心配
午後の授業も終わり、放課後。
奈々は帰宅後、病院へ行って経過観察があるって言うから、途中まで奈々と帰路が一緒の麻帆とも学校で別れた。
私は、未亜とユウキが校門で待ってた事もあって三人で下校。
「それで、姉ちゃんは先輩達に秘密を話したの?」
「私もそれ気になる」
あ…リセットされてるからか。 (伝言する前に戻ってるの)
ややこしいな。 (仕方ないのー)
下校しつつ、奈々と麻帆を連れてフィリアータへ行ってた事や、王妃様の一大事だったことも話した。
「王妃様、無事で良かった…偶々、お姉ちゃんがいてよかったね?」
「そこは居なくても、ティーに伝言来てたんじゃない?」
「あ、そっか! お姉ちゃんは異世界通信できるんだもんね」
「でもさ、8ヶ月も経過しちゃってその事件でしょ?ドラゴライナの手伝いどうするのさ。今更時間戻せなくない?」
「母さん達を送ってからは半年だけどね…」
でも手伝うって約束したのに、行ってないのは本当申し訳ないなぁ。 (ママ達は直前で充分だからってアキナさんは言ってるの)
そう…それなら有り難いけれど。 母さん達は? (毎日忙しそう)
本当、手伝わなくてよかったのだろうか…。 (魔王討伐したメンバーっていうネームバリューが必要だから)
私達は出来る事がない? (うん。どちらかと言うと隣のおじさんのが…。嫌がりそうだけど)
あぁ、魔王討伐した勇者の一人なんだっけ。 行くの嫌がるの? (異世界へ行くのは嫌いみたい…)
それは初耳だわ。 まぁ、そんな会話をした事なかったから当然か…。 (だからこっちの家には来ない)
そう言われれば…おばさんも来たことない。それなのに私達の面倒を見てくれてたのか…。
やっぱり早めに自分達で生活できるようにしたのは正解だったのかな。 (かもー)
帰宅した後、リア達にも同じ話をした結果、このまま一度向こうへ行く事になってしまった。
時間を戻せないのなら、リアとティアねえ様はフィアにずっと会ってないままになるのは嫌だからって。
それはそうだよね…。
ユウキと未亜は母さんたちの確認。
シエルとレウィは、みんなが行くならと付いてきてくれる。
「みんなごめんね、私が不用意に転移したせいで…」
「それは別にいいのよ。お世話になった王妃様を、丁度アスカが居て助けられたのだから問題ないわよ! むしろお手柄よ!」
「うん。私も長老様も王妃様にはすごくお世話になったし、お見舞いに行きたいよー」
ドラゴン姉妹も王妃様を心配してる。慕われてるなぁ王妃様。
ただ、私が向こうにいなくてもユウキが言ってた様にティーから此方へ伝言が来たってのはあるよな…。 (うーん、どうだろう…)
え?だって、分体いるよね? (そうだけど、最終確認と判断は王妃様だから)
緊急事態ならその辺の緩和はされないの? (ママに迷惑かけないようにって連絡来なかったかも…?)
