本音
チョコとクッキーは、私が自由に飛んでいいと言ったから、競うように凄まじい速さで飛び、帝都上空へ帰還。
向こうにいた時間を入れても数時間しか経過してない。
「へぇ〜ここが帝都なのね〜空から見るとおおきいわ〜」
「キャンディはあまり人の多い所は好まないから、任務でもなきゃ街では出てこなかったし、こういうのは珍しい?」
「そうね〜でもますたぁの冒険の始まりの地でしょ〜?興味あるわ〜」
「キャンディは私の記憶見てるから知ってるでしょ」
「直接見るのとは違うわよ〜」
チョコとクッキーは音もなく訓練場に着地。
「どうしたの?キャンディ」
「降りれないわ〜」
嘘ばっかり…いいけどね。
手を貸してあげてチョコから下ろす。そのまま、また腕に抱きついてくる。
「チョコとクッキーはここで休んでてね。運んでくれてありがと」
キャンディは腕を組んだまま離してくれない。
「私、陛下に報告に行かなきゃいけないんだけど…」
「一緒に行くわ〜だって見てたし」
「ティーも行くー」
私一人じゃ気が付かなかったこともあるかもだし、いいか。 (任せてー)
ティーはキャンディに怒らなくなったね? (ティー達は和解した!) ❲仲良しよねぇ〜❳
そう。仲良くしてくれるのなら私は嬉しいけど。 (うんっ!)
キャンディに絡みつかれたまま城内を移動するから、すれ違う人にビックリされる。
それはそうだよね。キャンディってビキニみたいな格好だし…。
男の人がデレ〜ってしてるのは仕方がないのかもしれない。美人でスタイルのいい本物のサキュバスだしなぁ。
当の本人は周りに一切興味がないみたいだけど。
因みにティーとはキャンディと反対側の手で手をつないでいる。 (〜♪)
途中、メイドさんにメリアさんの居場所を聞き、私室にいるって教えてもらったから、そこへ向かう。
「ア、アスカ…お前! いくら怒ってるからってそれはないだろう!」
えっ?この声師匠?背後から声をかけられたけど腕を組まれてて振り返れない。
「ただ今戻りました。陛下へ報告に行きますけど、師匠はどうしますか?」
「お前なぁ?それよりちゃんと説明しろ! わざわざ見せつけに来たのか!」
「はい…?」 (キャンディの事だよー)
あぁー! いやいや、師匠は前にも会ってるよね? (そうだけど…状況が…)
「へぇ〜。ますたぁを泣かせた人が何を言ってるのかしら〜?」
「いや…あれはそういうのじゃ…」
「キャンディ、私の師匠に失礼な態度したらダメだよ?」
「は〜い。ますたぁ、報告があるんでしょ〜?早く行きましょ〜」
「そうだね、陛下も気にしてるでしょうし」
「アスカ! 待ってくれ!」
キャンディとティーまで引っ張るから止まれない。
「師匠も報告を聞かれるのでしたら来てくださいー」
そう伝えるのが精一杯だった。
「二人ともどうしたの?そんな引っ張って…」
「ママ泣かせた」
「そうよね〜」
あぁ〜そういう事か。この子達の行動原理って私を第一に考えてるから…。 (当然!) ❲よね〜❳
師匠もなにかブツブツと言いながらも後ろを付いてきてる。
陛下の私室の前には当然魔剣士団の人がいて、引っ張られてる私の姿に一瞬ビクッてしてたけど、何も言わずに取り次いでくれた。
「陛下、戻りました」
「アスカ様! おかえ…はぁぁぁぁ!?」
「なになにー? わぁお」
皇太后様もいらっしゃったのね…。
ティー、キャンディ、悪いんだけど、ちゃんとした報告だから離れてね。 (はーい!) ❲仕方ないわ〜❳
「陛下、精霊の事でご報告が…」
「…メリア」
「…?」
「メリアです!」
「メリアさん、ご報告が…」
「それより、説明してください! 誰ですか! そ、その、痴女は!」
ひどい言われ方だな。確かにキャンディはサキュバスだけどさ…。
「メリアさん、そんな言い方はやめてください。大切な家族ですから。それに、戴冠式で一番活躍してメリアさんを守ってくれたのはキャンディなんですよ?」
「それは…すみません。あの時はありがとうございました」
「私はますたぁにお願いされたからやっただけよ〜」
あの時は、本当に助かったよ。 ❲ますたぁからその言葉が聞けただけで満足だわ〜❳
「メリアちゃん、取り敢えずかけてもらったら?大切なお話もあるみたいだし」
「でも、お母様!! はぁ…そうですね… 皆さんお掛けください」
メリアさんの隣に皇太后様と師匠、テーブルを挟んで向かいのソファーに私、隣にティーとキャンディ。首にはラムネもいるけど…。
「…………」
「…………」
何これ? (三者面談?)
