人だけにしてくれてた。
食事をしながら、他愛のない話をしていたのだけど、突然真面目な顔になった母様が…
「アスカはやはり帰るのか?」
「…はい。母様の傍は本当に安心できて居心地がいいのです。でも、私には帰るべき場所がありますから…もう一人、娘もいますし」
「そうか…皆でこちらへ来てもいいんだぞ?」
「ありがとうございます…」
みんなを母様に紹介もしたいし、一度は連れてきたいな。
「…すまないな。わかっていて言った妾が悪かった。いつでも好きな時に来るといい。あの部屋はお前たちのためにあるからな」
「はいっ」
食後に、改めて母様から力の器のお礼を言われ、一時のお別れ…。
必ずユウキを連れてくる約束をして私とティーはアクシリアス王国へ転移した。 (ティー帰らないと!)




