母様
アルディエル母様…?
「前の姿も可愛かったのにもったいないな。その姿は美しいと言ったほうがいいか?」
「母様、それはどういう意味ですか?」
「ん?アスカお前、まさか無自覚だったのか?」
なんの話!?
「姿の偽装をしていたではないか。理由があったのだろう?」
「母様はわかっていたのですか!?」
「当たり前だろう。妾を誰だと思っている。てっきり裏仕事をするのに娘の姿では危ないからと変えているのだと思っていたが…違ったのか?落ち着いたら折を見て、本当の姿を見せてもらおうと頼むつもりだったのだが、消えてしまったからな…」
アルディエル母様が言ってる意味がよくわからない…。
どういう事?
「ふむ…まずは詳しく話してくれるか?」
「はい!」
アルディエル母様お気に入りのテラス。よくここでお菓子をもらったな…。
今もまたお茶とお菓子が運ばれてきた。
「ほら、座れ。懐かしいな?」
「はい…あの時は本当に、ありがとうございました。アルディエル母様に出会わなかったら私は…私達は…。なのにお礼も言えずに消えてしまってごめんなさい…」
「妾の大切な子だと言ったであろう。そんな事は気にするな。それにあれは仕方の無い事だ。召喚者が消えれば契約も消える。妾も迂闊だった。大切な子供をあんな目に合わせたやつらだからな。生かしてはおけなかった」
「はい…」
「アスカ、お前の事を話してくれるか?妾と別れた後の事を」
「もちろんです!」
私はアルディエル母様に聞かれるまま、別れてからの事をすべて話した。
隠すこともないし、母様に話して恥ずかしい事をしてきたつもりもない。
…………
………
……
「ははははっ! アスカの母親は愉快だな?抜けておるというのか?」
「では…私は初めから女性だったのですか?」
「そうだな。ドラゴンの血が流れているのも知ってるぞ。ユウキよりアスカのが濃いこともな」
そうなんだ…。
「まさか魔王になって帰ってくるとは流石の妾でも予想できなかったがな?」
そういうと母様は楽しそうに笑う。
「それにしても…そうか、国の統治をするのに、妾の真似をしたと?」
「はい…。優しくて強く、これだけ大きな国を美しく維持しておられるアルディエル母様は憧れでしたから」
「嬉しい事を言ってくれる。だがな?アスカ、お前のやった事は妾とはまた違う。ただ真似をしたわけではないだろう。お前なりの答えを見つけて統治した…それを妾は母として誇りに思うぞ。良くやったな!」
「…ありがとうございます」
「泣くな泣くな…褒めておるのに」
母様はあの頃と同じように抱きしめてくれた…。温かい…。
「なぁ?アスカ」
「はい。なんでしょうか?」
「妾のものにならんか?」
「…えっ?」
「アスカかユウキか…どちらにしようか悩んだのだがな。同じ魔王でもあり、国を統治した経験のあるお前のが適任だ」
「どういう事ですか?」
「妾の子を産むか、妾を孕ませろ。可愛い跡継ぎが欲しい」
「えぇぇぇっ!!?? か、母様? えっ? 母様はアルディエル母様で…魔王様で…はぇっ!?」
「可愛い反応をするな?まさかお前、生娘か?」
母様が何を言ってるのか全くわかんない!
確かにアルディエル母様とは血の繋がりは無いけど…それはまた色々と問題がありそうな気がするような?
もう自分でも何を考えてるのかわかんなくなってきた!
「無理にとは言わんが…そうなると妾で代は潰えるな?」
「どうしてですか…?」
「妾はわがままだからな。決めた事は曲げぬ。跡継ぎを残すのなら…アスカお前とだけだ」
なんて事を! 偉大なアルディエル母様の血が潰えるなんて絶対にダメ!!
だからって相手が私? せ、責任が重すぎる…。
「時間はある。なんせ妾もお前も寿命なんて無いからな。とはいえ早く可愛い子供は欲しい。跡を継がせたらのんびりするのもいいな?」
なんかアルディエル母様の触れ方がねっとりしてるような…。
さっきまでは温かい優しさに溢れてたのに!
どうしようこれ…断ったら母様で代は潰えるって言うし…かといって私が母様の相手に?
絶対に釣り合わない!!
「母様…」
「妾の事はエルと、そう呼べ」
「無理ですよ! アルディエル母様は母様です!」
「相変わらず頑固だな?もっと物事は柔軟に考える事が統治者には必要だぞ?」
「私はもう一般人ですから…」
「魔王が何を言っている。それは統治者だけが持つ名前だぞ?遅かれ早かれお前はまたその立場に立つ事になるだろう。それは定めだ」
えぇ…。
「それとも妾が相手では不服か?美男子にでもなればいいか?」
「母様に不服なんてありませんよ! 私が母様に釣り合わないのです!」
「自己評価が低いのも変わらんな。 …ふむ。アスカ、耐えてみせろよ?」
突然アルディエル母様から魔力が膨れ上がる。
相変わらずすっごい魔力…。でも、優しくて温かい。
そう思っていたら、母様の膨大な魔力が突然敵意となって向かってきた。
なんで? どうして母様が私に敵意を向けるの!?
