もう大丈夫。
奈々の病室は? (ICUで、身内以外は面会謝絶。中には奈々のママもいるけど、どうするの?)
………。
取り敢えず死角に入り、髪の色だけ変えて入院病棟内へ。
制服だと目立ちそうだから、トイレで服を着替えるか…?
私が目立つのは髪の色が一番影響してるだろうし私服なら。 (あーまぁうん…でも病室には入れないよ?)
ねぇ…ティー。 私、今回は少し無茶するけど許してね? (えっ…ダメなの!)
お願いよ…ティー。 (……わかったの。でも危なかったら止めるから)
それでいいよ。 ありがとう。
トイレの中から病院その物を魔力ドームで包む。 (………)
魔力の無いこの世界の人には魔力ドームなんて見えないし。 (それはそうだけど…この規模…)
ドーム内を意識下で奈々を探す。
違う…違う…この子も違う…こんな小さな子も入院してるんだ…。 ごめんね、今は奈々が先。
いた! 脳内出血に、腰の骨折…痛かったよね…もう大丈夫だから! 私が助けるよ…。
奈々への治療を魔力ドームへ流し込む。
この際だからね…さっきの子達も。 (……)
病院に入院してる人達の中でも危険な人や小さな子へ絞って治療をする。
軽症や普通に治る見込みのある人は病院に任せよう。
奈々以外へも手を出してる時点で今更かもしれないけど。見てしまったらほっておけない…。
魔力ドーム解除。
再度魔力ドームで包んで奈々を確認。
うん…大丈夫。 (ママは大丈夫…?)
うん。結構魔力を持っていかれたけど、森を直した時に比べたらね? (よかったの…)
「よしっ、帰ろう」 (ママ、変装して)
目立つ? (うん…)
わかったよ。服も着替える。 (メガネとマスクも!)
それはないなぁ…悪魔みたいな仮面しかない。 (なんとか顔を隠して!)
じゃあもう隠蔽して姿を完全に隠していくよ。 (そうしてー)
完全隠蔽をしてトイレを出る。
そのまま入院病棟も出て外へ。
病院の入り口辺りで、辛そうに肩で息をしてるのって…なんで麻帆までいるの!? (ママを追いかけてきたから)
だから変装ね。 (そう)
ありがとう。
麻帆の横を抜ける…何故かちらっとこっちを見た気がしたけど、気のせいよね。 (たぶん…)
そのまま学校まで走って帰った。
途中、学校の近くの公園に入り、トイレで制服に着替える。 (隠蔽するなら着替えなくてよかったの)
ホントね。
髪色は戻して、隠蔽だけはそのままに学校内へ。
授業は始まってたから、5限目はサボった。自分のと、麻帆のお弁当箱の回収をして、そのまま空き教室で考え事をしつつボーッとしてたら5限目の終わりのチャイム。
6限目から授業に戻ればいい。
麻帆は戻ってこなかった。スマホにもメールはない。
帰りのホームルームの後で、5限目をサボった事を少し怒られたのと、麻帆のことを聞かれたけど、知らないと嘘をついた。言えるわけがない…。
そのままその日は麻帆に会うこともなく帰宅した。
たぶんこれで麻帆も自分を責めたりしなくなるし、元気になるはずだから…。
今はそっとしておこう。
奈々はもう大丈夫っていう安心感なのか、ただのカラ元気なのか自分でもわからない。
それでも張り切ってユウキのお誕生日の仕度をする。
メモを取りつつ未亜も手伝ってくれて、茶碗蒸しを作る。
「冷ました出汁とたまごは1:1の割合ね。混ぜてから濾すと楽だよー」
「わかったよ。お姉ちゃんの手際はさすがだね」
「スキルのおかげだけどね?」
丼に茹でたうどんを入れて出汁卵を流し込む。
「どうしてうどんを入れるの?」
「単純にかさ増しってのもあるけど、丼全部を茶碗蒸しにしようとすると、中々固まらないのよ」
「なるほど、それで…」
下処理をした具材などを盛り付け、蒸し器へいれて、あとは待つだけ。
「…むーアスカが私より手際がいい気がする」
「そんなこと無いって」
隣で天ぷらを揚げてる母さんはそんな事を言いつつも次々と揚げていく。
「お義母さんの手際もプロみたい…」
「そう?ありがとう未亜ちゃん!」
角煮も作るって言うから、バラのブロックを下処理して、水と料理酒、長ネギで煮込んで臭み取りをする様に頼まれた。
圧力鍋があればよかったんだけどって母さんが言うから、鍋ごと魔力ドームで包んで圧をかける。
「やりすぎないでね!?」
「脂が全部溶けちゃわない程度でしょ?ある程度は取るよ?」
「うん わかってるならいいけど…」
「お姉ちゃん、それ私は真似できないから再現できないよ!」
未亜の一言で、圧力鍋を買うことになった。
「私もできないし!」と母さん。
他にもオードブルを作っている母さんは手が離せないから、そのまま角煮の作り方を教わりながら私が作る。
「アスカなら大丈夫だから、お願いー!」
「いいけど…」
分量の指示が全部感覚なのは母さんらしい…。私もなんとなくで調整して味付け。この辺はもう慣れだろうな。
未亜は私が入れる調味料の分量がわからないってボヤいてたから大凡を伝える。
煮詰めるタイミングで、ゆで卵も入れた。煮卵になるし。
「お姉ちゃん、ティーちゃんは?」
「なんか、レウィと一発芸をするとか言ってたから、地下で練習してるよ」
詳細までは教えてくれなかったし…。 (ママにも内緒!)
