制服と入学式
シエルの部屋にティーとお邪魔して、ユウキのガンベルト風ポーチと、みんなにもなにか装飾品を作ろうって話になって…。
「ガンベルトは、革で作るだけだからいいけど、装飾がないのも寂しいよね?」
「うん…普通はなにかあるの…?」
「うん、装飾のように並んで金属が付くんだよ」
銃弾がついてるんだけど、言っても伝わらないだろうし… (ティーはお昼に映画で見た!)
そうなんだ。ああいう武器は異世界に持ち込みたくないね。 (危なすぎるの)
となると…あくまでもアクセサリー風に…あっそうだ!
「こんなのはどうかな?」
魔石を直径一センチ、長さ数センチほどの円柱に加工。
それを並べてベルト部分にあしらう。
薄暗く光るだけの術式も刻んだ。 (お狐様の狐火みたい!)
うん。それをイメージしてみたよ。
「カッコいいの…それなら、うち達のは…」
シエルはサラサラっと絵を書いてくれる。
革を使い固定されたカラフルな魔石棒は三本で一セット。
細めのベルトにつけて、腰につける。なるほど…スチームパンクっぽい! (可愛い!)
うん。さすがシエル。
「凄くいいよ。色々な色で作って、選べるようにしようか」
「うん…後は魔石棒の上に少しアレンジして…」
あ、これあれだ。小さな試験管みたいで、金属のフタが付いてるみたい。 (ぱわーあっぷ!)
楽しくなってきた私達は、家族の人数分だけでいいのに作りすぎて、更にはティーの希望で、怪しく蛍光色で光るのまで作ってしまった。 (かっくいい! ティーもほしかったのー!)
じゃあ、ティーもこれをつけたガンベルト風ポーチ作ろうね。 (やった!)
「…作りすぎちゃったの…」
「楽しかったしなぁ」
「ありがとうお姉様、うちの趣味に付き合ってくれて…」
「私もシエルと作るの楽しかったよ。また何か作ろうね?」
「うんっ…!」
「シエルの作った魔装に、ママが魔道具をつけたらさいきょー!」
「それもいいね。ただ、シエル?」
「…?」
「まずは楽しんでおいで。折角の機会だからね」
「はいなの…!」
結構遅くなってしまったから、そろそろ休まないとな。
明後日には入学式だ。
その日の夜は、久しぶりに…本当に久しぶりに蹴られたり、抱きつかれたりすることもなく、ティーとゆっくり休めた。 (ベッドがいつもより小さいのに広い!)
それ私も思った。
ただ、いつものアレに慣れちゃってて、物足りないというか…寂しく感じたのは気のせいじゃないんだろうな…。
翌朝、シエルと作ったアクセサリーのお披露目。
ユウキはもちろん、みんなもかなり気に入ってくれたようで、沢山作った魔石棒は、日によって色を好きに変えれるからって、無駄にはならなかった。
それに…
「こっちの光り方も怪しくていいねー! 私これがいい」
蛍光の各色も大人気。 (ふっふーん♪)
「ティーのアイデアだから褒めてあげて」
「そうなの?お手柄よ、ティー! アクセサリーとしては小さいのに、存在感が凄いわ!」
「でしょー! ティーもほら!」
ガンベルト風ポーチを見せびらかしてて可愛い。
ユウキに至っては全部蛍光色を選ぶからネオンみたいになってて、ちょっと見た目がやかましい。
「お姉ちゃん、これ…光を消すこともできるよ?」
「うん。明るさは抑えてあるとはいえ、授業中には気になって集中できないとかあるかもだから」
「そうね、特にユウキは消しておきなさいよ?」
「えー、いいじゃん」
「…ユウキ、冒険者として、森とかで目立つのはよくないでしょ」
「それは確かに…わかったよ」
「なによ! アスカの言うことは聞くのね?」
「ルナリア達だってそうじゃん…」
「はいはい、揉めないの」
別に誰の忠告でもいいんだから…。 (ママに言われるのだけは違う!)
なんでよ! (察して)
…はい。
午後には私の制服も届き、サイズもピッタリ。 (おぉ…)
「お嬢様、よくお似合いです」
ピナさんも褒めてくれてるし大丈夫かな。胸元が大きくあいてるのが気になるけど仕方ないか。 (谷間ドーン!)
…これにシエルと作ったアクセサリーを付ければ…完璧だね。 (うん!)
