リズとまわる学園祭
学園のお屋敷に帰ると、流石にみんなも着替えてくれてて助かった。
起きたら居なかったとチクチクとお小言は貰ったけど、行き先はティーから聞いてたから心配はしてなかったそう。
ありがとね。 (あれはママが逃げたくなるのわかるし…)
だよね…。 (そろそろ本格的にママが危ない!)
やめてよ…フラグみたいじゃない!
リズに関しては、私の心配も杞憂に終わり、朝から元気いっぱい挨拶に来てくれた。
「お母様おはようございます!」
「おはよう、リズ。昨日はごめんね…もう痛みはない?」
「はい! ティー姉から一番痛くないようにしてくれたと聞いたのです…ごめんなさい」
一番かどうかはわからないけど…。 (安全ピンよりは)
あれと比べたらね?
リズもピナさんがメイドとして担当してくれるから、学園ではティーと託児所に行く事になる。
この辺は学園長にも承諾はとってある。生徒として通えない以上仕方がないし。
それも学園祭が終わった後の話で、まだ数日はみんなと行動を共にするから問題はない。
そう思っていたのだけど、リズが学園内で私の事をお母様って大声で呼んだものだからちょっとした騒ぎになった。 (ちょっと?)
……年齢的に計算が合わないものだから余計にね…? (問題はそこかな…)
ティーがママって呼ぶ時はいつも遮音魔法の範囲にいたから良かったものの、リズは魔道具科のゲームに興奮してて、カメプロの映像をティーと見ながら、離れたところから呼んだものだから…。 (ママはクラスメイトと打ち合わせしてたし)
私も当たり前に返事しちゃったからな…。 (一番の原因はそれ)
やってしまったなぁ。でも無視なんてしたくないし。
「アスカ様は既に子持ちなのですか!?」
「ストレリチア様、英雄は色を好まれるものですよ?」
サラセニアは王女様に何を教えてるの! というかあの二人仲良くなったな!! (意外…)
リズは養女として引き取ったからと、説明してなんとか騒ぎは収まったけど…。 (すぐ広まりそう…)
それに関してはもう諦める。
魔道具科の運営を手伝う私に、うちの家族はついてきてたから、ゲームも私が抜けた所にリズが入り、五対五のフラッグ戦をする。
朝から既に行列が出来てるから、デモンストレーション代わりにうちの子達に対戦してもらう。
私はリズの身体能力とかも確認できるから一石二鳥。
昨日とは一般のお客さんが違うから、噂だけでルールを知らない人ばかりだし。 (学園祭の参加希望が多いから総入れ替え!)
抽選だったらしいもんね。 (そうそう。生徒の身内と来賓は自由だけど)
シルフィー様も今日は朝から一緒に行動してるしなぁ。 (ゲームに参加せずママにベッタリなのは…)
言わないで…。強く言えないんだから。
「これもアスカ様が…」
「そうですよ。 我が魔道具科の仲間ですから!」
「ストレリチア様、これ…うちの国でも広めたいです」
「手続きさえしていただければ大丈夫です」
なんかまた権力者によって、とんでもないことになりそうな予感…。 (ママにお金が入るだけだし)
早くマジックボード入荷しないかな…。散財できるのに。
そろそろうちの子達のゲームが始まる。
リズはこの世界でなら冒険者としてやっていけるだけの力はあるとファリス達に話したけど、それはあくまでもステータスの話。
まだ幼いし、経験もないリズは普通の子供とさほど変わらない。
フラッグ戦を見てて改めてそう思う。
ただ、吸収力はあるようで感覚を掴むのも早い。
今も、不意打ちでリアに当てたくらいだし。 (強くなる?)
そうだね…魔王の称号を持っている以上それは間違いないけど、まずは精神面だな。 (大切なこと?)
うん。私が師匠に教わった大切な事。力を持つ上での心構えをまずは教えて、それからだね。
私はリズに多少厳しくなる事もあるだろから、サポートお願いね。 (あい!)
絶対に、力の使い方を間違えるような”魔王”を育ててしまう訳にはいかない。 (悪の魔王…)
そうならないために、だね。
うちの家族のおかげで、デモンストレーションも成功したし、今日も魔道具科は忙しくなるな。
「アスカ様、今日も滑り出しは最高ですし、こちらはもう大丈夫です。召喚科にも行ってあげてください」
ストレリチア様もそう言ってくれてるし移動しますか。
今日はお昼の前後が召喚科の当番だからな。
未亜達、魔法科の子やユウキ達とも別行動になる。
魔法科の出し物は今日も午後一からだから、タイミングが悪い。
リズに見せてあげたいから明日は絶対に連れて行こう。
召喚科へ移動し、仕込んできた母さんのレシピの塩味も追加。
試食してもらったけど、クラスのみんなにも好評だし大丈夫だろう。
手間も漬け込むタレが増えるだけだし。
またモルチアナの持ってきた書類にサインはさせられた。
これは母さんのレシピなんだけどな…。 (お金入ってきたら渡せばー?)
そうだね。そうしよう。
母さんがこっちのお金を必要とするかはわからないけどね。 (アクシリアス王国でも使えるから)
それもそうだね。ただ、まぁ…貰えるかもわならないお金のことで悩んでも仕方ない。 (絶対儲かる…)
母さんの味は間違いないしなぁ。
リズも初めて食べた唐揚げは美味しかったらしい。
好みはにんにく醤油みたいでたくさん食べてくれた。…母さんに勝った! (リズの母の味)
そうなるのかな…。また色々作るからみんなで食べようね。 (うんっ!)
