ポンコツ
「メリアさん、まずは姉ちゃんの話聞いたほうが良くない?」
「はい?えっと…なんでしょう?」
大丈夫か現皇帝陛下!
「先代様の事です。 毒がもられてました」
「やはり…私もそれは予想していて解毒はさせたのですが、鑑定もできない上に、見習いでは効果もわからなくって…」
予想はして、対応もしてたのか。
集めた毒を入れた小瓶をテーブルへ置く。
「これは…?」
「先代様の体内に残っていた毒です。証拠になるかと集めておきました」
「ありがとうございます。すぐに調べさせます」
メリアさんは騎士を呼ぶと毒の解析と出どころを調べるように指示を出す。
「1つ気になった事を訊いてもいいですか?」
「はい。なんなりと…私にわかることでしたら」
「えっと…酷い言い方になってしまいますが…、宰相と皇子はどうして何年も先代様を毒で弱らせるに留めてたんですか?」
「その事ですか…。最もな疑問だと思います。 次期皇帝には先代皇帝より証となるものが渡されます。それが何かは、現職の皇帝しか知りません」
「はぁ…でも、もし…不測の事態が起きたらどうなるのです?」
「実のところ、証という”モノ“は存在しないのです」
「存在しないものを証として渡す?」
「モノとして無い、と言うだけです。兄や宰相はそれを知らなかったのかと…。それを奪うために傀儡にでもしようとしていたのかと…。私も受け取るまで知りませんでしたから。 すみません、今はこれ以上は…」
だからあの魔法の痕跡があったのか。 (謎が解けたー!)
「わかりました。困らせてすみません…ではそれを受け取ったメリアさんはもう現皇帝陛下で間違いないんですね」
「そういう事になります」
なるほどなぁ…。多分、称号とかそういう物なんだろうと予想はつくね。 (皇帝っていう?)
そうそう。称号やスキルって唐突に増えるからね。
だって…先代様には皇帝の称号はなかったもの…。
多分、国を守るだけの力を失ったからメリアさんへ移ったとかじゃないかな。 (ママは魔王や勇者って色々とついてる!)
そうね…。魔王の引き継ぎをしても私のは消えなかったし。
「父上はこの後どうなりますか?」
「先代様の体調はもう落ち着いてますから、栄養を摂って安静にしていれば一月もすれば元に戻ると思います。低下しているステータスもその頃にはある程度は回復するかと」
「そうですか…何から何まで。本当にありがとうございます」
メリアさんが深々と頭を下げてくれる。
「やめてください、出来ることをしただけですから…」
「ふふっ、数年経って姿が変わってしまっても、アスカ様は変わってませんね」
「いや、変わったって…話し方もだし、かなり大人しくなったからね?」
「そうなんですか? じゃあ以前のように両手で食べ物を抱えて食べたりする可愛らしい姿は…」
「見れないよ。食べる量も減ったし…」
やめてよ…二人でそういう話するの。 (ふむふむ…)
ティーは楽しそうね? (ティーの知らない頃のママの話は聞きたいの)
恥ずかしいからやめてよ…。
「陛下! 早馬で連絡を持って戻りました…って失礼しました。ご来客でしたか」
「今も非常時なのだから大丈夫よ。それに貴女も覚えていない?」
「…えっと……まさか、勇者様!? ご無沙汰してます。奥様とお子さんですか?」
ユウキと顔を見合わせる。
「はぁ!?違うから!」
「違う違う! アスカです。ユウキの兄だった…」
「は…?魔剣士の勇者様?」
またこれか!! しかもユウキと夫婦にされるとは…。 (未亜達居なくて良かったの…)
「細かい話は後にしなさい。それより、何があったのですか?」
「あっ、はい! 魔剣士団長からの支援要請です。食料と、酒が欲しいと…」
「アリッサからね?わかりました。 反逆者の方は?」
「そちらは膠着状態です…。人質を取られているので動くに動けず。先程の支援要請も立て籠もってる者たちからの要求がエスカレートしてきた結果です」
