デートとは…
校門で待っててくれた三人に、遅くなった理由を説明しながら、ティアねえ様の案内で学園街を行く。
「案内するーとは言ったけど、私も学園街は初めてなんだよねー」
「学園の生徒しか入れないもんね」
「そうそうー。ただ、歩いてるのが生徒ばかりってこと以外は街並みの雰囲気はかわらないよー」
「魔道具の乗り物は?」
「あぁー。それはあったね。でも、ある程度魔力の高い人しか乗りこなせないし、値段も高かったよ」
「魔力効率が悪いって言ってたね」
「そうそう。新しい乗り物魔道具の発表もしてたんだけど、そっちは事故が起こって大変だったし」
「え…?それ見たの!?」
これ例の事故の事だよね…。お披露目の時って言ってたし。 (多分そう!)
だよね…
「え、うん…人にぶつかったりして、最後は爆発して…お店が何件か壊れてたよー」
まさかの目撃者が身近にいたよ。
「明らかに魔力の流れのおかしい魔道具だったからよく覚えてる」
「ティアねえ様、それすごく大切な情報! もしかしたら詳しく話してもらわなきゃいけなくなるかも…こんな事に巻き込みたくはないんだけど…」
「いいよー。 ちょっと前の事だから記憶は確かだし」
ドラゴンにとっては十数年はちょっとか…。流石ドラゴンスケール。
魔力の流れがおかしかったっていうのは大切な情報だ。
ティアねえ様には申し訳ないけど、話をしてもらわなきゃいけなくなるかもしれない。
そんな事にならないのが一番良いのだけどなぁ…。
「もう! アスカもねえ様も! デートなのよ?そんな話やめてほしいわ」
「ごめん、そうだよね。 ティアねえ様、目的地まではまだかかる?」
「もうそろそろのはずー」
「私もどんなところか聞いてないから楽しみ」
未亜も詳細は知らないのね。
かわいいカフェとかかな?美味しいものあったらお土産を買って帰りたい。
街の表通りから横道へ入り、裏路地とでも言うのか…狭い道へ入っていくティアねえ様。
「ねえ様、本当にこんな所なの?」
「うん、ほら…あれが目印」
ティアねえ様が指差すのは壁にかけられたネオンのような看板。
「…ねぇ、ティアねえ様、どんなお店かわかってるんだよね?」
「デートの最終目的地! って聞いたよ」
なんかイヤーな予感がするんだけど…。
「あれだー!」
「…お姉ちゃん、あれって…」
「……いやダメだろあれは! と言うか学園街になんであるんだよ!」
「何がだめなのよ?なんだかキラキラしてて素敵じゃない。ほら行くわよ!」
「いや待って…ちょ…」
「ほらー行くよー」
いやー! 引っ張らないで!
「お姉ちゃん、私はいいよ…?」
未亜まで乗り気で引っ張るのはダメ! (わくわく…)
抵抗虚しく…というか、本気で抵抗すれば振り払うことはできるけど、この子達相手にそんな事はしたくない。
店内ロビーは思ってた以上に”そういう雰囲気”だった。
薄暗くて、部屋の雰囲気の描かれた絵を見ながら自動で受付をするのがもうね。
ドラマとかで見たまんまなんだもの。なんで異世界にあるのよ…。
「すごいわ! 部屋も選べるのね。 あっ、この部屋とかかわいいわよ?」
「それだめだよー二人部屋って書いてあるし」
「ホントだわ…」
「大部屋ならこれとかは?」
「いいわね、未亜! ねえ様もいい?」
「うん! 場所は…最上階だって!」
……。 (連れ込まれたママの運命は…)
ショッキングピンクに光る魔法陣に乗ると、魔法陣ごとエレベーターの様に移動して最上階へついたらしい。
「…本当に入るの?」
最上階の部屋の前で二の足を踏む私。
「何がダメなのよ?絵や説明では素敵な部屋だったじゃない」
「うんうん!」
この二人、もしかしてわかってないのでは…?
そうなら、大丈夫かな…。 (でもピナさん達をついてこさせなかったよ?)
