公爵家
公爵家令嬢のサラセニアは一足先に到着している騎士の人達に何やら説明してるみたい。
その騎士達も、かなりの数が公爵家のお屋敷をぐるーっと囲んでネズミ一匹逃さないスタイル。
こちらに気がついた騎士数名が王子様の元へ駆け寄ってきて現状報告を始めた。
「包囲は完了しました!」
「ご苦労。一人も出すなよ」
「はっ…。 しかし、問題がありまして…」
「なんだ?」
「御令嬢が仰られるには、公爵様と、ごく一部の者しか知らぬ抜け道があるとの事で、ご令嬢も場所までは…」
「そこを使って証拠を運び出されたら終わりではないか!」
「今、全力で捜索しております!」
抜け道ねぇ…。ティーは知ってるよね? (モチロン! 誰もまだ抜けてないよ。鍵を探してる)
厳重にしたのが仇になってるのか、公爵本人がいない事を想定してなかったのか。
抜け道は地下? (そう! 例の地下室から出られるの)
地下だと、探索がしにくいけど、深くなければ…。 (見えた?)
うん。報告しとくか…。
「王子様、抜け道の出口を見つけました」
「なに!?」
「ニ件隣の建物の中です」
「案内してもらえるか?」
「はい」
騎士も数名同行する。
「危ない事になるかもしれん、ストレリチアはここで騎士と待機だ」
「わかりました。お二人ともお気をつけて…」
お屋敷が大きいから二軒隣と言えど距離はある。急がないと!
「抜け道が何故わかったか聞いてもいいか?」
「はい、大丈夫です。 探索で地下まで見ただけですから。お屋敷から通路が繋がってます」
「探索持ちだけでも稀なのに、地下まで把握できるのか!?」
「深すぎなければ…ですが」
山の洞窟深くに埋められていたスピネルの身体を私では見つけてあげられなかったから…決して万能ではない。
「ここは…確かデザイアの名義だったはずだが使用してる様子がなかったのは、そういう事か」
「ここではなく、あっちの建物です」
地下通路は敷地内の大きなお屋敷ではなく、外れにある小さな建物の方に繋がってる。
「わかった!」
到着した建物は倉庫のような建物なのに、扉はやたら厳重。 (鍵見つけたよ!)
じゃあこっちに抜けてくるね。 (うん!)
「なんですか! 貴方達は! って…王太子殿下!?」
「通してもらうぞ」
「なりません! こちらは公爵家の…」
「デザイアの私有地だろう? 何故公爵家の人間がいる?」
「いえ、それは……」
「お前たち、行け!」
「「はっ!」」
抵抗しようとした使用人らしき人はあっさりと取り押さえられて終わった。
王子様に尋問されてるけど、口を割らなさそうだな…。
危険を察知した使用人が動いたんだろうけど、動きが早すぎない? (悪ポエの行動を怪しまれたの)
先に案内したのが失敗だったのかな。 (騎士の仕度に時間かかったから)
あの大人数だもんなぁ。
あ、そろそろこっちに来ちゃうな…
「こっちへ抜けてきます!」
「なに!? お前たち、絶対に取り逃がすなよ!」
どれくらい逃げてくるのかと思ったら… (結構な人数)
だねぇ…。騎士数名じゃキツイか。 (多分無理!)
「十数人抜けてきますから、手を出してもいいですか?」
「そんなにか…手を貸してもらえるのはありがたいが、証人だからな…」
「傷つけずに止めます」
「助かる! 何かすることはあるか?」
「全員建物から出ててください。皆さんには終わった後に運んでいただければ」
「うん?それは勿論だが…」
「すみません、説明したかったのですが、そこまで来てますから!」
「わ、わかった! お前たち、建物へは入るなよ!」
倉庫そのものを先ずは魔力ドームと、魔法防壁で包む。
倉庫の扉を開けようとしたけど、防壁に阻まれて開かない。
「なっ…出られないぞ! どうなっている? まさかここがバレているのか?出られる場所を探せ!」
魔法防壁です。ドームで包んでるから抜け道などありません。 (逃げられると思うなよ〜?)
探索下で、全員が倉庫内へ入ったのを確認後、足元から首元まで凍らせる。
「なんだこれは…」
「う…動けん…」
よしっ、もう魔力ドームと魔法防壁はいらないね。 (捕り物は一瞬)
「終わりました。運び出してください」
「「「「「…………」」」」」
あれ?運んでくれるって言ってたよね? (言ってた!)
「すみません、王子様?運び出してください。証拠も一緒に確保されてますから」
「あ、あぁ…… ハッ…。 お前たち! 捕縛だ!」
「えっ… はっ!!」
「はっ…!」
一瞬固まってた騎士達は王子様の指示で突入。
一人も逃げられてもないし、大丈夫だね。 (お屋敷側も地下室の扉ぶち破ったよー!)
