ユウキと契約
洞窟を調べに行ってくれたキャンディは、霧状になり、更に奥がないか確認してくれたのだけど、ハズレだった…。
隙間から奥へ入る事が出来るようなスペースも無く、ただ単に浅いだけの洞窟だったと報告してくれた。
ただ、洞窟に封印して崩したのでは?っていうのは、みんなも思ったようで…
「入り口から崩しちゃってて、洞窟だったかどうかすらわからなくしてあるんじゃない?」
「ねえ様、それだと探すの大変よ…どれだけ年数が経ってると思うのよ」
「それは私に言われても知らないよー」
確かに、洞窟の奥を崩すのではなく入り口そのものを崩されていたらお手上げだ。
長い年月で草木に埋もれていたりするだろうし…。
「陛下は当時のこのあたりのことを覚えておられますか?」
「さすがに無理だよー。あの頃より森も大きくなってるし、ピンポイントでここを〜なんて」
当時を知るアキナさんでも無理となると…。
「ママ、力を貸して」
「うん?リコ、なにか方法があるの?」
「ええ…この辺りの精霊に聞いてみるわ。ただ、範囲が広いからママの魔力を貸してほしいの」
「それくらいは構わないけど」
「リコちゃん。それって、お姉ちゃんに危険はない…?」
「アスカが危ないならだめよ! また前みたいになったら…」
「危険はないわ。ママの魔力量だし。ティーも力を貸してくれるのなら楽よ。後は精霊を連れてる二人も力を貸して」
「ティーに任せて!」
「うちも役に立てるのなら…」
「まっかせて! なにしたらいいの?」
リコは森中の精霊に声をかけるために魔力が必要だと説明してくれた。
いろいろな精霊にお願いするためにも、うどんとぼたんの力も借りるらしい。
座ってティーを膝に乗せ、ティーが小さなリコを抱く形で集中する。
左右にはシエルとティアねえ様がそれぞれお狐様を膝に乗せて、私に持たれかかるようにして座ってる。
リコへ魔力を渡すようにしっかりとイメージ…。
ズズズ…っと魔力が抜けていく感覚がするけど、これくらいなら大丈夫。
一瞬、水に雫が落ちたときの様に、魔力が波紋となって広がるのを感じた。
「ますたぁ…?大丈夫?」
「大丈夫だよ。もし魔獣がきても私は動けないからそっちを任せるね?」
「わかったわ〜。でもこれだけの魔力を感じて寄ってくるものはいないと思うけど…」
それは確かに。
アキナさん達パーティどころか、うちの家族でさえ真っ青になって震えてるからなぁ…。
これで怖がられて嫌われたら泣きそうだ…。 (ママ、大丈夫! みんなを信じて)
…そうだね。
暫くそのままリコへ魔力を渡していたのだけど、リコを通して森中の精霊の居場所がわかるようになった。
相当数居るのだけど。 減ったんじゃなかったの? (それいつの話…)
あれから戻ってきてたりもするのか…。 (多分?)
森も大きくなったって話だもんなぁ。
目を開けると、大小様々な精霊が飛び交ってるのが見える。 (うぉーすっげー!)
こんなにいるんだね…。
闇の精霊の周りをふよふよと飛んだ後に、どんどんと飛び立っていく小さな精霊。
その間も魔力は持っていかれてるけど、精々減ったのは2割といったところか。
「わかったわ!」
「ありがとうリコ、手伝ってくれた精霊にもお礼を伝えておいてね」
「ええ。ママの魔力を貰っていってるからそれでお礼になってるわよ」
私の魔力は貢物かなんかかな!? (森中の精霊がママの子に…)
流石にそれはないでしょう。直接魔力を流し込んだわけでもないし。
でも魔力をリコを介して渡したせいか、リコとのリンクを切ったのに精霊が見えるんだよ…。 (ティーも)
「ママ、場所はね…」
「うん?」
「そこよ」
リコが指差したのは、川を挟んだ対岸の山。
あっ…。
「ママ!?どうしたの!」
「アスカが崩れ落ちたわ…どうしたのよ。まさか魔力の使いすぎ!?」
「リコちゃん、危なくないって…お姉ちゃん大丈夫!?」
「え?大丈夫なはずよ。魔力もまだまだ余裕があったし。ママはどうしたのよ」
「ごめん…魔力は平気だよ、自分のバカさ加減に落ち込んでるだけ」
「姉ちゃん、どういう事?」
「いや、闇の精霊の子が最初に”ここは私のテリトリー”って言ってたんだよ。その時点で近くだと気がつくべきだったなと…」
「…それ、私がここを気に入ってるだけだよ?他にも気に入ってる場所はあるし…」
そうだとしても、意識だけでそんな遠くにはいけないはずだよね。 (本人もわかってなかったんだし…)
ありがと…。
落ち込む私をみんなが慰めてくれて、なんとか立ち直る。
みんなももう怒ってないみたいで良かった…。 (……)
「あの山かぁ…草木が生い茂ってて、判断がつかないね…私がドラゴン化して吹き飛ばす?」
「陛下、それをしたら中に封印されてる精霊まで消し飛びますよ?」
「そればダメだね…」
闇精霊の子が怯えてるからやめてあげてほしい。
「ママ、場所ははっきりわかるから、穴を掘れない?」
「正確な位置もわかる?」
