異世界の年末年始事情
転移したのは、アクシリアス王国王城のいつもの部屋。
腕に飛び込んできてくれるのは、この部屋で待機してくれてる、ドラゴン姿のティー。
「ママー!」
「ティー、いつもご苦労さま」
「ふふー♪」
部屋の外で待機している騎士様に用向きを伝え、そのまま部屋で待つ。
アクシリアス王国も、ちょうど年末なんだよね? (そう、お城の大掃除もすんで、年明けの準備中)
こっちも大掃除とかあるんだ。いつも綺麗なのに。
年明けって何かイベントがあったりするのかな。 (陛下の挨拶から始まって、あとは家族でのんびり)
へぇ〜。のんびりするのはいいね。 (お店とかもしばらくはぜーんぶおやすみなんだって)
食品も買えなくなるけど、食事とかどうするの? (専用の保存食があるーって言ってた)
お節みたいなものか。 (なにそれー!)
その時のお楽しみ。作ってあげるよ。 (また楽しみがふえたの!)
それはなにより。
「失礼します」
この声、アリアさんだね。
「はい、どうぞー」
「アスカ様、王妃様がお待ちですのでご案内致します」
ドラゴンのティーは頭に乗りたいっていうから久しぶりに乗せて、最近ちょくちょくお邪魔してる王妃様の私室へ。
また赤ちゃんにも会えるかな。 (うんうん!)
アリアさんが扉を開けてくれて、室内に入った瞬間、飛来してきた何かがお腹に直撃。受け止める。 (大丈夫?)
私は平気だけど、びっくりしたよ。
「こら、アルフィー、ダメじゃない。 ごめんなさいねアスカちゃん」
「大丈夫です」
赤ちゃんドラゴンだね。すごいスピードで突っ込んできたけどこの子のが大丈夫かな。 (避難してて正解だったの)
予想してたのね。というかもう飛んでるのかー。 (今一番やんちゃな時ってお祖母ちゃんが言ってた)
なるほど。少し前のフィアみたいだ。
お腹にぶつかった仔ドラゴンを抱き上げる。
”きゅーーー”
相変わらずキレイでかわいいなぁ。
「アルフィー、こっちへいらっしゃい。ほら」
王妃様に返そうとしたのだけどイヤイヤってして離れてくれない。
「もう! 悔しいくらい懐いてるわね」
「お名前決まったんですね」
「ええ。アルフィーって呼んであげて」
「アルフィー様、王妃様が困ってるからいい子にしましょうね」
”きゅー”
王妃様に手渡すと大人しく戻っていった。
「アスカちゃんの言うことは聞くのね…」
本気で悔しそうな王妃様。なんか申し訳ありません…。
「お話があると伺っていたのですが…」
「ええ。お祖母様から今回の事、詳しい話は聞いているかしら?」
「はい、ある程度は。それでお迎えに上がりました」
「そう。ありがとね。 今、仕度をしてるからその間に私からもいくつか説明するわね」
王妃様の説明は凡そ予想通り。
転移させるメンバーも間違ってなかった。 (ママだいせいかーい!)
ドヤァ! (さすママ!)
想定外だったのは王子とドラゴン関連の事。
陛下が年明けの挨拶をする時に、王妃様がドラゴンハーフ姿を披露。
フレアベルナさんはドラゴン姿になって友好の宣言。
王子は今ちょうどノワルレイナさんとドラゴンの里へ行っているらしく、友好宣言の後に、里のドラゴン10人くらいと編隊飛行で帰還。そして婚約の発表。
更に次女でもあるアルフィー様のお披露目。 と、イベント目白押し。 (年明けから大騒ぎだー)
ほんとよね。今回はのんびり年明けなんて雰囲気じゃなさそう。
「申し訳ないのだけどその時だけシルフィーを連れてきてほしいのよ」
「了解です。そんな大事な場面で次期国王陛下のシルフィー様が居られないのはまずいですものね」
「ええ。ドラゴライナとの国交もまだ正式発表できる状態ではないから、シルフィーがいない理由が説明できないのよ」
「わかりました。お任せください」
「後、もう一つお願いがあるのだけど…」
王妃様が言い渋るような事って…。
「アスカちゃんもそこに同席してほしいの」
ちょっと何言ってるかわかんない。 (王族の仲間入り?)
無理無理。庶民にはハードルが高すぎる! (魔王してたのにー)
うっ…。あ、あれは別! (えー)
「ダメかしら…ちゃんと理由もあるのよ?」
「お聞きしても?」
「もちろんよ!」
王妃様の離してくれた理由は至って単純だった。
前回、王国の穀倉地帯で暴れたドラゴン。つまり、リア達の元父親だけど…。
それを止めたのが私だから。
穀倉地帯だったから、お城の騎士様だけでなく一般人の目撃者もそれなりに多くて、国としてもリア達に不都合がない程度に伏せつつ発表されているらしい。
それはそうだよね。あんな大事件を何の発表もないまま隠蔽するのは不可能だし、無理に隠すような事をすると、下手したら国への不信感にも繋がりかねない。
「アスカちゃんに関しては隠しようがなかったのよ。ほら、お城の騎士達が大騒ぎしたでしょ?あれがいつの間にか街の人にも伝わっててね」
「あぁ…ありましたね」 (ママがアイドル!)