3対4だけどね!?ラムネも首に巻き付いたままだし。
「アスカちゃん、精霊って何かしら?」
沈黙を破ってくれて助かります、皇太后様。
何も事情を知らない皇太后様に初めから順を追って説明し、今回の報告もメリアさんにする。
ティーとキャンディも補足してくれた。
「精霊ってすごいのねー」
「そうですね…たくさん力を貸してもらいました」
「わかりました。平原に関しては国としては未だ手を付けられる状態ではないので、そのままお任せします」
「はい。無理はしないように言ってあるので、気長に考えて頂けると…」
「普通なら森でさえ何十年、何百年とかかるはずのところを僅か一週間足らずであそこまで回復していただいたのです。それだけでも精霊様には感謝してもしきれません」
「大切な事なのですが、精霊は気まぐれで、本来は人に従う事はないんです。怒りをかえばどうなるか、私にはわかりません」
「はい…それは文献で読んだので承知しております。過度な伐採や破壊などはしないよう通達しておきます」
「お願いします」
急激に回復した森を見て、これならいくらでも切っていいだろう。また回復するだろう。そう考える人間は必ずいるから…。 (自分勝手ー)
そうだね…。私も気をつけないといけない。
「もし、今の約束を守っていただけない場合、私は精霊の子達にこの地から手を引くようにお願いすることになります」
「…肝に銘じておきます」
これだけ言えば大丈夫よね。リコや、ツキ、今日新しく出会った精霊の子たちが不幸になるのだけは避けたい。
「報告は以上です。他に何かありますか?」
「あの! どういう関係ですか?」
「…態々見せつけるようにしてきたのは私への当てつけか?」
「私はますたぁのものよ〜。ますたぁの為にしか動かないし、ますたぁのお願いしか聞かないわ〜」
「召喚獣って事は、アスカにそう命令されてるのか?」
バンッ!!
突然キャンディがテーブルを叩く。どうした…?こんな怒ってるキャンディ初めて見たよ!?
「ますたぁは私達に命令なんてしない! どんな時でもお願いしてくれるの。私達の意思を確認してくれるのよ! それを…」
「キャンディ、落ち着いて。ね?」
「はぁ〜もぅ!」
「すまない。失言だった」
「キャンディ達召喚獣は私の生まれ故郷では呼んであげることができないんです。それで、短時間でも会いたかったし、自由にする時間をあげたくて呼んだんです」
「ますたぁは召喚獣でしかない私達も家族と言ってくれて、大切にしてくれるの! だから私達もますたぁは何よりも誰よりも大切なの! 自分の事しか考えてないあなた達に何がわかるの?」
「「………」」
「キャンディ、言い過ぎだよ。師匠も、メリアさんも私がお世話になった人なんだよ?」
「ごめんなさい。でも、私達は、ますたぁが第一なの。それだけはわかって」
「うん。ありがとうキャンディ。 ん、ラムネもありがとね」
私もちゃんと話しておかないとな…。
今わかる範囲の事になっちゃうけど。それでも伝えないままなのは不誠実な気がするから。
「師匠、私は師匠の事が好きです。でもこの気持ちがどういう”好き”なのか答えを出せるほど私は色恋に関して経験がありません。ただ、一つわかったのは、師匠に必要とされなくなるのは悲しい、辛いって事だけです。それじゃダメですか?」
「いや、充分だ。すまん…自分の事しか考えてない、と言われて確かにそのとおりだと思った。私はアスカの師匠として失格だな」
「そんなことはありません。師匠は師匠のまま、今まで通りいてください。私は自然体の師匠が一番好きですから」
「そうか! わかった」
「アスカ様、私は…。 私もアスカ様の事をお慕いしております!」
