令嬢と課題
「公爵令嬢のサラセニア様が話しかけてるのだから、返事くらいしなさいよ! これだから田舎者は…」
酷い言われようだな。取り巻きの縦巻きカールめ!
こんな取り巻きまで引き連れて…テンプレ悪役令嬢登場かよ! (ぶふっ! ママ笑わせないで)
だって、ねぇ…? ここまでくるともう腹も立たない。
公爵令嬢の制服は悪趣味に宝石やらでギラギラしてて、オシャレには程遠い。
顔は美人なのになぁ…。キツそうではあるけど。 (それもテンプラ)
揚げちゃったな。 (食べたい…)
悪役令嬢を!? (てんぷらを!)
そっちか。よかった。 (悪役令嬢は食えねぇーやつなの!)
確かに!
私がティーと話してて黙ってるのを怯えてるとでも解釈したのか、更に態度が大きくなる悪役令嬢と取り巻き。
「落ち着きなさい。たとえ田舎者でも、令嬢として挨拶くらいはするべきよね」
「そっちから名乗りなさいよ!」
取り巻きに命令されたよ…。 (王族なのに…)
いいよ別に。借り物みたいな肩書きだし。 (むー)
「アスカ・キサラギです」
「サラセニア・イフェイオンよ。貴女ちょっと顔貸しなさい」
令嬢どこいった?ただの輩じゃん! (ウケる)
悪役令嬢もとい、サラセニアと取り巻きに連れられて、人気のない場所へ誘導される。 (やっちゃえ!)
いや流石にそれは…。
「貴女、私が誰かわかってるわよね?」
そのセリフそのまま返したいんだけど。 (ママは王族、しかも継承権第一位だぞ?)
「公爵令嬢っていうと、王太子様の婚約者ですか?」
「そうよ! 私ですらあの方とは殆どお話もできないのに…何で貴女みたいな田舎者が入学式早々に話しかけられてるのよ!」
そんなこと言われてもなぁ…。お前らのせいだって言いたいわ。 (ホントそれ)
「答えなさいよ!」
「留学生だから不便をしてないかと、気にかけて頂いただけですが?」
「何その態度、生意気よ!」
取り巻きの縦巻きカールが私を付き飛ばそうとしてきたのを避けたら… (うわぁ…)
顔からいったな。痛そー
「伯爵令嬢に怪我させたわね!」
「避けただけですが…」
「嘘よ! 足をかけたわ!」
「私も見たわ」
「ふんっ、この事は直ぐに報告されるから、覚悟しておくことね」
別にいいけど。
「取り敢えず女の子が顔に怪我をして、跡が残るといけないから治療しますね」
「…は?」
いくらなんでも可哀想だし。 (いいの?)
いや、あれは流石に…おでことほっぺから流血とか後々困るでしょ。本人ガチ泣きしてるし。
魔力ドームで包んでそのまま治療。
ついでに制服の汚れと顔の血も洗浄、乾燥。
「跡も残ってないから安心してくださいね」
「…は、はいっ…」
顔赤いけど大丈夫か? (……)
「チッ…証拠が…」
あぁ…まさか私が治すと思わなかったのか。取り巻きの怪我さえ利用しようとするのは、もうさすがとしか。
「覚えてなさい!」
おぉー捨て台詞まで見本のようなテンプレ! ちょっと嬉しいかも。 (ママやめて…おーじいるのに笑っちゃう)
ごめんね!?
怪我をしてた縦巻きカールはペコリと頭を下げると、サラセニア達を追いかけていった。
さて、やかましいのが去ったから私も戻ろっと。 (やかましいて…)
校門前には未亜達が集まってて、心配されてしまった。
「お姉ちゃんなにかあったの?」
「お姉様…へいき…?」
「アイサツされてたよ」 (違う意味のな!)
「アスカなら大丈夫だろうけど、心配したわよ…」
「早速トラブルかと思ったよー」
ティアねえ様鋭い! (やっとおーじにかいほーされた! そっち行くー)
わかったよ。随分なつかれたね? (んーママのお菓子目当てっぽい?)
人見知りで私には言えないから? (そうそう! よっぽど美味しかったみたい)
またなにか作って持たせてあげるよ。 (うん!)
ティーと話してる間にユウキとレウィも合流。
みんなは特にトラブルもなく、何人か同級生と話したり、お菓子もあげて喜ばれたと話してくれた。
私はそんなほっこりイベント一切無かったよ!? (王子と王女はいたよ?)
