怖い、怖くない
「シエル、ちょっといい?」
「お姉様? 入ってー」
夕食後、私がシエルの部屋を訪ねてるのには理由がある。
「あのね…これって着方わかる?」
明日の戴冠式にまた着るようにってメリアさんから預かったままのドレスをストレージからだして広げる。
「えっと、これ…こないだお姉様が着てたウエディングドレス…また着るの?」
「いや、まぁそうなんだけど…戴冠式で着るようにいわれててね。でも何が何やらで…」
「それじゃあお姉様はどうやって脱いだの?」
「ストレージへ直接入れた」
「……そんな脱ぎ方が!!」
いや、びっくりするのそこ?触れれば仕舞えるんだからできるでしょうよ。
「触ってもいい?」
「もちろんだよ、じゃないとわからないでしょ?」
「うん。 …えっと… ふむふむ…へぇーすごい! ここがこうなってて… うん! 大丈夫なの」
「マジかぁ。 シエルすごいよ…私は見てもわからなくて」
「行く前に着つければいいの?」
「うん、ごめんね…手間かけちゃうけどお願いできるかな」
「任せてほしいの!」
私が変に触ったせいで、ほつれてたりもするらしく、直してくれるって事だからそのままシエルに預けた。
地下から部屋へ戻ると、未だへこんでるティーとリアをティアねえ様が慰めてる。
「ほら、アスカも怒ってないんだから、元気だしなよ」
「…アスカの手料理を食べれたねえ様にはわからないわよ!」
「うん…しかも知らないものだったの。絶対美味しい…」
「確かにサックサクの衣がアクセントになっててソースとも合って…ジューシーなお肉が美味しかったなぁ」
「「………」」
あれ…慰めるどころかトドメさしてないか?
未亜もへこんではいたけど、カツを知らない訳ではないからこの二人に比べたらマシだろう。
シエルは、食べ物に関してはそこまで執着はないようで、美味しいって好き嫌いなく何でも食べる。
レウィに至っては骨ガムがあればいいんじゃ?って思えてきた…。ガジガジと今もやってる。
「明日は朝から仕度して、戴冠式にみんなついてくるんでしょ?早めに休むよ」
「ええ…」
「はーい…」
流石に、へこみすぎでしょう。
「二人とも、私のストレージにはまだカツがたくさん残ってる。この意味わかる?」
「「……!」」
「今日はユウキが買ってきてくれたものを美味しく頂いたよね?」
「ええ…」
「…美味しかったの」
「それなら良かったじゃない。私が作ったのは、みんなの分がまだ残ってるし、また作ってもあげられる。だから今日は今日食べた物に感謝しないとね」
「わかったの!」
「そうよね、美味しいものを食べれる事に感謝しなきゃ」
ようやく落ち着いた二人とベッドへ潜り込む。
「私もー」
私が奈々の治療にちょっと無茶をしてから、何故かティアねえ様も一緒に寝るようになった。
だからこっそりベッドも部屋も拡張してある。リアは嫌がってたけど…流石にね。
ティーにはすぐにバレたけど…。 (それはそうなのー)
やっと話してくれたね? (ごめんなさいママ…)
本当に怒ってないからいいよ。ね? (うんっ!)
翌朝は早朝からみんな大忙し。
と言うのも、今回は、全員がドレスやスーツに着替えるから。
なにより一番大変だったのは私のドレス。
メイドさんが数人がかりで着せてくれたものをシエルが一人でやってくれるわけで…。
「お姉様、少し屈んでほしいの」
「はい…」
と、まぁこんな感じで背の小さいシエルの指示に従いつつ着付けてもらった。
「お姉様、ベールとティアラはどうするの?」
「それは…いいかな?向こうへ行って着けるように言われたらで」
「わかったの」
「ありがとねシエル」
シエルは私の着付けをしてから着替えるから余計に忙しい。本当に申し訳ない…。
今回はティアねえ様も魔力ではなくシエル作のドレスに身を包んでる。
でも…なんでみんなウエディングドレス風?
リアも未亜もなんだよね…。私のみたいにスカートの裾が物凄く長いとかでは無いのだけどすごく可愛いの。シエルは普通にパーティードレスなのに…。
「ママ、見てー!」
「はぁ〜もう! めちゃくちゃ可愛いよティー!」
この子は天使だ。私の天使。 (ふふー♪)
頭には大きな真っ白のリボン。ふわふわのドレスも真っ白で…目に入れても痛くないってのはこいう事なんだね…。
「お姉様、気崩れちゃうから…抱き上げたらだめなの」
「うっ…そんなぁ…」
シエルに止められてティーを抱けないなんて…。なんの拷問? (我慢我慢ー)
最終確認をシエルがしてくれて、オッケーが出たから、リビングで着替えてるユウキとレウィをファミリンで部屋へ呼ぶ。
「わう! みんな真っ白…」
「なにこれ…合同結婚式?」
「ドレスを着たレディーに一番最初に言うセリフがそれなのかしら…」
「ほんとだよー失礼だよ?」
ドラゴン姉妹から苦情を言われたユウキは…
「はいはい、ごめんってば。みんなキレイだよ」
「聞きました?ねえ様」
「聞きましたわよーこれ程心のこもってない褒め言葉もそうそうないよねー」
「ほら、二人とも。ユウキをイジメないであげて。リアは大人っぽいけどいつもの可愛いさもちゃんとあって似合ってるし、ティアねえ様は色っぽさと可愛さがバランス取れてて素敵だよ」
「ありがとうアスカ!」
「さすがだよーアスカはわかってる!」
なんかユウキにすっごいため息つかれたんだけど…。フォローしたのに! (ティーはー?)
