神社再び
「あっ…結局聞きたかった事を聞きそびれた!」
お昼休みが終わり、未亜たちと別れて教室へ戻る途中で奈々が叫ぶ。
「今日は仕方ないわよ。また明日でも良いじゃない」
「えー放課後! カラオケでも行こうよー」
「今日、私は用事があるから無理よ」
「私も、今日はごめん…」
「むー。明日は絶対だからなー!」
ふてくされる奈々を宥めて、午後の授業も恙無く終わり、二人とは教室で別れる。
校門にはユウキと未亜が待っててくれた。
「お姉ちゃん、今日はありがとう…」
「悪いのは私だから。ごめんね未亜」
「何があったのさ?」
ユウキにもお昼休みの出来事を話す。
「なるほどなぁ…それは確かにウチのせいだね」
「でしょ? ユウキはいいの?」
「ん? 親友とかに話さなくていいのかって?」
「そう…」
「あー…、んー。いいや。面倒くさい事になりそうだし」
「ユウキ君の親友って言うと、あの鼻血の子?」
あぁ…あったねそんな事も。私は記憶から消したいけど…。 (屋上でパンチラ事件)
やめてーーー! (ママが恥じらいを覚えてティーは安心)
まったくもぅ!
「覚えられ方ひどいな…確かにそうだけど。アイツ、バカ正直だから…隠し事とか出来ないし。アッと言う間に広まりそうだからこのままで」
「それは困るね」
ユウキの判断に任せるけど。
あ、このあたりのハズ。
「二人とも、ちょっとだけ寄り道させて」
「いいけど、急がなくていいの?」
「すぐ済むから」
予約してあるお店にお金払っておかなきゃ。
通学路から少し横道に入り、小さな看板が出てるだけの、民家と見分けのつかない隠れ家のようなお店。
「ちょっと待っててね」
「わかったよ」
「はーい」
どこから入ったらいいの? (張り紙あるよ?)
ホントだ…チャイム鳴らせばいいのね。 (ピンポーン!)
ティーが言ったのか鳴ったのかわからん! (あはっ)
「はーい、すぐに開けますね」
鳴ってたみたいね。
引き戸を開けて顔を出したのは20代後半くらいの女性。
「あら…学生さん? あっ…もしかして金曜日に予約してくれた子?」
「はい、如月です。先払いに寄らせてもらいました」
「ありがとう。わざわざごめんねー。最近予約だけして、当日に何も言わずに来ない人とかがいるから」
「それはひどいですね…」
「そうなのよーだから手間でもこうするしかなくてね。えっと…3名様で…おぉ、一番いいコースを選んでくれたのね」
手帳を確認しつつそう言うお姉さん。
「親友の快気祝いなので奮発しました」
「ええ…そう書かれてるわね。最近の学生さんはお金持ってるのねー」
「貯めてたお年玉で…」
と言う事にしておこう。 (実際はー?)
父さん経由で異世界で手に入れた貴金属を売った! (あははっ)
前までは自分で直接売りに行ってたんだけどね…。学生だと頻繁にいくと不審がられるから。 (それは…)
だから父さんから話を振られたときに即、大量に渡した。多すぎるからって減らされたけど…。
それでも結構な額は換金してもらえたからね。 (ママはこっちでもお金持ち!)
精々、小金持ち程度よ…。
現金で2万円を払う。一人1万円のコースで本来ならお酒がついて3万円だったから、その分は引いてもらった。
「確かに受け取りました。こちら控えです。当日に持ってきてくださいね」
「分かりました。楽しみにしてます」
「ええ。期待しておいて! 旦那が腕によりをかけて料理してくれるわ」
夫婦経営かぁーそれも素敵だなぁ。 (ママなら繁盛しそう…)
忙しいのはやだな…。
みんなを待たせてるし、急がないとね。 (みんな準備万端!)
ありがとう。もう少しで着くから。
「姉ちゃん何してたのさ?」
「奈々の快気祝いに、お店を予約してたんだけど、先払いだから払ってきた」
「そうなんだ。お姉ちゃん、それっていつ?」
「金曜日だよ。 あ、みんなの夜ご飯は前の日に仕込んでおくから」
「いいよ、お姉ちゃん。私にやらせて」
「でも…」
「お願い」
「わかった、なら未亜に任せるね?」
「うん! 任せて!」
「未亜姉ちゃん、僕も手伝うから」
「じゃあ甘えちゃうね?」
「任された」
「ありがとう、二人とも…」
本当にうちの子達は優しいんだから!
「ただいまー! って…また揃って玄関で待ってたの?」
「ティーがそろそろ帰るって教えてくれたのよ」
「わう! 主様とお散歩!」
「私達の用事でもあるからねー」
「そうなの…お狐様にちゃんとお話聞かないと…」
「着替えたりするからもう少し待ってね」
私達はそれぞれの部屋で急いで着替える。
そろそろ暑くなってきたし、薄着でいっか…。 (ママ似合うー)
ありがと。変じゃないならいいや。
玄関に行くと私が一番最後だった。
「ごめんね、お待たせ…」
「お姉様、素敵なの…そういうのも似合う…それなら………」
「アスカ可愛いー。いつもと違って涼しげでいいねー」
「普段、露出嫌がるのにどうしたのよ?」
少しスカートは短いけど、普通に半袖のワンピースだし…。タンスに入ってたんだもの。
「そんな露出ないでしょ?これからの季節は暑くなるし、今日も暖かいからこれくらいでもいいかなって…」
「可愛いよお姉ちゃん! いつもは黒とかが多いけど、淡い色も似合うよ」
「ありがと。取り敢えず行こうか?レウィが待ちくたびれてるし…」
自分でリード咥えて待ってるんだもんなぁ…。 (首輪にリードはティーがつけました!)
