ドラツーカスタム
「姉ちゃん達、準備は出来た?」
「大丈夫。荷物もみんなストレージに入ってるから」
日曜日の早朝から私達はドラゴライナへ行くための最終準備に追われている。
とは言っても、向こうに合わせた服に着替えたり、忘れ物がないか確認したりするだけなんだけど。
「今回は結構長い滞在になるのよね?」
「そうだねリアの言うとおりだよ。千年祭の一週間前に転移して、そのままお祭りに参加する予定だから」
ドラツーの運用とかについて相談もしなきゃいけないし、多少の余裕は欲しい。そのための一週間。
「時間があったらフィアにも会いに行きたいよー」
「うん、精霊の確認もしたいから行く予定はしてるよ」
名前つけてあげなきゃいけないし。
昨夜、結構な覚悟をして、未亜、リア、ティアねえ様と話をして…それでも変わらずこうやって一緒にいられるのはみんなのおかげなんだろう。
いや、変わらずではないか。みんなの気持ちを自覚した事で、私だけが変に意識してしまっている感じ。
今までなら部屋にリア達が居ても、平気で着替えてたのが恥ずかしくなったり、自分からハグしたりできなくなった。
”やりにくいから今更になって変に意識しないで”ってみんなに怒られるくらいには私の行動がおかしいみたい。
気をつけなきゃと思うほど意識しちゃう…。 (ママ乙女)
そんなの私のガラじゃないのは分かってるから!
ふぅ…。落ち着け私。
「シエルと、レウィも準備はいい?」
「大丈夫なの…昨日のうちに仕度はばっちりなの」
「わう! ちゃんと持ってる!」
レウィはそう言ってマジックバッグから骨ガムを出して見せてくれる。
それはいつも持ち歩いてるよね? (今のは新しいやつ!)
モールで買い足したやつか…。 (そうそう)
「リアはフィアにあげる鱗は持った?」
「ええ。一番キラキラしたのを選んだわ」
喜んでくれるといいね。
「じゃあ行くよ。魔力ドームから出ないでね」
固定された座標へ飛ぶならこっちのが楽。
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ドラゴライナのお屋敷でゆっくりするのも久しぶりだなぁ。
今の時間はお昼前だから母さん達も家にはいない。多分準備に忙しくしてるんだろう。
「僕は来たことをメイドさんに伝えてくるよ。アキナさんにも伝わるだろうし」
「ありがとユウキ、任せるね。 私達はいつもの部屋へ行こうか」
一階の広い私達の部屋へ。当然みんな一緒。
今回、ドラゴライナへの長期滞在が初になるティア姉さまも同じ部屋でいいらしい。
大した荷物があるわけじゃないけど、旅館にチェックインした気分で荷物を下ろす。
着替えとかを少し出しておくだけなんだけど、気分的に。
「ママ、レウィとお庭に出てもいい?」
「いいよー。すぐに用事もないでしょうから行っておいで」
「わう!」
「お姉様、うちも…」
「じゃあシエルは二人を見ててあげてね」
「はいなの」
嬉しそうに掃き出し窓から庭へ出ていく三人。
しばらくしてユウキもお茶を持ったメイドさんと一緒に部屋へきてくれた。
「アキナさんへも連絡してくれたから、手が空いたら来てくれるかもしれないよ」
「結局、私達は何もお手伝いできなかったね」
母さん達は大丈夫なんだろうか。 (準備はほぼ終わってて、最終確認とかしてるだけだから)
そうなんだ。余裕を持って準備を終えてるんだね。 (女王様すごい)
30分程だろうか、のんびりしていたら両親とアキナさんが来てくれた。
「随分久しぶりじゃねぇか、薄情な娘達」
父さんは前にもそう言ってたけど。覚えてないのかな。
「みんな久しぶりー」
母さんは全員にハグをしていく。
「よく来てくれたねーいいタイミングだよ」
「お邪魔してます」
「硬いよー。楽にしてて。 えっと、アスカちゃんは少し打ち合わせいいかな?」
「はい、ドラツーのことですよね?」
「そうそう。ついてきて」
母さんがみんなに離れてた時の事を色々聞いてるから、私はアキナさんについて二人で部屋を出る。
「来て早々にごめんね。ドラツーを出しておいてもらえる?」
「大丈夫です。姿も試練の時に最上階でみたアキナさんの姿でいいですか?」
「それは当日に変えてもらうのでもいいかな。多分みんな混乱するから」
それもそっか。ドラゴン姿の女王様が、発着場にずっと鎮座してたら事件だ。ドラツーなら前のこともあるし慣れてるでしょうし。
「わかりました。他に何か手を加えたりします?拡声できるようにとか…」
「できるの!?」
大音量のスピーカーのような魔道具は問題なく作れる。拡声魔法の応用だし。
「音量の調節もできるようにしますね」
「ありがとう、助かるよー」
間違いがないか、記憶にあるアキナさんの姿で一度ドラツーを出し、確認してもらった。白銀の美しいドラゴン。
近くに居た親衛隊や兵士の人達が”陛下!?”ってびっくりして跪いてたくらいだし大丈夫だろう。アキナさんご本人のお墨付きももらえた。
ティー、ドラツーのコクピットに外部用スピーカーのスイッチつけるからね。 (はーい! 当日もティーが飛ばしていい?)
うん。お願いするよ。 (わーい!)