最高に可愛い私の天使! (わほーい♪)
「お姉ちゃん私は…?」
「未亜は白のドレスも似合ってて可愛くて、誰かに攫われないか心配になるよー」
「そうしたら助けてくれる…?」
「当たり前でしょ! 未亜が嫌な目に合うのなんて許さないよ」
「…そっか。ありがとうお姉ちゃん」
「はぁ…。 姉ちゃん、早く行かなくていいの?」
約束の時間は8時半。向こうで準備もあるだろうから…うん。ちょうどいいね。
「魔力ドームから出ないでね」
展開した魔力ドーム内に全員がいるのを確認。
そして転移…。
場所は例の豪華な客間。メリアさんに、これから飛ぶ時はそこへ。と指定されたから座標も書き換えた。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
魔力ドーム内で全員の体調も確認。よしっ…解除。
「豪華な部屋ねー」
「客間らしいからね」
「お、来たな…。ちゃんと着てきてくれたな? ふむ、私のアスカは可愛いなぁ?」
「「「私のアスカぁ?」」」
「あん?そういえば家族を連れてくるとか言ってたな。コイツらか?」
「師匠、私の家族にコイツらっていうのはやめてください。大切な家族なので…」
「そうだな、すまん。口が悪いのは直らんからなぁ」
「相変わらずですね師匠は…。ここで待っててくれたのですか?」
「まぁ…一番最初に会いたかったからな?」
「そうですか…ありがとうございます。この後の予定はどうなってますか?」
「知らん!」
「……はい? え、いや…師匠…」
「そんな目をするな…。細かい話をメリアが私にすると思うか?」
「それもそうですね」
師匠は細かい事苦手だった…。
「そろそろメイドか誰か寄こすだろ…それよりだ。よく見せてくれ。こないだはしっかりと見れなかったしな。抱きかかえてた時はもう着替えてたしな?」
「「「抱きかかえた!?」」」
「なんだ…さっきからうるさいな?」
「あっ…すみません。紹介もせずに…私のお世話になった人でアリッサさん。私の師匠だからみんな失礼の無いようにお願いね」
「「「………」」」
「魔剣士団長のアリッサだ。アスカの師匠だ。まぁ今や弟子のが強いがな?」
「ただのステータスだけならそうかもしれませんが、師匠にはまだまだ敵いませんよ…」
「相変わらずだなぁアスカは…」
「うちの家族です。 まずこの子が妹の未亜です」
「お姉ちゃんの未亜です…!」
えっ…妹が抜けてるよ未亜。緊張してる?
「ルナドラゴンの姉、ルナティア」
「アスカのルナティア…です」
ティアねえ様!?
「ルナドラゴンの妹…」
「ルナリアよ! アスカのね!」
リアまで真似したじゃない! (……)
「エルフのシエル」
「シ、シエルです…お願いします」
安心感よ…。
「この子が、フェンリルのレウィ」
「わう! レウィです。主様の師匠…強い…」
レウィにはわかるのね!
「弟とティーはご存知だと思います」
「姉がお世話になってます」
「ティーだよー!」
「ああ…。 アスカ、ユウキとティー、シエルとレウィだったか?その四人を連れて少し部屋を出てろ」
「え?」
「ほら、いいから! 外にメイドも居るだろうから茶でももらってこい」
「わかりました。みんな行こうか」
なんで未亜達だけ残したんだろう…。それより、師匠の指示だし、メイドさん探さなきゃ。
初めてくるシエルとレウィはキョロキョロと落ち着かない様子なので、レウィはティーが、シエルはユウキが手を繋いでくれた。
「姉ちゃん、どうする?」
「どうするって…師匠の指示だからメイドさんを探して頼まないと」
「ユウキぃーみぃつけたぁー!」 (ひぃぃぃーでたぁぁあ!)
大丈夫よティー。悪い人ではないから。 (でも、いちいち怖いの!)