王妃様が収めてくれたから忘れてたよ…。
「それに、ドラゴンを止められるような存在が居てくれること、使用された大規模な魔法。それを伝えないことには収まらなくて」
これは私自身にも責任はあるからなぁ。かなりの規模で魔法を展開したし。 (でもあれくらいしないとドラゴンには…)
そうなんだよね…。威圧目的だからオーバーキルレベルじゃないといけないし。
それに、そもそもあのドラゴンがここへ来たのも、私がリアを連れて行ったっていうのが原因だもんね。
はぁ…自業自得だね。 (でもアチコチで迷惑かけてたし、リアを探すっていうのもただの口実だったよ?)
そうだとしても。少なからず私にも責任があるなら、出来ることはしないと。 (あい!)
「私達と一緒にいてくれるだけでいいの。お願い!」
「わかりました…。私にも責任はありますから」
「ありがとう! 本当に助かるわ」
なにか話したりとかしなくていいのなら、なんとか耐えられる。 (戴冠式のときみたい!)
そうね。あの時みたいな修羅場にはならないだけ安心だけどね。
「うちの祖母はどうするんですか?」
「セイナ様は、こういった事には関われないとおっしゃられて。 力のある御方だから、どこか一つにだけ肩入れするように見えてしまうのを避けようとしておられるのだと思うわ。今回は特にドラゴンも集まることになるし」
「そうですか…」
確かにお祖母ちゃんはバランスブレイカーか。 (ママもだよ?)
私は名前が売れてる訳でも、伝説でもないからね。ちょっと力のあるだけの小娘だよ。 (ちょっと?)
そう、ちょっと。 (それは流石に無理がー)
ちょっとなの! (そういう事にしておくの)
うむ。
お祖母ちゃんはアルフィー様の事もあるから、まだ暫くはアクシリアス王国に滞在になる。
アキナさんのお祭りはどうするんだろ。 (シルフィー様を送ってきた時に確認したら?)
それもそうだね。今はまだ準備段階だし。
お城にはバルコニーがあるらしく、毎年そこで陛下の挨拶も行われているんだとか。
でもお城の周りって360度かなりの広さの穀倉地帯だよね。 (うん、街からは見えなさそう)
だよね。私がいる意味あるのだろうか。
「お城って街からすごく遠くないですか?」
「そうなのよね。拡声魔法で国中へ声は届くのだけど…。穀倉地帯の一部分は植え付けの時期を少し遅らせて、入れるようにはしたのだけどね」
暖かい地方だと小麦の植え付けは年末だっけ? (そうなんだ)
魔界は寒かったから早かったんだよ。 (あぁ〜!)
「アルフィー様のお披露目や、王妃様のドラゴンハーフ姿がみんなに届かないのは問題ですよね」
ドラゴン姿になったフレアベルナさんなら見えるでしょうけど…。
「ええ。特に今回はそこに頭を悩ませているのよ…最重要な部分でもあるし。街へ私達が行く事も考えたのだけど、アリアたちが猛反対して」
それはそうだろうなぁ。王族だし…。守るアリアさん達からしたら僅かな可能性でも危険は避けたいだろう。
ましてや今回はみんなが怖がったドラゴンに関しての、重大な発表。
イレギュラーがあったら大変な事になる。
かと言って、伝わらないのもそれはそれで問題だし…。
「いっそ映像として投影します?」
「どういう事!?」
スクリーンに映す方法、プロジェクションマッピングなどを噛み砕いて説明。
どちらも魔法と魔道具で再現は出来る。
映像として風景を取り込む魔道具と、それを映し出す魔道具。
ファミリンとか、通信魔道具の映像版にすればいい。
スクリーンで一番楽なのは、白く色を付けた巨大な魔法防壁に映す事かな。 (ママしかできないよ?)
いや、大きな魔法防壁なんて魔力が続けば出来るからね。ティーにも出来るよ。 (そっか!)
大きなテレビみたいなものよ。 (映画?)
そうそう。知ってたのね。 (本物がみれる!)
本当の映画はいつか行こうね。見たいものがあれば、だけど。 (やった!)
「アスカちゃん、それ、お願いできる?」
「はい、事前に準備するのは魔道具だけなので、作っておきます」
「助かるわ。一番頭を悩ませていたことが解決したもの。本当にありがとう、アスカちゃん」
早めに作って、テストしないとな。
録画してメディアに保存、みたいに魔石へ書き込むか。
そっちはあまり使いみちのない小さい魔石を使えばいい。
小型化出来れば、アルフィー様の成長記録とかも残せそう。 (ドラゴンの編隊飛行は?)
それも記録するといいかもね。
もういっそいくつか作って、アキナさんにも渡そうか。千年祭のお祝いに。 (喜びそう!)
頑張るか!