「そうですか…困りましたね。これ以上、村の民に我慢を強いるのも…。早急に人質も助けなくては…日が経てば経つほど疲弊してしまいますし、危険も増してしまう…」
「はい…」
「姉ちゃん、僕らが行く?」
「そうだね、せっかく来たんだし…師匠の力にもなりたいね」
「お気持ちは有り難いのですが、ここからですと早馬で一日、馬車で移動となりますと数日かかってしまいます…それに道中もまだ安全とは言えず…なにより、これ以上勇者様を頼るわけには」
「今更だって。それに、姉ちゃんならすぐ行けるし」
「手段を選ばないならだけどね?」
「どういう事ですか…」
「僕ら、特に姉ちゃんはあの頃とは比べ物にならないくらい強くなってるから」
「…そこまで言われるのでしたら一度確認させて頂いても?」
「いいよね?姉ちゃん」
「う、うん…」
大丈夫か…私魔王だぞ? (ウケる)
笑えねぇから! (ママ…言葉つかい)
ごめん、なんかこっち来てから記憶が鮮明になって、なんだか懐かしくて…。
初召喚の時、ステータスの確認をした部屋へ。
「使い方は覚えておられますか?」
「うん、大丈夫」
ユウキが石版へ手を置く。
「……なんですか、このステータスは!! ユウキ様は魔王か何かですか?」
「いや、それはどっちかって言ったら…」
わかってるから、こっち見んな!
「アスカ様もお願いします」
「…はい」
うぅ…どうしよう。魔王だ! 討伐だ! とか言われたら…。 (……)
ピシッ…バキッ… なんか嫌な音が…。
ガラガラガラ…
「なっ…そんな…ありえな…」
「おっと…危なっ。 姉ちゃん! メリアさん気を失ったよ?」
「………」 (ぶっ壊れたぁ!)
取り敢えず直さないと!
石版の欠片を魔力ドームで包んで修復。
これ魔道具か…。鑑定の魔道具とほぼ同じ。それはそうだよね。
「姉ちゃん、やり切った顔してるけど、こっちどうすんのさ」
「…診てみるから」
メリアさんを確認。気絶してるだけだね。よかった…。
それにやっぱり、皇帝って称号が…。 (見ちゃったら怒られない?)
不可抗力なんだけど…黙っておこう。 (それがいいの)
「…大丈夫。すぐに目を覚ますと思うから」
「ならいいけど、姉ちゃん変わってよ。女の人だし…そもそも姉ちゃんのせいなんだからな?」
「わかったよ…」
メリアさんが起きるまで私の膝枕で休んでてもらおう。
「結局壊れたのって?」
「ママが強すぎて耐えられなかった。あれポンコツ」
「予想通りの回答ありがと。 ポンコツか…でも姉ちゃんなら仕方なくない?」
「うん。ママの魔道具でも文字化けするし」
「でも、姉ちゃんは自分のステータス把握したんだよね?」
「うん? そうね、魔力ドームで自己鑑定したから」
「なら、なんで姉ちゃんの魔道具で測れないのさ?」
「透明の魔石でもママのステータスには耐えられないの! 見れるのはママの自己鑑定か、お祖母ちゃんくらい! 後は王妃様の鑑定ももしかしたらいけるかも?」
そうなのね…。 (ママもポンコツ…)
……チクショウ。 (ママ?)
見逃してよ。 (ダメ! 未亜と約束してるから)
そうですか…。
「なるほどなぁ。姉ちゃんヤバいな?」
「やめてよ…」
「…うっ…ん…? あら? ア、アスカ様!?」
「すみません、私のせいで…大丈夫ですか?」
「…いえ。これはこれで…」 (ママ!?またなの?)
なにが!?
「メリアさん、姉ちゃんはステータスが高すぎて石版が耐えられず崩壊したそうです」
「まさかそんな事が…。 あら?でも石版は…」
「直しました。すみません…」
「はぁぁぁ? え?アレって我が国に伝わる神器の一つで…きゅぅ…」
「また気絶したのー」
…膝枕のままでよかったよ。
その後、目を覚ましたメリアさんに再度詳しい説明をして、師匠の救援を正式に依頼された。 (いっくよー!)