わかってるよー。
「リア達は?」
「シエルちゃんの部屋ー。服を作ってるからその仕上げ。今はルナティアさんも一緒にいるはず」
「そう…ティアねえ様には突然の事だったものね」
「でも楽しそうにしてたよ?」
それならありがたいけど…。
「アスカ、探索にまだユウキはひっかからない?大丈夫?」
サプライズをしたいって言う母さんに頼まれてユウキの帰りを教える手はずなんだけど…
「うん、広めに見てるから居場所も把握してるけど、何人かとモールにいるみたいよ」
友達にも誕生日をお祝いされてるのかもしれない。
ただ、お腹いっぱいにして帰ってくるのだけはやめてほしいなぁ…。
「お姉ちゃん、それって負担があるんじゃないの?」
「多少はね。ただ、この程度なら別に大丈夫」
「無理はしないでね?」
「わかってるよ。また心配かけたくはないし…って、父さんのが先に帰ってくるな」
探索に父さんがかかった。車で移動してるからすぐに帰るだろうね。
しばらくして、シエルやティー達も準備が無事完了したらしく、リビングのテーブルへお皿を出したりと手伝ってくれて、料理の仕度も完了。
何やらプレゼントらしきものを抱えた父さんも帰ってきた。
「父さん、それなに? なんかすっごく嫌な予感がするんだけど…」
「男にしかわからんものだ」
ロクでもない物だって事だけはよーくわかった。別にいいけどさ。
せっかくのお誕生日だし。
ただ、うちの子達は女の子ばかりなんだから気をつけてほしいな。
「ユウキ遅いわ…お腹空いたのよ」
「わう…」
「うん、これだけご馳走があるのに…」
ドラゴン姉妹とレウィはユウキの帰りを今か今かと待っている。
「もうすぐ帰るから…」
「ただいまー!」
ほらね?
リビングに入ってきたユウキは私達を見てすぐに察したのか…
「ありがとう、覚えててくれたんだ?」
「当たり前でしょう?せっかく一緒にいられるようになったんだから! おめでとうユウキ」
母さんはいきなりハグ。流石に今日はユウキも嫌がらない。
「ほれ、プレゼントだ」
「ありがとう父さん。開けてもいい?」
「…あーいや、後で自分の部屋で開けたほうがいいな」
「わかったよ」
首を傾げてるユウキはまだ気が付かないらしい。アレ間違いなくいかがわしい物だから。 (ママのパパ…)
こないだ見直したと思ったらこれだよ…。
「お兄様、これうちと…」
「私とねえ様も協力したのよ?」
「ありがとう、3人とも。あけてもいい?」
「うん…気に入ってくれると嬉しいの」
「大丈夫よ! 絶対気に入るわ」
「私は最後に少し手伝っただけだから…」
包みから出てきたのは黒いロングコートに、黒い眼帯。
コートや、眼帯の要所要所にある装飾って、アレまさか…。 (ルナティアの鱗の欠片)
やっぱり。色と魔力からそんな気はしたよ。自然に剥がれたものだよね? (それはそう)
待って…じゃあリアはどうしてるの? (ほぼ人の姿で生活してるから持ってないって)
そう。地下の部屋に溜め込まれてたらどうしようかと思ったよ…。 (……)
無いよね? (多分…)
大喜びのユウキは早速コートを羽織って、私のピアス型魔道具で偽装されてるオッドアイを態々解除して眼帯をつける。
ノリノリじゃん…。ちょうど良かったよ。
「ユウキ、私からはこれ…」
「ありがとう、すごいよ姉ちゃん! コレ、コートにピッタリ!」
「お姉様、うち達が渡す物わかってたの?」
「ううん、たまたま…。ユウキなら喜ぶかなって思って作ったんだけど」
「真っ黒の刀身に赤い波紋の刀とか…カッコよすぎだろ…羨ましいぜユウキ」
父さんもまだまだ拗らせてるらしい。
「ユウキ、刀身に魔力流してみて」
「うん? うぉ…マジかよっ! 赤い波紋が光った!」
「それならコートにも魔力流してみてよ!」
「わかった!」
コートの方は装飾が光るのか…ティアねえ様の鱗がキラキラと光って確かにちょっとカッコいい。
「みんなの後に渡すのはちょっと恥ずかしいけど…私からはこれ…」
「ありがとう未亜姉ちゃん! 開けていい?」
「うん、本当に大した物じゃないから…」
未亜が渡したのは間違いなく手作りのお菓子。クッキーやチョコレートの詰め合わせ。
ユウキは甘いもの好きだからな。いつの間に用意したんだろ…。 (明ちゃんちでー)
なるほど…。 (ママだっていつの間に?)