鏡で制服を確認していたら、扉の向こうから慌てたアヴィーさんの声が
「お嬢様、お客様です!」
「アヴィーさん、お客様って…誰?」
「そ、それが…学園長先生です! 王妃様です!」
「ピナさん」
「おまかせを。応接室へご案内します。アヴィーはお茶の仕度を」
「はいっ!」
ピナさんがすぐに対応に行ってくれるから任せて、私は制服のままだけど…仕方ない。
再度鏡で着崩れがないかの確認をして、応接室へ。
なんだろう、入学に関しての最終確認とかかな…。
私が応接室へ入ると、王妃様はソファーでぐったり…。 えっ?大丈夫?
「アスカちゃん、ごめんなさいね。ちょっと疲れてて」
「いえ。それより大丈夫ですか…?」
「ええ。入学式の準備で忙しいのに、公爵家からの横やりがあって…ってそれはいいのよ!」
なんか今、不穏なセリフが…。
「制服は……大丈夫そうね。よかったわ。似合ってるじゃない」
「ありがとうございます。着慣れないので不安ですが…」
「素敵よ。 そのアクセサリーってもしかして手作り?」
「はい。着けてたら不味いですか?」
「ううん。すごく素敵よ! みんなが欲しがりそうだわ」
そんなにかな?ただ、ぼんやりと光るだけなんだけど。
王妃様のご来訪は、学園長として制服や、お屋敷に不便がないかの確認と、入学式の連絡事項だった。
「明日は、早めに学園に来てね。タイミングは拡声魔法で連絡されるから」
「わかりました」
「学園に入ったら、案内板があるから迷うこともないと思うわ」
「うちのティーはどうしたらいいですか?」
「メイドに案内させるわ」
そっか、学園にもピナさん達はついてくるのね。
流石に授業中とかは傍に居ないだろうけど、何かあったら対応できるように学園内に待機するってことかな。
このお屋敷からでも学園が見えるような距離なのに…。
まぁ、うちだけの話じゃないし、気にしても仕方ない。
みんなメイドというか、侍従を連れてきてるだろうから。
「入学式の挨拶をうちの息子がするから顔を覚えてあげてね。サポートするように言ってあるから」
「お手数おかけします」
「いいのよ。式の後に娘も連れて挨拶に行くと思うからよろしくね」
「はい」
王太子様と、王女様か…粗相しないように気をつけないと。
まだ仕事があるからと、ぐったりした王妃様は、お茶だけ飲むと”また明日ね”と帰っていった。
ほんと大丈夫かな…随分お疲れだったけど。
翌朝、早朝に学園街へ拡声魔法で入学式の案内がされ、家族揃って初の登校。
「ねえ様、制服おかしくないわよね?」
「大丈夫だってー。朝から何度目?メイドのフラウがちゃんと着せてくれたんだからー」
「だって! こういうのは初めが肝心なのよ!」
緊張気味のリアに対して、落ち着いてるティアねえ様。似てるようで性格の違いがハッキリ出てるなぁ。
「レウィ、よろしくね。不便かけるけど…」
「わう!」
なりきってるレウィも、スカーフに一つだけど光る試験管アクセサリーをつけてあげた。
「ユウキが一緒だから大丈夫だろうけど、我慢させてないか心配だよ」
「わう!」
元気よく返事してくれてるのが健気だわ。
「お姉ちゃんの選んだ科目が、厄介な先生みたいだから、私はそっちのが心配だよ」
「お姉様…無茶しないでなの…」
私か、相手か…どっちの心配をされてるのだろう。 (両方?)
だよね。 ティー、みんなの事見ててあげてね。 (任せて! まぁ一番何かありそうなのはママ)
わかってるって!
「行ってらっしゃいませー!」
お屋敷のメイドさん達に見送られて、学園へ向かう。
のんびり歩いても徒歩5分ってところか…。 (近っ!)
門を入ってすぐに案内板があって、講堂へ集まるみたい。
ご丁寧に矢印までつけてあるからわかりやすい。
歩いてる途中で、気になったのは生徒が作った魔道具なのか、それが展示されてて…見たかった。 (式の後でー)
はーい。
途中、ピナさん達と、ティーとは別行動になる。
「お嬢様、ティー様はお任せください」
「お願いね。 ティー、いい子にしててね」
「はーい」
何かいいなこのやり取り。 (親子っぽい!)
うん。幼稚園に預けていくみたいな気分だ。 (そこまでちっさくない!)
ごめんごめん。じゃあ、行ってくるね。 (いってらっしゃーい!)
