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召喚被害者の日常は常識なんかじゃ語れない  作者: 狐のボタン
第六章

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大忙しの準備期間



それからの準備期間は毎日が怒涛のように過ぎていった。


四日間ある学園祭の最終日に行われる、ストレリチア杯と名付けられたマジックボードレースは誰でも参加できると言われて、当然ティーは例のバイクでエントリー。

リアも参加するって言うから、マリッタさんのお店で新たにボードを購入し、リア好みにカスタマイズ。

見た目はキックボード風のままだけど、カラーリングがパステルカラーで可愛らしく、ハンドルからふわふわの翼みたいな装飾をつけた。

これがリアの身体を守る物にもなる。

リアって意外に乙女でファンシーなんだよね…。可愛らしくまとまったなぁ。

当然こちらもティーのと同じように安全対策は万全。一つ違うのは炎のエフェクトではなく、真っ白な羽根が舞う。

二人ともこのエフェクトはここぞという時に使うってはりきってた。


放課後にはドラゴンの里へ行って乗り回してたから、その様子を眺めつつ、希望に合わせて調整したりとレースに向けての準備もバッチリ。 

学園街で乗らないのかって聞いたら、ライバルに見られたくないと。

その代わりに里のドラゴンや、フィアとニレに見られて欲しい欲しいとちょっとした騒ぎに。

今、マリッタさんのお店に何台か注文中。

レースがあるから品薄らしい。

リアのが買えたのは、マジックバッグのお礼にと、マリッタさんが残しておいてくれたおかげだった。


未亜とシエルは一度乗ってみたけど少しだけ庭で走って”もういい”って二度と乗らなかったし、ティアねえ様は近づこうともしなかった。

「無理無理。意味わかんないよー身体むき出しとか…怖すぎる!」

「ねえ様だってドラゴンの時は生身で飛んでるのに、おかしなこと言うわね?」

「それはそれ! これは駄目!」

その辺は複雑らしい。

ユウキはティーのを借りて楽しそうだったし、レウィはティーとタンデムしてて可愛いかった。

サイドカーつけてもいいかもな。 (欲しい!)

そんな訳で、レウィ専用サイドカーも装着。レースの時には外さなきゃだけどね。

専用ヘルメットが二人ともよく似合う。


ティーは希望通りの革ジャンをシエルに作ってもらい、リアも可愛らしい衣装で当日はレースに出る。

対極なセンスの二人がどうなるのか…楽しみだよ私は。 (負けない…!)

無理はしないんだよ。 (はーい)



肝心の学園祭の準備だけど…。

運営に関する全ての予算は学園が出してくれるとはいえ、各種材料や資材の手配などは生徒達が自身でしなければいけない。

二箇所の仕事をこなさなければいけない私は大忙しだった。

これは当然、未亜達も同じ…。


服飾科はチームでそれぞれ好きなものを作り、当日に展示し投票で優秀作品を決めるらしい。

「お姉様、お願いがあるの…」

「どうしたの?シエル」

「優勝した服を魔道具にして欲しいの…」

「どういう事?」

詳しく話を聞くと、優秀作品を作ったチームへのご褒美を何にしようかって所で揉めたらしい。

それで、服飾科本来の目的に行き着いたと。

確かに魔道具を付けるための服飾をデザインするのが服飾科だものね。間違ってはない。


「一番になった服に、魔道具科で一番魔道具を作るのが上手い人に魔道具をつけてもらおう! って…」

「それで私?」

「そうよ! 服飾科の満場一致! 当然魔道具科にも許可はもらってるわよ?」

「なんで私の事が服飾科に知れ渡ってるのかな?しかも私は魔道具科でもそんな話聞いてない!」

「学園でアスカを知らない人が居るわけないじゃーん!」

頭痛い…。 (相変わらず目立つママ…)


「お姉ちゃん、お願い!」

「お願いしますお姉さま!」

「いや、誰!?」

「一緒にチーム組んでる、ミリィだよー」

知らない子が屋敷にいるなぁとは思ってたけど…。 (そこで気にしようよ)

友達連れてきてるのかな?と思ってた。 (間違ってはない)


まぁ、うちの家族の頼みだし…。

「わかったよ。みんなも頑張ってね?」

「当たり前よ! アスカに魔道具を作ってもらうのは私達よ!」 

「だよねー」

応援したはいいけど、大丈夫かこれ…。マッチポンプみたいにならないか不安。 (他のとこも凄いから!)

そうなの?私はてっきりシエルがいたら無敵かと…。 (他にもすごい子はいるの)

へぇーそれなら面白くなりそうだね! 心置きなく応援できるよ。 (うん!)


