ごめんね
サラダ巻きと稲荷寿司を詰めて、助六寿司みたいになったお弁当を人数分用意。
お留守番してくれる子達に渡しておく。
「ユウキと未亜も忘れずに持って行ってね」
「ありがと姉ちゃん」
「お昼が楽しみだよーありがとうお姉ちゃん」
「どういたしまして。今日も早めに帰るからみんなも仕度しておいてね」
みんなに見送られて家を出る。
いつも通り途中で奈々と合流。今日は珍しく麻帆も一緒。
ユウキと未亜はまた気を利かせてくれたのか、先に行ってしまった。
「麻帆がこの時間に登校なのは珍しいね?」
「今日は家まで迎えに来てくれたからねー!」
「ちょっと心配だっただけよ…」
「だからアスカを迎えに、ちょっとこっちまで一緒に来た!」
「そっかー。って、じゃあ毎朝、奈々は遠回りしてたの!?」
「少しだけね?」
「よく言うわよ…反対方向じゃない」
そういえば二人の家ってこっち方向じゃない…。 (ママは相変わらず!)
本当にね…。
「態々ごめんね」
「会いたいから来てるのに謝られるのはヤダなぁ」
「奈々って行動力だけはあるから、気にしない方がいいわよ」
「それもそっか、でもありがと。二人が居ないと私は学校でもボッチになるから…」
「どういたしましてーって…マジか! 休んでてごめんよー」
「人気が有り過ぎるのも問題ね」
そういう理由なのだろうか…。 (近寄りがたい雰囲気というかオーラ?)
そんなの出てるの? (魔王だし…)
それを言われてしまったらもうね?
「男子は仕方無いにしても、他の女子も?」
「会話くらいはするけどね。お昼はボッチになってたから、妹が気を利かせてくれたよ」
「もっとアスカに親友を増やすべきか…?でもそうしたらおかずの取り合いが…むー」
そんな会話をしてる間に学校へ到着し、相変わらず家で宿題をしてくる時間のなかった私は、ホームルームまでに片付ける羽目に…。
「スペック高くて、すぐ終わるんだからちゃんと家で宿題しなさいよ」
「ごめんって…麻帆は厳しいよ」
「クラス委員だからね。ゲーム機とかも出したら没収するから」
「出さないから」
「アスカってゲームとかするの?」
「前は弟とよくしてたよ。最近はそんな暇もないけど…」
「「あぁ…」」
二人に納得されてしまったよ。
「じゃあ宿題もそのせいで?」
「まぁ昨日は…夕飯の仕度に、お弁当の仕込みをして。他にもちょっとしたイベントがあったからね」
「その話聞きたい!」
「奈々、ここでは止めなさい。お昼に例の場所で…」
「おぅ…そうだった!」
小声で話す二人には言えない…会話は漏れないよ、とは…。 (ママの遮音魔法!)
うん。周りには喧騒や雑音に混ざって聞き取れなくなってるからね。
「よしっ、終わり!」
「これだけ会話しつつよく宿題できるわね?英語の宿題だったわよね?ちょっと見せなさい」
麻帆にノートを取り上げられる。
「……」
無言で返されたんだけど…。 (間違いなんてないし)
翻訳スキル様々よね。 (何度も世界を救ったんだしそれくらいは)
「確認するまでもないでしょー?麻帆は真面目だなぁ。アスカが間違うわけ無いじゃん」
「だって! はぁ…もういいわ」
諦めた麻帆にはそれ以上は何も言われることはなかった。
いつも通り何事もなく、午前の授業を終えてお昼休み。
ずっと話を聞きたかっただろう奈々に引っ張られるように、空き教室へ。
あれ?教室に誰かいる。と言うかこの魔力反応は…
「未亜…?明ちゃんも、珍しいね…こんなところに。どうしたの?」
「お姉ちゃん!?それが…」
「アスカ先輩! 未亜が酷いんです! 親友の私に隠し事してて…」
コレってあれか…私のせいだよなぁ間違いなく。 (ママというより如月家?)
うちの名字をティーから聞くことになるとは…。ってそれはいいんだよ。 (キャラ紹介以来)
「明ちゃん、何があったの?」
私達もお弁当を広げつつ、拗ねてしまっている明ちゃんから話を聞く。
「未亜って英語がすごく苦手なんです。いえ、苦手だったんです。…なのに、今日あった小テストで満点とって…」
翻訳スキルかぁ…。未亜は俯いてしまっている。
「高スペックな姉、アスカが居るようになったから教えてもらってるんじゃないのー?」
私のお弁当箱から稲荷寿司をつまみながら奈々がそう言う。
「私もそれは思ったのですが…未亜が歯切れ悪くて。何か隠してるんですもん!」
「……」
これは私の責任でもあるなぁ…一人ぼっちだった未亜をずっと支えてくれてた親友に、隠し事をさせてしまってる訳だし。
どうしたものか…。 (明ちゃんにも教えちゃうー?)
