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召喚被害者の日常は常識なんかじゃ語れない  作者: 狐のボタン
第五章

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初めての気持ち



予定通り、転移したのは国境の門から続く壁。

地形に合わせて作られているせいで、複雑に入り組んだ石壁の死角。

思った通り国境の壁は無事だし、このあたりは人っ気もなく、探索にも近くには誰も引っかからない。

国境の門周辺にはかなりの人が集まってるのは、守備兵や国境を越えたい人たちだろう。


「もうついたのか?」

「はい。街までは少しありますので、急ぎましょう」

「あぁ」

ティーも一緒に走ってくれる。


「お前、ちっこいのに足早すぎないか?」

「うちの子は優秀なので」

「そういう問題か?」

「ふふーん♪」

三人で走る事十分程。街の入り口の兵士に止められるも、師匠のお陰で問題なく街へ入れた。

さすが師匠はどこでも顔パスだなぁ。


「報告では、ここの領主の館で待機されているはずだ、行くぞ」

「はい。領主はどうしてるんです?」

急ぎ足で移動しつつ、現状の確認。

「領主本人は不在だ。今は奥方と、一人娘がこの街を管理している」

「不在、ですか…」

「戦時中に兵士を率いて戦っていたが、行方不明。おそらくは…」

「…わかりました。転移の前に騎士の治療はしますか?」

「そうだな、怪我の度合いによるが…大丈夫か?」

「はい。何百人とかじゃなければ」

「…十数人だ、仲間の中に討ち死にした者がいるから、その辺りへの言動に気をつけろ」

「はい」

「領主代行との会話等の対応は私がする。すまないが私の部下という扱いで、指示に従ってくれ」

「それで大丈夫です」

「よし、ここだ」

到着したのは所々戦いの痕跡が残る大きな建物。

街の建物を優先して直したのだろう。ここまで来る間も道沿いの建物がいくつも工事中だった。

この館は手つかずなのにだ。

そこから判断しても、今この地を管理してる人が悪人ではない事が窺える。


門番に師匠がメリアさんから渡された手紙を見せると、すぐに通してもらえた。



館内はメイドさんが案内してくれて、客間へ通される。

「アリッサちゃん!!」

「皇后様…よくぞご無事で! またこうしてお会いできて安心しました」

抱き合う二人。皇后様ってあの人なんだ。

嬉しそうな師匠。話し方もいつもとまるで違う。

相手が相手だからかもしれないけど…それにしたって…


………。 (ママ?)

うん、どうしたの? (怒ってる…?)

そんなこと無いけど…。 (目が怖いよ?)

えっ… (ヤキモチ…)

