猶予
「お嬢様、今日から授業ですけど、リズ様はどうされますか?」
「ティーと一緒に託児所へお願い。話も通してあるから」 (リズは任せてー!)
ティーもお願いね。
「了解致しました」
制服を着せてもらいながら、ピナさんと連絡事項の確認をして。
今日から久しぶりに普通の授業が始まる。
地球へも長く帰っていないけど、こっちで学校へ通ってるから感覚的には大丈夫と思いたい。
普段の授業とは違うけど、学校に行くという点では同じだし。
そもそも向こうでは大して時間が経ってない…。 (一月こっちに居ても一日…)
うん。ややこしいけどね。
準備のできたみんなと登校。
ユウキはスピネルと学生街のギルドへ向かった。ギルドが教室みたいになってるのかな? (そんな感じ!)
へぇー。冒険者だとその方がいいのかもね。 (うんうん。すぐに仕事にも出れるし)
もうほぼプロの冒険者だなぁ。 (ユウキはそう)
ユウキはね。文字通り歴戦の勇者だし。 (そう言うとかっくいい!)
うちの弟はかっこいいよ?頼りになるし。 (ほうほう…)
授業が始まると、一人お屋敷に残されるシャーラは、メイドさんとお留守番するしかなくなる。
ギリギリまで悩んで、渋々だけど転移して帰っていった。
手紙、ちゃんと渡してくれるといいけど…。 (ママからのラブレター)
ではないな。 (どちらかと言ったら絶縁状)
そこまでは書いてない! 身の危険を感じる間は行かないって伝えただけ。 (すっごいへこみそう)
それで懲りてくれたらまた行くよ。ツキにも会いたいし。 (頑張ってるから)
またリコに頼んでお菓子だけでも届けてもらおう。 (うんっ、喜ぶの!)
もう一つ。心配事と言うか、気にかけておかなきゃいけない事がある。
今日から学園へ通うシルフィー様の事。王妃様に任されてるし。
ただ、私とは通う科が違う以上、シルフィー様は未亜達に任せるしかないのだけど…。 (ティーも見とく)
お願いね。王女様に何かあったら一大事だから。 (はーい!)
「アスカ様と同じ科に通いたかったのですが、召喚獣も魔道具もさっぱりなので…」
「魔法に関してもあまり学ぶようなことは無かったわよ?アスカに教わった事のが的確だったし」
「まぁまぁリア。せっかくなんだから学生を楽しもうよー」
「うん。リアちゃんも友達できたんだし、学校は楽しいよ?」
「うちもお姉様達とお勉強できるのは楽しいの…」
「学園祭での出し物はみんなでの成果でしょう?学ぶ事はあるんだから楽しんでおいで」
「そうね、わかったわ。アスカももう問題起こしたり、攫われたりしたらだめよ?」
「わかってるよ!」
問題児みたいに言わないでほしい…。 (ノーコメントで)
チクショウめ。
「お母様、リズはティー姉といい子にしてますから安心してくださいなのです」
「うん。歳の近い子もいるだろうから、友達ができるといいね」
「はいなのです!」
ちょっとヤバいのもいたけど、子供同士なら平気でしょう…。 (見張るの! リズになにかしたら…)
なるべく穏便にね? (善処します…)
ティーなら大丈夫。そう信じて、託児所向かうティーとリズ、メイドさん達と別れる。
「アスカ様ぁ…」
「ほら行くわよ! 授業が終れば会えるんだから!」
私にすがり付きそうなシルフィー様は、リアに引っ張られて魔法科へ向かっていった。
ふぅ…。
「アスカ様、おはようございます」
「おはようございます、ストレリチア様」
「朝から、どこにアスカ様がいるかすぐにわかりました」
「お騒がせしてすみません…」
「いえ、ちょうどお話もありましたから」
「そうなのですか?」
魔道具科へ向かいながらストレリチア様から聞いた話は、サラセニア達の事。
「学園祭での働きが評価されて、謹慎処分が猶予される事になりました」
「猶予、ですか?」
「ええ。勿論、猶予期間にまた問題を起こせば、即刻謹慎になりますが」
執行猶予ってことか。 (もう問題起こさないかな?)
そう思うよ。学園祭でも細かい仕事から、大変な仕事まで進んでこなしてたし。 (ママが攫われた時も探してくれてた!)
うん。本当に心配してくれてたみたいだし…。
そして教室に入ると、また整列してるサラセニア達。 (ママ…)
いやこれは私のせいではないよね?
「アスカ様、ストレリチア様。今日からまたよろしくお願いします」
深々と頭を下げるサラセニア。習うように後ろのみんなも頭を下げる。
「そういう、取り巻きを連れてるところは変わらないのですか?」
「違います! 彼女達も自主的に…」
「そうです! 今はもう立場も関係なくお友達として一緒にいるだけですから」
確かに身分も失ったサラセニアには、取り巻きとしてついてても得はないだろうな。
ストレリチア様もわかってるでしょうに…。
「冗談です。私も貴女達の仕事ぶりは見てきましたから。改めてよろしくお願いします」
「はいっ!」
カマかけたのかと思ったよ…。ストレリチア様も人が悪い。 (腹黒ー)
言い方。相手は王女様なんだからね。 (はーい)
託児所でリズは大丈夫? (ママの娘だから、みんな整列して挨拶したよ)
そっちもかよ! (えー?)
