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召喚被害者の日常は常識なんかじゃ語れない  作者: 狐のボタン
第六章

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路地の奥



「お嬢様、ここは私にお任せを…」

「大丈夫?」

「ええ。お役に立つところを見せないと、メイドとしても忍びとしても立つ瀬がありませんから」

いつも頼りにしてるのだけどな…。

でも、確かにここだとピナさんのが話が拗れないかもしれない。シルフィー様もいるからトラブルは避けないと。

なんせ、ここは獣人の人達の集まってるエリアだったから…。

私自身も獣人は魔力に敏感だっていうのを思い出して隠蔽する。

明らかに怯えていたり、遠巻きに様子をうかがわれているから、余計なトラブルを避けるためにも…。



路地を入った先の下町風とはいえ、別に不衛生で治安が悪そうとかそんな雰囲気はない。

ただ、突然入り込んできた私達が浮いてるってだけ。


ピナさんが変装を解き、耳としっぽを出した状態で、私達を守るように前に出る。

それをみて、一人寄ってきた身体の大きな獣人さんが話しかけてきた。

「迷子か?珍しいな。ここへ自分から入ってくる人族なんてしばらく居なかったからな。後ろの子供たちは姉さんの知り合いか?」

「はい。 いい香りに誘われて入り込んでしまったことは謝ります。ですからお嬢様方には…」

「いや、別にここで悪さをするとかじゃ無ければ追い出すつもりも、危害を加える気もない。オレたちは長く表に出られてないからな。情報をもらえるのなら助かるが…」

「そういう事でしたら…。 しかし、その様子では苦労されてるのではないですか?」

「んー、いや。ここの王族方はオレ達に不都合がないようにと、わざわざこのエリアを作ってくれたくらいだしな。月一で必ず物資も届けてもらえているし、生活に困ることはない。多少窮屈なだけだな。 政はわからんが、王族も色々あるんだろ?」

公爵家のせいで立場の悪くなった獣人の人達を守るために、国がここを作ったのか。

ひどい目に合う前にって事なんだろうけど、相変わらず仕事が早い。 



それからは声をかけてくれた、トラっぽい獣人のおじさんと情報交換。

うちの家族に獣人や、ドラゴンがいる事を知って警戒心も薄れたようで、色々と話してくれた。

「徐々にオレたち獣人の立場が悪くなってきたのは十数年前か…。その頃には既にここを用意してくれていたようだから、予想していたんだろうな。本格的に獣人のへの被害が出る前にと、みんなでここへ移住したんだ」

「いきなり住まいを奪われたのですから恨みそうなものですが…」

「確かにそういう者も居るが…あのまま表に居たらどうなってたか、それを考えたらな?」

見た感じ家族連れもいるし、当時には幼かった子も居ただろうから問題が起こる前に引っ越せたのは良かったのだろう。

獣人の人達の住んでいた家や店舗は国が買い上げてくれて、管理してるらしい。

一日でも早く戻れる日が来るといいね…。



公爵家やそれに同調する貴族を抑えられない以上、別の手を打ったのだろうけど、こんなエリアまで用意するなんて…。 (王族の人は優しい)

そうだね。陛下がお金がないって言ってたのもこういう事に回していたからかもしれないね。 (ママのドライヤー魔道具を欲しがった王妃様に…)

うん。値段が高くないかって心配してたくらいだから。

まぁでも、獣人を嫌ってた公爵家も悪徳貴族も潰れたから…。 (改善されていくかな?)

そう思いたいね。街の人たちの意識まで変えていくには時間が掛かりそうだけど、良くなることを願うばかりだよ…。



「貴方達の障害になっていた公爵家と貴族家なら、うちのお嬢様が潰しましたよ?」

「なに!?」

いや潰したのは私では…。 (きっかけはママだし)

私は降りかかる火の粉を払っただけだよ! (払ったというかバーーンって吹っ飛ばした?)

うぐっ…。


「どういう事だ!?王族ですら手を焼いていたと聞いていたが…」

「うちのお嬢様は、ドラゴライナ王国の王位継承権第一位の本物のお姫様ですから」

「ドラゴライナ王国…聞いたことのない国だな…。 いや、すみません。そうとは知らず無礼な態度を…」

畏まって頭を下げてくれるから止める。

「気にしないでください。いきなり入り込んできたのは私達なのですから。あと気にせず普通に話してください」

「そうだよー。ごめんねー余りにもいい匂いがしたから、お店があるなら入りたいなって思って…」

入って来る切っ掛けになったティアねえ様も責任を感じてるんだろう…。 (によいに釣られて入ってきちゃったし)

止めなかった私にも責任はあるから責めるつもりはないんだけどね。嫌がられてる訳でもなかったし。 (うん!)