そう…なのかな?あんな師匠見たことないから。


「アスカ、お前は負傷者の治療を。ちびっこはここにいろ、怪我人は見せたくないからな」

「わかりました」 

「はーい…」


メイドさんに別室へ案内されて、負傷している騎士全員を治療する。いつも通り魔力ドームで…。


お礼を言ってくれる騎士の人達に返事をしつつも、なんとなく落ち着かないというか…イライラしてるのかな私。

なんだこれ…。どうしたんだ私。

上の空で返事をする私を魔力切れかと心配して騎士の人が座らせてくれた。

「大丈夫?貴女新しい魔剣士団の子かしら?」

「はい…」

間違ってはないよね。今は、師匠の部下って事になってるし。

「無理させちゃったかしら。結構な人数だったものね。それにしてもすごかったわね! アレどうやったの?」

「魔力ドームって私は呼んでるんですけど、それで包むと怪我等の詳細が把握できるので、それで治療しました」

「そう。 ねぇ貴女…本当に大丈夫?なにか悩みならお姉さんが聞いてあげるわよ?」

負傷した騎士は男女半々くらいで、怪我人は男女がパーテーションで分けられていただけだった。

館が半壊状態のままだから使える部屋が少ないのかもしれない。


治療した中の一人が、今話しかけてきてる騎士。一番重症だった人。

「いえ…大丈夫ですから」

「体調が悪いとかではなさそうだけど…熱も無いわよね」

おでこに手を当てられたりするのをそのままにしてたら…

「おい、何をしている!!」

部屋に入ってきた師匠の鋭い声。

「団長! お久しぶりです!」

「あぁ。それはいい。 そんな事よりお前…今、私のアスカに何をしていた?」

「団長の…?」

「何をしていたと聞いている!!」

「はいっ! …私達の治療をしてくれた後になんだか元気がなくて、体調が悪いのかと…」

「そうか。 大丈夫か?アスカ」

手を伸ばしてきた師匠の腕を無意識に払いのけてしまう。


「アスカ…?」

「…っ!」

自分でもなんでそんな事をしたのか訳がわからなくて、部屋を飛び出してそのまま外へ。

何なのこれ…頭のがぐちゃぐちゃで、悲しいのかイライラしてるのか、自分の事なのに全く分からない…。


館の庭だろうか、そこに生えてる木のそばで蹲る。

なんなのかわからない。 わからないのに涙だけは出てくる。





ーーーーーーー


「団長、アスカちゃんでしたっけ?あの子に何したんです?泣いてましたよ?」

「いや…別に何もしてないぞ?」

「いくら団長でも私達の恩人を泣かすのはどうかと思います」

「いや、だから私は何もしてない!」

「じゃあなんで団長の腕を払いのけて泣きながら走り去るんですか!」

「私もアスカにあんな反応をされたのは初めてで、意味がわからん…」

「ティー知ってるよー?」

「団長、この子は?アスカちゃんにそっくりですけど…」

「あぁ、あいつの魔法だ。実の子供のように可愛がっているから余計な事はするなよ」

「よくわかりませんけど、大切な子供ってことですね。 ティーちゃん泣いてた理由しってるの?」

「うん。師匠が泣かしたー」

「おい! 待て待て、私が何をした!?お前たちもそんな目で私を見るな!」

「ヤキモチ。師匠が美人さんとハグしたりしてたからー」

「はぁ!?」

「浮気…?あんな可愛い子がいて?」

「私のアスカ、とか言ってたのに…」

「カップルでケンカしたなら男の方から謝ったほうが無難ッスよ?」

「誰が男だ! お前、後で覚えてろよ? おいこら、ちびっこ、ちゃんと説明しろ。このままだと私の立場が…」

「むー。ママは多分、師匠の事大好き。前に言ってた。”酔って私だけに無防備な姿を見せてくれる師匠を裏切るような事は出来ない”って…男の時にも師匠に手を出さなかった理由」

「…ちびっこ、それはアスカが言っていたのか?」

「そう。それくらいすごく大切に思ってる。なのに、違う人とハグしてたから…」

「はぁ…あれは再会の挨拶だろうが…」

「それ、団長が言えたセリフじゃないですからね?」

「あぁん?」

「私が体調の心配して、おでこに触れてただけで、どんなキレ方してたか自覚してます?」

「……」

「ちょっと私探してきます。団長はここにいてください。今顔を出すと拒絶しかされませんよ!」

「なんでだよ…くそっ!」



ーーーーーーーーー




「アスカちゃん、見つけた!」

「……」

「よっと…隣、失礼するわね」

「体調大丈夫ですか?結構な怪我をしてたんですから、失血してますし、あまり動かない方がいいですよ」

「私の心配してくれるの?そんな状態なのに。優しいわねぇ」

「無理しないでくださいね」

「無理してるのはどっち?」

「はい?」

「そんな泣いてまで…大好きな人に裏切られた?そう感じた?」

「っ…」

「その人の事大好きだから、ヤキモチ焼いちゃったんだね」

「いえ、そんなことは…。だって同性ですし…」

「それ、関係ある?」

「え…?」

「相手が男だから好きになるの?同性だったら好きになったらいけないの?」

「…良くわかりません。家族や大切な人が好きって言うのはわかるんですけど、そういう”好き”がよくわからないんです」 

男の時には可愛い子とか見ると、ああいう彼女がいたらいいなーとかそういう感情が無かった訳じゃない。

ただ、頻繁に召喚されるし、学校では避けられてたりするのもあってそういう機会に恵まれなかった。

まぁ、あれは今思えばファンクラブのせいなんだけど…。

そのまま性別が変わって意識も変わった事で、女の人に対してそういう気持ちは起こらなくなった。

かといって男の人相手に?彼氏? 全くピンとこない。彼氏ほしいなんて思わないから。

だから私は大切な家族を大事にする。それじゃダメなんだろうか…。



「そっかぁ。難しいもんね…じゃあさ?今思い浮かべてる人が、アスカちゃんをほったらかして誰かとデートしてたり、イチャイチャしてたら?」

「………」

なんで悲しい?師匠が幸せになるなら良いはずなのに。でもそうなったら私は必要とされなくなる?

そんなのは嫌だ…。


「おぉう…そんなにぽろぽろと泣かれると罪悪感すごいんだけど。それがヤキモチ。好きな人を取られたーって」

「でも相手は尊敬してる師匠で…」

「だから?」

「…?」

「私には、言い訳を探して、決めつけて、自分の気持ちに嘘をついてるようにしか聞こえないけど?」

「そんな…ちが…」

「ほら、そうやって。 相手は同性だから、師匠だから、恋愛感情にはならない、そんなのは言い訳だね」

そうなの?私は師匠のことを…?いやーそれはどうなんだろう…。


「でもあの人、理不尽だし、酒癖悪いし、戦闘以外何もできませんよ?」

「あはは! それは言えてるわね! でも嫌いじゃないんでしょ?」

「はい…」

「今アスカちゃんが感じているのが本当に恋愛感情なのか、私にはわからないけど、違うって決めつけて考える事を止めちゃうのはオススメしないよ。 そうだ! いっそ、一度抱かれてみるとか?」 

「それはもう無理矢理何度もされましたから…」

「はぁ!?無理やり? ちょっと団長何してんのあの人!」

すごい剣幕で怒り出した騎士の人はそのまま走り去っていった。

大丈夫かな、大怪我してたのに。 (ママの思ってる”抱かれた”とあの人の言ってた”抱かれた”は意味が…)

ん?無理やり抱き枕にされたりした事じゃないの? (多分違うのー)



決めつけて考える事を止めてしまわないないように、か…。

少し考えてみよう。

師匠とデート…。

待ち合わせ。 遅れることはないだろうな、師匠なら。

ショッピング。 武器とか見に行くだろうなぁ…。服を選ぶにしても戦闘を念頭におくし。

食事。 ガツガツと肉にかじりついてる姿が思い浮かぶ。

夜。 お酒を飲んで絡まれてそのまま寝るだろうな。

あれ?普段とかわらなくないか?


やっぱりわからない。師匠のことは好きだし、大切な人。でも家族とはちがう。

友達?ちがうなぁ。それは奈々や、麻帆だし。

恋人?師匠が!? まずそもそも恋人っていうものが想像できないんだよ。


はぁ…なんか疲れた。

そろそろ、治療した人達も落ち着いた頃でしょうし、皇后様もメリアさんの元へお連れしないと。










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