あの二人は社交辞令でしょう。 (かなぁ…)
大きな犬か狼に見えるレウィは大人気だったらしく、みんなに撫ぜ回されたそうでお疲れの様子。
「冒険者科は堅苦しくもないし、ギルドにいるみたいで気が楽だったよ」
ユウキもレウィも楽しい入学式か…。いい事なんだけど、なんで私だけ…。
お屋敷へ帰宅したのはお昼過ぎ。
用意してくれてあったお昼ごはんを頂いて、のんびりしてたら思い出した!
「私、課題を出されてるから済ませちゃうね」
「魔道具科かしら…初日から大変ね?」
「うん。そっちは何もなし?」
「うちのとこはなにも…魔道具ってお姉様だからすぐできるけど、普通は一晩でできるものなの…?」
「どうだろう。課題で出してくるくらいだからできるんじゃない?」
「それおかしいよー。だって、今から学校で勉強する事を、課題としてやって来いなんて言うかなー?」
確かにティアねえ様の言うことは最もだ。ただ…元々知識がある人が入学するシステムかもだしなぁ。
あとは単純に今、どこまでの知識があるか知りたいとかそんな理由かも? (うーん…)
「よしっ、できた」
「はやっ! え?今の会話の間に?」
「だって、たかが攻撃魔法を一つ使えるようにするだけだし」
「何を使えるの?お姉ちゃんだからやっぱり氷の槍…とか?」
「うん。一般的な魔法だからね。ただ、渡された魔石が小さな青い魔石だったからあまり威力は無いけど」
使ってみたいってリアが言うから、リビングを魔力ドームと魔法防壁で保護して撃ってもらった。
1メートルサイズの氷の槍が三本同時発射されて、魔法防壁に当り消滅。
「………」
「………」
「姉ちゃんさ、威力がないって意味わかってる?」
「うん。3本しか同時に撃てないんだよ。魔力消費は少ないから連発はできるけどね」
「やっぱりアスカだわ」
「だね。お姉ちゃんだ」
「ママ基準では低威力なの!」
「お姉様基準…なの…」
「やっぱり弱すぎるよね…、でも魔石が小さいからこれ以上は無理なんだよ」
「「「「「……………」」」」」
そんな呆れなくてもいいじゃない。
いきなり不合格とか言われて、退学とかならないよね? (多分だいじょーぶ)
不安になってきた…。 ((威力つよつよ過ぎてっていう方に考えがいかないのはさすがママ))
リア達は魔導書と言うか、魔法の教科書をもらってきたらしく見せてもらった。
「アスカに教わったのと随分違うわ…曖昧で意味がわからないのよ」
「うん…”魔力を火に変換させて、行使する。これが火魔法の基礎。形を変えれば魔法の形も…”どうやって変えるか書いてないよー。一番大事なとこなのに!」
本を見る限り、感覚的にと言うよりは理論的に教えてくれてるみたいで、確かに私の教え方とは違う。
例えば火の魔法、ファイアーボール、または火球とも言われる魔法は、どうやって魔法として行使されているか、っていう基礎の部分。
魔力がどうやって魔法に変換されているか、そもそも魔力とは何か。みたいな…。
イメージに関しては記述すらない。
アクシリアス王国でみんなに教えた私の魔法の使い方と比べると対極で…イメージできないから、安定もしなければ、当然威力も落ちる。
「アスカに習ってきた私達に意味があるのかわからなくなってきたわ…」
「そうだよねー。勉強! って感じでつまんないー」
「学校だからね。勉強するんだよ? 私は難しいけど、これも面白いかも」
「うちも…」
反応を見ると、感覚派と理論派がわかりやすい。
私の教えた魔法の使い方は内緒にしてくれると言ってるし大丈夫でしょう。 (魔法は使うけど)
それは仕方ないよ。授業だからね。 威力は抑えられるだろうから問題ないと思うよ。 (うん!)
「リアとティアねえ様は、もし勉強がつまらなくても、学園生活を楽しんだら?」
「それもそうね。こんな体験できないし」
「わかったよー! じゃあアスカ、放課後に制服デートしようねー」
「ねえ様! 抜け駆け禁止!」
「ずるい…」
「早いものがち!」
「遊びに行くくらい付き合うから、喧嘩しないで」
「「「デート!」」」
「はい…」
呼び方くらい気にしなくても…。 (乙女心のわからないママ)
くっ…。そうだよ! わかんないよ! (仕方ないけどー!)