……そんなぁ…。
早く早くと急かされるから、諦めて室内へ入ると、まず目に止まるのは大きなキングベッド。
もう、完全にアウトだわ。
まさか初めてこういう所へ一緒に入るのが家族とだなんて…。
あっちもこっちもピンク色で、目がチカチカする。
「おー、でっかい!」
ベッドへダイブするティアねえ様。
「メニューあったわよ。何頼む?」
「見せて見せてー」
ピッタリと閉じられ、外も見えない窓際にあるテーブルで、カフェ感覚でメニューを広げて座ってるリアは、ここが何か絶対わかってないよね!? (ウケる)
ティーは知ってるの…? (昼ドラで見たよ!)
はぁもう…。テレビ撤去しようかしら… (アニメ見れなくなるの!)
「すごい…お風呂おっきいよ」
未亜はいきなり何を確認しに行ってるのかな!?
「未亜も早くきなさいよ。何を頼むか決めて」
「え…?う、うん!」
「アスカはー?」
メニューを見せてもらうと、また独特のネーミングセンスなものが並ぶ。
「私はこれにするよー”私をあなた色に染めて”ってやつ」 (ぶふっ!)
………。
「私は、”パッションピンクな夜を二人で”にするわ。未亜は?」 (お腹痛いっ!)
「私は…”あなたを私が包んであげる”にする」 (あははっ)
笑い事じゃないんよ…? (だって!! 無理っ)
「アスカはー?」
「わからないから任せるよ…」
「そう? じゃあ…」
「これとかは? ”おまえはオレのモノ”」 (苦しいっ…もうやめて!)
私もやめてほしいけどっ!?
「いいんじゃないかしら…アスカもいい?」
「好きにして…」
どうやって注文するのかと思ったら、扉の側にあるパイプが魔道具になってて、そこからするらしい。
一種の通信魔道具みたいなものになってる。音が伝わりやすくなる術式が書き込まれた魔石が嵌められてるのは異世界ならではだな。
パイプの蓋を閉じれば完全に遮音もされるから盗み聞きもされないわけか。閉じ忘れたら悲惨だな…。 (筒抜けー! 筒だけに)
笑えないから…。
あっ、学園に張り巡らされてたパイプもコレか!
飛行船だったかについてた伝声管をアニメで見たことあるけど、あれによく似てる…。 (あれ好き! 目玉焼き乗ったパン食べたい)
あれ、シンプルなのにやたら美味しそうに見えるよねぇ。 (うん!)
「部屋まで届けてくれるとかいいよねー」
「ええ。でも室内が暗すぎないかしら…窓くらい開けさせてくれればいいのに。開けようとしても開かないのよね」
「こんなものだと思うよ?」
なぜ未亜は詳しい!? (聞いてみる?)
やめとく…。
未亜はお風呂の仕度してくるとかいってバスルームへ行っちゃったし…。
「…ねぇ、ティアねえ様、つかぬ事を聞くけど…ここがどんな場所か知ってる?」
「うん! 絆が深まるとかー素敵な思い出ができるーって聞いたよー」
理解してない!!
「ねえ様、なんでそんな話になったのよ?」
「好きな人と、なかなか進展しないーって話たらオススメされたんだよー」
その教えた子をとっちめたいんだけど! (悪意はないからやめたげて!)
本気じゃないって…。たぶん… (ひぃー)
注文したものが届けられて、入口の扉横に設置されてる小窓から差し入れられた。
顔を見ないように配慮されてるのか…。
念の為確認しておこう……やっぱりか。 (うん?)
飲み物がアルコール! (あぁー!)
酒精だけ飛ばしておこう。大変なことになる未来しか見えない。 (ママが警戒してる)
当たり前! もしお風呂に入るとかなったら、渡してある魔道具を外しかねないし…そうなったら酔う子もいそうだからね。
ただ、メニューの名前はすごかったけど、面白かった。
”私をあなた色に染めて”は、かなり強いアルコールだったから真っ先に酒精をとばしたけど、透明なドリンクにもう一つのカップの中身を注ぐと色が変わった。 (おもしろー!)
「楽しいわね、それ…どうなってるのかしら」
「魔法かかってるねー」
「リアちゃんのは?」
「柑橘のジュースよ。すっごいピンクだけど」
こっちも弱めとはいえアルコールだったから、酒精はとばしてある。
コップ下につけられてる明かりの魔道具で光ってるのはすごい…。 (芸が細かい!)
