師弟
帝都への移動中、目を覚ました師匠に聞かれるまま、隠すことなくすべてを話した。
「そうか…わかった。お前が何者であれ私の大切な弟子なのには変わりないからな?それは忘れるなよ」
「ありがとうございます、師匠…」
元魔王で、今も種族は魔王のままだと話しても師匠はそう言ってくれた。
「…色々と経験したのだな。そして強くなったと…。それでも私の教えは忘れずにいてくれた訳か」
「はい。私にとって師匠のあの言葉はすべての始まりですから」
「だからか?魔王時代にお前一人でも相手方を攻め滅ぼすだけの力を手に入れたにも関わらず、それをしなかったのは」
「はい…私は間違ってましたか?」
「いや。それをしていたらお前は本当の魔王になっていただろうさ。お前は魔族の王ではあったが、邪悪な魔王にはなり下がらなかったんだ。偉いぞ…私はお前を誇りに思う」
「…師匠。 ありがとう…ございます…」
「泣くやつがあるか…褒めてるんだぞ?」
「だって…師匠に褒めて貰えたのが嬉しくて…魔神を倒した時も、そんな事言ってくれなかったですから…」
「そうだったか…? まぁ私は不器用だからな。厳しくは出来ても甘やかしたり褒めたりとかは苦手なんだ。そんな私の本心から出た言葉だ。有り難く受け取っておけ」
「はいっ…!」
その後も師匠といろいろな話をしていたらあっという間に帝都についてしまった。 (ママ、どこにおりたらいい?)
チョコ達と飛び立った場所しかないと思うから、そこへお願い。 (らじゃー)
「師匠、帝都へ到着しました。捕まえた人達と保護した人達はどうしましょう?」
「心配するな。ここからは私達の仕事だ。お前は充分過ぎるくらいやってくれたよ。アスカは皇女…いや、陛下への報告を頼む」
「わかりました」 (ママ、メリアさんが待ってるからドア開けていい?)
いいよ。ありがと!
「師匠、メリアさんも乗り込んでこられるようなので行きましょう」
「ああ…そうだな」
リビングではメリアさんが軽いパニック状態で、ユウキが説明しつつ落ち着けてくれていた。
「姉ちゃん! 早くなんとかして。僕じゃもう無理!」
「ごめん、わかったよ」
「アスカ様! 何ですかコレは! アリッサも…個室でナニをしていたの!?」
「何だろうなぁ? なぁ、アスカ?」
「えっ…?お話をしてましたよ」
「……なんでアスカ様に涙の跡があるんですか! アリッサ、貴女まさか無理矢理…」
泣いてたのバレちゃった…。 (ママが師匠の前ではなんかいつも以上に可愛かった…)
うっ…。お願い、秘密にして… (わかってるのー)
「さて私はやるべき事が山積みなのでな。これで失礼する」
「アリッサ!! 待ちなさいアリッサ!」
師匠は私へウィンクをすると、魔剣士団へ指示を飛ばしだす。
こういう姿はやっぱり魔剣士団のトップなんだなぁと実感する。
その隣でメリアさんが騒いで邪魔してるけど…。
「ねぇ…アスカ?」
「ひっ…ちょっとビックリするから!」
「仕方ないじゃない。職業柄だもん」
「せめて背後から声かけるのはやめて」
「考えとく…。それよりさぁ…話があるんだけど」
「なに?ユウキの事?」
「違うから」
「じゃあ何よ…」
「…おかえり。今回も助けてくれてありがと」
……今、シャーラなんて言った? (おかえり?)
