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召喚被害者の日常は常識なんかじゃ語れない  作者: 狐のボタン
第五章

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形骸化の弊害



アクシリアス王国では、陛下と公式な謁見をして、新年の挨拶の事や魔道具等、諸々のお礼を言われて、正式に城内にお部屋をもらう事になってしまった。

何故か今回は王妃様も止めてくれなかったみたいで、断る事も出来ず…。

アリアさんが案内してくれたので、みんなで見に行った。 (ティーの分体はすでに移動済み!)

そうなのね。転移の座標も変えておかなきゃいけないな。 (うん!)



もらったお部屋は…前に借りてたのが高級ホテルの一室だとしたら、こっちはそのスイートルームとでも言うのか。それくらい規模が違う。

大きな部屋一つではなく、いくつも部屋があるし、お風呂にキッチンすべて揃ってる。

部屋付きのメイドさんの責任者がユリネさんで、専属の騎士までつくらしい。

「ルニアとセナなので、ご安心ください」

「そ、そうですか…。あのここってお城のどの部分になるのですか?」

「本城とは繋がっていますが、王族しか立ち入れない別棟になります。昔の国王陛下が側室を持たれていた時に、側室の方々が住まわれていたエリアになります」

「………」

とんでもない場所をもらってしまったんだけど!? (陛下が側室を持たなくなって、利用されてないからって)

だからって…。 (もう何代も使わなれてないから、使わないままだと部屋も傷むからこれでいいって王妃様も)

そうですか…。


うちの子達もびっくりして固まってるわ。 

「こちらでしたら部屋数も多いので、ユウキ様も、ご家族の近くで落ち着けるかと思います」

「あ、ありがとうございます。姉ちゃん、部屋選んでもいい?」

「うん。みんなも個室が欲しかったら見ておいで」

ユウキとスピネル以外は好奇心で見に行っただけっぽいな。 (部屋はママと一緒!)

そうだろうね。もうさすがに慣れた。


「必要なものがありましたら何なりと。すべて揃えてみせます」

「ありがとうございます。でも、十分過ぎるくらいなので…」


張り切ってくれてるアリアさんには申し訳ないけど、これ以上何を望めばいいか、もうわからない。

前の部屋でも充分過ぎるくらいだったのに。今回に限っては王妃様も乗り気だったからどうにもならなかった。

いつもは止めてくれるのに…。 (ドラゴライナ王国王族の御令嬢だし)

ここでもその肩書が!? (継承権第一位)

形だけだから! はぁ…先が思いやられるよ。



転移魔道具の座標を忘れないうちに書き換えたり、部屋割りなどを決めて、午後からようやくのんびり。

思った通り、ユウキとスピネル以外は私と同じ部屋。

一つ嬉しい誤算は、広い庭があって、チョコ達を好きな時に出してあげていいって言われた事かな。

今もキャンディ以外は庭で寛いでる。

広い池もあって、ラムネも大喜び。

狩猟大会のご褒美も渡してあげることができた。

「ますたぁ、つけてほしいわ〜」

「いいけど…って、キャンディ、ピアスホールないじゃない」

「それもおねがい〜」

「少しチクッとするからね?」

「大丈夫よ〜」

ティー達に開けたのと同じように、キャンディの少し尖った耳にプシュッと魔法でピアスホールを開けて、私とお揃いになるように作ったピアスを2つつけてあげた。


召喚獣にも魔道具の効果は効くって言うからいつも通りつけてあげようとしたのだけと、キャンディに断られた。

また次に活躍した時でいいって。その時はチョコ達にもなにか作ってあげてほしいとも。

「あの子達は〜本能が強いから、何が欲しい?って聞かれたら食べ物とかになっちゃうのよ〜」

そういう事か…。

「じゃあ、今度はみんなに魔道具を作ってあげるね」

「さすが、ますたぁ〜。貰えばあの子達も喜ぶはずだから」

人に近いキャンディとの違いってところかな。 (食う飲む寝る!)

チョコ達は召喚獣だけど、その辺は獣としての本能が強いのかもね。



その日の夜は陛下と王妃様、専用の椅子に座ったアルフィー様。シルフィー様に王子、ノワルレイナさん、うちのお祖母ちゃんにお祖父ちゃん、用事で来ていたアキナさんとスノウベルさんも合流して、かなりの大規模な晩餐会になり、食事後には新年の様子を記録したものを見せてもらった。

「姉ちゃんガチガチじゃん」

「ユウキうるさいよ…」

あの時の様子を客観的に見るのは避けたかったよ…。

シルフィー様が私と腕を組んでたからか、うちの子達とシルフィー様が何やら話し合いに発展して、私は震えることしかできなかった。 (これがうわさの修羅場…)