「おぅ、そういう事なら歓迎する。いくらでも食べていってくれ」

路地から入ってきてすぐの所にあるお店がトラ獣人さんのお店らしい。

レウィもお店をみて尻尾を振ってるから、匂いの元はこのお店で間違いなさそう。というか、ここまで来れば私もいい香りが分かるし、お腹が空いてきた。



店内の団体用の席に案内されて、オススメを頼む。

メニューを見る限り、ここもどうやらステーキが主流らしい。 (トラだし…)

でも、草食っぽい獣人の人もいたよ? (うさ耳とか?)

そうそう! (野菜とか食べてそう!)

かなぁ。



こちらの住人と会話をしてくれて、とりなしてくれたピナさんには感謝しかない。

「ピナさん、ありがとう。トラブルにならなくて助かったよ」

「いえ、元々険悪な雰囲気でもなかったようですから」

「ごめんねー私が行きたいっていったから…」

しょんぼりしてしまってるティアねえ様を慰めながら、料理を待つ。



「待たせたな! うちの看板料理だ。カミさんの得意料理なんだぜ?」

出してくれたのは、ニンニクのいい香りのする、角切り肉が入ったパスタみたいなのだった。

見た目と香りは、ペペロンチーノに肉を足したような感じだろうか?

食べてみると、肉はジューシーだし、ソースがパスタと絡んですごく美味しい。

みんなも美味しいって食べてるからおじさんも嬉しそう。

「そうだろう、そうだろう。肉食系の獣人には人気なんだぜ」

「やっぱり食べるものは別なんですか?」

「それはそうだ。肉なんて見たくもないって種族もいるからな」

未亜は獣人に慣れないからか、不思議そうにしてる。 (レウィやメイドさんくらいしか知らないし)

それもそうだね。私もそこまで詳しくはないもんな…。


「あらあら、珍しいお客様だって聞いたけど、本当だったわ」

店の奥から顔を出したのは多分おじさんの奥さんだろう。エプロンをしたトラの獣人さん。 (でっけぇ!!)

何がかな!? (いろいろ!)

まぁ…うん。 (ママでも勝てねぇ!)

やかましいよ? (あはっ)


話好きなのか奥さんは近くに椅子を持ってきて座ると色々と話を聞かせてくれた。

「貴女くらいの年齢だと街で獣人を見るのも初めてになるのかしらねぇ」

「初めてではないのですが、あまりお話とかしたことがなくて…」

「怖がらなくてもいいわよ。 確かに姿は違うし、食べるものも違うけど、それって人でもそれぞれ好みが違ったりするでしょ?」

「あ…個性みたいなものでしょうか」

「そうそう。そんな認識でいいわ」

未亜は色々と獣人について質問をしてるからみんなも食べながらそれを聞いてる。


「私達ドラゴンだって違う種族もいるし、細かいこと気にし過ぎなのよ、未亜は」

「そうかも。慣れないからびっくりして」

「怖がられたり、避けられたりするほうが私達は傷つくから、普通に接してくれていいわよ」

「はいっ」

リズは魔族で見慣れてるからか気にもせず、私の隣で箸を使いパスタを食べてる。 (フォークは…)

箸がいいみたいよ。 


「お母様、美味しいのです! パスタみたいなのです」

「パスタ知ってるんだね」

「はいなのです。 でもお店で食べるのは初めてなのです!」

これは連れてきてあげてよかったなぁ。これからも色々と連れて行ってあげたい。


「ほら、リズーほっぺについてるよー」

「ティア母様ありがとうなのです」

「貴女もお母様って、何人母親がいるの!?」

そこ、突っ込まないでほしいなぁ…。


「アスカ様のお子様ですから私達にも娘なんです。そうですよねリズ」

「はい! シルフィー母様!」

「貴女、もしかして見た目より年上?」

魔王の時を入れたら四百越えてるけど…。

「一応まだ、十五です…」

「養子ってことかしら。王族で養子をとるってのも珍しくない?」

「そうですか?私の大切な娘なのには変わりませんから」

「そっか。余計なお世話だったわね。あっ、そうだわ。お詫びにデザート出してあげる!」

そう言って一度奥へ引っ込んだ奥様は、お盆を抱えて戻ってきた。


「冷たくて美味しいわよ?」

テーブルに並べてくれたのは、くず餅かな。 (初めて見るの!)