「えっ…?」
「なに?」
「いや…私、シャーラに嫌われてると思ってたから…」
「はぁ?そんなわけ無いでしょ! あれだけ一緒に死線をくぐり抜けた戦友にそれはひどい…」
「ごめん…私の誤解だった?避けられてた記憶が…」
「…距離を図り兼ねてただけ。本気で惚れた人の兄…今は姉だけど、接し方がわからなくって…」
「そうだったのね…。 ん〜私から言いたいのはユウキを傷つけないで。大切な弟だから。 それだけだよ」
「わかってるよ。ボクだってユウキは大切だから」
「それならいいよ。ユウキは好きな時にこっちへ来れるようになるから」
「それホント?」
「うん。私が魔道具を渡してるからね。だから後はシャーラ次第だよ」
「どういう事?」
「ユウキが自分でこっちへ来ようって思わない限り、会えないのはわかるよね?」
「うん」
「ユウキにそう思わせる事が出来るかはシャーラ次第って事だよ」
「……わかった。ありがとう、お姉ちゃん」
いや待って…流石にそれは気が早いような…。 (今度は妹が増えた)
行っちゃったか…。 だけどさ、シャーラって私より年上よ? (見た目じゃわかんないの…)
そうだね…。異世界の人ってみんな年齢不詳だよなぁ。
師匠は魔剣士団と罪人や保護した人達をつれて先に降りていった。
捕まった盗賊の人達はすごく大人しいね。 (皇子達と大違い)
だね…。元々が悪人じゃないって事かもしれないね。
「アスカ様! アリッサと何があったのですか! 話してください…じゃないと私…」
「話をしていただけですよ。後は…初めて褒めてもらいました」
「…アリッサが褒めた?あのアリッサが?」
「はい。誇りに思うって言ってもらいました」 (ママ嬉しそう!)
本当に嬉しかったもの!
「それだけですか…?」
「…?はい。嬉しくて泣いてしまいましたけど…」
「そうですか…。わかりました。 では、仕度は出来ていますから始めましょう。 みんな、勇者様とティー様のお召変えを!!」
「「はい」」
え?なに?
「姉ちゃん、何これ!?」
「ママーへるぷー」
「私もわかんない…」
メイドさん達にそれぞれお城の個室へ連れて行かれる私達。
引きずられならもドラマークツーだけはなんとか消した。また置いてく訳にはいかない。
「すみません、何が起きてるのですか?」
個室で着付けをされながらメイドさんに訊いてみる。
「陛下の戴冠式です。 なので、ドレスへお召変えを…」
そういうことね…。メリアさんも最後の憂いが晴れたことでようやくって事か。
そうなら言ってくれればいいのに…。
「…………あの…」
「何でしょう?」
「陛下の戴冠式ですよね?」
「そうですよ。陛下も楽しみにお待ちです」
おっかしいなぁ…。 (ママ、どうしたの?)
いや…お化粧もバッチリして、着付けしてもらったドレスがね?すごく豪華な真っ白なので…頭にはベールとティアラまでつけられたんだけど、陛下の戴冠式で私がこんな格好するのは何かおかしくない? (……っ!)
「さぁ、陛下がお待ちですよ」
いや待って…。何でそんな急かすの!
またメイドさん達に引っ張られるように移動。絶対なんかおかしいって!
戴冠式をするホールらしき入り口には全身鎧の騎士が二人待機してて扉を開けてくれた。
真っ白な絨毯が敷かれたその先にはメリアさん。
メリアさんがドレスなのはわかるんだけど…。
「ここからは弟様に変わりますので…」
「えっ…?」
メイドさんからユウキに変わり腕を組まされる。
どういう事!?
「(姉ちゃん…これ多分やばい)」
「(うん。私もなんとなくそんな気はしてる…)」
「(ティー。いざって時はたのむよ?姉ちゃんの事)」
「(任せて!)」
後ろで私の長いスカートを持って待機するティー…。
あ…これアレだ。結婚式みたいだわ…。 (気がつくの遅い!!)
いやだって…まさかだよ。戴冠式って聞いてたもの。
そもそも誰が誰と結婚するのよ…。 (……)
ティーと会話してる間にもユウキにエスコートされて白い絨毯…ってかウエディング・アイルみたいだな…。
そこを歩いてメリアさんの元へ向かう。もしかして本当に結婚式が始まるの?
