呼ばれる
「ほぉ…歓迎されとるのぉ…ここ迄のはひさしぶりじゃ。お主達以来かもしれんの」
私達の時こんな事になってたっけ?
ユウキを見ると首を振ってるから…当時の私達には見えてなかったのだろう。
今だって急に見えるようになった。なんでだろ…
「神主様、キラキラ光ってるのは…?」
「ほぉ?見えるんか! アレは眷属様達じゃ。気に入った相手の前には現れてああやってはしゃぐ…お主らの時も、それはもう大はしゃぎされておったわ。あまりの事に声もでんかったから、よう覚えとる…」
神主様は眷属って言ってるけど…精霊? いや…キラキラしてて見にくいけど、確かにお狐様の姿だ…。
レウィも見えてるのか一緒になってはしゃいでる。
「ユウキも見えてる?」
「うん…ルナティアと、シエルが光にまとわりつかれてる」
「光にしか見えない?」
「えっ…うん。眩しくてよく見えない」
「私も。 ねえ様達の周りがピカピカしてるようにしか見えないわ。アスカは違うのかしら?」
「うん、確かに見にくいけど、光の一つ一つが小さなお狐様の姿をしてる」
「そこまで見えるんか! よほど相性がいいのかもしれんのぅ…ワシも見えとるが、ここまで来るのに数十年かかったからのぉ」
そうなんだ…来た時には見えなかったのに…。ティーは見える? (うん! 真っ白で小さなキツネさんがいっぱい!)
わっ…こっちにも! (おぉーすげー)
「おぉ…こんな事が…息子夫婦にも見せてやりたかったわ…いや、奴等では御姿を見ることも叶わんか…」
“聞こえるかぇ?少々手を貸しては貰えんか?異界の血を持つ強き者よ…”
えっ?誰…? (ティーも聞こえた!)
光る小さなお狐様達が案内するかの様に、光で奥のお社への道ができる。
「なんと…こんな事が! お呼びのようじゃ!」
「行った方がいいですよね?」
「無論じゃ! このような事、よほどじゃからのぉ。招かれておるのだから、悪い事にはならん。安心して大丈夫じゃ」
光る小さなお狐様に案内されるがまま、お社へ…。目の前まで来るとお社の扉がひとりでに開く。
中には着物姿の美しい女性。 白い大きな狐耳にふわふわの尻尾がたくさん…。
“驚かせてすまぬな…”
「いえ…小さい頃はここで遊ばせて頂いてありがとうございました」
“よいよい。幼子の遊ぶ声は心地よいからな。 それにしても随分と大きくなったな?”
「そうですか?色々ありましたから…」
“ふむ…お前の纏う力、以前も見た気がするな…何時だったか”
「うちの母親でしょうか?」
”いや…もっと前だ。夫婦とおぼしき二人が似たような力を纏っておった“
「そうですか…」
誰だろう…昔にも異世界へ行ってた人がいるのだろうか。 (うーん…どちらかと言うと来てた?)
確かに、そっちかも。
“話が逸れた。 すまぬが、ちと手を貸してはもらえぬか?”
「勿論です、私にできる事でしたら」
“ここの跡取りがバカ息子でな。ここの土地を売ろうと画策しておる”
「そんな! どうしてそんな事を…」
“今やこの国では我らへの想いは薄れておるからな…消えてしまった御神も少なくはない”
「そうなんですか…なんだかそれってすごく…悲しいです…」
“それも時代というものなのかもしれんが…。心を痛めてくれて感謝する。 しかしなぁ我の主様は怒るとそれはもう激しい御方でな?”
「祟り…ですか?」
“うむ…この社が無くなるような事があれば、恐らくこの一帯にソレが降りかかる事になる”
「私は何をすればいいですか?」
“何とか止めてくれぬか? 何、難しい事は言わぬ…神主に証拠のある場所を伝えるだけで良い。彼奴には我の声が聞こえぬからな“
「わかりました。他に何か出来ることがあったら言ってください」
”そうじゃなぁ…あの二人、随分と我の仔に気に入られておるようじゃから…連れて行ってやってくれ”
「お子様をですか!?」
”うむ…何、邪魔にはならぬ。あの二人を護ってくれるじゃろうて“
「わかりました」
”証拠は…………にある。それを伝えれば神主が動く。それで何とかならねば、祟りが降りかかり、ここは護る神の無い土地として衰退してゆくだけ…“
「必ず伝えます! それと、お子様を確かにお預かりいたします」
”うむ。また暇があれば顔を出してくれ“
「はい。必ず…」
パタンと、またひとりでにお社の扉が閉じる。
私は今は何を見聞きしたのか…未だ信じられない気持ちのまま、今あった出来事を神主様に伝える。
「…やはりか。あのバカ者共め! すぐに調べてくるから待っていてもらえるかの」
「はい、わかりました」
神主様はかなりの急ぎ足で、敷地内の自宅へ戻っていった。
私の話を聞いていたみんなも、あまりの事にびっくりしてる。
無理もない…実際に体験した私でさえ混乱してるくらいだし。 (魔王なのに?)