私はほら、魔力ドームでちょちょいとね? (さすが職人)
「後は私だね! ユウキ、はい!」
「ありがとう母さん。開けていいよね?」
「もちろんだよー」
「…………マジかよ」
箱を開けたユウキは固まる。
「え?ダメだった?」
「いや、そうじゃないけど…ありがとう母さん」
「うん?」
なんだったの…? (………ママのパパとママは発想が同じ)
あー…うん、察したわ。 確かに母親からそんなの渡されたらあんな顔になるよね。
なんとも言えない顔をしたユウキは母さんからのプレゼントを包み直してストレージへ仕舞い込んだ。
未亜たちもいるし気を利かせてくれたんだろう。
「さあ…食事にしましょ! 温かいものは今から出すね」
それなら私も茶碗蒸し出さないと。
キッチンへ行き、蒸し器から茶碗蒸しの丼を出して確認。 うん、しっかり固まってるし、すも立ってない。
未亜も運んでくれてみんなに配る。
「姉ちゃんの茶碗蒸し! 久しぶりだなー」
「ママの茶碗蒸し! 楽しみだったのー」
喜んでるみたいで良かった。
「私も頑張ったんだよ?」
母さんは少し拗ねてしまった…。
「わかってるよ、姉ちゃんが作ってくれた事の無いものがあるし、そのへんは母さんでしょ?この角煮も美味しいよ!」
「……」
「それ、作ったのお姉ちゃん…」
フォローしないと!
「で、でも、レシピは母さんに教わったやつだからね!」
「そうなんだ、さすが母さんだね」
「…そう?この天ぷらは?」
「サックサクで美味しいよ!」
「そっかそっか!」
よかった…。母さんの機嫌が直ったぁ。
一通り食事の終わった頃にティーとレウィが頷きあって立ち上がりテレビの前へ。
「ティーとー」
「レウィのー」
「「一発芸ー!」」
「ママのモノマネやりまーす」
えっ!?
「ママがパパにするジト目ー」
ユウキ達にはめちゃくちゃウケてるんだけど、私あんな顔してる?
レウィまでやってるんだけど…。
その後もティーのやたらクオリティの高いみんなのモノマネと、逆にあまり似てないけど特徴はよく捉えてるレウィのモノマネは全員分続き、全員がそれなりにダメージを受けつつもかなり盛り上がった。
私のイチオシはティーによる寝起きで寝ぼけてるリアのモノマネかな。
あれはもう本人だよ。細かいところまでよく見てるわ…。
後、一番ウケたのはレウィによる父さんのモノマネ。 母さんに土下座する父さんっていう…。
「レウィ、頼むから勘弁してくれ…ダメージが…」
確かに最近見て、すごく印象に残ってたけども。
みんなもそうだったらしく、やたらウケた。父さん以外に、だけど。
「これに懲りたら気をつけてね?」
「あぁ…すまん。客観的に見せられてよーくわかったぜ」
何だかんだと仲のいい両親だった。
食後には母さん特製の巨大なケーキ。
「デカ過ぎない?」
とユウキも引き気味。
「家族がいっぱいだからいいの!」
あ、それなら…
「リコ、おいでー」
テーブルに小さな魔法陣が現れてピョコっと顔を出す。
「ママ?精霊はまだ生まれてないからもう少し待って…」
「そっちじゃなくて、母さんがケーキ焼いたからリコにもあげたくてね」
「ケーキ?」
切り分けてお皿に乗せてあげたケーキを、見上げてからかじるリコ。
「おいしい…」
小さな体のどこに入った?ってくらいたくさん食べて満足したリコは帰っていった。
「ねぇ母さん、精霊って太らないよね?」
「さぁ…?」
このまま色々と甘いものあげ続けて丸々としちゃったらどうしよう…。 (福はありそう)
確かに…。 じゃないから!




