懐かしいあの場所
「陛下、召喚は成功です…」
「感謝します。あなた達は魔力の限界でしょう、すぐに休みなさい」
「はい、ありがとうございます」
この声…間違いない。アルストロメリアさんだ。
「アスカ様、ユウキ様、突然お呼び立てして申し訳ありま…えっ…?誰!?」
あぁぁぁ! 忘れてた…私、性別変わってたんだ! (うっかりさん)
否定できねぇ…。 (口調…)
こんな時まで厳しいよティー。
「ユウキ様…は間違いないですね?」
「はい。お久しぶりです。 後、この落ち込んでるのはアスカ兄ちゃんで間違いないです」
「はいぃ? でも女性…?それにこの小さい子は…呼んだのはお二人のはず…」
「詳しい話はしますから」
「そうですね、部屋は手配してあるのでそちらへ向かいましょう」
「姉ちゃん、早く立てって。いつまでそうしてんの?」
だって…。
「はぁ…まったく」
呆れたようなユウキに手を引かれて立たされる。
「あら…あら?確かに…面影が。アスカ様、お久しぶりです」
「お久しぶりです…アルストロメリアさん。今はもう陛下でしたっけ…」
「ふふっ、前のままでいいですよ」
メリアさん自ら案内してくれて、前に呼ばれた時も通された部屋へ。相変わらず豪華。 (成金…)
私も最初思ったけど! お城の客間だから仕方ないよ。
「また呼び出しとか…何かあったんですか?緊急事態?」
「その事なんですが…落ち着いて聞いてくださいね?」
メリアさんの話を纏めると…。
私たちが魔神を倒してからニ年が経過。こっちは地球と同じだけ経ってるっぽいな…。
その間に戦いの後処理で、各地の復旧や支援などでお金がかかり、まだメリアさんの戴冠式もできていないと。
そして、先代の陛下の病の原因は宰相と皇子で、私達が魔神を倒した事で失脚した二人は数人の騎士を連れて逃亡。
そういえば…当時、私とユウキがまだ師匠に鍛えられていた頃に皇子が騎士団を連れて魔神討伐へ行ったけど、散々な結果に終わって、騎士団も壊滅。皇子の支持者も激減したとかいってたな…。
皇子は嫌いだったし興味もなかったけど。
先代の陛下は生命は取りとめたものの、未だ昏睡状態。
更に最悪なのは宰相と皇子が現在、村人を人質に立てこもってると。
「僕達が捕まえに行けばいいの?」
「え?いえ…そちらは魔剣士団が対応してますから、始末がつくのは時間の問題かと思います」
師匠が行ってるのならそっか…。 いや、じゃあ私達なんで呼ばれた!? (不穏になってきたの…)
「じゃあ僕たちを呼んだ理由は…?」
「えっと…じきに私の戴冠式なので参加していただきたいのが一つ。アリッサがアスカ様を呼べと…しつこかったことが一つ…」
師匠なにしてるの…。 (ヤバい師匠!!)
「それと、私から一つお願いなのですが…アスカ様は治癒が使えましたよね?」
「はい。もしかして陛下を?」
確かに私は魔法適性が高かったから、当時から治癒は使えた…でも…
「私に治癒を教えてくれた治癒師の人達が居ましたよね?」
「ええ…ですが皆、各地の救援へ行っていて、城にはいませんから」
メリアさんが言うには各地の復旧の手はずも整いようやく落ち着いてきた時に、メリアさん自身も皇子に襲われて、それも失敗した事により自暴自棄になった皇子の捨て台詞から宰相と皇子の企みが発覚。
その時は師匠がメリアさんを助けたらしい。 さすが師匠…。
メリアさんが無事で良かった。 確か前にも襲おうとしたよなあの皇子。
庇おうとして、それで私も結構な怪我をして…メリアさんが看病してくれたんだ。思い出した! (無茶するの…)
仕方ないじゃない。とっさの事だったし…。
そして色々と明るみに出た皇子と宰相は逃亡。陛下の体調を診ていたのは、治癒の使えた宰相だった事で城には治癒師が見習いしかいないと。
「メリアさんもいるのに、一人も残さなかったのですか?」
「私は自身へくらいなら治癒は使えますし、各地で民が苦しんでいる時にそんな事できません」
そうだよなぁ。メリアさんってこういう人だった。
「でしたらまずは陛下の容態を診てみます」
「お願いします…」
メリアさんに連れられて、初めて行く皇帝陛下の部屋。今はもう先代って事になるらしいけど…。
ベッドで横たわるのは痩せ細った金髪の男の人。
魔力ドームで包んで鑑定。
「な、なにを…」
「メリアさん、姉ちゃんに任せて」
やっぱりか… (毒?)