それとはまた違うって言うか…。こっちでこんな体験するとは思わなくて。
ただ、夢や幻ではないとハッキリわかるのは、ティアねえ様とシエルの傍にはそれぞれ一人ずつお狐様がいるから。
「二人は…体調とかに異変はない?」
「ステータスに変化があったくらいかなー。スキルが増えたって通知が…後で詳しく見て貰える?」
「うちも…」
「わかったよ。二人を護ってくれるっていってたから大切にね?」
「勿論だよ!」
「はい、お姉様。大切にするの」
二人の傍を飛んでいたお狐様はそれぞれの体内へ入るように消えていった。
心配になって二人を鑑定したら、狐憑きって称号が増えてて…炎系統のステータスが伸びてるっぽい。
狐憑きっていうと、悪い意味で取られがちだけど、今回は護るためについてくれてるって言ってたし、大丈夫よね。
後は…狐火ってスキルがあった。
これは何だろ。そのまま解釈するなら…火関連のスキルよね。 (精霊魔法みたいな?)
どうだろう…。リコなら何かわかるかもしれないね。 (後で聞いてみるの!)
そうだね。
「待たせたのぉ。しっかりと隠されておったが言われた通りの場所で見つけたわい。これで、バカ息子の暴挙を止められる。ここの跡取りの資格も失う。そして継ぐのが孫娘になるならワシも安心じゃ…」
何やら紙の束を持った神主様が戻ってきた。証拠かな? (きっとそう!)
「お孫さんですか?」
「会った事ないかのぉ? ここで巫女をしとった事もあるのじゃが…」
「あっ…初詣の時に御籤を売ってた…」
「そうじゃ。今は修行に出ておる。あの娘ならここを守ってくれるじゃろう」
「良かったです…ここが無くなってしまうのは悲しいですから」
「そう思ってもらえるのが一番じゃて…それにしても凄まじい体験をしたのに随分と落ち着いとるのぉ?」
「いえ、ビックリし過ぎてて…すごく混乱してます」
「そうかの…また皆を連れて、いつでも遊びに来てくれると嬉しいのぉ。お狐様も喜ぶじゃろう」
「はい。またお邪魔します」
神主様にお別れを言って、お社へみんなでお参り。
未亜が作法とかを気にしてたけど、小さい時に神主様に教えてもらった事をそのままみんなへ伝えた。
「気持ちが大事なんだよ。作法を気にし過ぎてそっちが疎かにならない事のが大切だからね」
「わかったよ、お姉ちゃん」
みんなも私達がするように手を合わせて…
”随分と想いを向けられておるな? くっくっくっ…しかと答えてやれよ?“
「えっ…」
”いや…お前はそのままのがいいかもしれんな。家族を大切にな…“
「はい! ありがとうございます」
「姉ちゃんはまた話しかけられたの?」
「うん。家族を大切にしなさいって」
「そっか…随分増えたしなぁ」
「だね。みんな大切な家族だよ」
「リアー、なんてお願いしたの?」
「…内緒よ!」
「ティーちゃん、こういうのは話したらダメなんだよー」
「そうなんだ! じゃーティーも内緒!」
「お願い事が叶ったら、ちゃんとお礼に来なきゃね」
みんなが何をお願いしたのかはわからないけど…叶うといいね。 (ママはお願い事したの?)
ううん。私はお礼を伝えたよ。 (そっか!)
今度、稲荷寿司を作って持ってこよう。
ちょっと長くなった寄り道だったけど、すごく意味のある大切な時間を過ごした私達は、夜のモールへ。
お惣菜と、お弁当の材料、それとお揚げを多めに買い込んだ。
ペットショップで待っててくれたレウィとユウキは、骨ガムの買い足しと、ドッグフードを買ったらしい…。
「食べてみたいっていうからさ」
「レウィが気になるのならいいけど、口に合わなかったら無理しないようにね?」
「わう!」 (どんどん犬になっていくの…)
こればっかりは本人の希望だしなぁ。