そんな…。王妃様がダウンしたらアキナさんへも連絡ができないのに。 (うん)
でも、そう聞いたらアリアさんが馬を飛ばして来た事も説明がつくのか…。
部屋にいるティーへ伝言しようとしなかった訳だし…。 (ティーの実体はいなかったけど)
こっちに来てくれてたもんね。じゃあ、わからないのか。 (ううん。センサー変わりの簡易だけはいたの。部屋へ誰か来たらわかる程度のやつー)
それに反応なかった? (そう…)
そっかぁ…。
私がティーと話してる間に準備の終わったユウキと未亜が私の部屋へ集まってきた。
「まずは何処から行く?なるべく時間は空けたくないから、姉ちゃんが行ってた翌日くらいに行くとして…」
「王妃様はまだ休まれてるかもしれないし、アキナさんへも伝えなきゃだからドラゴライナかな。そこから一度、ドラゴンの里へリアとティアねえ様を送るよ」
「私はそれでいいわ」
「私も。王妃様に会いに行くときは連れてってね?」
「うん、その時にはちゃんと二人も迎えに行くよ」
私はフィアに顔を見せるだけでドラゴライナへ戻らないとな。 (ティーはママと一緒)
うん。側にいてね。
「僕らは母さん達と合流して、手伝いが要りそうなら協力かな」
「そうだね、シエルちゃんとレウィちゃんは私達と一緒でもいい?」
「大丈夫なの。お母様たちのお手伝いするの…」
「わう!」
レウィがついに人語を発しなくなったんだが…。 (たまには話してる…)
退化してない?まさか、骨ガムのせい…? (それはないと思う)
ならいいけど…。
予定も決まった事だし、まずはドラゴライナ王国へ転移。
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「姉ちゃん、時間は?」
「私がいた翌日の早朝。朝なら母さん達もいるでしょ」
探索にも両親の反応はある。
あー母さんも流石に気がついたな。
二階の転移場所へと設定してある部屋のドアが勢いよく開けられる。
バーーン!! と。 これ、あれだ…王妃様達と一緒。 (親戚だし)
…そう言われたらそうだね。
「みんな! やっと来てくれた!! 遅いよぉ…」
「わかったから、抱きつくな。やるなら姉ちゃんにしなよ」
「ユウキのケチ!」
文句を言いつつも母さんは全員とハグ。
少し遅れて寝癖でボッサボサの父さんも部屋に来た。
「おー久しぶりだな。薄情な娘達。俺達がどれだけこき使われたか…」
「ごめん、ちょっと色々あって…時間が戻せなくなったの」
「あん?それってよっぽどの事か?」
「人命に関わる事よ! だからアスカを責めないで!」
「そうだよー。大変だったらしいんだから。それに元はと言えば自業自得でしょ?」
ドラゴン姉妹に睨まれて父さんは何も言えなくなる。
相変わらずドラゴン姉妹は父親への当たりが強いな。 (しゃーないの)
「人の命って! アスカ達にまた何かあったの!? 大丈夫?」
母さんがオロオロしだしてしまったので軽く説明。
王妃様の話を聞いた母さんは、アキナさんを呼びに行ってくれた。
私達もその間にいつもの一階の部屋へ移動。
リア達は先に里へ送ろうかと思ったけど、早朝すぎてドラゴン達にはキツいらしいから、もう少し待つことに。
私がリア達とその話をしてる間にユウキは父さんから色々聞き出してるっぽいね。 (雑用…)
え? まさかお仕事内容? (そう)
ネームバリューが必要なお仕事なんじゃ? (そう聞いてたんだけど、やってる事は…)
それで父さんも不貞腐れてたのか。
しばらくしてアキナさんも到着したから、王妃様の事について詳しい説明をした。
「ありがとう、アスカちゃん! ティーちゃん! セルナと赤ちゃんを助けてくれて…」
私とティーはアキナさんから思いっきりハグをされた。ちょっと苦しいくらい激しいのを…。 (ぐえってしたの…)
「後でお見舞いに行くのですが…アキナさんも来られますか?」
「……行けないよ。これでも私は国のトップだからね、事前の連絡も無しに行くことは出来ないよ」
「そうですね…」
立場上のしがらみってやつだな。 (家族なのに…)
うん…。
「王妃様から通信は…?」
「来てないよ。昨日の今日だから、仕方がないと思うよー…」
そう言いつつも心配してるのはハッキリとわかる。
アキナさんが、いま国を空けられないのは単純に忙しいのも影響してそうだけど…。
ドラゴライナ王国の千年祭があるから、夕波王国との調整もまだ終わってないらしい。
ただ千年祭には、ハルナさんが国王の名代として来るらしく、それからが本番だとアキナさんは言ってた。
それにしたって、転移で短時間王妃様に会うくらい…。そう思ってしまう。
「アキナさん、僕達も手伝える事があれば言ってください」
「今は大丈夫かなー。お姉ちゃん達で十分だよ」
母さんと父さんはげんなりしてるけど、大丈夫かな…。 (オツトメだから)
それはそうなんだけど…。
ユウキも食い下がってるけど、女王様から大丈夫ってハッキリと言われてしまったらもうね?
「アスカちゃんに当日ドラツーを借してもらえるだけで十分なんだよ。それにみんなには千年祭を楽しんでほしいからね」
私達にはネタバレしないようにって事かな? (かも!)