くっぅぅ……なんて力…。
凄まじい魔力の奔流に身体がバラバラになるのではないかって錯覚に襲われて意識が遠くなる。
もう立っているのがやっとだ…久しぶりかも、こんな力をぶつけられるのは…お祖母ちゃん以来か?いやそれより強い!
「かあ…さま…なん…で?」
「まだ耐えるか…これ以上は妾でも限界か」
そういうと母様は、私にぶつけていた魔力を止めた。
必死に耐えていた私は、その瞬間に身体から力が抜けて立っていられなくなり、意識を手放した。
「ここまでとはな…やはり、お前しかいないアスカ!」
倒れたアスカを抱き止めそう呟く魔王アルディエル。
…………
………
……
「っ…つぅ…」
身体中が痛い…。 痛い!?
気がついたら私は、アルディエル母様の豪華な真っ黒のベッドに寝かされていた。
以前も、うなされた時とか、こっちのベッドに運ばれた記憶がある。
少しずつ細かい所まで記憶が呼び覚まされていくな…。
「目が覚めたか?身体は大丈夫か?」
「全身痛いです…」
「ふっ…妾の全力の魔圧を受けて痛いで済むか。どれだけ成長したんだお前は…」
「痛みなんて久しぶりです…」
例の腹痛くらいか?痛かったのなんて。
「暫くそのまま大人しくしていろ」
「母様、どうしてあんな事を?」
「妾がアスカの力を知りたかったのと、アスカ自身にしっかりと己の力を知って欲しかったからだ」
「それにどんな意味があるのですか?」
「そうさな…まず、妾の相手はやはりアスカ、お前しか無理だ。もう一つはアスカの自己評価が低いからだな」
自己評価?
「今のお前の力は妾に匹敵する。いずれ妾をも超えるだろう。いいか?それだけの力を持つものが一般人でいる事は無理だ」
「そんな…」
「聞く限り、既に無自覚のまま色々とやらかしておるだろう」
それは…否定できないけど。
「でもこの力は私一人のものではありません。先代の魔王から引き継いだもの、力を託して亡くなっていった魔族からの想いも…」
「わかっておる。妾も世界は違えど同じ魔王だぞ?想いも背負っておるからこそ、その力をどう使わねばならぬかわかるだろう」
「…はい。力の使い方については師匠から叩き込まれましたから」
「それは最初の頃から何度も言っておったな。アスカ、魔王とは”王”だ。わかるか?」
「はい…」
「王には王の責任がある。たとえお前が既にその立場から退いたとしても、現に頼られ託された子がいるのだろう?それが何よりの証だ」
アルディエル母様の言ってる事はわかる。でも…
「まぁ…難しいことを言っても仕方あるまい。妾はお前が欲しいアスカ。それだけだ」
寝ている私の傍に座る母様は優しく撫ぜてくれる。
「それは、私に力があるからってだけですか?」
「まさか。妾はお前が、ユウキもだが可愛くて仕方がなかった。だからこそ、お前がまた世界を越えるであろうタイミングで捕まえた」
「母様にまた会えたのは本当に嬉しいですが…」
「そうしたらどうだ?妾の力を受け止めるほどに成長して帰って来た。これはもう運命だ」
「…母様、もしかして私口説かれてますか?」
「…気がついてなかったのか!?」
「統治者とは魔王とは何かと教えられてるかと…」
「自分の事に鈍いのも変わらずか…」
ひどい…。
「どっちがいい? 妾の子を孕むか?それとも妾を孕ませるか?」
そう言いながらのしかかってくるアルディエル母様。待って待って…!
心の準備が!
「い、いきなり過ぎます! こういう事には順序が! 段階があると思います!」
「ふむ…一理あるな。再会の嬉しさで飛ばし過ぎたか」
はぁ…もう心臓に悪い…。
「では…そうだな。デートでもするか! 街へ行くぞアスカ!」
また突然!
「もう見てられません!! 何してるのですか魔王様!」
「なんだ?覗きのウェルチ。妾とアスカの睦み合いを見たかったのではないのか?」
「違いますよ!! 暴走しないか見ていたのです! 難しい話をしてアスカを混乱させて手篭めにしようとしただけではありませんか! 引退してのんびりと隠居しておられる魔王様なんていくらでもおられますよ!!」
えぇーー……。




