弟の事 自分の事
翌日は私も少し寝坊して、みんなはお昼近くまで寝てた。
午後には母さん達も帰ってきて、闇精霊の子は…スピネルっていう名前になったと改めて紹介してくれた。
ユウキ曰く、宝石からとったんだとか。ブラックスピネルは魔除けの意味もあると。
本人も納得してるようなので良かったのだけど…。
両親が、息子がいきなり美人な彼女を連れてきた! みたいになってて、そっちがめんどくさかった。
一応精霊なんだけど、司るのが闇だからかリコみたいに森に縛られるでもないし、対等な契約だから常に傍に居られるらしく、離れたがらない。
両親の心配もあるから、リコを呼んで聞いてみた。
「精霊と人って恋人になったりするの?」
「えっ…?私もママのことは大好きだけど…そういうのとは違うわよ?」
「私じゃなくて、あっち!」
私が指差す先ではユウキとスピネルがいちゃいちゃと…それはもういちゃいちゃとしてる。
レウィでさえ呆れて近づかないくらいに。そもそもここ私達の部屋なんだけど…。
「あぁ…。何よあれ、どれだけ相性いいのかしら…。 ママの質問への返答は、普通に番になれるし、子供も生まれるわよ?」
「マジかぁ…」
「精霊と人の間に生まれた種族の末裔がここにもいるじゃない」
「うん?今なんて?」
「だからあの子よ」
リコが指差すのは…
「シエル? 待って、じゃあエルフって…」
「ええ。精霊と人の間に生まれたのがエルフのご先祖様よ」
「初めて聞いたよ…」
「私も森の記憶から知ってるだけよ。 確か…最初に生まれたエルフがエンシェントエルフね。ただ、エルフは認めてないみたいだけど」
「ご先祖が半分人だって?」
「そうね。精霊達も何度か伝えてはいるのだけど、それだけはどうしても認めないみたい」
ある意味禁忌か…。シエルにも黙っておこう。 (そうだね…)
この事、母さん達に話すべきかな? (一応?)
ユウキには母さん達から話してもらうか。 (それがいいの)
リコが知る限り、太古以来精霊と人が結ばれた事はないらしい。
理由としてはエルフの存在が大きい。
人と結ばれる事ができるほど強大な精霊はエルフが囲って崇めてるから、人が会うことができない。
それに、それだけの力を持った精霊が人と対等に接するような事もまず無い。
今回はエルフに封印されてて、エルフ嫌いのスピネルを相性のいいユウキが救ったっていう、偶然がいくつも重なった結果。
「精霊と結ばれる事より、人の身で精霊をぽんぽん生みだしてるママのが本当はおかしいんだから」
何故か私まで引き合いに出されて叱られたんだが? (ウケる)
笑い事じゃないって…。
それだけ言うとリコは帰っていっちゃったし。
分かったことを母さん達に伝えたら、ユウキとスピネルを連れて部屋を出ていった。
後は両親に任せるか。 (巻き込まれそうだけど!)
わかってるから言わないで…。
大切な弟の事だし、力にはなるよ。 (さすがお姉ちゃん)
そうだよ?
暫くして…ユウキが今度は私を呼びに来た。両親が私に話があると…。
「姉ちゃんは僕とスピネルの事認めてくれる?」
「うん。反対なんてしないよ。ただ…行動には責任がついて回る事だけは覚えておいてね。何があっても味方ではいるけど、無責任な事をしたり、スピネルを泣かせたら怒るよ。私が言っても説得力ないかもだけど…」
「うん。それは母さん達にも言われた…。子供ができたらちゃんと育てろって。勿論スピネルを傷つけるようなことはしないよ」
「それを聞いて私は安心したよ」
それにしても、うちの両親は気が早くないか?ユウキはまだ学生なんだけど? (異世界だとなくはないし…)
あー…母さんたちもそっち基準か。
「スピネルも少し拗ねてるから、僕は傍に行ってくる」
「はいはい。程々にね」
両親から私への話は、二人を見守る事と何かあった時に力になる事をお願いされた。
「俺達よりアスカのが一緒にいた時間は長いだろ?だから頼む…。俺達が頭ごなしに言っても多分ユウキには伝わらんからな…」
「ごめんね、情けない親で…。心配でキツく言ったらすごく反発されちゃって…」
「そっか…でも二人の言いたかった事はちゃんと伝わってたみたいだよ?無責任な事をするつもりはないみたいだし、ユウキを信じてあげて」
「そっかぁ…良かった。嫌われちゃったかと思ったよ」
「まぁ、親なんてそんなもんだ。うるさく言って嫌われるのも親の仕事のうちだ」
「そうだね…。アスカにも苦労ばかりかけてるけど、お願いね」
「今更だよ。家族なんだし…。この事は未亜達には?」
「私達から話すよ。家族だからね! みんなを呼んできてもらえる?」
「了解。 ありがとう…みんなを家族って言ってくれて」
私は、部屋へ戻るとみんなへ両親から話があると伝えた。
ティーも聞いてただろうけど、行ってきてね。 (はーい!)