はぁ…。
その日の魔道具科の授業は、学園祭の反省会と、これからの授業に関して先生二人から説明があった。
「今迄は見本を見て作るって作業だけをしてきたけど、これからはみんなの思い思いに色々なものを作っていいよ。 ただし! 先ずは術式を紙に書いて、必ず見せてね。その時点で危ないと判断したら書き直し!」
「学園祭で使ったステッキを作ってみてわかったと思いますが、遊べるものや便利な物、そういう物を考えてもらえると許可もしやすいですから」
これはいい変化だなぁ。きっと新しいものや面白いものができる、そんな予感がする。
「いいな。姫さんのステッキみたいなのを作れれば、遊べる魔道具が増えるし、一攫千金も…」
「欲に目がくらむと碌なことにならないわよ」
それは確かに…。
「アスカ様はどう思われますか?」
「えっ!?」
ストレリチア様は、急に私に振るのやめてほしい…。 (やっぱり腹黒ー)
……。せめて策士くらいにしとかないと。 (参謀?)
なんか違うな。
「そうだね、ステッキの開発者だし。どうしたら、ああいうのを思いつくのかみんなに教えてあげて」
ライラ先生まで…。
「……えっと…前にも言いましたが、魔道具は便利で楽しいものなんです。こんな魔道具があったら便利だな〜とか、大切な人に渡すならどんな魔道具がいいか…。使う人が喜んでくれたらいいな、と思って私は魔道具を作ってます」
「真理だね。魔道具はあくまでも道具。使う人によってその姿を変えることもありえる。私がそれをみんなに見せてしまったと思うわ」
ライリー先生は私が課題で提出した魔道具の事を言ってるのだろう。 (ママの魔道具で無双したから…)
あれは加減のわかってなかった私にも責任はあるのだけどね。
「姫さんの魔道具は規格外だからアレだけど、魔道具が楽しい物っていうのは俺たちも実感したからな」
「そうね。本当に楽しかったし…そういう物を作りたいわよね」
そうしてもらえると嬉しいな。娯楽が増えるのはいい事だからね。 (うんっ!)
「そういえば…学園祭でサバイバルゲームを映していた魔道具、あれはどうなってるのですか?」
「あれは…」
「私もあれは術式を見せてもらったけど、作れないよ…」
「ライラ先生でもですか!?」
「うん。繊細すぎてとてもじゃないけど再現できないね」
そういえば…安全性の確認をしたいから、術式を見せてほしいと頼まれたっけ。 (見たかっただけ)
そうかもしれないけど、安全性って言われるとね?見せない訳にいかないじゃない。
ただ、あれは魔刻刀で彫り込んでるからなぁ…。 (じゃあ、ステッキの改良型くらいで)
あぁ、それがあったね。
「学園祭で使ったステッキのバージョン違いなら作りましたから、それならどうでしょうか…」
ガタガタッ…!
教室のみんなが席を立って私の側に寄ってきてびっくりする。
「アスカ様、見せてください!」
「そのつもりですから、少し離れていただけると…」
「はいはい! みんな席について。アスカさんは前に来て見せてくれる?」
みんなに囲まれるよりはそっちのがまだマシかな。
先生の隣にいって、テーブルに、連射タイプと狙撃タイプを取り出す。
見えるように術式も書き出しておく。前のステッキよりは複雑だけど、作れないほどではないと思う。
魔力を貯める部分も私は試験管みたいに加工した魔石を使ったけど、加工しない魔石のままでも問題はない。
安全対策として、攻撃魔法に転用できない様に、敢えて術式は簡略化した上で脆くしてある。
仮に攻撃魔法をこれに書きこんで撃とうとしたら、術式が崩壊して焼き切れる。 (さすママ!)
私も懲りたからね…。
「使ってみたいです!」
「俺だって!」
「順番に使ってみてください。それぞれ三つありますから」
屋外の訓練場へ移動し、魔道具を使うみんなをライリー先生と見守る。
ライラ先生は生徒と一緒になって魔道具で遊んでるな。
「良かったの?また公開しちゃって。私達としては有り難いけど」
「ええ。安全対策はしてありますし…」
「じゃあ、また書類にサインもらうからね」
「あの…それなんですが、一つ条件をつけたいのですが、そういう事はできますか?」
「内容によるけど、どんな条件?」
「攻撃魔法や、人に危害を加えるものへの転用は禁止って物なんですが…。一応対策はしてありますが、もしもが無いとも言い切れませんから」
「わかったわ、そういう条件なら大丈夫」
「良かったです」
これでイレギュラーに関しても大丈夫だよね。 (まぁ、ママの魔道具をカスタムするのがまず無理?)
かなぁ…。一点特化の術式だから転用しようとしても、一から書き直すレベルになるけど、職人さんの熱意って凄いから。
連射と、狙撃タイプのステッキのせいで、みんなが遊びだしてしまい、授業にならなくなった。
私はその間にライリー先生の用意してくれた書類にサインしたりと細かいことを済ませる。
数人は自分用を作ろうと教室へ戻り、魔石に書き込む作業をしてたりするから、一応授業になってるのか?
まあ、先生も口出しをしないし、いいのだろう。