うん。名前負けしてないのはさすがよね。
「未亜のは美味しそう! それなに?」
「丸い分厚いハムで太いソーセージが挟んである…サンドイッチみたいなのかな?パンは無くてお肉でお肉を挟んでるけど…」
「欲しい!」
「いいよー」
これはなんかの暗喩か!?”あなたを私が包んであげる”だっけ…?
肉好きなティアねえ様は喜んで食べてるから気にしない様にしよう。 (んー?)
なんでもないよ…。 (………)
そんで、私の”おまえはオレのモノ”は、肉類ばっかりのオードブルとアルコールのセット。
お酒と肉類で酒池肉林ってか!?やかましいわ! (一人ノリツッコミ…)
美味しいんだけどね…疲れる。 (ツッコミいれてるから)
その通りなんだけど、スルーできないよこれは。
「あんまりお腹いっぱいにしちゃうと辛いよ…?」
「なんで?残したらもったいないしー」
「そうよ。食べ物は大切なのよ?」
「…そうだけど。お腹ぽっこりした姿を見られちゃうよ」
「いつものことじゃない」
「うんうん!」
この差よ! (未亜だけガチだ…)
ドラゴン姉妹が気がつく前に撤収しなければ! (お風呂いれてるのに?)
別に入らなくてもよくない!?
カフェ感覚でお腹いっぱい食べて、ベッドでゴロゴロしてるティアねえ様。
そのまま寝ちゃうとそれはそれで困るんだけどな。あまり遅くなると… (ママ、未亜が…)
え? あっ…! (リアと内緒話してる…)
マズくないこれ?この場所の本来の意味を教えたら… (ママピンチ!)
「…未亜それ本当?」
「うん」
「なになにー?」
終わった…。
ティアねえ様も巻き込んで内緒話を始める三人。
もう転移でもして逃げるか!? (その手があった!)
「アスカはこの場所がどんなところか知ってたのかしら?」
「一応…なんとなくね」
「だから抵抗してたのかー」
「でも! お姉ちゃん、本気で嫌だったら抵抗するって言ってたし…嫌じゃなかったんだよね…?」
「バカね…優しいアスカが私達相手に無茶な抵抗するわけないじゃない」
ごめん、転移で逃げようかとは考えてた…。 (実行はしてないから)
「でもさー、別に普段と変わらなくない?一緒にお風呂入って、ベッドで寝るーとか」
そう言われたら確かに…。場所の雰囲気に呑まれてた感が否めない。
「お姉ちゃんといちゃいちゃしたかった…」
「それは私もよ?でも、それはここじゃなくてもいいし、無理に今する必要もないわ。ずっと一緒なんだし」
「そうだよねー。ごめん、私が知らずにつれてきちゃったから」
良かった…。三人が本気でせまってきたらどうしようかと思ったよ。
「あっ、じゃあ女子会だね!」
「なにそれ!」
「なんか楽しそうね…」
未亜ナイス! 聞いたことあるよ! こういう場所に集まって女子会するって話し。 (ママ助かった?)
うん! (ちぇー)
どゆこと!? (ティーも弟か妹欲しかったの…)
ティーの望みならできるだけ叶えてあげたいけど、それは流石に…。 (むー…)
ほら、ニレやツキもいるし! (ニレはフィアがいるし、ツキもちっちゃい精霊つれてるの! 羨ましい…)
あー…じゃあアルフィー様は? (王女様だよ?)
そうね…。
ティーはどうして弟か妹が欲しいって思ったの? (一緒にママを助けたいから! あとは遊び相手!)
ありがとね。 んーそういう事なら…ティーも召喚してみる? (ティーの召喚獣?)
そう。ティーの大切な子になるよ。 (それがいい!)
わかったよ。帰ったらキャンディたちと相談して相性のいい子を探してもらおう。 (あい!)
とんでもない場所へ行くことになったデートは、美味しいものを食べて、お風呂でさっぱりして帰ってくるという、よく分からないものになってしまったけど、本人達は楽しかったようなので良しとしよう。 (ママのテイソーもかろうじて守られた!)
かろうじてなんだ… (時間の問題?)
………。