手っ取り早い方法ではあるけど、未亜と明ちゃんが望むかわからないからね…。
「お姉ちゃん、ちょっといい?」
「うん?」
未亜に引っ張られる形で教室の隅へ。
「ごめんなさい…明ちゃんには嘘をつけなくて…。うまく答えられなくて黙ってたせいでこんな事に…」
「私こそごめんね。未亜に親友へ隠し事をさせてしまって。未亜はどうしたい?」
「えっ?」
「明ちゃんには話したい?」
「親友だから…今まで隠し事とかした事無くって…」
「そっか…明ちゃんは、それを望むと思う?」
「お姉ちゃんや異世界の事を聞きたいかって事?」
「そう。二人次第だよ。私も親友にはバラしてしまってるからね」
「……許してくれるなら…明ちゃんには隠し事したくないよ…」
「わかった」
未だ俯いてる未亜の手を引いてみんなの元へ戻る。
察してるであろう麻帆が目で訴えてくるから頷くと、頷き返してくれた。
「明ちゃん、ごめんね」
「アスカ先輩は悪くないです!」
「ううん。私が未亜に秘密にしてもらってたの。だから悪いのは私」
「えっ…?それって…どういう事ですか?」
「コレは、私…と言うか、うちの…如月家の秘密なんだけどね?」 (また飛ぶの?)
いや、流石に未亜の親友にいきなりそれは出来ないよ。私の親友じゃないんだから。
「未亜、見せてあげていいよ?」
探索で周りに人が居ないのは確認済み。もし誰か来たら対処すればいい。 (秘密を見たものは消す!)
物騒なこと言わないの。隠蔽するだけだから。 (てへっ)
「いいの…?」
「うん。未亜は明ちゃんを信じてるんでしょ?」
「当たり前だよ! 親友だもん…」
「それならいいよ」
「ありがとうお姉ちゃん!」
未亜は手のひらに火魔法を使い、火球を出す。
「えっ…何それ! 未亜、火傷するよ!」
「大丈夫。これ魔法だから…」
「…は?いや、まって…未亜は何を?」
「明ちゃん、見ててね?」
私は氷魔法で手のひらサイズのドラゴンを作る。クリスタルに近い、溶けないドラゴンを。
「アスカ…せんぱい…?」
「私も未亜も異世界に行く事ができて、魔法が使える。 んー厳密に言うなら未亜は私の妹になった時から使えるようになった…だね」
「嘘…じゃないですよね。今見ましたから…異世界…?」
「うんうん、アスカは異世界魔王だよ!」
「ちょっと奈々?」
「なんだよー事実じゃんー」
「そうだけど…。 ねぇ明ちゃん。もし私の話や未亜を信じられないって言うなら私が幾らでも証拠を見せてあげられる。どうする?」
「……未亜は親友だから。なにがあっても信じるって決めてました。だから隠し事されたのが悔しくて…」
「………」
「私が内緒にしてって未亜に言ってたから、そこは本当にごめんね」
「いえ! 正直、何が何だかわからなくて混乱してます。でも、私は…未亜とアスカ先輩を信じます!」
「明ちゃん…ありがとう!」
明ちゃんに抱きつく未亜。それを当たり前に受け止める明ちゃん。
素敵な親友だね。
「おー仲良しじゃんーいいねいいね」
「茶化さないの! 奈々はまったく!」
「先輩達は知ってたんですか…?」
「私達もつい昨日アスカちゃんから聞いたばかりよ」
「うん。私達も親友なのにずーっと隠されてたからね! あれ…これ、私もアスカに怒るべき?」
「怒られるのなら仕方ないし、甘んじて受けるけど…」
こればかりは仕方がないと思うから。
「冗談だよ! こんな話、言い出せなくて当たり前だし。だから明ちゃんも未亜ちゃんを許してあげてね?」
「はいっ! 親友ですから! じゃあ英語が出来るようになったのも…?」
「そうだね、それも魔法の一種かな。 ただ…任意で使うものではなくて常に発動状態だから、慣れないと加減ができないのよ」
英語だろうが日本語のように当たり前に見えてしまうからなぁ…。
「もしかして、アスカちゃんって、外国語ぺらぺら?」
「そうなるね…。一度見聞きすればどんな言語でも扱えるとは思うよ」
「マジチートじゃん! 羨ましい!」
「…そう言われちゃうと申し訳ないのだけどね」
「やめなさい奈々。散々話を聞いたでしょう。アスカちゃんは命がけで戦ってきて手に入れたものなのよ?」
「そうだった!」
翻訳スキルは飛んですぐに貰ってたって言いにくい…。 (まあまぁ…そこは黙っててもいいの)
「私は…そんな危険おかしてないよ。お姉ちゃんについて行っただけ…」
「未亜は私のサポートをしてくれててね。一緒にいる様になってから支えてくれてたから。無いと困るから付与されたの」 (そうそう! そんな感じ)
「未亜すごい! 魔王様の側近!?」
「そうだね。未亜は大切な妹だから」
「ありがとうお姉ちゃん…」
「私は?魔王様のなにかな?」
「奈々は…お弁当泥棒かな」
「ひどいっ!」
「言われても仕方ないわよ。アスカちゃんのお弁当食べ尽くしてるんだから」
「美味しいのが悪い!」
いいけどね。代わりに奈々のを貰ったし。
お昼休みの終わるギリギリまで、みんなで異世界や魔法の話で盛り上がった。
明ちゃんも、この事は内緒にすると約束してくれた。
未亜に笑顔が戻って私はホッとしたよ…。
ごめんね、未亜…。