ありがとう。手慣れてるね。 (お散歩は日課だから!)
みんなで昨日と同じように歩いて神社へ向かう。
相変わらずレウィはルンルンで嬉しそう。 (もう完全に犬…)
可愛いからいいじゃない。 (ママも、本人もいいならいいの)
「ねえアスカ、これから暑くなるって言ってたけど、どういう事?」
「そのままの意味なんだけど…」
改めてティアねえ様に聞かれて説明に困る。私達には当たり前の事を知らない人に説明する難しさたるや…。
「向こうって寒暖差があまりないんだっけ?」
「ユウキも向こうの夏は体験したでしょう?」
「夏だったの!?」
「母さん達と行ったったのなんてこっちで言う真夏よ?」
「まじか…」
「二人で分かったように話してないで教えてよー」
「ごめん、ティアねえ様。こっちは四季があって…」
「向こうにだってあるわよ?」
「もっと季節毎にはっきりと変化があるの」
「へぇーだからこれから暑くなるって事?」
「そうだね、梅雨に入ってジメジメして蒸し暑くなって、それが過ぎたら本格的に夏になって、すごく暑くなるよ」
「私達は暑いのは多分平気だよー」
「そうね、フレイムドラゴンが多くて暑苦しかったし」
そういえば…山の上でも寒くなくて過ごしやすかったけど。 (多分リア達の暑いとこっちの暑いは比較にならない…)
やっぱり?そんな気はしてた…。 これはクーラーをフル稼働させるか…。
いや、魔道具作るほうが早いかもなぁ。
「梅雨はやだなぁ…髪がまとまらないし、ベタベタするし。お姉ちゃんも髪長いから大変そう」
「だねぇ…雨が続くから。この髪の長さで初めての梅雨かぁ…憂鬱だわ」
「あぁ…例の梅雨前線だったかしら」
「そうそう」
「リアが詳しいだとっ!」
「ねえ様、勉強不足よ?」
「くっ…悔しい!」
「ふっ…」
これはリアの勝ちかな? (アニメの合間に天気予報見てただけだけど…)
それでもよ。何から知識を得たかは問題じゃない、ちゃんと知識として吸収できてるかが大切だからね。 (そっか!)
まぁ、間違った知識なら訂正はするし、ダメな事なら怒る時もあるかもね? (ギクッ…)
コラ…。 まぁ、でもティーの事は信頼してるよ。 (気をつけるのー)
ん。そうして。
「あっ…だから、お姉様がくれた本には涼しそうな服ばかりだったの…?」
「うん。逆に冬はすごく寒いから、その頃の本には暖かい服が増えるよ」
「それも楽しみなの…」
嬉しそうなシエルを撫ぜる。またその時は本を買ってこよう。
「主様、そろそろ到着!」
「ありがとうレウィ」
あ、今日は私にも見える…神社の入り口からもう小さなお狐様が飛び交ってる。
「今日もここはすごいねー」
「うん…すごく神聖な感じがするの」
鳥居の真ん中を歩かないように、端をくぐり抜け境内へ。
今日は神主様は居ないようだから挨拶できないけど仕方ない。
そのまま奥のお社へ向かう。
小さなお狐様もみんなついて来てくれてる。
”また顔を出せとは言ったが昨日の今日かぇ?まぁ理由はわかっておるが…そのまま来てよいぞ“
「すみません、お邪魔します…」
お社へ到着すると昨日とは違い扉は開かない。
”すまぬな…今は、ちとそこを離れておるから。会話は仔を通して聴こえるから問題はないぞ“
「すみません…まずはこれを」
お社の前に稲荷寿司を詰めたお弁当箱を2つ置く。
”昨日、仔らがもらっておったな…蓋を開けて皆に振る舞ってやってくれ“
「わかりました」
お弁当箱の蓋を開けると小さなお狐様が沢山寄ってきて取り合いになってる…。
”落ち着かぬか…ちゃんと皆でわけよ“
その一声で大人しくなった小さなお狐様はハムハムと、みんなで仲良く稲荷寿司を食べてる。
可愛いな…。
”それで…契約の話だったか?“
「はい…」
突然お社がパタンっと開く。
”あっ…残しておいてくれても良いではないか…薄情者共め…“
ふいっと揃って顔をそらす小さなお狐様たち。いちいち仕草が可愛いのはなんなの?
「まだありますから! 沢山作ってきたので…」
”気が利くではないか…“
もう一つのお弁当箱を出して、蓋を開けて供える。
”おぉ…これは…仔らが夢中になるのも仕方ないのぅ“
食べてるのを邪魔するわけにもいかず…。
それでもあっという間に平らげたお狐様は話の本題に入ってくれた。