それは登場と話し方のせいもあると思うけど…。
「…あーもう! ホントにさ、頼むから普通に出てきてよ! シャーラ、メイドさん知らない?」
「メイドになんの用…?」
「私が師匠にメイドさんを探してお茶を貰ってくるように言われたからだよ」
「なーんだ。それなら呼んでくるからここにいて」
「ありがとう、シャーラ」
すっと消えるように居なくなるシャーラ。探索使ってみるか… (どう?)
バッチリ見える! これで不意打ちは…ってシエル!? (レウィに抱きついて泣いてるの…)
「シエル、どうしたの!?」
「お、お姉様…怖かったの…」
シャーラか…。
「大丈夫、大丈夫だから。シャーラはね。プロの斥候なの。だから普通じゃ気配も、それこそ息遣いさえ感知できないの」
「姉ちゃん、多分そこじゃないから。シエル、あれはヤバいから近づかないように」
それはあんまりじゃ…。 (でもあれは…)
レウィなんて平気じゃない。 (…わかってないだけ)
……さすがフェンリル! (そこで!?)
「戻ってくるよ。シャーラ」
「姉ちゃんわかるの?」
「今ならね」
「それ教えて! 今すぐ!」
「いや、無理だから…」
「ただいまぁー。ユウキぃ呼んで来たよぉ?すぐにくるー」
「あ、ありがと。感謝はするからくっつくな!」
「えー?ヤダッ!」
シャーラの言ったとおりすぐにメイドさんは来てくれて、師匠にお茶を頼まれた事と、メリアさんに私達が来たことを伝えてもらうように頼んだ。
「よし、じゃあ部屋に戻ろうか」
「いや、姉ちゃん…それは…。えっと、ティー、何とかして!」
「えー? ママ、師匠は外に出てろって言ってたよ?」
「あ…そうだね。部屋に戻るなってことか。じゃあどうしよう…」
「それならぁ…中庭にでも行くー?今は花がキレイに咲いてるよぉ」
「そうしようか。シエル、大丈夫?」
ふるふると首を振るシエル…。
「私達は中庭に行くから、シャーラはユウキといてあげて?」
「いいの!? やったぁー。いこぉ?ユウキぃ…」
「ちょ…姉ちゃん!?うっそだろ!」
「シエルの為だから、ごめんね…それに一度ちゃんとシャーラと話してみなさい。ね?」
「くっそ! 自分の事にはどこまでも鈍いくせに! 人の事には無駄に気を回すのかよ!」
今、サラッとディスられなかった? (気のせい、気のせい!)
諦めたのかユウキはシャーラと二人で仲良く?中庭と反対方向へと歩いていった。
「レウィ、シエルを乗せてあげてくれる?私ドレスだと抱きあげられないから」
「わう! 任されました」
ティーも手を貸してくれて震えるシエルはレウィの上へ横乗り。
そのまま中庭へ向かう。時間が経過したとはいえ、前回此方へ来た事で記憶も鮮明になったし、半年程過ごしたお城だから迷いもしない。
中庭はシャーラの言ったとおり花が咲き乱れてて、気温も心地良い。
「ここならのんびり出来そうだね」
「わう! お庭!」
「あ、レウィ! 走るならシエルを降ろしてからにして」
シエルもようやく落ち着いたのか自分で降りた。 それでもまだ心配だし、ベンチへ座らせる。
「ティー、レウィをみてて。多分あの子走り回るから」
「了解なの!」
「シエル、ちょっとごめんね」
魔力の乱れだけでも整えてあげよう。
「お姉様ありがとうなの…」
「そんなに怖かった?」
「うん…森で狼に会った時より…」
そこまで!? いやでも、狼に会った時は自分の足で逃げたって聞いたな。
「シャーラの何がそんなに怖かったの?」
「…存在?」
まさかの全否定。
「ねぇシエル。シエルは私の事怖い?」
「ううん。お姉様は優しいから怖くないの」
「でも魔王だよ?」
「関係ないの。お姉様は怖くないの」
「職業ってね、それに合わせたスキルや立ち振る舞いがあるよね?」
「うん」
「私も魔王の時は威圧用に恐ろしい見た目とかしてたのよ?そう聞いたら怖い?」
「…ううん」
「シャーラは斥候や隠密のプロで、私達を何度も助けてくれたの。潜んでる敵を見つけてくれたり、忍び込んで倒してくれたり…罠とかも見つけてくれて、大活躍だったよ」 (……)
「プロだから…?」
「うん。ユウキと話す時だけはちょっとあんな感じだけど、普段はもう少し普通だから」
「わかったの…」
「すぐには慣れないかもだけど、どんな人か知らない時よりは怖くなくなったでしょ?」
「…うん!」
笑顔を向けてくれるシエルを撫ぜる。知らないっていうのは一番怖いからね。 (ニセのお化けみたい)
そうだね。タネが分かってしまえば、なんだそんな事かってなるし。 (うんうん!)
「見つけましたよ、アスカ様…ふふふふふふ」 (きぃやぁーーーー!)