それじゃあ前回帰る時に、私達も手伝うからって頼んで、母さん達を一度連れて帰るの許してくれたのもアキナさんの優しさか…。 (さすが女王様)
懐が深いわ。
私達に千年祭の事を話してくれてるアキナさんは明るく振る舞ってはいるけど…。
それでも王妃様の事が心配で仕方がないのが見ててはっきりと分かる。
通信魔道具を眺めたり、ティアラを撫ぜたりと落ち着かない様子だから…。
何とかできないかな…このままじゃあんまりだよ。
「お姉ちゃん、ちょっといい?」
未亜に引っ張られて部屋の隅へ連れて行かれる。
「未亜?どうしたの? ユウキまで…こんな隅っこでなにしてるの」
「いや、姉ちゃんも気がついてると思うけどさ、何とかなんない?」
「うん…心配で仕方ないって感じが見てて辛いよ…」
アキナさんの事だね。二人もやっぱりそう思うよなぁ…。勝手な事になってしまうかもだけど、確認してみるか…。
「私、ちょっとアクシリアス王国へ行って確認してくる」
頷く二人は、リア達には話しておいてくれるって言うから任せて、部屋を出て廊下で転移。 (ティーは向こうのと交代!)
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「ママ!」
「ティー! 交代ってそういうことね」
ドラゴン姿のティーを抱いて、いつもの部屋から出ると騎士様が。
「アスカ様!?」
「セナさん?」
「はい〜。昨日は…ありがとうございました」
そう言って深々と頭を下るセナさん。
「私に出来る事があっただけで…」
「相変わらずですね〜アスカ様は〜。王妃様はまだ休んでおられますので、シルフィー様へお話を通してきます〜。お部屋でお待ちください〜」
「お願いします」
ティーと室内へ戻り、待つ事数分。
「アスカ様、ご案内いたしますね〜」
あれ…いつもならシルフィー様が走ってきて扉バーン! だった筈だけど…。 (珍しいの)
首を傾げつつもセナさんについて行くと、そこは昨日、王妃様を診た部屋だった。
「今は王妃様も起きておられますし〜シルフィー様もこちらですので〜」
セナさんが扉を開けてくれて室内へ。
ベッドで上体を起こし、座った状態で仔ドラゴンを抱いてる王妃様…。
良かった…お元気そう。
「アスカちゃん。来てくれて嬉しいわ…」
「お邪魔してます。お身体の方は如何ですか…?」
「元気よ。でも皆がベッドから出させてくれないのよ?酷いでしょ?」
いや、それはみんなが正解だと思う。 (うんうん! 無理だめ!)
「お母様! お願いですから、もう暫くは大人しくしていてください!」
「そうですよ。流石に今は大人しくしていた方がいいと思いますから…」
「わかったわ…。 アスカちゃん。本当にありがとう…私とこの子を助けてくれて」
「私にできる事があって良かったです」
「セイナ様からもお話を伺ったけれど、アスカちゃんしか助けられなかったって。この子は大丈夫でも、私はあのままじゃ確実に耐えられなくて、命を失っていたと…」
「……そんな未来にならなくて良かったです、本当に…」
「ええ。この子と過ごす未来を、家族と過ごす未来を、守ってくれて本当にありがとう」
王妃様まで頭を下げるから慌ててしまった。
私がオロオロしてたら、ふふって笑う王妃様はいつも通りで…。
「それより、昨日の今日って事は帰らずに滞在していたの?」
「いえ、一度帰ってうちの家族とこちらへ来ました」
「あら…でもティーちゃんと二人じゃない」
「みんなはドラゴライナ王国にいますから。 その事で王妃様にご相談が…。恐らくと言うか確実に陛下へ確認を取らなければいけない事案なんですが…」
「大体察しはついたわ、お祖母様ね?」
「はい。 すごく…すごく心配されてるので…連れてきてあげたいんです」
「わかったわ、シルフィー、陛下へ言伝を頼めるかしら」
「勿論です、お母様」
王妃様はシルフィー様へ何やら耳打ちすると、ニコッて笑ったシルフィー様は部屋を出ていった。




