召喚獣と師匠の過去
旧騎士団の訓練場で、模擬戦というか、戯れて遊んでいるチョコ、クッキー、ラムネ、ティーをキャンディにくっつかれながら見守る。
みんな私が近くにいるだけで嬉しそうにしてくれるから。
「キャンディはいいの?」
「私は戦闘種族じゃないもの〜」
そう言われたらそうだけど。それでも戦いになったら決して弱いわけではないのに。
団長を辞めるとか、とんでもないことを言い出した師匠はメリアさんと皇太后様にお説教されてて、ここにはいない。
「師匠にも困ったものだよ…立場も責任も全部捨てようとするなんて」
「…誰かを本気で好きになるってそういう事よ〜。何よりも優先したい、そういう相手って事よ。悔しいけどあの人は本気だったわよ?」
「なんでわかるの?」
「私はサキュバス。言うなれば色恋の専門家みたいなものよ〜?」
「…そっか」
私より詳しいのは当然か。
「あの子達はそういう感情に動かされてはいないけど。忠誠…いいえ、本気で慕ってるのよ、ますたぁを」
そう言って楽しそうにしてるチョコ達を見る。
それは私もわかる。そういう感情が伝わってくるから。
「でも、私は忠誠よりは愛でますたぁの傍にいるの」
「うん…わかってる。伝わってきてるから。でも…私はキャンディのサキュバスとしての欲求に答えてあげてないよね?」
「ますたぁはなにか勘違いしてるわ〜。そりゃあ、抱いていいって言うなら今すぐにでも押し倒すわよ?でも…大切に思ってくれてる想いや、それを実感させてくれる言動でも満たされるのよ」
「そうなんだ…」
「ええ、召喚獣には心なんてない、好きに使役すればいいって思ってる奴らばかりの中で、ますたぁはちゃんと私達を見て、想ってくれてる。それが嬉しいのよ〜私達はね」
「キャンディもそんなひどい目にあったの?」
「私はないわ。だって私のますたぁはますたぁだけだもの。召喚獣っていうのは、喚ばれたその主に一生尽くす。だから主は生涯に一人なのよ〜主が死ねば召喚獣も輪廻の輪にもどるの」
ひどい主に当たった時には目も当てられないわけか…。
「じゃあ、さっき言ってたひどい主の話は?」
「仲間内の話よ〜。私達召喚獣は専用の世界とでも言うのかしら〜。魔召界って私達はよんでるけど〜そこに暮らしてるのよ〜」
「初耳! 私が喚んでないときは寝てるというか休眠状態みたいなものかと思ってたよ」
「普通はこんな話しないもの。知らなくて当たり前よ〜。魔召界でもますたぁは有名人よ?」
「なんで!?」
「理想のますたぁ、喚ばれたい人ナンバーワン」
「頭痛い…」
「最初はチョコだったわ〜。還ってきたあの子から話を聞いたみんなが、次喚ばれる枠の争奪戦になったくらいよ?」
「私の知らない所で争いが…」
「それに勝って、喚ばれたのがクッキー、ラムネ、そして私よ〜?」
「じゃあクッキーが希少種なのもそれの影響?」
「そうよ〜?あの子フェニックスの最強種。と言うか私達は各種族最強よ〜」
そんな裏事情が…とんでもない話を聞かされてるな私。 (ママの戦力やべーの)
預かり知らぬところでそうなってるね…。
「もし、ますたぁが新たに召喚するってなったら〜、魔召界はお祭り騒ぎで凄まじい争奪戦になるでしょうね〜」
「怖いこと言わないで…」
「別に命のやり取りをしてるわけじゃないわよ〜?魔召界では死ぬことは無いもの」
「そうならいいけど。 それにしたって…他にも、まともな召喚者はいるでしょ?」
「少ないけど、いるわね〜でもほら、私達って強い相手に喚ばれたいっていうのは本能だから」
「あぁ〜。それはなんとなくわかる。魔界の一部に根強かった強さ至上主義に近いね」
「そうね〜ますたぁはそれさえひっくり返したけどね〜」
「魔道具はそれが出来るからね。その分、混乱も凄くて、普及させるのに苦労したけど」