魔法科に関しては何をするか教えてくれなかった。

当日のお楽しみ! って言われて…。

魔法を使うのだけは間違いないんだろうけど。



ユウキとレウィが所属する冒険者科は、狩った魔獣の素材を安く売る即売会をするらしい。

魔石もあるって言われたけど、沢山あるしなぁ…。

でも、ユウキとレウィのお店に貢献したいし。これは行かなきゃだな。



私の方は、まずは魔道具科から。

こっちはステッキタイプの魔道具をクラスのみんなが量産中。

元々の教室の規模も大きいのに、フィールドは教室と訓練場をぶち抜いての広大なものになる。

当然、同時にフィールドへ入るプレイヤーも多くなるから、予備も含めて数十個のステッキが作られる事になる。


ただ、魔道具に関しては私が作るとすぐに終わるからと十個ほど作ったところで止められた。

代わりにフィールドの作成を任されてしまったよ…。

そっちもみんなで考えた図面通りに、魔力ドームで包んで終わらせたら唖然としたみんなに怒られた…。

なんでなん…? (加減しないから…)

「びっくりしますから! なんですかアレ! 一瞬でぱぱぱって…」 (←王女様)

「やっぱり王子様しゅごい…」 (←悪ポエ)

「ま、魔道具は俺達に任せてくれ! 姫さんは、慣れない子に指導を頼む!」 (←モブ男子。この学校で男子生徒からのママの呼び方は姫さんで定着。始めは抵抗してたママも諦めた)

「わかりました…?」


午前と午後で行く教室を分けてるから嫌がられないか心配だったけど、快く送り出してくれて助かる。 (まぁ、もうすること無いし?)


召喚科では、メインで芸をする召喚獣の子達が決まり、その主達は全力で召喚獣とのコミュニケーションをとってる。

当然、上手く行かない子もいたりしたから、アドバイスをしてあげたりして段々と纏まってきた。


カフェのメニューは、私が前にみんなに配ったラングドシャと、カップケーキが忘れられないらしく、召喚獣の子達も食べたがってると言われたら作るしかない!

教室にオーブンや冷蔵庫の魔道具を置いて…

「アスカ様?これは…?と言うか今、ストレージから!?」

「はい。私の作った魔道具調理器具です。調理担当の人には使い方教えますね」

驚いてはいたけど、使い方は覚えてくれたから、お菓子の作り方を教えながらまずは作ってみる。

今回は私一人で下準備をするわけではないから、魔力ドームを使えない。

そうなると、泡立てるのも手作業。

「腕が痛いですわ…これを何度も繰り返すのは流石に無理そうですわね…」

「うん…悔しいけどメニュー変更も考えなきゃかな…」

うーん…魔力ドームがダメなら、ミキサーにしよう! (←やらかすママ五秒前…)


魔力を流せば泡立て器がウィーンと回転。ご家庭でお馴染みのハンドミキサー! (魔力ドーム内で一瞬)

回転だけは魔道具になるから魔石に刻んで…。 よしっ!


「これ使ってください!」

「今何してましたの!?」

「さすが魔道具科との兼任…職人だわ」

使い方を教えてあっという間にメレンゲも作れるようになる。

「アスカ様、これらの魔道具って申請しておられます?」

「申請?」

「あ、これダメなやつ! モルチアナ!」

「わかってますわ! これ、お借りしますわね! 運べないものに関しては、魔道具科の先生を呼んできますわ」

ミキサーを一つ抱えたモルチアナは教室を飛び出していった。 何事?


「姫さん、お菓子もいいけどさ、肉もほしい! ほら、うちの召喚獣はそっちのが好みだし」

「そうですね、いくつか試作してみますから皆さんで一つ選んでください」

「やったぜ!」

「私も食べたい!」

取り敢えずは手持ちの食材で…。 (ワクワク!)



まずは定番のハンバーグ。 (きたこれー!)

次は鶏肉の照り焼きピサ。 (ゴクリ…)

最後はニンニクの効いた唐揚げ! (食べたいーー!)

ティーが絶叫してるな…。 (そっち行きたいの…)

ピナさんに怒られるよ? (うぁぁぁん!)

また作るから。ね? (ぐす…ぜんぶ?)

うんうん。 (わかった!)


それぞれ少しずつだけど試食してもらった。

「ヤバい…何これ美味しい!」

「…え、この中からひとつだけ?全部食べたいんだけど!」

「当日作るのはみんなですよ?」

「うっ…」

「なんですの、このいい香りは!」

「ホントだ! なにか食べてる」

何でここにライラ先生が!?


まぁいいか。戻ってきたモルチアナにも試食してもらう。

「おいひいでふ…なんですのこれ! アスカ様、これらのレシピの申請は…」

「……?」

「モルチアナ!」

「わかりましたわ! もう全て私にお任せくださいませ! アスカ様は思う存分、自由に動いてください!」

なんだかよくわからないけど、そういう事なら…。 (心強いサポーターが!)


作るメニューは唐揚げに決まった。

確認したらどの材料も当たり前に手に入るし。

トカゲの召喚獣をつれてた男子が、食材の手配もかって出てくれた。 (よほど美味しかったらしい…チクショウめ!)

唐揚げが選ばれた理由としては、使う材料も少ないし、ぱっと食べやすく、器によっては簡単に持ち帰りもできるっていうのが大きかった。


調理器具の魔道具を見ていたライラ先生に質問攻めにあったり、モルチアナが持ってきた書類にサインしたりと、あっちもこっちも大変だった。 (ママ、変な書類にサインしたらだめだよ…?)

うん。ちゃんと確認したよ。 

魔道具各種と、料理のレシピに関する権利を届け出るためのものだって教えてくれたよ。 (本当に理解してるのかティーは不安)

変な契約書とかじゃないからね!? (そっちの心配じゃないのー)

うん? (……)



(後日、調理器具の魔道具や、料理に関するママの取り分が大量に届くのはまた別のお話ー)

「…………」 (使い切れない額を前に、遠い目をしてるママを見ながら今日はおしまい! またねー)






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