なんでよぉ…。


「面白いわね。私もあれで飛んでみたいわ」

「セイナはやめておいたほうがいい。目立つと大変だろう?」

「確かにそうね…」

お祖母ちゃんがまさかスモーク魔道具に興味を示すとは思わなかった。

プレゼントしてもいいのだけど、お祖父ちゃんが止めてるくらいだしやめておこう…。



ドラゴライナ王国側の編隊飛行のスモークもリアが記録してたのを見せてもらった。

どちらも甲乙付けがたいパフォーマンスですごかった。

「私のはもっとすごいよ!」

そう言ってティアねえ様が見せてくれたのは、まさかの編隊飛行に参加しての映像だった。

スモーク魔道具も持ってるし、ドラゴライナ王国には居ないルナドラゴンの長女として、参加したんだとか。

頭にカメプロをつけてたようで、スピード感がすごい。

ドラゴンが空を飛ぶってこんな感じなのか…。ドラツーを自分で飛ばした時とはまた違うなぁ。



改めて陛下に新しいお部屋のお礼を伝えて、お開きに。

アキナさんと陛下はこの後も話し合いがあるみたい。お疲れ様です…。


お祖母ちゃん達は、アルフィー様のお世話のためだけに滞在しているから私が貰ったお部屋の方には引っ越さないって…。

「もうしばらくしたらアルフィーも人化できるわ。そうしたら私達もお役御免よ」

「お祖母ちゃんたちはその後どうするの?」

「そうね、とりあえずはアキナの所でお世話になるわ。ほらアスカちゃんとの約束もあるでしょう?」

「夕波王国の事だね。覚えててくれてありがとう」

「いいのよ。ハルナは私にすら会う時間がないとか言ってるらしいから、一度しつけ直してくるわ」

「程々にしなよセイナ」

「アナタがそうやって甘やかすからよ?」

「セイナとの可愛い娘だから仕方ないさ」

「はぁ…だから私が憎まれ役になるんじゃない」

「それだけセイナを頼りにしてるんだよ」

「それは嬉しいけど…」

夫婦げんかになるのかと心配したけど、この二人に関しては杞憂だった。

 


お祖母ちゃん達と別れた後、王妃様から少し話があると言われたので、シルフィー様も一緒に新しく頂いた部屋へ移動。

「新しい部屋はどう?不便とかない?」

「はい。豪華すぎて気後れしてしまいましたが…」

「元々、側室の方々が使われていたから調度品の質はいいのよ。ただ先々代から側室を持たなくなって、管理はしてても使われてなかったから、古い物は流石に入れ替えたけど」

「お手数おかけしました。でも今回はどうして王妃様も止めてくれなかったのですか…」

「悔しかったのよ!」

「はい?」

「実質的にお祖母様にアスカちゃん達を取られたようなものだし…」

「お母様は、アクシリアス王国がアスカ様達の後ろ盾になる準備をしていたのですけど…お祖母様には勝てません」

どういう事だろう…。それとこのお部屋がどう関わってくるのかわかんないよ。


「うちで用意していたのがただの客室だけなんて…フォーラ様に鼻で笑われたのよ?」

「フォーラ様…って学園長先生…?」

「ええ、”そんな待遇だとうちに居着いてしまうかもしれないわね“って!」

「私は王妃様にも、アクシリアス王国にも恩がありますし、この国が大好きですから…」

「よかったわ。正式な出身はドラゴライナ王国って事になってしまったけど、うちにもいつでも来ていいのだからね」

あぁ…そういう事か。温かい人達だよ本当に…。

「ありがとうございます王妃様。こちらにも居場所を用意していただいて」

「いいのよ! ここは好きに使っていいのだからね」

戸籍がドラゴライナ王国にあると出身もそっちって事になるんだね。 (入学の書類に異世界出身とは書けないし)

確かに…。


王妃様のお話というのは、アキナさんが言ってたのとほぼ同じ。

舐められたらシメて良いと…。何でみんなそんなに好戦的なの?って思ったら、そもそもはグリシア王国の国王陛下と、学園長でもある王妃様からのお願いらしい。

長くエリート校として存在する魔法学園は、いくら王妃様が代々学園長になるとはいえ、それすら形骸化してて、学園の力が強くなりすぎ、王家ですら口が出しにくい状態だと。


今は公爵家が後ろについてて…それをいい事に、立場を笠に着て横暴な事をする評判の悪い教師や生徒が少なからずいると…。

私は前回、その代表みたいなのに絡まれた訳だね。 

大きくなりすぎた学園は影響力もあるから、国として迂闊には手が出せなかったけど、私に絡んだカロリナさんの事もあって国際問題になったから、国が本格的に動ける口実ができたらしい。




あれ?そうすると…

「王子様とノワルレイナさんは留学していた時に大丈夫だったんですか?」

「さすがにうちの王族にはなにもできないわよ」

そう言って笑ってる王妃様。

「アスカちゃん達は、グリシア王国では知る人の殆どいないドラゴライナ王国からの留学になるのはわかるわよね?」

「はい。国交もなかったくらいですし…」

「間違いなく、田舎の国だとかいってバカにしてくるやつが出てくるわ」

なにそれ…ムカつく! アキナさん達がどんな想いで守ってる国だと…。 (まぁまぁ…怒りはそういうのが現れたらそいつに!)

それもそうね…必ず現れるとは限らないし。いや、でも王妃様は断言してるけど? (……)

……。



はぁもう、やだぁ…行きたくない。トラブルの真っ只中へ放り込まれるようなものじゃない!

うちの子達に何かあったらどうするんだ…。

「アスカちゃんはやりたいようにやっていいわよ。それが一番いいわ」

めちゃくちゃ言われてないか? (ママだし)

意味がわかんないよ!


生徒には王族や貴族もいて、そちらは半分ほどが国の味方として動くからあまり気にしなくてもいいらしい。

何かあれば庇ってくれる事になってると。

「もしアスカちゃん達に絡むようなのが居たらそれは敵よ!」

王妃様がヒートアップしてらっしゃる…。

友好国の腐敗した部分を潰せるのならアクシリアス王国としてもいいことなんだろうけど、私はハメられた感がすっごいわ…。


はぁ…。気は重い。けど…

お世話になった王妃様やアキナさんの役に立つのなら覚悟を決めるしかないか。

それに、国交するようになった時に、アキナさん達が築き、大切に護ってきた王国へ、そんな人が入り込む様になるのは許せない。

グリシア王国の王族が味方なら大丈夫。 大丈夫よね…? (うん!)


話を聞いていたみんなも不安そうになってしまったから私がしっかりしないと。 (…頼ってね?)

そうだね。よろしくおねがいするよ。 (あい!)














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