魔道具っていうのはそれくらいバランスブレイカーだった。
魔界の在り方そのものをひっくり返したわけだし。
ただ…魔道具を、生活する上で便利な物っていう所に重点を置いて、そこから普及させたロウは有能過ぎた。
まずは魔界の住人の大多数を占める、戦う力のない人達に便利な魔道具を普及させて、生活向上による魔王への支持を最大限に利用して、魔王周辺や、軍に固まる強さ至上主義の連中を黙らせたんだから。
軍部に所属するような者は当然、強さ至上主義だけど、その家族まで必ず強い訳ではない。
そして、魔族っていうのは家族の絆が強い。
だから、御上の強さ至上主義で家族が苦労しているのを苦慮していても、それを口に出せずにいた者も多かった。
そこから切り崩していった訳だ。
最後まで抵抗していたのは一家すべてが強いっていう家系。
そこはどうしたかというと…
「魔王様。やっちゃってください」
ロウにそう言われて、結局最後は力で解決したのは魔界ならではなんだろうなぁ。
今思うと色々矛盾してるけど、それで何とかなったのだからいいんだろう。
「アスカ、ここに居たのか」
「師匠…」
「私はみんなのところへいってくるわ〜」
気を使わせちゃったかな。 ❲気にしなくていいわよ〜❳
「…すまんな」
「お説教は終わりましたか?」
「あの方に泣かれてしまってはな…何も言えん」
「師匠と皇太后様に何があったか聞いても?」
「ん? あぁ…。 私は孤児でな。両親の顔も知らん。物心ついた頃には帝都の路地裏で、同じ孤児仲間となんとか生きていた」
「…そう、なんですか」
「同情なんてしてくれるなよ? そんな時にな、お忍びでふらふらと街へ来ていた当時の皇后様に出会ったんだ。金持ってそうだ、と思ってスリをしようとしてあっさり捕まった」
「え…皇太后様に!?」
「あぁ、ほわーっとしていて、いつもあんな感じだが…おそらく今でも私より強いぞ?」
嘘でしょ…。 (魔力はあるなぁーとは思ってたけど…戦闘力見てみよ!)
「それで、孤児仲間のところへ案内させられて、もう終わった、とあの時ばかりは思ったな」
「スリ未遂ですもんね…」
「あぁ。仲間もみんな生きるためとは言えスネに傷のある身だしな。 だが、皇后様はみんなを連れて、街を周り、好きな物を腹いっぱい食わせてくれたんだ」
「凄いですね…」
「それからは、怒涛の展開でな?街の孤児は全員保護されて、孤児院が建てられ、年長者なら堅気の仕事を回され、魔力の高いものは皇后様が直接引き取ったんだ」
「まさか、それが魔剣士団の始まり?」
「そうだ。私の部下にも当時の仲間が何人かいる。私はこんな性格だろう?放っておけなかったらしくてな。まるで実の娘のように厳しくも優しく育ててくれたんだ。メリアと姉妹のように育てられた」
「師匠とメリアさんが仲がいいのはそのせいだったんですね」
「あぁ。皇子の方は孤児だった私をゴミのように扱ってきたが、それが悔しくて、強くなった。そうすれば恩返しにもなると思ったしな。皇后様と妹でもあるメリアを守る事もできる」
「だったら尚更それを捨てるような事をしたら駄目じゃないですか…」
「それくらいお前の事を好いていると分かって欲しいところだが?」
「うっ…鈍くてごめんなさい」
「まぁ、皇后様は今まで一度も恩を返せとも、それを私に感じさせるような事もされなかったんだが…あんなふうに泣かれてしまってはな…」
「師匠は女の人を泣かせてばっかりですね?」
「…部下にもキレられたな」
私に話をしてくれた騎士の人かな。
師匠にそんな過去があったと初めて知った。
今までの会話なんてほぼ肉体言語だったし。 (超脳筋!)
うん、こんな個人的な会話をしたのは初めてだよ。