スピーカー魔道具も作って設置。コクピットのマイクとリンクさせる。
「スピーカーのチェックしますか?」
「そうだね、いきなり本番も良くないし、いい?」
「はい。私は外で確認します」
音量やマイクスイッチ等の説明をして、外へ出てコクピットから見える位置へ。つまりドラゴンの顔の真ん前。
「あーあー。テスト。聞こえるか?これはテストだ。みんな気にせず作業を続けてくれ」
私は大きく手で丸を作る。ここでの音量は十分。上空へ行ったら音量を上げればいい。
周りで作業してた人がびっくりしてたけどアキナさんの姿に声だから問題はない。
ドラツー内へ戻り報告。
アキナさんと外へ出て一度ストレージへ仕舞う。再度リアに似せたいつものドラツーで再配置。
王国を回りながらの演説だから、結構な時間飛ぶ事になる。そうなると、ある程度の荷物や、数人の親衛隊やメイドさんも一緒に乗り込むから、後でそちらの確認もするらしい。
扉は開けておくことになるけど、親衛隊の人が交代で常に見張ると。
なんか申し訳ないし、防犯を考えてカスタムしようとしたら断られてしまった。
ドラツーは人気らしく、見張る親衛隊の人も喜ぶからと。
そういう理由なら仕方ないね。 (ドラツー大人気!)
みたいだね。当たり前にドラゴンがいる国なのに意外だった。
そもそもが王族の使うエリアだから、一般人は近づく事もできないらしいけど。
「後はこれを渡しておくね」
アキナさんから渡されたのは、
「ギルドカードですか?」
「うん。お祭りで必要になるから、みんなの分申請しておいたよ」
「でも私達は、ギルド試験受けてませんよ?」
「あれ、説明してなかった? ボスを請け負った人はそのランクの条件を満たしてるって事になるんだよ」
詳しく聞いてみたら、ボス役を頼まれた人はギルド試験に参加は出来なくなる。その代わり請け負った階層ランクのギルドカードが貰える。自分より高いランクの相手を倒せたのならランクアップもあり得る。まず無いけどねってアキナさんは笑ってたけど。
ボス役をしてくれる人へのある種の救済処置とでも言うのかな?
確かに頼まれてボスを請け負うなら、当然といえば当然か。その試験には参加できなくなる訳だし。
私達は元々が冒険者ギルドに所属していない飛び入り参加だけど、女王様の指示でボス役をしていたから特例らしい。
「本当なら私達Aランクを余裕で返り討ちにしたアスカちゃんにはSランクを渡したいところなんだけど、前例がないものを持ってると目立っちゃうからね」
「配慮していただいてありがとうございます」 (ティーも貰えるの?)
うん、みんなの分、ちゃんとあるよ。 (やったぁ!)
「ボスに参加していない、未亜とシエルのもあるんですが…」
「その二人は初心者のギルドカードだね。ほら、ダンジョンツアーに参加したでしょ」
「あぁ! なるほど」
「一緒に行動すれば、そのグループの一番高いランク扱いってことにできるから」
「わかりました」
私と、ティー、リアがAランクだから3組に分かれても何とかなるのか…。 (ルナティアはー?)
あっそうか、ティアねえ様は参加してない。
「すみません、うちの家族に一人、試験にもボス戦にも参加してない子がいるんですけど…」
「それなら大丈夫。Aランクなら三人まで仮のギルドカードを発行申請できるから。 ただし、戦闘力が皆無だと、流石に無理かな」
「大丈夫だと思います」
言うてドラゴンだしな。リアに負けないくらいだから相当でしょう。 (今はうどんもいるし!)
そうだね。
「それと、仮ギルドカードの子に関しては発行申請したランカーが責任を負うことになるから気をつけてね」
それは当然だよね。
「わかりました。申請はどうすればいいですか?」
「申請書を後で届けさせるよ」
「ありがとうございます」
「その代わりって言うとアレだけど、もう一つお願いいいかな?」
「私に出来ることでしたら」
「アクシリアス王国からも国王の名代として一人参加してくれる事になっててね。護衛やお付きの人を含めて数人、転移で連れて来て欲しいんだよ。いいかな?」
「はい。どなたが来られるかは?」
「内緒! アスカちゃんがもう少し遅かったら私が行くつもりだったのだけどね。私はハルナお姉ちゃんも迎えにいかなきゃだから、助かるよー」
ハルナさんから旅費を取ってやるーって悪い笑顔のアキナさん。
前に魔道具の情報で吹っ掛けられたっていうのを相当根にもってるね。
まぁ、アクシリアス王国からは、誰が来るかは大体予想できる。 (だれー?)
シルフィ様じゃないかな。護衛はアリアさんで、お付きの人はユリネさん。 (おぉーどして?)
単に消去法だけどね。 名代っ言ってる時点で陛下はありえないし、王妃様も赤ちゃんがいるから無理。
王子は婚約関連で忙しい。
そうなると、次期国王陛下のシルフィ様しかいない。 (さぁーどうでしょう!)
また内緒って言われてる? (うん!)
これでハズレてたら笑うしかないね。
お屋敷も手配が済んでいるそうで、いつでも連れてきていいらしい。
一度確認に行こうかな。 (みんなには言っておくの!)
ありがとう、助かるよ。
アキナさんにも迎えに行くと伝えて転移。
さて、予想は当たるかな。
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