壊したのか…。 (厳重だったから時間かかってたの)
そっか、じゃあ大捕物もこれで終わりかな。
「アスカ様、これ…解くことは?」
「もちろんできますよ。解きます?」
「いや、連行した後で頼む。今はこの方が暴れられなくて楽だからな」
いつだったか捕まえた奴らみたいに、大騒ぎしてうるさくなるかと思ったけど、王子様がいるから流石に諦めたか。 (しょんもりしてる)
お屋敷の方はまだまだ家宅捜索が続くけど、王子様は証拠を持ち出そうとした人たちを連行するから、私もそれについて王城へ行くことになってしまった。
お昼過ぎたのに帰れないからみんなにまた心配かけちゃうなぁ…。
連行された人がお城の地下にある独房に運び込まれ、そこで一人ずつ魔法を解除。
全員、身ぐるみを剥がされる勢いで身体検査をされ持ち物を取り上げられていく。
女性には女性騎士が対応してるのは配慮なんだろう。
「隠し持っていた物もすべて確保いたしました」
受け取った王子様は、一通りパラパラと確認すると頭を抱えてる。
どんな証拠が出てきたのやら…。
「これをすぐに陛下の元へ届けてくる。ここは任せるぞ」
「はっ!」
「アスカ様も来てくれ」
「はい…」
地下へ降りる前に別れていたストレリチア様も合流して、謁見の間へ向かう。
「兄様、ちゃんと罪に問えそうですか?」
「ああ。公爵家と言えど、これだけ証拠が揃えばな」
お取り潰しって事かな?まさか公爵家が!? (第三話が現実に…)
もうティーのそれ予言みたいよね。四話の予定は? (修羅場のアスカ)
…私これが終わったら転移する。 (逃げる気だ!)
師匠に会いに行かなきゃだし… (うわぁ…)
謁見の間では豪華な服を着た初老の女性が、陛下の前なのにイライラしてるのを隠そうともせず…
「突然の登城命令…。 理由も話さない。これが誰に対してのものかわかってるのかしら?」
「叔母上、今しばらくお待ちを。 ライオネスト?」
「こちらが今現在押収した分です。今も家宅捜索は続いています」
「そうか…ご苦労」
手渡された証拠書類を確認して大きなため息をつく陛下。
「叔母上、貴女を国家簒奪、魔道具暴走、傷害、横領、収賄…他国の王族への暴行未遂、これは何より重罪だ! その他、上げたらきりが無いが…それらの罪で逮捕する。捕えろ!」
「「「「はっ!」」」」
「…何を馬鹿な。そんな証拠がどこに」
「これが何かわからないか?」
「…? それはっ…! 知らないわね…証拠の捏造?ただで済むと思ってるのかしら?」
焦ってるのバレバレ…。
「捏造か…。これは叔母上の屋敷、その隠し部屋から押収した物なのだがな?」
「家宅捜索ってまさか! なんの権利があってそんなことを!」
「…私です、お祖母様」
謁見の間に入ってきたのは…サラセニア。
「サラセニア!?貴女何をしたの?」
「すべて…すべて報告致しました。お祖母様の悪事のすべてを。私自身の罪も…」
「何を…言って…?両親を早くに亡くした貴女を引き取って、私がどれだけ貴女の我儘に付き合ってあげたと思ってるの!」
「そうですね。育てて頂いた事は本当に感謝しております。それなのに私は、ワガママで自分勝手で…お祖母様の威を借り、数々の罪を犯してきました」
「……」
「お祖母様も同じではありませんか?公爵家という力を使い何をされましたか?デザイアを思い通りにする為、見目の良い使用人を送り込み、奥方を誘惑させ設計図と情報を手に入れ…新作魔道具へ細工をさせたのは?」
「黙りなさい!」
「学園の教師へ賄賂を贈り、思い通りに動かしていたのは?」
「黙りなさいと!!」
「他国から留学された王族の方を副学園長を使い誘拐させ、魔道具を使って傀儡にしようと企んでいた事は?」
「黙れ黙れ黙れ!!」
私そんな事されそうになってたの? (浅はかー。ママにそんなのは効かないし、そもそもママを誘拐?無理無理)
「万が一に備えて、身内の方を人質にしようとしていた事は?」
「黙れと言っているのがわからないの!?」
は…? うちの家族に手を出そうとしてた…? (無事だから! 大丈夫だから抑えて!)
……ごめん。 (ママの威圧でみんなへたりこんだ!)
「…アスカ殿、怒りは最もだが…今は耐えてくれ…」
「すみません…」 (直接威圧を向けられた公爵は泡吹いてる…)
そっちはどうでもいいかな。ラムネ、起こしちゃってごめんね。
首にいてスヤスヤ寝てたラムネがびっくりしてキョロキョロしてるから撫ぜておく。
「アスカちゃん、ごめんなさいね…」
「いえ、私こそすみません」
「いいのよ。本当に大切に思ってるのね…」
「はい。かけがえのない家族ですから」
陛下の隣で成り行きを見守っていた王妃様がそう言ってくれて、だいぶ落ち着いた。 (騎士達も使い物になんないけど)
本当にすみません…。 (ティー達は愛されてて幸せ!)
当たり前だよ!
「はぁ…アスカ様の魔力…すっごい…本物の王子様…」
謁見の間の扉付近にいて、影響は少なかった筈のサラセニアがおかしな事に! (またヤバいの引っ掛けたなぁ…)