部屋に一人になった私は、自分自身もユウキへ言ったように無責任なことはできないなと改めて気を引き締めた。また心配かけて泣かせてしまったし…。
師匠といい、アキナさんといい、憧れてる人が遠いなぁ…。
「お邪魔するよー! あれ、アスカちゃん一人?」
「みんなは両親とちょっと話をしてます」
「そうなの? ギルドの査定が終わったから伝えに来たよ」
ギルドへ渡せば引き換えてもらえるっていう証明書をもらった。ギルドカードと一緒に提出すればいいと。
「わざわざありがとうございます」
「いいよ、いいよ。みんなのおかげでヌシ騒動も解決したし、未踏エリアの情報も集められたからね!」
「お役に立ててよかったです」
「硬いって! 姪っ子なんだから!」
「あっ、アキナさん、お礼を言い忘れてました。私達の…ティーの身元を保証して頂いてありがとうございます」
「あぁ! それも話しておかなきゃ」
まだ何があるのかな?って思ったら…とんでもなかった。
「アスカちゃん達は一月後、ドラゴライナ王国王族の令嬢、令息としてグリシア王国魔法学園へ入学することになりました!」
アキナさんは一人でパチパチパチーって拍手してるけど、えっ?ちょっと意味が…。
「王族ってなんですか!?」
「いやーうちは貴族階級とかないんだけどね。一応、王族エリアに住んでる身内だけは特別なんだよ」
それは前にちらっと聞いたような気もする…。
「このエリアは私の直系、長子の家系だけが住んでるんだけど…」
「私達は違いませんか?」
「いや、私のお姉ちゃんの娘だからね。貴族階級で言うなら、女王姉も王族に当たるでしょ?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね…」
師匠から教えて貰った貴族社会は、上から…まずは王族、貴族は公、侯、伯、子、男。王族は王家の血筋…。
公爵家は王位を継がない王族だっけ?国によって違ったっけ?
それだとうちの母さんは公爵家では?あれ?
わからないからとりあえず話を聞こう…。
「話を続けてください…」
「そう?じゃあ話を続けるよー。うちは貴族階級が無いとは言ったけど、このエリアに住む人達だけは特別なんだよ。みんな王位継承権をもってるし」
「私達もですか?」
「そうだね、継承権だけは血縁になるから、お姉ちゃんと、アスカちゃん、あとはユウキくんだけになるけど」
王家と同じ血を引いてるのが条件ってなるとそうなるよね。
それに継承権を主張するつもりなんてさらさら無い。
「だから対外的に必要だから、王族だけはハッキリとさせましたー!」
軽いっ!!
「いやーこれから国交をしていくとなると色々決めておかなくちゃいけなくてね。王族っていう、継承権を持つ者だけはハッキリと分けておきたくて」
「なるほど…」
「グリシア王国がガッチガチの貴族社会らしいから、こっちも立場をハッキリさせたよ!」
「了解しました。ありがとうございます」
「これで向こうで舐められることもないし、堂々としてていいからね」
それでも舐めた態度を取るようならシメて良いとまで言われた…。
王族と継承権を持つ相手を舐めてかかるというのは、宣戦布告みたいなものらしい。怖すぎる…。
借り物みたいな身分を盾にそんな事をするつもりはないけど、トラブルが少なくなるのなら有り難いかな。
うちの子達も守れるし…。なんて安心してたら不意打ちを食らった。
「ちなみにここの家の当主はお姉ちゃんで、今の継承権一位はアスカちゃんだよ」
「待ってください! それはおかしいです! アキナさんの子供さんとかお孫さんとか…」
「うちでは継承権って言うのは、先ず私との親縁の近さ」
「でしたら!」
「まだ続きがあるよ! その次に魔力量!」
「そんな…」
「アスカちゃんより魔力の高い子が出てくれば変わるし、何も無理に継がせようとかそんなつもりはないから安心して」
全然安心できない!
この魔力量で継承権が変わるっていうのは、ドラゴンの血を引いてると、それこそ王妃様みたいに覚醒するっていう事がままあるから決まっていることなんだとか。
それにしたって…。
「これも対外的なものだと思ってくれてればいいよ。勿論、アスカちゃんが試練の塔に挑むのなら歓迎するけどね!」
「挑みません! 私にはアキナさんのような素敵な女王様にはとてもなれませんから」
「嬉しいこと言ってくれるね!」
どこまで本気なのか…。
ただ、一つ有り難かったのは継承権一位なら、例え求婚された相手が他国の王族でも断れるって事。
そもそも、継承権一位の相手に婚約を申し込むと言うのは、イコール自分の国を出るって事だから、まず大丈夫だろう。
学園へは世話役としてメイドさんも数人ついてきてくれるんだとか。
立場的に必要になるから断れないらしい…。
そっちの顔合わせはまた後日。みんながいる時にすると言われた。




