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召喚被害者の日常は常識なんかじゃ語れない  作者: 狐のボタン
第六章

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嫁VS嫁



奥様の一人に案内されて向かった先は大通り。


大通りは木箱や看板など、周りのお店にあったオブジェクトまで積まれて、バリケードができてた。

「どうなってるんですか?」

合流して、比較的落ち着いている一人に状況の確認をしてみた。

案内してくれた人は既にヒートアップしてるし…。

「それが…」

話を聞くと、なんと言う事はない、痴話喧嘩。 (こっわ!!)

私が確認していた以外にも奥様が数人、挑戦者側に混ざっていたらしく、全員集まって言い合いをしながら撃ち合っている最中らしい。


他の人達がスタート地点から動かないわけだわ。 (王族のケンカ…)

そう聞くとおっそろしいな。



なんでも奥様達には明確なルールがいくつかあるらしく、アキナさんと二人きりで過ごす日が決まっているのもその一つ。

みんなその日を大切にしているし、奥様達の中で一番価値のある取引材料にもなる。

「どうしてもその日の都合が悪い場合、変わってもらったりもするんですが、たまにいるんですよ、賭けに使う者が…」

さっきもそんな話を聞いたなぁ。大切なのに賭けに使うのはどうなんだろう…。 (それだけ欲しいものとか?)

ふむ…。


スノウベルさんは賭けがやたら強いらしく、挑まれては返り討ちにして、アキナさんと過ごす日数を増やした事でヘイトを買ってしまったらしい。

「皆さんはどうしてスノウベルさんに賭けを挑むんですか?」

「ステッキです! あの可愛いやつです」

まさか… (ママの作った雪だるまの…)

この大騒ぎは私のステッキのせい!?


しかも今こちら側にいる奥様達は事務職の人ばかりで、戦闘になれてる人はいないらしい。

それでも数でなんとか押してるけど、決定打に欠けていると。


発端の話も聞かせてもらった。


〜〜〜〜


最初はなんてこと無い会話から。


「スノウ、それすごく可愛いね?どうしたの?」

「陛下の姪子様にもらった…助けたお礼にって」

「へぇーいいなぁ。 ちょっと見せて?」

「…ヤダ」

「えー、いいじゃない。取らないから」

「だめ…宝物」

「じゃあ、賭けをしよう! 私が勝ったら見せて。負けたら…」

「陛下との日を貰う…」

「それは流石にダメだよ!」

「私が負けたら、これ渡す…」

「……見せるじゃなくてもらうよ?」

「それでいい…」


〜〜〜〜


奥様達の間でもスノウベルさんの持ってるステッキは可愛いと話題だったらしく、何人もが賭けを挑む結果になった。

負けた人の仇討ちを兼ねたりもしていたのだけど、スノウベルさんはそれらすべてに勝利。 (ヤベーのこっちにもいた!)

運だけでは説明はつかないから、何かタネはありそうな気はするけど…。


「あの子、一定の条件下では賭けに負けないのよ」

「スキルか何かですか?」

「そうね、元々の幸運値が高い上に、守りたいものがある場合、更に上乗せになるの」

今回、その守りたいものがステッキと、アキナさんとの時間だった訳か。



当然おかしいと思った奥様達は、情報を集めてスノウベルさんのスキルのことを知り、アキナさんに直談判したらしい。

でも、賭けを持ちかけたのがスノウベルさんからじゃない以上、自己責任だと。

それでも納得ができないのなら、自分達で話し合うようにって。


「話し合いがこうなりました」

これは話し合いではないな? (痴話喧嘩の市街地戦)

物騒すぎる…仮想のフィールドで良かったよ!


私も、原因の一端を担っている以上無関係とも言えないのだけど、どうしたものかなぁ…。


悩んでいたらアキナさんの魔力を感じてそちらを振り向くと、建物の影から手招きしてる。

対戦中とはいえ、今はこんな状態だ、罠ってこともないでしょう。

撃ち合いをしてるバリケードの向こうにアキナさんがいなかったことにびっくりしたけど…。 (探索は?)

ティー達とお話してた時にきってたよ。


そっと移動して、アキナさんと合流。



「ごめんねー巻き込んじゃって」

「いえ、私も無関係ではありませんし…。この状況どうされますか?」

「一つ、いい方法があるんだけど、協力してもらえないかな?」

「はい。流石にこのままにはできませんし…」

「アスカちゃんはこの試合の景品がなにか知ってる?」

「いえ、挑戦者側が勝つとなにか貰えるとしか」

「それ、チケットと交換したステッキがもらえるの」

「…え?そんな物じゃみんな怒りませんか?」

「いやいや、何言ってるの! 今は試合の時にレンタルしてる分しかないから、自分専用が手に入る唯一のチャンスなんだよ!」

「は、はぁ…」

こっちでもステッキってそんな価値が? (ティー達のもレンタルだよ?試合が終わったら返却)

言ってくれたらみんなの専用を作ったのに。 (みんな持ってないのにズルいかなーって)

