異世界魔王
「アルディエル母様…」
「アスカ、止めてくれ…その目は妾に効く…」
「しっかりしなさいアスカ。確かに魔王様は的ハズレな事は仰られてはいませんが、小難しく話して子供として引き取ったアスカに手を出そうとしただけです!」
「そんな言い方しなくてもよいではないか! ちゃんと妾は言ったぞ?お前がほしい! と」
確かに言われた…。びっくりしたし。
母様は憧れだし、綺麗で力も強いから危うく勢いに流されそうになった…。
「確かに今のアスカなら魔王様に匹敵しますし、相手としても不足はありません。周りからの理解も容易く得られるでしょう」
「ならばよいではないか」
「問題は子供として引き取った相手だという事です! それも登録をイジればなんとかなりますが、それをするのは私なんですよ?どれだけ手間と時間がかかると思いますか!!」
「わかった、わかった…それまでは手を出さん。のんびりとデートしたり愛を育くめばいいのだな?」
「結局私にやらせるのですか!?」
「他に事情を知っていて、そんなモノにアクセスのできる権限を持つ者がおるか?」
ハァーっと盛大なため息をついたウェルチ姉様はひどくお疲れの様子。
「ウェルチ姉様って…」
「アスカは知らなったか?ウェルチは元魔王だぞ」
はい?
「昔々の話です。今はただの魔王様の小間使いです」
「どういう事ですか? 魔王とは普通一人しか存在しないのでは?称号を受け継いで行くものではないのですか?」
「アスカはいつの話をしているのです。そんな大昔の話し今は殆ど誰も知りませんよ」
「それは、魔力として力を引き継いでいた時代のものだろう?魔力体とはいえ、特定の姿を維持できる力があれば子を成せる。そうして普通に子を成せば、当然親の力を受け継いだ子が産まれるのは道理ではないか」
確かに…。ドラゴンだって同じようなものだから。
「だからこそ、魔王様の相手にもある程度の強さが求められます。その点、今のアスカは文句の付け所はありません」
「そうだろう?」
「あの頃のままなら、まだ止める口実もありましたが…こうなってしまっては…」
「妾の読みは正しかった!」
「はぁ…」
「あの…ウェルチ姉様は、アルディエル母様のお母様とか、そういう事ですか?」
「もっともっと上だ」
「お祖母様とか…」
「二十三代上の魔王です」
「そんな方を小間使い!?」
「引退した魔王はそれ以降は魔王としての力が増える事もないですし、この国では常に現職の魔王様が最高権力者です。しかもアルディエル様は歴代最強の魔王様ですから」
もう理解がついていかない…。
「と言うことは、この国には歴代魔王様がわんさかと…?」
「そういう訳でもないぞ。飽きて世界を渡った者もいれば、自ら存在を消したものもいる」
「はい、今この国に居るのは数人でしょうか」
「そんなものだろうな」
世界を渡った…は、まだわかるけど、存在を消した…?
「長く、長く生きるというのは時に苦痛になるものです。刺激も無く、する事も無くなる…そういった場合、自ら輪廻に戻る選択もあるという事です」
「そうですか…」
「難しく考えるな。飽きたら記憶をリセットし生まれ変わるだけだ」
「そうですね、歴代魔王はそうして生まれ変わった古の魔王だとも言われていますから」
何と言うか独特の死生観だな…。私も他人事ではないのだけど。
まだ十数年程しか生きてない私にはわからない。
魔王時代を入れれば多少増えはしても、母様たちに比べたら些細なものなんだろう…。
「妾にとってお前やユウキとの出会いは大きな刺激であり楽しかったのだ…離れてからも毎日思い出すほどにな」
「はい…」
「ウェルチ、頼んだぞ」
「わかりましたよもう! 魔王様も順序に気をつけてくださいよ?見ての通り何も知らないまだまだ子供なんですから」
「わかった、わかった…妾だって聞いた話くらいしか知らん。ゆっくりと前に進む事にする」
「そうしてください」
待って?勝手に話しが進んでない?
「アスカ、お前はどこに行きたい?暇を持て余した歴代魔王が色々と残しておるから出かける先は沢山あるぞ」
「母様、その前に一つだけお願いをしてもいいですか?」
「一つと言わず聞ける事ならなんでもいいぞ」
「そろそろ先程お話した私の子が、家族の一人と転移してくると思います。このままだと母様の張った結界を破ってしまいます。なので、こちらへ来る許可をして頂けませんか?」
「妾の結界を破るというのか?」
「おそらくは…」
私でも時間はかかっても結界を抜けて転移して帰ることはできる。そのためには魔道具を書き換えなきゃいけない。
単に破るだけならどうとでもなるけど、それをしてしまっては母様からの恩を仇で返す形になってしまう。
そんな事情を知らないティーは焦ってぶち破る可能性がある…。
「面白い! 破れるのか見てみようでないか!」
「母様…私の子に無茶させないでください!」
「わかったから…その目はやめてくれ。 お前と同じ波長の者と一緒に来る者を許可すればいいんだな?」
「はい。お願いします」
ずっとティーが話しかけてこないって事は、今回私に分体を付けてなかったんだろう。
転移なんて一瞬だし、今までこんな事は無かったから…。
戻らない私を心配したティーがどうするかなんて、流石にもうわかる。
来たっ…。 いいよ、許可。 心配かけてごめんね…。