「ええ、土の精霊が教えてくれたわ。ただ、小さくて力は弱いから…」
「その子たちには頼めないって事だね、じゃあ少しずつ掘っていくから誘導お願い」
「ええ。任せて」
まずは対岸へ行くために川を渡ろうにも、そこまで深くはないとはいえ水深は膝上くらいまではあるし、川幅は数メートルあるから、力の無い子は流れに負けてしまう。
危険回避のために、魔法防壁を平行にして橋をかけた。
下手に地面に魔力を流して土で橋を作るとかしたら、また精霊が生まれそうだし…。
アキナさん達にはびっくりされたけど、流石にうちの子達は慣れたもので、何も言わずに渡ってくれる。
「これ防御魔法だよね?器用なことを…」
「はい。自然にも影響がないからいいかなと思いまして」
アキナさん達も恐る恐るだけど渡ってくれた。
チョコ達にはキャンプ周辺の警戒を頼み、私達は川を渡り、山の前まで来た。
近くへ来ると結構な大きさの山だな。
「私の身体がここに…」
「ママ、とりあえずこの方向へ」
リコの指差す方向へ、人が入れるくらいのサイズの魔力ドームを作り、山へ押し当てる。
押し当てた部分から風魔法が土や石を削り取っていく。
掘った土砂はそのままストレージへ。
「またアスカがめちゃくちゃしてるよ…」
「私は流石に慣れたわ…」
「まぁ、姉ちゃんだし」
「うん、お姉ちゃんだもんね」
「わう!」
「お姉様、ついてってもいいの…?」
「大丈夫だよ。風で空気も入れ替えてるから。ただ狭いから気をつけてね」
シエルは首を傾げてる。
酸素とか知らないだろうから仕方がないか。 (魔力ドーム内の風魔法で、空気も入れ替えてるの?)
そういう事だね。 (すげー!)
すぐに理解するティーもすごいよ。 (♪)
リコに誘導されつつ掘ること数分。
距離としては数十メートルってところか…。よくこんな奥へ埋めたな。 (可哀想…)
ほんとにね。埋める時は土の魔法でも使ったんだろうなぁ。
「ママストップ! そこからは慎重に」
「わかったよ」
探索では深い地中まではわからないけど、流石に目の前に空間があればわかる。
スピードを落として少しずつ掘ると小さな空間に出た。
「ここよ。 ママ、私はそろそろ限界だから戻るわ」
「ありがとうリコ、またお菓子持って遊びに行くね」
「楽しみにしてるわ」
リコはそう言うと消えていった。無理させちゃったな…。
空間は小さな部屋くらいで、真ん中に魔石がピラミッド状に配置され、その中に闇精霊の子が倒れてる。
酷いことするな… (こんな所に一人で…寂しかっただろうね)
うん…。封印のせいで探索にさえかからないし。
「私だ…。あの魔石のせいで動けなくて、自分の居場所もわからなかったの…」
泣き出す闇精霊をユウキがなだめてる。相性は良さそうだね。 (ラブラブ?)
そういうのなの!? (知らんけど!)
知らんのかい!
それよりもだ…。
「アスカちゃん、アレなんだかわかる?」
「調べてみてもいいですか?」
「私より適任そうだしおねがいするよ」
アキナさんの許可も貰えたし、慎重に調べる。
解析してみたけど、魔石による封印にトラップや危ないものはなさそう。
単純に囲った中の物を封印するだけの物だな。 (じゃあ契約とかしなくても解除はできる?)
だね。ただ、かなり弱ってるから契約して、相手から魔力をもらったほうが安全ではあるね。 (あぁー)
分かったことを説明して、ユウキと闇精霊の子も契約することに同意。
ずっとユウキにくっついてるし、大丈夫でしょう。
念の為、封印全体を魔力ドームで覆い、魔石の術式を破壊。
それと同時に意識体だった闇精霊は姿を消して、魔力ドーム内の本体が動く。
「大丈夫そう?」
「うん。この中、心地良い…。ユウキ?」
「あぁ。 姉ちゃん、それ僕が入っても平気?」
「大丈夫だよ。あの子が弱ってるから、自然界より魔力を多めにして包んでるだけだし」
頷くとユウキも魔力ドームの中へ。
契約って何するのかと思ったら… (きゃー!)
マジかぁ…。
ユウキ本人もびっくりしてるな。想定外だったのか…。
「これで対等な契約。浮気は許さない…」
「わ、わかった。他の精霊と契約したりはしない。これからよろしくね」
「うん」
「「「………」」」
見てたみんなもびっくりだろうな…まさかキスして契約するとは思わなかったし。 (シャーラかわいそ…)
あっ…どうしよう!? (さぁ…?)
ユウキと契約するように仕向けたの私だし、恨まれそうだ…。 (ユウキも修羅場!)
も!? (……)
無事に闇精霊を救出できた私達は、洞窟をでる。
私は一番後ろを歩き、掘った土を使って埋めながらの移動になるけど…。 (洞窟を残すとだめ?)
魔獣とかの巣になりかねないからね。 (納得!)
ユウキは契約した闇精霊の子に腕を抱かれたままだな。 どれだけ気に入られたのやら。
名前は二人で相談して決めるらしい。 (子供かよ!)
子供というか恋人の名前って感じだけどね…。




