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召喚被害者の日常は常識なんかじゃ語れない  作者: 狐のボタン
第七章

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今がある理由



馬車を降りた俺達は、ウェルチの案内で城内をすすむ。

時々、城の兵士から殺気を向けられるが仕方ないだろうな。

「大丈夫だ、ユウキ。俺がいる。何があっても守るからな」

「うん…」

「はぁ…ほんとにもう…」


「ウェルチ殿、陛下がお待ちです。その子供が…?」

「ええ。早く開けてくれる?」

「はっ…」

ウェルチって結構な立場の人か? 謁見の間を守る兵士に指図できるくらいだ、相当だろう…。



開かれた扉の先は広く天井も高い。

上からぶら下がるシャンデリアはかなりのサイズだ。

さすがにあの高さまでは飛び上がれないな…。

仮に忍び込むなら…あそこかあっちか?

襲われたとして、ユウキを連れて逃げるならあっちだな…。

目線だけで間取りや扉、窓の位置を把握する。


…ダメだ最近のクセが抜けない。



玉座の近くまで行き膝まづく。

「魔王様、例の子供を連れてきました」

「そうか…身体の方は?」

「兄の身体にかけられていた呪毒は抜けています。武器等もすべて取り上げてあります」

ストレージには入ってるけどな…。当然出すつもりはないが。


「顔を上げても良いぞ。妾に顔を見せてくれ」

声からして女の人か?


顔を上げると真っ黒な大きな翼に、赤黒い角が四本…ドラゴンか?

いや、魔族ならあり得るか。

背は高く、引きずるほど長い真っ黒なドレスを着ている。

髪も黒く、ドレスと同じくらい長い。



「ふむ…」

カツカツカツ…とヒールを鳴らして近くまで来た魔王はいきなり俺とユウキを抱きしめた。

意味がわからなかった。

仮にも俺達は暗殺者だ。魔王は近づくのを警戒するのが普通だろう。

なんで周りにいるやつらも誰も止めない?


訳がわからず、混乱していた俺の耳元に、びっくりするくらい優しい声で囁かれた。

「辛かったであろう…悔しかったであろう…よく耐えたな…。そして、よくその手を血で染めずにいてくれた」

その瞬間、頬を伝うものだけをやたら熱く感じた。


「うぅ…うぁぁぁ…」

ユウキの泣き声に、自分も泣いているんだって気がついて…。

いつぶりだ…? 師匠に殴り飛ばされてもこんなに泣いたことはない。


「よいのだ…もう安心して良いのだ…」

「………っ…」

「うぁぁぁ…お母さぁん……」

この時、自分がどれだけユウキに無理をさせていたか、守るといいつつ、何も守れていなかったのでは? と激しく後悔して…。

無力さに悔しくてまた涙が出た。



「この子達をどうなさるおつもりです?」

「妾が育てる!」

「…そう言われると思いましたよ。この子達から聞き出した情報を纏めておいたので、そちらにも目を通してくださいね。相当の情報量ですよ。よく集めたものです…」

「わかっておる…しかし今それを言うのは野暮であろう?」

「申し訳ありません」




…………………



「その後、お姉ちゃん達はどうなったの?」

「アルディエル母様…魔王様の名前ね。 母様の元で普通の暮らしをできるように数ヶ月かけて訓練したよ」

うなされれば抱きしめてくれて、眠るまで隣にいてくれた。

温かい食事、キレイなベッド。

忙しいだろうに、いつもそばにいて温もりをくれた。

おかげで私とユウキは安心して眠れるようになっていったんだよね…。


「その数カ月の間に、勇者も失っていた人族の国は、内乱やら飢饉やらで戦う力もなくしてね。私とユウキの集めた情報を元に、アルディエル母様が相手の軍だけを踏み潰して、あっという間に平定してしまったよ。おかげで、普通の人達は平和に暮らせるようになったんだ」

「すごい魔王様ね?」

「…うん」

私の憧れの魔王様だからね…。 (ママが魔王の時に攻め込まなかったり、人に手を貸そうとしたのって…)

そう。憧れのアルディエル母様の真似をしようとしてただけ。

本格的な魔道具も初めて見たのはアルディエル母様の所でだね。 (ほぇー)

戦闘や力の扱い方は勿論師匠から。魔道具や私の憧れる包容力や温かさはアルディエル母様から学んだんだよ。



「じゃあアスカもユウキもどうやって帰ってきたのー?」

「アルディエル母様が、平定後に闇ギルドを徹底的に潰すように指示を出しててね。多分、部下の人達が壊滅させたんだと思う。それで喚び出された契約みたいなものが切れたんでしょうね」

「お姉様達はその時帰ってきたの…?」

「そう。突然の事で、ちゃんとお礼もお別れも出来なかったんだよ…」 (また会いたい?)

それはそうだよ。会ってお礼を言いたい。

一緒に居たのはたった数カ月だったけど、アルディエル母様に会ってなかったら、間違いなく、私は今の私になれてないからね…。 (そっか!)


思い出したくない記憶と、忘れたくない大切な思い出がごっちゃになっているせいで、記憶の怪しいところも多いけど…

「これで私の話はおしまいだよ」

「話してくれてありがとうお姉ちゃん」

「別にアスカも、ユウキも悪いことなんてしてないじゃない!」

「だよねーやましい事なんてなかった!」

「それはママだし!」

ありがとうみんな…。


「さぁ、もう寝るよ。明日はドラゴライナ王国へいくからね」

母様、元気かな…。元気だろうなぁ…無敵だもんあの人。 (今はママも)

でも、母様には遠く及ばないけどね。


ゆっくり安心して眠れるようになったのも母様のおかげだよ。

ありがとう、アルディエル母様…。



〜〜〜〜〜



「はっ… アスカの声がした!」

「またですか、魔王様。 この数年、日に一回は言ってますよね? それ…」

「仕方無かろう…突然消えてしまったんだぞ? 寂しいに決まっておる…」

「可愛がっておられましたものね」

「妾の自慢の子供達だからな。何処かで元気にしておるのか…」

「ええ…きっと。なんせ魔王様に愛された子達ですから」

「ああぁ…帰ってきてくれー。 …子供がほしい…」

「それでしたら早く相手を見つけてくださいね。世継ぎも必要ですから」

「相手はアスカかユウキではだめか…?」

「…さすがに引きますよ魔王様。子供として引き取った相手にそんな…」

「二人とも可愛かったんだから仕方なかろう! もう他のものでは満足できん!」

「わがままになってしまわれて…おかげでまた私は城努めですよ」

「良いではないか、お前も姉のように慕われておっただろう。寂しくないのか?」

「…そうですね。初めは子供らしさの欠片も無く、心配で仕方ありませんでしたけど」

「あんな過酷な生き方を数カ月とはいえ幼い身体で体験しては…な」

「はい…あの子達の集めていた情報量からしても伺い知れます」


「そろそろ例の計画も最終段階だろう?」

「ええまぁ…あと数日もあれば準備は整うかと」

「フフフっ ハァーハッハッハッ!」

「はぁ…呼び戻された時から覚悟はしていましたがいよいよですか…」

高笑いをする魔王を見ながら大きくため息をつくウェルチだった。










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