「メリアさんは、私が勇者だから、国に必要だから傍に置いておこうとしてる…」
「違います! そんな…利用するつもりはありません。確かに頼ってばかりですが…」
「いえ、最後まで聞いてください。最初はそう思っていたんです。 だからご自分を犠牲にして…無理してまで結婚しようとしたと。でも、違うって事ですよね?」
「はい…」
「私は…メリアさんのその気持ちに答える事はできません。今は同性、というのは抜きにしても、皇帝陛下の恋人というのは私には荷が重すぎます。だって、私この世界の住人じゃないんですよ?」
「存じております…」
「現状、私はここを含め三つの世界を行き来していて、守るべき家族、大切な人、大切な物があります。仮に皇帝陛下と結婚したとして、私はずっとこの世界に留まることはできません。それはメリアさんに対しても、この国に対しても不誠実ですよね。私はそんな無責任な事はしたくありません」
「………」
「もちろん、メリアさんも、師匠も私にとって大切な人の中に含まれます。ですから頼られるのも、頼まれ事をするのも全然構わないんです。私に出来ることならいくらでも頼ってください。でも、一箇所に縛られてしまうと、失ってしまうものがあまりにも多すぎるんです…我儘なのはわかってます…だけど、どれも無くしたくないんです」
「わかりました。私も自分勝手にアスカ様を縛り付けようとしていたのかもしれません。アスカ様の枷にはなりたくないですから…」
「本当にごめんなさい…」
「なので!! 現地妻ということでどうでしょう?」
「はい?」 (現地妻?)
知らなくていいよ! 忘れて。 (えー?未亜に聞こう…)
やめなさいって…。
「そうだな。それがいい。 なに、難しく考えるな。アスカは私達の事も大切だと思ってくれているんだよな?」
「当たり前です!」
「私達もそうだ。だから、いつでも遊びにこれる場所だと思えばいい。好きな時に、自由にこっちへ来て、顔を見せてくれ」
「そういう事なら…」
「それで…もしだ、仮定の話でいいんだ、何よりも優先して、私と居たい。そう思ったら教えてくれ」
「約束なんてできませんよ?」
「それでいい。 二度と会えない、失ってしまう、あんな恐怖はもう嫌なんだ…」
「…はい。じゃあまた遊びに来ますね」
「ああ。そうしてくれ」
私も師匠に会えないのは辛いから…。
「へぇ〜。なに何?ラブラブトライアングラー?」
「お母様…話聞いてました?」
「もちろんよ〜。若いっていいわねー。 ねぇねぇ、アスカちゃん私は?」
「え?いや…今日初めてお会いしたばかりですし…」
「つまんなーい。そんな優等生な返事つまんないー」
何なんだろうこの人は…。 (目的がわかんないの…)
うん…。何を考えてるのか本当にわからない。
メリアさんも師匠も頭を抱えてるから、元々こういう人なのかもしれないけど。
「ますたぁ、みんなの所へいきたいわ〜もう少しのんびりしてもいいでしょ〜?」
「そうだね、今日中には帰らなきゃだけど、まだ時間はあるし」
「今日帰られてしまうんですか?」
「せめて一晩くらい泊まっていってもいいだろ?また一緒に飲みたいんだ私は!」
いや飲むの師匠だけだよね。
「明日は予定がありますし、家族を待たせているので…」
「メリア、魔剣士団の団長を退職していいか?私はアスカと一緒に行くぞ!」
「絶対に許しません! 許可するわけが無いでしょう!」
「アスカ、亡命させてくれ。横暴な皇帝にひどい扱いを受けているんだ私は」
「なっ…何を言い出すのですか!」
「師匠、冗談が過ぎますよ?」
「私の事好きなんだろー?いいじゃないかー。戦力にもなるぞ?」
「メリアさんを困らせて勝手な事をする師匠は、嫌いです」
「ぐっはァ…」




