攻撃魔法の魔道具
シエルと作った髪飾りをみんなでつけて今日も朝から登校。
魔道具科の授業を受けるために、教室へ向かっていたら突然背後から腕を引っ張られてびっくりする。
「これ、どうなってるの!?」
「先生…いきなり腕を引っ張るのはやめてください」
「ごめん! でも、これ私でも解析できないの!」
「ライラ! 一人でつっぱしらないでっていつも言ってるでしょ!」
朝から魔道具科の教師二人に絡まれるとは…。
「ほら、もう授業だから、準備しないといけないから行くわよ」
「あー! 答えてもらってないのに!」
姉に引きずられるように連れて行かれてしまった。
「おはようございますアスカ様。大丈夫でしたか?」
「おはようございます、ストレリチア様。はい。渡した課題の魔道具の事でちょっと…」
「問題でもありましたか?」
「いえ、隠蔽術式を破れなかったようで…」
「あぁ! 私も見せて頂いた魔道具がさっぱりでしたから、ライラ先生のお気持ちはわかります」
ストレリチア様と話しながら教室へ向かい、今日も窓際の席へ。
斜め後ろから鬱陶しい視線を感じるのは… (ポエム令嬢!)
悪役じゃなくなったの? (じゃあ悪ポエ令嬢!)
もう何かわからなくなってるな。
「…授業始めるよー…」
ぐったりしたライラ先生は、姉に叱られたのかな。 (めちゃくちゃ怒られてたの)
そんなに? (生徒に教えてもらおうとするな! って)
そう…。それでも私の提出した課題の魔道具は握りしめてるし、めっちゃこっち見てるけど…。 (懲りてはない!)
教師というより、職人魂を感じるわ。
「ライラ先生、手に持ってる魔道具は?」
わかってて聞いてるな、公爵令嬢…。
「…わからないから困ってるんだよ」
「使ってみればいいじゃない」
「分からないものをいきなり使えるわけが無いでしょう!」
ライリー先生が止めたのだけど…。
「誰に向かって口をきいてるのかしら?」
「っ…」
「いいわ、ソレ貴女が使いなさい。私の作った魔道具と比べてみましょう?」
あぁ、課題をやらせるのを仕込んだのがアイツなら、あれが攻撃魔法の魔道具なのは知ってるわけか。
それで、自分の魔道具と比べて勝ち誇りたいと。小さな青い魔石だし、大した攻撃魔法は刻めないしなぁ。
取り巻きも使えって騒いでる。
「…わかりました。訓練場へ行きましょう」
「それでいいのよ。初めから私の言う事を素直に聞いていればよかったの」
まぁ、あの程度の魔法なら誰でも防げるし大丈夫でしょ。 (……)
ストレリチア様も止めないし。
訓練場は教室からそのまま外へ出るだけっていう効率的な配置で、みんなの見守る中で公爵令嬢と、私の魔道具を持ったライリー先生が相対する。
「誰が作った魔道具か知らないけど。私の魔道具で叩き壊してあげるわ」
こっち見て言ってるし、知ってて言ってるのバレバレなんだよなぁ。 (ママの魔道具壊すなんて!)
「ライリー…大丈夫?」
「魔道具くらい使えるわ! バカにしないで!」
「ごめん…」
「いつでもいいわよ?」
大きな赤色の魔石と宝石の散りばめられた派手な剣を構える公爵令嬢。
距離があるから魔道具の効果がわかんないな…。
「早くしなさい!!」
「……」
ライリー先生が魔石に魔力を流したのがわかる。
「なっ……」
1メートルサイズの氷の槍が3本。やっぱりショボいな…。 (いやいやいや…)
「はっ…?」
「……あはっ、あははっ…撃てって言ったわよね」
ドス黒いオーラが見えそうな雰囲気になったライリー先生がそのまま氷の槍を公爵令嬢へ撃つ。
「キャーーーー!」
どういう事?防ぐとかして、攻撃に転じて私の魔道具を壊すんじゃ? (ムリだよ? あいつの魔道具、ちっさな火の玉出るだけだし)
マジで?あんなサイズの魔石がついてて? (ちょーマジ、見てきた!)
悲鳴をあげながらしゃがみこんだおかげで躱せはしたけど、そのまま震えてる。
令嬢の背後にある校舎の壁には魔法対策がしてあったようだけど、パリンッと防壁を突き抜けて壁に穴が空いた。 (学園の防壁なのに、防げず穴が三つ空いたよ!?)
だね…これマズイか?
「あはははっ、ほら! 早く壊してみなさいよ! アンタが! アンタ達公爵家が壊した…うちの家族みたいにね!」
あー、あれはキレたな。 (冷静か!)
「壊さないなら私がアンタを壊してあげるわ!」
「ライリーやめて!!」
「うるさい!! ライラだってアイツには恨みがあるでしょ!」
「そうだけど! こんなことしたって…」
「いいわ、私が一人でやるから!」
激昂しながら再度氷の槍を展開するライリー先生。
生徒からも悲鳴が上がる。
流石に止めるか。私の魔道具でこんな形で怪我人が出るのは嫌だし。 (なんで冷静…)
ライリー先生の放つ氷の槍が、公爵令嬢へ届くより先に魔法防壁を展開。消滅する氷の槍。 (さすママだった!)