「(うわっ、やっば…戴冠式するの聖女様かよ…)」
「(ホントだ! なつかしいー) イアリスさんお久しぶりです」
「(ちょ…姉ちゃん、バカッ!)」
「(何よバカって…挨拶くらいしないと)」
「……? 久しぶり? 何処かでお会いしましたかし…ら…? んっ…?この魔力…まさかアスカ様?」
「ちっ…やっぱりイアリスに頼んだのは失敗でしたか! まさか魔力で見破るとは…しかしイアリス以外に頼むと不自然ですし…」
「メリアさん…今舌打ちしました?」
「…なんのことでしょう?アスカ様。さぁ戴冠式を始めましょう?」
「待って…アルストロメリア陛下? これはどういう事かしら?私アスカ様がいらしてるなんて聞いてませんわよ?」
「聖女様、早く勧めてくださいな」
「ちょっと! 質問に答えてください!!」
「邪魔するな!! どけぇ!! 今の私は加減ができんぞ!!」
この声、師匠!? ドアの外からものすごい音がしてるんだけど?
「オッラァ!! 謀りやがって!」
脚で扉をブチ破って入ってきたのは紛れもない師匠…でも何故かドレス姿。両手にはノビた騎士をぶら下げてるけど。
師匠って理由もなくこんな事する人じゃないはずだけど、なにがあったの?
それにしても師匠がドレス着てるのとか初めて見た! タイトでスラッとした感じが似合ってる。
ちょっと感動…。ちゃんと女性らしい所あったんだ…。弟子として安心したよぉ。 (のんきかっ!!)
えっ?
「その花嫁は私が頂くぞ! 誰にも渡さん! よくも…よくも私を騙してくれたな?アルストロメリアぁ!!」
「…ちっ…バレましたか…。わざわざ遠ざけておいたのに…」
また舌打ちしたよね? (したけど! そこじゃないよママ!!)
何なの?もう何がなんだか…。
「アスカ様、こちらへ。そこは危のうございます。さぁ…私の方へ」
「姉ちゃんダメだ! その聖女様も危ない!! ティー打ち合わせどおりに!! ここは任せて、姉ちゃんを! じゃないと未亜姉ちゃん達にマジでシメられる!!」
「わかったの!!」
ティーが魔力ドームを展開? あれ…?これって…
「ママ、ちょっと借りるの!」
「えっ…それ転移のま…」
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「……ユウキ様、これはどういう事でしょうか?」
「ユウキ、アスカはどこへ行った? なぁ? 事と次第によってはお前でも容赦しないぞ?」
「アスカ姉ちゃんは…緊急転移で…」
「それより!! 私は何も説明をされてないんですけど! なんでアスカ様は女の子になってたんですか?しかもめちゃくちゃかわいい…」
「それは私も同意しますが、聖女様はすっこんでいてください!」
「ひどいっ! 結婚式の依頼をしておいて…いくら陛下だからって、幼馴染の私にそれは酷い!」
「メリア…結婚式とはどう言うことだ? あぁ? 私とアスカとの結婚式をしてやる、街の教会に手配してあると言うから行ってみれば! 私と数名のメイドしかいない! アスカの気配もない! おかしいと思って戻ってきてみれば…説明してくれるんだろうな? あぁ?」
「…はぁ。 騙してすみません…アリッサ、イアリス。でも…譲れないものってあると思うんです!」
「それは私もわかるが…」
「だったら!」
「私だって譲れん!」
「ねぇ…誰か説明してよぉ…」
「……」
「おい、待てユウキ。何お前までしれっと帰ろうとしている?それ…魔道具だろ?それがあればアスカのところへ行けるのか?」
「「なんですって!!」」
「い、いえ…これは僕にしか使えないから…」
「渡せ」
「イヤです!」
「「渡してください!」」
「姉ちゃん助けてーーー!」
「誤字報告ありがとうございます」
「ママはともかく、ティーも気が付かなかったの!ありがとー」
「ティー?」
「そろそろおやつの時間だからティーはもういくの!」
「あ、こら! まったくもう…」