なるほどね、市販分がないからか…。


「直ぐに市販分を量産しますね」

「いいの!?ありがとう! じゃなくて、それもありがたいけど、今は嫁達の話!」

「…?」

「嫁達の景品をそれぞれの好みにしてあげてほしいんだよー」

「それくらいは構いませんが…でもまだ私達が勝つとも決まってないのでは…?」

「ううん。勝つよ。だって…」

アキナさんが自身の後ろをクイクイっと指差す。


背後にはスナイパーステッキを持った、よく見知ったメイドさんが。

「ピナさん!?」

「何やら揉めているので見に来てみれば、くだらない事でケンカしていたんです。止めるにはお嬢様のお力をお借りするしかないと思いまして」

「ちなみに私は、ピナに容赦無くやられたよー。嫁の管理不行き届きって言われたー。ひどいよねー」

なんとも返答し難い…。


「そもそも陛下が初めから止めていればこんな事にはならなかったのですよ」

「私はそれぞれの自由意志を尊重したいからねー。”命令”して止めることはできるけど、それをしたら皆は嫁じゃなくなっちゃうよ」

アキナさんらしいというか、なんというか…。


「そういう訳ですので、お嬢様、残りのメンバーを仕留めます」

「わかったよ」

「ごめんねーよろしく」

アキナさんに丸投げされた気がしないでもないけど、私も無関係ではないから…止めますか。


ピナさんは大通りを見渡せる場所へ移動。

私は挑戦者側の奥様達に合流。


「上から援護が始まったら飛び出して決着つけましょう」

「姪子様が協力してくれるなら勝てるね! すでに一度スノウを倒してるって聞いたし!」

いや、あれはお祖母ちゃん…。 まぁいいか。 

士気が上がってるのならそれで。 


ピナさんの狙撃が始まるのと同時に全員で飛び出して、まずは疲れ切っている諜報部の二人を奥様達が仕留めた。 (ハチの巣…)

うん、光弾でよかったよ。しかも奥様達のケンカに巻き込まれただけっぽくて可哀想…。 (嫁じゃない二人だし)

二人の表情から、そんな感じはしてた。 (最初にママが撃った二人の片方は嫁)

そうなのね…。



「…今度は負けない!」

隠れていたスノウベルさんは顔を出すと、私にターゲットを絞ったらしく、単発タイプのステッキで撃ってきた。

こちらも躱しながら応戦。


「…そこ。着地は避けられない」

飛んで避けた私の着地点を狙うスノウベルさん。 (ティーがママにやられたやつ!)

ジャンプされたら、着地を狙うのはセオリーだからなぁ。


私は着地前に足裏へ魔法防壁を展開。それを足場にして蹴り、スノウベルさんを飛び越えるように上へ。

「えっ…」

そのまま、真上から仕留める。


「…うぅ、また負けたぁ…」

頭のてっぺんに私の撃った光弾を乗っけたスノウベルさんが悔しそうに座りこんだ。 (頭ピカピカ)



挑戦者側の奥様達は大喜び。

スノウベルさんはアキナさんに泣きついて慰められてる。それに気がついた奥様たちがまた騒ぎ出す。

これ終わんねぇな? (ママ…)

ごめん…。まぁ、試合は終わったからいっか。


「お嬢様、さすがです。お疲れ様でした」

「ピナさんもお疲れ様。中立って言ってたのにアキナさんを撃って良かったの?」

「嫁としてすべき事をしました。お嬢様が夜更しをされた時等に、注意させて頂いているのと同じだと思ってください」

「なるほどね、理解したよ」

ピナさんはアレだな。例え主だろうが間違っていれば諌める。それができる人って事だね。

ありがたいよ本当に。 (ありがたいの?)

そうだよ。私だって絶対間違うことはあるし、それを叱ってくれたり、止めてくれる人は大切なの。 (うーん?)

ティー達も私が無茶したら怒ってくれるでしょう?それと同じ。 (あぁ!)


最後にトラブルはあったものの、参加者には使ったステッキがそのまま景品として配られたから、丸く収まった。

転売とかは無いだろうとは言っていたけど、欲しくてケンカする人がいるといけないから、全員分の魔力波長も刻んだ。 (実際にみたし)

そうね…。仮想の街でカタがついて本当に良かったよ。


ついでだし、希望を聞いて見た目のカスタムもしておいた。

これから量産品が出回ると、せっかくの景品も特別感がなくなっちゃうからね。


ゲームに参加してた私が開発者だと知ってびっくりしてた人も多々いた。

偶々当たりのチケットを引いただけなんだけどね。 (それでティー達は壊滅した…)

ごめんね? (楽しかったし、ママは凄かったからいいの!)

そっか、良かったよ。


問題の奥様達のステッキは、アキナさんのお屋敷にお邪魔して希望通りにカスタム。

スノウベルさんが部屋の隅で拗ねてしまっていたから、以前渡した雪だるまのステッキを試合でも使える仕様にしてあげたら機嫌を直してくれた。

「…ありがと。今度は負けない。これで勝つ…」

フンスと気合を入れていたけど、私はもう参加しないよ? (えー、チーム・まおーに是非!)

んー、じゃあ私を撃つ事ができたら考えようかな。 (無理なやつ! それ絶対無理なやつ!)

どうだろうね? (むー!)









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