「なに!? 誰、邪魔したのは!」
「私が課題として提出した魔道具を使って、人を傷つけるのは止めてもらっていいですか?」
「うるさいうるさい! アイツらのせいで私達がどんな思いをしてきたかアンタにわかるの?」
そんなの私が知るわけないじゃない。
尚も魔道具から氷の槍を連発するライリー先生。
悲鳴を上げて泣きながら蹲る公爵令嬢。
魔法防壁でふせいでても埒が明かないな。
見学していた位置から飛び出し、まずは泣いてる公爵令嬢を抱きかかえる。 (またお姫様抱っこ…)
泣いてる女の人を担ぎ上げたら流石に可哀想かなって…
「ちょっと失礼しますね。移動します」
「…えっ…なっ…何を…?」
「あの魔道具、威力はあの程度なんですが、効率はいいんです。このままだと百発は飛んできますよ?」
「……」
ずっと魔法防壁で防いでてもいいけど、先生の魔力が底をつくのを待ってたら、いつまでかかるやら。
それまで泣かせたまま放置はいくらなんでも可哀相。立場もあるでしょうし…。
それに、怒りに任せて魔法を連発する先生が、周りの生徒へ誤射しないとも限らない。
「なんで邪魔するのよ!」
「だから、私の魔道具で人を傷つけるのはやめてくださいと言ってるんです」
会話の間にも氷の槍は飛び続けてて、魔法防壁で防ぎながら抱きかかえた令嬢を他の生徒達から離れた場所まで運ぶ。
「イヤーー! 死にたくない!」
「大丈夫です、ちゃんと守りますから」
「……はい」
しおらしくなったな。 (これあれだ…悪ポエの最初のポエムにそっくり…)
いや。あれ王子だったでしょ。 (ママ王子)
なにそれ…
見守る生徒達とは先生を挟んで真逆に来た。
この辺りなら誤射しても巻き込まれる人は居ないよね。 (意図的に後ろへ撃たなければへーき!)
ライリー先生の恨みは公爵令嬢にだけ向いてるようだし、そんな事はしないでしょ。
「ちょっと、攻撃したいので捕まっててもらえますか?このままだと手が離せないので」
「えっ…どこに…?」
「首とかにしがみついてくれていいですから」
ラムネ、ちょっと苦しいかもだけど我慢してね。
少し戸惑った後、首に手を回してくれたから、空いた手でストレージから小型のナイフを出す。
移動しつつ、尚も攻撃を続ける先生のスキをついて、握っている魔道具へ投擲。 (ナイスアタック!)
ナイフは魔石に直撃し、ピシッと真っ二つに。
「ふぅ…。 もう大丈夫ですよ」
「………」
「離してもらって大丈夫です」
「はっ、はい!」
素直に降りてくれて助かる。
「なんで…なんでよ…。もう嫌なのよ!!」
「ライリーお姉ちゃん…」
泣き崩れるライリー先生を抱きしめてるライラ先生。
あの二人に事情があるのはもうこれでハッキリした。
公爵家が相当恨まれていることも。
「ごめんね、今日の授業はここまで! 解散!」
ライラ先生が授業を強制終了。
公爵令嬢や取り巻きが突っかかるかと思ったけど、何も言わずに去っていったのは意外だった。 (礼もなしか!)
いいよ別に。私の魔道具が原因だし。 (でも…)
それも壊したしね。
砕けた魔石も回収しておく。
「アスカ様、どうして助けたのですか?」
不思議そうにそう尋ねてくるストレリチア様。
「先生にも言いましたが、そのままの理由です。私の魔道具で人が傷つくのを見たくなかったからです」
「攻撃魔法の魔道具ですよ? それは魔獣を、時には人をも傷つける為ものです」
「確かにその通りです。でも、それって…授業の最中に、しかも怒りで我を忘れてる先生が、無抵抗に泣き叫んでる生徒に攻撃するのを止めない理由になりますか?」
「でもっ…! ……なりませんね…」
「もしあれで怪我をさせていたら、ライリー先生も後で悔やむことになると思います」
「…確かに仰る通りです。黙って見過ごそうとしていた自分が恥ずかしいです…」
「私はこちらの事情に詳しくありませんから…。ストレリチア様の想いも、ライリー先生の恨みも知らないからこそ、身勝手に動いただけですけどね」
「いえ…止めていただいてありがとうございました」
ストレリチア様は自治会と学園長に報告してくる、と去っていった。
また騒ぎになるんだろうな…。 (でも一番騒ぎそうだった悪ポエがおとなしくて、怖いの…)
あれだけ震えて泣いてたし、相当怖かったんじゃない? (攻撃魔法を知らないの?)
それはないでしょうけど…こっちの第一線で使われてる攻撃魔法のレベルがわからないわ…。
魔界だとあんな程度の魔法、片手であしらわれるよね。 (うん)
師匠だってあんな魔法を使ったら、舐めてるのか?って何倍もの攻撃魔法で焼かれるよ。 (鬼か!)
戦闘に関しては鬼畜だよ師匠は。 (よく生き延びたの)
私も不思議。 (……)
多分、ギリギリを見極めてたんだろうね。あの人の戦闘センスはおかしいから。 (それだけされてママが信頼してる理由がわかんない…)
これはもう理屈じゃないんだよ。師匠だから、としか説明できないね。 (あ、ティーと一緒?)
そうそう。ティーが魔法だからとか関係なく、ティーだから大切っていうのと同じ。 (なっとくー)
それは良かった。