私が知ってるのは、葛っていう植物の根から取るデンプンから作るお菓子だよ。 (へぇー)

このお店では、黒蜜やきな粉ではなく、フルーツのジャムがかけられてて見た目も鮮やかでかわいい。


「ありがとうなのです! わぁ〜可愛い…初めて見るのです!」

「この辺だと割と当たり前のデザートなんだけど…珍しいのかしら」

「それは俺たちの感覚だろう」

「あぁ〜。そう言われたらそうね」

詳しく話を聞くと、このくず餅みたいな物の原料となるのは麦ん粉と言う、麦から作る発酵食品らしい…。

それを作っているのが草食系の獣人さん達だから、ここしばらくは人族の方へは出回っていないのでは?って話だった。


欲しかったら譲ってもらえると言われたので迷惑にならない程度の量を譲ってもらった。 (なにか作るの!?)

普通の葛餅を作ろうかと思ってね。 (楽しみー!)


お礼はお金より食料品がいいと言われたので、大量にある肉類やフルーツなどを渡したら喜んでくれた。

それをみんなに配る事になり、他の獣人さんとも話したりして多少なり私達への警戒心は薄れたのかも。

「フルーツだー! 貰っていいの?」

「いいよー。沢山あるからみんなで分けてね?」

「ありがとうお姉ちゃん!」

うさ耳をぴょこぴょこさせた子供達がフルーツを喜んでくれて私も嬉しい。


配るのを手伝ってくれてるレウィがやたらお姉様方に人気だな… (魔力の多い獣人は魅力的!)

モテてるの? (なんかでも、単に撫ぜられて可愛がられてるような…)

だよね?本人も嬉しそうだからいいかな。プレイボーイとかになられるよりは…。 (身近に一人いる…)

……。


配ったフルーツを受け取り、嬉しそうなうさ耳の女性にしきりにお礼を言われる。

「ありがとうございます。フルーツは日持ちしないので、最近あまり食べさせてあげられてなかったの」

「そうだったのですか…。遠慮せずに貰ってくださいね」

草食系の獣人さんたちにとってはご馳走らしく、本当に嬉しそう。



「すまないな、こんなにたくさん貰ってしまって」

「いえ、私も貴重な物を譲っていただきましたから」

「…ここの代表として、本当に感謝する」

トラの獣人さんが代表なのか。 (一番おっきいし!)

まぁ、そうね?私も見上げるくらいだもん。


あ、そうだ。

「代表の方に、これも渡しておきますね」

「これは…?」

「マジックバッグです。フルーツや野菜類、肉類も入れておけば痛みませんから、日持ちしないものは入れておくといいと思います」

「いや、しかし…。そんな高価なものを貰っちまう訳には…」

「私の作ったものなので気にしないでください。小さな子に食べ物を我慢させる様な事、私はしたくないですから」

私もティーやリズ、精霊の子達がいるからこそ、そう思う。美味しい物をいっぱい食べて、元気にいてほしいから。


「すまないな…。そういう事なら有り難く。間違った使い方をしないよう、大切にさせてもらう」

「はい。誰でも取り出せるほうがいいですよね?」

「そうだな、取り出せる人間が限られてしまうと、トラブルになりかねん」

「でしたら、そのままお使いください。私の魔力量で容量は維持するようにしておきますから」

「大丈夫なのか!?」

「それくらいなら問題ないですよ」

私のマジックバッグ扱いにして、誰でも取り出せるようにしておくだけだし。


「本当にありがとう。これで新鮮な野菜や果物を好きな時に食べられるのなら子供達だけじゃなく、大人も喜ぶ」

この方なら大丈夫だろう。そんな気がするから任せる。 (いい人だし!)

うん。渡したマジックバッグの中には予め野菜やフルーツ、肉類も入れてあるから困りはしないよ。 (全くもーママはー)

私も貰った物をみんなにおすそ分けしてるだけだよ。食べきれないもの。 (ティー達のママは自慢のママ!)

ありがとう。それは嬉しいな…。













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