うん。魔力回復の阻害と昏睡状態になる毒を定期的に入れられてたみたい。
それにこれ…精神操作系の魔法の痕跡があるね。 (操ってた?)
いや、耐性が高いから無理だったんじゃないかな。さすが皇帝陛下だね。
宰相が居なくなった事で追加されなくなった毒は抜けかけてる。
だから、どちらかと言うと、魔力の減衰と、魔力が巡らない事による身体機能の衰えの方が不味い。 (ひどい…)
取り敢えず残ってる毒はすぐに体外へ。これも証拠だし一応集めておく。
魔力はほっといてもこれからは回復はするだろうけど、ここまで弱ってるとそれも時間がかかるから直接魔力回復薬をゆっくりと体内へ。
後は血行促進と、ずっと寝ていた事による床ずれや筋肉の衰えも回復させる。
「ユウキ少し離れて。 魔力ドーム解除するから」
解除された魔力ドーム内で、魔力の回復、体調の回復、それらが行われる。
「何が起こっているのですか…?」
「落ち着いて。姉ちゃんに任せておけば大丈夫だから」
「ママに任せてー」
「ママ!?どういう事ですか!」
「後で話すから、今は姉ちゃんのしてる治療を優先!」
…再度魔力ドームで包んで鑑定。毒は抜けたし、魔力も回復した。顔色もいいし、衰えていた身体機能も治ってるね。
後は栄養を摂って大人しくしていればすぐにでも普段の生活が出来るくらいには回復するだろう。
「ん…オレは何を…。もう朝ではないか。なぜ誰も起こさん…」
目が覚めたね。
「父上!! よくご無事で…」
「アルストロメリアか? ん?大きくなったか? アイツによく似てきたな。 ふむ…何かあったのだな?」
それからメリアさんが先代様へ説明をする。 その過程で私達も紹介される。
「そんな事が…すまん。皇帝ともあろうものが宰相と息子の企みに気が付かず、ましてや大変な時にずっと寝ていたとは…」
先代様は魔神が現れて対策をしようと、動き出した頃から記憶がないらしい。
病に臥せった時期と重なる。
「恐らく、手柄を上げれば周りからの支持が得られるとでも思ったのだろうな。しかし、敵の強さを見誤ったと。愚か者め!! オレ自ら始末をつけてくれる!」
「父上、急に動かれては…」
「まだ安静にしていてください! これは治癒をした私からのお願いです。守っていただけないのなら強制的に寝かせますよ?」
何で目が覚めた途端に無茶するかな…。
「勇者殿には感謝しているが、国の事へ口を出すのは…」
「父上! それ以上言うなら私は怒りますよ」
「しかし…」
「父上は宰相の企みに気が付きもせず、この数年寝てただけです。その間に勇者様達は命懸けで、国を、民を、私達を救ってくれたのです」
「……それは感謝している」
「今も死にかけていた父上を助けてくださったのはアスカ様なのですよ! 命の恩人にする態度がそれですか?」
「ぐっ…すまぬ…確かにオレは何もしてはおらん。だからこそケジメはつけなければ…」
「そっちもアリッサが対処しています。もう父上の出番はありません! ゆっくりなさってください…お願いです父上」
泣きそうなメリアさんにそう言われて、それ以上言い返せなくなった先代様は、ようやく落ち着いてくれた。
メリアさんは騎士とメイドを呼び、先代様の世話を指示。
部屋から出さないようにとも…。
いくら回復させたといえ、あくまでも起きられる程度。
騎士に勝てる訳がない。元は結構強かったんだろうけど、今はステータスも軒並み弱体化してる。
メリアさんと例の豪華な部屋に戻る。
「アスカ様、ママってなんですか!」
「一番最初に聞くのがそれですか!?」
もっと先代様の事とか聞くことあるでしょうに…。
「この子、ティーって言うんですが…」
「アスカ様にそっくりです…でもいくら何でも年齢が合いませんよね」
ティーと私を見比べるメリアさん。
「この子、元々は私の魔法なんです」
「…は?」
うん、もうこの反応慣れたわ。 (お約束!)
それからユウキと一緒にティーの事や、その他の召喚、性別が変わった事なども順に説明をしていく。
今回自分達で転移してきたから、ティーもつれてこれた事など。
「…わからないけど、わかりました。ではアスカ様は結婚はされてないのですね?」
「してませんよ!」
「でも今は女性…アリッサどうしましょう…?」
メリアさんが遠い目をして考え込んでしまった。
それよりもだよ。先代様の事だよね? (うんうん!)