召喚獣への接し方の知識は、リズもしっかりと持ってて、私からの知識の継承がされているのを実感。
「お母様もつれてる! ラムネ可愛い…」
そう言って私の首に巻き付いてるラムネを撫ぜている。教えていないラムネの名前とかの知識まで継承してるのか…。
それなら…
「リズ、強い力を持つものに大切な事はなにか知ってる?」
「力に傲り、他者を見下さない事。力を使う時を決して間違えないことです」
「そうだね、偉いよ」
撫ぜてあげたら嬉しそうにしてる。これは嬉しい誤算だな。 (先代に感謝!)
うん。こういう知識をしっかりと継承してくれたのはありがたいね。
ちゃんと意味を理解しているかはこれから見守ればいい。 (ティーも見とく!)
お願いね。リズは妹なんだから。 (ふっふーん。任されたのー!)
うちには頼れる家族がいるし、みんなにもお願いしておこう。 (それがいいの)
誤算に関してはもう一つ。
リズは魔道具を作る知識は継承されてなかった。
心配になり、召喚獣の事も細かく確認したら、接し方や大切な家族っていう部分のみで、召喚方法や、喚ぶための魔法陣に関しては知らなかった。
魔法も、魔力操作や制御といった基礎のみで、実際に使ったこともないと。
余程先代は弱っていたんだろうか…。本当に大切な事のみに絞って伝えたっぽい。
これからリズが何をしたいか自由に選べると言う意味では、これで良かったのかもしれないけど…。
召喚科のキッチンで塩味の唐揚げを大量に仕込み、フロアでは召喚獣の芸に演出を加えたりとお手伝いも無事に終了。
一つ問題としては私がいないと演出をできる生徒がいない事。魔道具つくって配備するか…。
手伝いの終わった後は自由にしていいと言われたので、合流したみんなと学園祭を回る。
冒険者科の屋台では、ティー、シエルに買い物の仕方を教わってるリズを見守る。
「アスカ、どうしたのよ?大丈夫?」
「うん? 私、なにかリアに心配かけちゃった?」
「そうじゃないわ。真剣な顔をして考え込んでるようだったから…」
「あぁ…。リズを引き取った以上、しっかりと面倒を見なきゃなぁと思ってね。リアも力を貸してね?」
「もちろんよ! アスカの娘なら私達にも娘なんだから!」
「そうだよー間違ったら叱るし、いい子なら褒める! そうでしょー?」
「うん、ティアねえ様の言うとおりだよ」
ありがたいね、本当に。
「お姉ちゃん、リズちゃんも向こうへ連れて帰るんだよね?」
「多分そうなると思う。ファリスのところへ送り届けてもいいけど、嫌がりそうじゃない?」
「うん。一緒がいいな」
「ありがとね未亜」
「うん! あ、リズちゃん、シエルちゃんとユウキ君のお店で値切ってるよ」
「シエル、味をしめたね」
「ユウキが頭を抱えてるから負けたみたいよ?」
売上に影響が出てないといいけど…。
服飾科では、展示してある服にリズも投票してた。
どれに入れたのか私は見てないけど、みんなのリアクションを見る限り、リア達のを選んだっぽいな。
シエルが服を作る約束してるし…。
「お嬢様、ご身内の方が勝てる様、細工いたしますか?」
ピナさんが小声で耳打ちしてきたけど、断る。
「それは絶対にしちゃだめ! 他の作品を作った人には勿論だけど、頑張ったうちの子達にも失礼だからね」
「差し出がましい事を申し上げました。申し訳ありません。さすがですね主様」
また主様になってる! と言うか試されたのか?私は…
昨日の事があるから、騎士科は避けたいなーと思うんだけど、ダメ?
リズは戦いを見てみたいと…。仕方ない諦めるか。
シルフィー様は、みんなに昨日の戦いの様子を話してるし、ティーがカメプロで録画したのを器用に見せてる。
「お母様すごい…リア母様も出来ますか?」
「私は魔法のが得意なのよ?だから…」
「魔法もアスカには叶わないでしょー」
「そうだけど!」
…ねぇ、いつの間にリアまで母様に? (みんながそう呼ぶように教えてたよ?)
誰と誰か詳しく! (未亜、リア、ティア、シルフィー様)
おーい、ちょっと待て! 百歩譲って前の三人は諦めたとしても、最後の一人はおかしい! (手遅れ?)
頭痛い…。シエルとかレウィは? (シエルとスピネルは姉様、ユウキは兄様。レウィは…)
レウィは!? (レウィちゃん)
本人もそれでいいって? (気にしてないのー)
そう。ならいっか…。
「リズ、アスカ様は特別なのですよ。私達母様の中でも一番なのです!」
「わかりましたシルフィー母様!」
本当どうしよう…。王妃様になんて説明したら…。 (笑いそう)
それですめばいいけどね。
騎士科の模擬戦を見たリズは、剣戟の音に怯えて私の後ろに隠れてた。
「お母様、あれは当たったら痛い?」
「そうだね、武器だから」
「……」
これは無理に戦闘を教えないほうがいいかもなぁ。
私の手を握る、リズの小さな手が震えてるのを感じながら、そんな事を考えてた…。
誤字報告ありがとうございました。
「しゅーせー完了!ありがとーなのー」
「ティー姉何してるのです?」
「リズもお礼いってー」
「えっ?あ、ありがとうなのです! 何のお礼なのです?」
「あとでおしえてあげるー」
「わかったのです!」