講堂内には新入生ばかりだけど、それなりの人数がいる。
年齢も、下は12歳から、上は科によって違うからバラバラ。魔道具科や、服飾科、冒険者科は比較的高い年齢層も多い。まぁ、そうは言っても、二十代前半くらいだろうけど。
入学式は学園長の挨拶に始まり、生徒自治会…生徒会みたいなものかな?その会長の挨拶もあった。
あの人が王太子様か…。ライオネストって名前は覚えておかないとな。 (また長い名前…)
最後に男性教師から注意事項などを伝えられて、入学式は終わり。
どこでも入学式って似たような物なんだな。 (変わらないの?)
うん。学園長の話が短いのは有り難かった。 (疲れてるからとか…)
かもしれないね…。
今日はこの後、それぞれ選択した科へ顔を出して、授業に必要な物の受け取り等をしたらお終い。
明日からはすぐに授業がはじまる。
みんなとはバラバラになったけど、私以外は一人になる子は居ないから大丈夫よね。
ユウキ、レウィは冒険者科。
未亜、リア、シエル、ティアねえ様は、魔法科と服飾科へ一緒に行くって言ってたし。
騎士科ってのもあったけど、うちは誰も行かないから関係ないね。 (この国の騎士になるためのだし)
だね。留学生の私達には縁がない。
それよりも…やっと見れるよ! (魔道具…)
そう。生徒のレベルってどれくらいなんだろう。
………。 (…どした?)
いや、予想以上にアレだわ。 (プロのお店でもママには微妙だったのに、何を期待してたのか)
そこはほら、意外な閃きとか、実用性はなくても面白いのとか! (あぁ〜)
そのどっちもなくて、言うなら決められたルール内で作っただけの、お店にあったものの劣化版。
こういうのって、生徒の閃きや意外性から新しいものへつなげていくものじゃないの!? (かも…)
お手本を見ながら真似ただけって感じがすごい…。
「貴女がドラゴライナ王国からの、留学生かな?」
基本を覚えたのなら、生徒にはもっと自由にやらせてあげなきゃ! (ママ話しかけられてる!)
「えっ!?」 (ママ後ろ!)
振り返ったら実は誰もいない…なんて事はなく。
「王太子様…失礼しました」
「いえ…魔道具がお好きなんですね」
「はい…お恥ずかしいところをお見せしました。 ご挨拶が遅くなりました。初めまして、ドラゴライナ王国から留学させて頂いた、アスカ・キサラギです」
「ご丁寧にありがとうございます。グリジア王国第一王子のライオネストです。気軽に、ネストとでも呼んでください」
「兄様! 私も紹介させてください!」
「あぁ…すまない。ストレリチア」
「名前を兄に言われてしまいましたけど、ストレリチアです。よろしくお願いします、アスカ様」
「こちらこそよろしくお願いします。ストレリチア様」
お二人は、不便はないかとか…王妃様と同じように気遣ってくれて、優しい人達だった。
お互い王族だし、普通に話そうと言われたけど、私には無理だよ…。
「僕達は、自治会の仕事があるのでここで失礼するよ。母上…いや、学園長から聞いているとは思うが、充分注意してくれ」
「何かあったら直ぐに自治会へ連絡してくださいね」
「はい」
ここでもやっぱり何かあるのが前提か。
まぁ、取り敢えず、魔道具科へ行って…その後、召喚科だな。
魔道具科では、先輩らしき無愛想な女生徒に数個の魔石と、筆みたいな魔道具、後は明日までに提出しろと、課題を出された。 (明日!?)
らしいよ。何でもいいから攻撃魔法を一つ使える魔道具を作ってこいってさ。 (ママなら…)
数分あれば終わるね。 (筆はー?)
これで術式を書き込めって事みたい。 (使えるの…?)
まぁ、魔刻刀みたいに鋭く彫り込めはしないけど、魔力操作次第かな。 (ママ魔道具を選ばず)
どっかで聞いたような言葉だな。
召喚科では渡されるものは無かったけど、明日の授業で召喚するからそのつもりで居るようにといわれた。
今も首にいるけどね?ラムネが。 (寝てるー)
うん。入学式の最初は起きてたけど、つまんなかったみたい。 (あははっ)
それにしても、召喚科の副教師を名乗ってるのに気が付かないものかな。 (節穴ー)
ほんとによ。うちの可愛いラムネをアクセサリーとでも思ってるのか?
早く用事の終わった私は、校門前の広場でみんなを待つ。 (ティーも、王子に捕まったー)
あー、ライアン王子? (そうそう!)
やっぱり託児所に突撃したのね。 (ピナさんが困ってる…)
慌てなくていいよ。みんなもまだだし。
「ちょっと貴女!」
あー…しばらく来ないほうがいいわ。絡まれたっぽい。 (へーき?)
なんとかするよ。




